『ここからは歩いていくがいい。帰りはここで我を呼べ』

 村で素材を回収し、ハクトを加えて町の近くまでひとっ飛び。
 素材をインベントリに入れる作業が一番時間かかったってね。

「呼べって、どうやって?」
『名を――そうだな。まだ名をもらっていなかったな』

 え、これって名前をつけろって流れ?

『我に相応しい名をつけよ。お前がその名を口にすれば、我に届く』
「ふ、相応しい……」
「責任重大ねぇ」
「強くてカッコいいお名前がいいですね」
「火竜ですし、炎系がいいんじゃない?」

 炎系かぁ。

 炎……ファイア、フレイム、フレア、バーニング。
 連想して出てくる単語はこんな感じだな。
 火竜はフレイムドラゴンと読むようだけど、ここで「フレイム」なんてつけたら安直だとか言われそう。

 フレイヤってなんか記憶にある名前なんだけど、確か女神の名前だっけか。
 フレイヤ、フレイヤ……あ、フレイって双子の兄がいなかったか。
 火とは関係ない、豊穣の神だったはずだけど。
 この際いいや。

「フレイ、ってのはどうだ?」
『!?』

 ん?
 なんかダメな感じ?
 ちょっとビックリしているような、そんな表情だけど。

『その名に、何か意味はあるのか』
「あ、えっと……炎で連想できる単語を出してたら、フレイムとかフレアとかが出て来て。それで、俺が生まれ育った世界には、フレイって神がいるんだ。あ、俺たちの世界で神様ってのは、空想上だったり神話の中だけの存在なんだけどな」
「おぉ! 神の名とは、ユタカさま、素晴らしいネーミングセンスです」
「きっと逞しくて強い神様なのでしょうね」

 つ、強いかどうかは知らないけどね!
 そもそも豊穣を司る神って、何人いるんだろうな。
 いろんな国のいろんな神話があるから、ごちゃごちゃしてるし。

「ほ、他にも考えてみ『その名でよい』――え、いいの?」

 神の名ってのが気に入ってくれたかな?

『我が名はフレイ。お前が呼べば、その声は我に届こう。アスを頼んだぞ』
「お、おう。海にも寄るから、たぶん数日はかかると思う」
『承知した』

 そう返事をすると、火竜は上空に舞った。
 東に向け飛び立つと、あっという間に見えなくなる。

 はえーよ。





 町に到着すると、当然のように衛兵に囲まれた。
 アスだけじゃなく、ワームたちもいるからだ。

「このワームたちは、俺たちのテイミングモンスターです。で、アスは――」
「か、火竜さまの馴染みの子竜であったな。か、火竜様は?」
「あ、帰ったよ。俺たちの用事が終わったら迎えに来てくれるけど、町から離れた所だから迷惑はかけないと思うけど」

 と言うと、衛兵全員がほっと胸を撫でおろした。

「き、今日は素材の売却と、売ったお金で食料や日用雑貨を買いに来たんです」
「そ、そうか。で、では、通ってよろしい。ワームたちの管理、しっかりするのだぞ」
「あ、はい。大丈夫です」

 と、ここでやっと町に入れるようになった。
 でも住民は遠巻きに俺たちのことを見てて、ビクビクと怯えている感じだ。
 でもそんなこと気にしないのがアスだ。

『コンニチハッ。コンニチハッ。ボク、アスダヨ。ヨロシクネ。アースドラゴンノアスダヨ』

 たくさんの人間に囲まれて、なんか嬉しいようだ。
 尻尾をふりふりして愛想を振りまくアスを見て、何人かが悶絶している。

「れ、礼儀正しいじゃない」
「小さいドラゴンって、かわいいのね」

 ボクカワイイは正義。
 アスに習ってワームたちも挨拶をしているようだが、こちらは契約者以外には言葉が聞こえない。
 それでもペコリと頭を下げる仕草で、道行く人たちの中には理解してくれる人もいた。
 なにより、ザ・ミミズだった容姿が変化したっていうのもあるんだろう。

 これまで存在が確認できないほど小さかった目が、ハッキリわかるようになったことでかわいさが出ている。
 リリなんて翼が生えたことで妖精っぽくなったし、ルルも花を咲かせているから女の子ウケしているようだ。

 注目の的になったまま冒険者ギルドへ向かうと、既に建物前ではギルドマスターが待っていた。

「ん? モンスターが増えてんじゃねえかっ」
「いや、増えてるって言うか、前回は留守番させていたテイミングモンスターを連れて来ただけなんだ」
「テイミング……魔術師には見えなかったがなぁ」
「テイミングの方法だけ教えて貰ったんだよ。本物の魔術師が集落にいるからさ」

 そのマリウスは今回も留守番をお願いしている。
 が、今回は不貞腐れることなく、喜んで留守番してくれた。

 なーんか最近、マリウスに春が来たっぽいんだよなぁ。

「ほぉん。おっとそうだ。素材の買取だったな。また大量にあるのか?」
「各集落から集められた素材だから、結構ある。欲しいもののリストも作っておいたから、なんだったらリストにある分が定価で査定額から引いてくれてもいい」
「そりゃこっちは助かるが、いいのか?」
「今までさんざん、相場以下の価格で取引されていたし、量が量だけに問題ない」

 とハクトもそう言う。
 ならギルド側も問題ないと、まずは大きな倉庫に案内された。
 そこで手分けして素材を置いていく。

 一時間ほどかけて素材を置き終えると、あとはギルド職員に任せる。

「またニ、三日欲しいんだが」
「ゆっくりでいいよ。俺たち、海を見に行きたいんだ」
「ほぉ、海か。砂漠の東側のもんは、海を見たことがないだろうしな」
「そうなんだ。片道、何日ぐらいだろう?」
「徒歩か。丸一日ってところか。今からだ途中で野宿することになるな」

 野宿は慣れてるし、問題ない。
 マスターが地図をくれたので、それを持って町へ繰り出す。
 往復二日。
 海まで出たらすぐ帰れるか分からないし、とりあえず五日分の食料を仕入れて出発した。