「すごい……」
「はぁ……」
「すごい……」
「はぁ……」

 町を出た翌日。
 俺たちは海岸へとたどり着いた。

 海岸に到着して十分ぐらい経ってるんだけど、シェリルは「すごい」としか言わないし、ルーシェは溜息吐いてるだけだし、ハクトは無言で棒立ちだし、どうしたものか。

『ペッペ。ショッパーイ』
『やーん。ひりひりするぅ』
『ふっふっふ。それが海水ってやつよ。ワームは皮膚が繊細だから、あまり触れない方がいいわよ。こっちいらっしゃい。真水で洗い流してあげるから』
『ボクモォ』
『潮風だ。潮風の音色だ』
『まぁたジンくんが変なこと言ってるぅ』
『だまれイノシシ』

 元気なのはアスやワームたち、それから大精霊だ。
 風の大精霊ってジンって名前だったのか。

「おーい。はしゃぐのはそれぐらいにして、お仕事しないかぁ?」

 海の大精霊を呼んでもらわなきゃ話にならない。
 アクアディーネがぽんっと手を叩いて、ヘラヘラしながらやってきた。

『忘れてたわぁ』
「忘れないでくれよ……」
『だーいじょうぶ、だーいじょうぶだって。じゃ――すぅー、はぁー』

 深呼吸?

『あ、精霊は呼吸しないんだったわ』
「なんのための深呼吸だよ!」
『あはははははは』
『アクアちゃんは偽神殿に閉じ込められていた時、暇すぎて人間観察ばかりしていたんでしょ』
『わかるー?』
『人間くさくなってるね』

 このウリ坊、結構毒舌……。
 言われたアクアディーネは唇を尖らせ、ブツブツと文句を言っている。
 そういう言動も、人間くさいと言われる要因なんだろうけどな。

『もうっ。じゃー呼ぶわよ。ふぅ……クラーケェーン!』

 え……物理的なやつ?
 こう、召喚とはいかなくても。魔力の流れとか、精霊特有の何かで呼ぶのかと思ったのに。
 まさかの大声!? 

 そしてシーンと静まり返る海岸。

 聞こえてないんじゃないか?
 いや、そもそもクラーケンがどこにいるかも分かってないんだろ?

「な、なんでしょうか、アレは」
「アレ? あ……」

 シェリルはきょとんとした顔で海面を見つめる。
 いやいや、おかしいだろ。
 めちゃくちゃ海面が盛り上がってるじゃん!!

 これは絶対――

『呼ばれて飛び出るジャジャジャジャーン』

 飛び出たじゃなくって飛び出るイカァー!?

 海面から出てきたのはイカ。
 真っ白いイカ。
 胴の部分だけでも十メートルはあろうかっていうイカ。

 クラーケン。

『あんれまぁアクアちゃん。あんた自由になれたんだねぇ』
『そうなのクラちゃん。やっとよぉ』

 アクアちゃん、クラちゃん……。
 いや、クラーケンの声、どう聴いても女なんですけど。
 まさか雌イカ!?

『それでわざわざ会いに来てくれたのかい?』
『クラちゃんに用があるのよ。とりあえずこの人間と話してあげて』
『またあんた、人間に騙されたってのに……あら、この子……異世界人じゃないさ』
「ど、どうも。だい――ユタカです」
『あんた今、言いかけた言葉を飲み込んだわね。隠し事なんてダメよっ。素直に仰いなさいっ』

 なんか説教された……。
 フルネームで名乗ったら弄られるから嫌なんだよぉ。

「大地……豊です」
『大地が豊か?』
「だから名前で弄られるからフルネームを言いたくなかったんだよ!」
『あ、あら、そうだったんだね。いい名前じゃないか、大地のように豊かに育ってほしいという、親御さんの想いが込められていて』

 両親の想い……確かに親父は、そんなことを言ってた。
 広い心を持った、豊かな子に育ってほしい――とかなんとか。

『それで、異世界の坊やがわたしに何の話があるんだね?』
「あ、えっと――」

 砂漠を緑化させるために、雨を降らせたい。
 雨を降らせるためには雨雲が必要で、雲を発生させるためには地上にある水を蒸発させないといけないわけで……。
 ということを話すと、クラーケンが笑い出した。

『なんだい坊や。やっぱり大地を豊かにするんだね』

 ――と。
 あぁ、はいはい。結局名前オチになりましたよ。
 こうなるとなんかもう、異世界に召喚されることも砂漠にぽい捨てされたことも、名づけられた時から決まっていたんじゃないかって思えてくる。

「豊かにしたいよ。だから協力して欲しいんだ」
『つまり海水を蒸発させようってんだね』
「その通り。砂漠には蒸発させられるほどの、十分な水もないからさ」
『ふぅん……やってあげてもいいけどねぇ、でもタダってわけにはいかないよねぇ』

 この世界の精霊って、なんでこうがめついんだ。

『クラちゃんクラちゃん。この人間はね――ごにょごにょ』
『ふんふん。へぇ』
『ごにょにょ、なのよ』
『まぁ! そりゃいいわねぇ』

 おい、何をお話してやがりますか?

『コキ使われちゃうね』
『貴様もそうしただろう。わたしはちゃんとした試練を出したぞ』
『●◆♪』
『へぇ。飛べないワームに、飛べなんて言ったんだ。ジンくんって意地悪だねぇ』
『チクるとは、卑怯ではないか!』

 あっちはあっちでロクな会話してないし。
 いったい何をやらされるんだろうなぁ。