『コレ探シテタノ?』
『うむ。童が見つけてくれたのか。さすが我が――アースの子よ』

 危うく「我が子よ」と言いそうになってたな。
 しっかしアスが見つけるとは。

『コレイイニオイスルネェ。何ノオ花?』
『花ではなく、木だ。大地の木――そう呼んでおった』

 大地の木か。
 そりゃあんだけ大きな木だと、そういうスケールの名前にもなるか。
 アースドラゴン、アスのおふくろさんより大きかったもんなぁ。

「これで花畑を復活させる、全部の材料が揃ったな」
『ウン!』
『♪』
「じゃ、アス、ルル。昼飯を食べたらさっそく始めるぞ」
『オー!』『♪ー!』

 種はスキルをかけたあと、四十八時間後に『蕾の状態』まで成長するように調整。
 一種類の種全部にスキルを使うと、それでもじゅヘトヘトになる。

 俺の仕事はいったん休憩で、種をアスとルルが撒く。
 夜寝る前に魔力が回復した分だけ、また別の種にスキルを使う。
 この時には何時間後に成長を開始するという部分を、最初に撒いた種と同じタイミングになるよう調整。
 アスとルルは夜でも周りが見えているから、二匹が頑張って種撒き。

 翌日も同じように作業をするが、ここでふと気づいた。

「マズい。このままだと町へ行く約束の日までに、帰れないかもしれない」
「そうですね。ここへ来て今日で四日目。種はまだ半分も撒けていませんし」
「種を集める時には、一輪から十粒以上採れたりしてたけど、撒くときには一粒ごとに成長時間が消費されるものね」

 そうなんだよなぁ。
 単純な話、種を増やすのに使った魔力の十倍が必要なんだよ。
 種を集めるのに二日かかったし、その種を撒くために二十日……ぜんぜん間に合わないじゃん!

 ハクトと約束したのは半月後だ。
 あれから五日が過ぎている。あと十日で村に行かなきゃならない。

 そしてなにより。

「明日には最初に撒いた種が芽吹く……」
「い、今から取り消しって、できないのでしょうか?」
「やったことないからわからないけど、たぶん、無理」

 やり方があるのなら、最初に聞こえたアナウンスにあっただろうし。
 うあぁ、ちゃんと計算してやるべきだった。

 蕾の状態までって指定してあるから、多少の猶予はあると思う。
 開花したあと、一日二日で枯れるものでもないだろうし。
 でもそうすると、全部の種を撒き終えるまで帰れない。
 帰れないってことは、ハクトとの約束の日に間に合わないってことだ。

 どうする……。

「こうなったら……シェリル。君だけでも戻って、マリウスと他に誰か連れて村に行ってくれないか? それでハクトと合流して町に行き、素材を売却して各村に食料や必要な物を届けてほしいんだ」
「ルルがいるから、ルーシェ姉さんもこっちに必要だものね……。わかったわ。私が先に帰って町へ行く」

 そうと決まれば、火竜に頼んで砂船を集落に運んでもらおう。





「――という訳なんだ。悪いけどシェリルとリリを乗せた砂船を、集落まで運んでくれないか?」
『つまり、お前の魔力が足りず、作業が捗らないということか』
「うっ……つまりそうです……」
『そうか。なら問題はない』

 ん?

『我がお前に魔力を貸し与える』

 んん?

『もとよりそのつもりであったからな。あの大地の木は、樹齢数千年であったから』
「数千!?」

 一度に成長させられる時間の上限は五九〇年ほど。
 もう少し少な目のところで止めて休憩を挟めば、一日二回ぐらいはスキルを使えるようになった。
 それでも千年ぐらいだ。
 樹齢二千年だったら二日かかる。三千年なら三日……。
 花畑ですら二十日かかるかもってとこなのに、あの木一本で更に数日とは。

 でも、火竜が魔力を貸してくれるってどういうことなんだ?

『そなた、我と契約せよ』
「けいや……え!? ま、まさか、テイミング!?」

 火竜が首を振る。

『ワームたちのと契約とは違う。それは魔法による契約だ。我との契約は、魂の契約。そなたと……永久の……』
「とわ、の?」
『おぉっほん。け、契約するのか、せぬのか決めろ』
「いや、永久のなんなんだよ。そこ大事だろ?」
『だ、大事ではないっ』

 いや絶対大事だろ!
 隠してるってことは、なんかマジいことでもあるのか!?

 魂って言ってるし、まさか悪魔みたいに魂を寄越せとかなんかあるのか!?
 バフォおじさんより悪魔!

『永久の友情を絆で結ぶ契約、だよ』
「ん?」
『んなっ。なぜ出てくるのだベヒモスめ!!!』

 足元を見ると、土の中からにんまりと笑うウリ坊がいた。

「友情?」

 こくこくとウリ坊が頷く。そしてしゅぽっと土の中に潜った。

 頭上を見上げる。

「友情?」

 火竜の顔がピンクに染まる。

「ふーん。友情かぁ」
『け、けけ、形式的なものだ!』
「ふーん。火竜ってば俺と友達になりたいんだぁ」
『形式的なものだと言っておろう!』
『オジチャン、友達ホシイノ? ボクモオ友達ニナッテアゲル』
『童は優しいのぉ』
『エヘヘェ。ユタカオ兄チャンモ、オジチャンノオ友達ニナッテアゲヨウヨ。オジチャン、キット他ニオ友達イナインダヨ』
『ぶぇひっ』

 アス……今、さらりとクリティカル攻撃したぞ。
 大丈夫かな火竜。
 生きてるかな?