『サンゴのために、我は呼ばれたのか』
「ほんっとゴメン。俺の魔力だけだと、何十日もかかりそうだからさ」
花と違って、小さなサンゴでもある程度成長させるのにニ、三十年かかった。
クラーケン曰く、小さなものでも人間とそう変わらない寿命があるんだとか。
大きなものになると数百年にもなる。
で、フレイを呼んだって訳だ。
『我は海には入らぬぞ』
「あー、うん。時間差で成長するようにするからいいよ」
『ユタ坊がスキルを使ったサンゴの卵は、わたしが岩礁に着床させてあげるよ』
「え、あれって種じゃなくて卵だったのか!?」
知らなかった……。
卵で増えるサンゴと、分裂するサンゴとあるそうだ。
細胞分裂じゃなく、枝が折れて、それが岩に着床して成長するってヤツ。
まずは産卵タイプのサンゴを、産卵するまで成長させる。
産卵にも二タイプあるようだけど、とにかく卵を産ませる。
で、凄い量の卵が放出されたら、クラーケンが波を使ってかき集めて、そこに俺が手を突っ込んでスキルを使うって方法だ。
もうね。桶一杯に盛ったイクラに手を突っ込んでいる気分だよ。
スキルを使いながら、手を動かして、少しでも多くの卵に触れる。
何度か繰り返したら、クラーケンが再び波に乗せて卵を岩礁に着床させるっと。
五分後、ぶわわわわぁーっと一斉にサンゴが咲き乱れた。
「凄いです! 先ほどまではポツポツと綺麗な、海のお花が咲いているようでしたが……」
「もう完全に海のお花畑ね」
枝から増やすタイプは、みんなで手分けしてサンゴの枝を小さく折ってかき集め、それに成長促進を付与。
その後は卵同様にクラーケンが波に乗せて着床。
数分後にはニョキニョキと枝を伸ばして、こちらも色鮮やかに成長した。
初日は海中でどうサンゴを増やそうかと考えたり、枝集めに時間を使って、翌日は密猟者を脅迫――えぇっと、交渉したり、で、今日で三日目。海に来て四日目か。
思ったより早く終わったな。
『はぁ、やっぱり綺麗だわぁ。そう思うでしょ?』
「はい。とても綺麗です」
「えぇ」
『ほんとにありがとねぇ。じゃ、わたしはこれで』
「おいぃー!」
『……ぁ。じょ、冗談だよ、冗談』
今の間はなんだ!
人にサンゴを成長させた理由を、すっかり忘れてたなこのおばちゃん。
『クラちゃんってば、おちゃめさんねぇ』
『やだよアクアちゃん。おちゃめだなんて、恥ずかしいじゃないかい』
『ふふぅ』
『うふふ』
なんの会話?
「で、海水を蒸発させるのに、協力してくれるんだろうな?」
『あぁ、もちろんだよ。砂漠の方に雨を降らせるだけの海水なら、そんなにたいしたことはないからね。むしろここ数百年で雨量が減ったせいもあって、海水量が増えてんだよ。全体で見れば微々たる量だけどねぇ』
どこかで雨が降らなくなると、そういう影響も出るのか。
それからクラーケンとアクアディーネが、定期的にこのぐらいの海水を~といいような話し合いをした。
ただひとつ問題があるようだ。
『普通はね、海水が蒸発して雲を生み出し、その雲から降り注いだ雨ってのは、海に戻って来るもんなんだよ。それは分かるかい?』
「あぁ、もちろんだ」
『でもね、砂漠に降らせればきっとしばらくは戻ってこないだろう? 砂に吸収させて、土に変えなきゃならないんだからさ』
あ、確かにそうだ。しばらく――何年か、何十年かは地面に吸収させて土づくりの基盤になるだろう。
「海水の量が減って困るとか?」
『そこは大丈夫だよ。問題なのは塩分濃度。海水を蒸発させりゃ、水分だけが上空に昇っていくんだよ。塩分はそのまま残ってしまうからね』
「塩か……じゃあ、自然に蒸発してる分はどうしているんだ?」
『さっきも言ったように、蒸発したぶんは、また戻ってくるからね。それでうまく調整されてるんだよ』
あぁ、そうか。
今回は戻ってこないから、その分の塩分が残ったままになるってことか。
「んー、よく分からないんだが、塩がいらないってことか?」
「あぁ、そういうことらしいよハクト」
「なら、いらない塩は貰ってしまえばいいじゃないか」
貰う?
貰ってどうするん――あ。
「そうか。塩に困ったことがないから忘れていた。塩って料理には必需品じゃないか」
「それだけじゃないぞ。塩は高値で取引されるんだ。あの悪徳商人、実は砂漠の岩塩を求めて村に来るようになったぐらいだからな」
「悪徳……あぁ、いたなそんな奴」
すっかり忘れていた。
忘れていたと言えば、あの姫や荒木たち、どうしてるのかな。
凝りて俺のことを諦めてくれていればいいけど。
「というわけなので、クラちゃん、不要な分の塩は俺たちに譲ってくれないか?」
『そういうことなら、喜んで譲るよ。でもどうやって運ぼうかねぇ。わたしゃ海から離れられないし』
「うぅーん、どうしようか」
『ソレナラ、オジチャンニ頼ンダラ?』
・・・・・・。
「――ってことなんだ」
『なん、だと』
さすがにコキ使い過ぎか。
『オジチャン、オ願ァイ』
『よかろう』
おまっ。
息子相手だとチョロ過ぎるだろ!
「ほんっとゴメン。俺の魔力だけだと、何十日もかかりそうだからさ」
花と違って、小さなサンゴでもある程度成長させるのにニ、三十年かかった。
クラーケン曰く、小さなものでも人間とそう変わらない寿命があるんだとか。
大きなものになると数百年にもなる。
で、フレイを呼んだって訳だ。
『我は海には入らぬぞ』
「あー、うん。時間差で成長するようにするからいいよ」
『ユタ坊がスキルを使ったサンゴの卵は、わたしが岩礁に着床させてあげるよ』
「え、あれって種じゃなくて卵だったのか!?」
知らなかった……。
卵で増えるサンゴと、分裂するサンゴとあるそうだ。
細胞分裂じゃなく、枝が折れて、それが岩に着床して成長するってヤツ。
まずは産卵タイプのサンゴを、産卵するまで成長させる。
産卵にも二タイプあるようだけど、とにかく卵を産ませる。
で、凄い量の卵が放出されたら、クラーケンが波を使ってかき集めて、そこに俺が手を突っ込んでスキルを使うって方法だ。
もうね。桶一杯に盛ったイクラに手を突っ込んでいる気分だよ。
スキルを使いながら、手を動かして、少しでも多くの卵に触れる。
何度か繰り返したら、クラーケンが再び波に乗せて卵を岩礁に着床させるっと。
五分後、ぶわわわわぁーっと一斉にサンゴが咲き乱れた。
「凄いです! 先ほどまではポツポツと綺麗な、海のお花が咲いているようでしたが……」
「もう完全に海のお花畑ね」
枝から増やすタイプは、みんなで手分けしてサンゴの枝を小さく折ってかき集め、それに成長促進を付与。
その後は卵同様にクラーケンが波に乗せて着床。
数分後にはニョキニョキと枝を伸ばして、こちらも色鮮やかに成長した。
初日は海中でどうサンゴを増やそうかと考えたり、枝集めに時間を使って、翌日は密猟者を脅迫――えぇっと、交渉したり、で、今日で三日目。海に来て四日目か。
思ったより早く終わったな。
『はぁ、やっぱり綺麗だわぁ。そう思うでしょ?』
「はい。とても綺麗です」
「えぇ」
『ほんとにありがとねぇ。じゃ、わたしはこれで』
「おいぃー!」
『……ぁ。じょ、冗談だよ、冗談』
今の間はなんだ!
人にサンゴを成長させた理由を、すっかり忘れてたなこのおばちゃん。
『クラちゃんってば、おちゃめさんねぇ』
『やだよアクアちゃん。おちゃめだなんて、恥ずかしいじゃないかい』
『ふふぅ』
『うふふ』
なんの会話?
「で、海水を蒸発させるのに、協力してくれるんだろうな?」
『あぁ、もちろんだよ。砂漠の方に雨を降らせるだけの海水なら、そんなにたいしたことはないからね。むしろここ数百年で雨量が減ったせいもあって、海水量が増えてんだよ。全体で見れば微々たる量だけどねぇ』
どこかで雨が降らなくなると、そういう影響も出るのか。
それからクラーケンとアクアディーネが、定期的にこのぐらいの海水を~といいような話し合いをした。
ただひとつ問題があるようだ。
『普通はね、海水が蒸発して雲を生み出し、その雲から降り注いだ雨ってのは、海に戻って来るもんなんだよ。それは分かるかい?』
「あぁ、もちろんだ」
『でもね、砂漠に降らせればきっとしばらくは戻ってこないだろう? 砂に吸収させて、土に変えなきゃならないんだからさ』
あ、確かにそうだ。しばらく――何年か、何十年かは地面に吸収させて土づくりの基盤になるだろう。
「海水の量が減って困るとか?」
『そこは大丈夫だよ。問題なのは塩分濃度。海水を蒸発させりゃ、水分だけが上空に昇っていくんだよ。塩分はそのまま残ってしまうからね』
「塩か……じゃあ、自然に蒸発してる分はどうしているんだ?」
『さっきも言ったように、蒸発したぶんは、また戻ってくるからね。それでうまく調整されてるんだよ』
あぁ、そうか。
今回は戻ってこないから、その分の塩分が残ったままになるってことか。
「んー、よく分からないんだが、塩がいらないってことか?」
「あぁ、そういうことらしいよハクト」
「なら、いらない塩は貰ってしまえばいいじゃないか」
貰う?
貰ってどうするん――あ。
「そうか。塩に困ったことがないから忘れていた。塩って料理には必需品じゃないか」
「それだけじゃないぞ。塩は高値で取引されるんだ。あの悪徳商人、実は砂漠の岩塩を求めて村に来るようになったぐらいだからな」
「悪徳……あぁ、いたなそんな奴」
すっかり忘れていた。
忘れていたと言えば、あの姫や荒木たち、どうしてるのかな。
凝りて俺のことを諦めてくれていればいいけど。
「というわけなので、クラちゃん、不要な分の塩は俺たちに譲ってくれないか?」
『そういうことなら、喜んで譲るよ。でもどうやって運ぼうかねぇ。わたしゃ海から離れられないし』
「うぅーん、どうしようか」
『ソレナラ、オジチャンニ頼ンダラ?』
・・・・・・。
「――ってことなんだ」
『なん、だと』
さすがにコキ使い過ぎか。
『オジチャン、オ願ァイ』
『よかろう』
おまっ。
息子相手だとチョロ過ぎるだろ!