「だ、だい、精霊?」
訊ねたのはウリ坊にではなく、火竜にだ。
火竜はゆっくりと頷いた。
え、てっきち人型だと思ってた。
いや、そうじゃなくてもこんな小さいのは想像していなかったから、かなり驚いたな。
『ぼくが大地の大精霊ベヒモスくんだよ』
「あ、どうも……。人間の大地豊です」
『大地を豊か?』
「……人間のユタカです」
『そう。人間のユタカなんだね』
俺、この世界で名乗る時には、名前しか言わないようにしよう。
『それで――何か用か』
「え……ええぇぇー!?」
ベヒモスくんの体が突然膨れ上がり、一軒家並みの巨大モンスターに変貌した。
獅子のような狼のような、でも筋肉質で体もやや太め。
頭には角があるし、脚には鋭い爪があるし……ウリ坊要素はどこにいった!?
『驚いた?』
「え」
凶悪そうなモンスターが笑みを浮かべ『驚いたよね?』ともう一度聞く。
「……はい」
『よし』
何がよしなんだ!
それからベヒモスくんはしゅるしゅると縮んで元のウリ坊の姿に。
『じゃ、後ろのお姉ちゃんたちが怖いからこっちの姿でお話するね』
「後ろの――あ」
「えっと、あの……」
「お、思わずビックリして……」
ルーシェとシェリルが、各々武器を構えて立っていた。
そうだ。この二人は戦士だ。
咄嗟に身構えるのは癖というより、本能なんだろうな。
いやぁ、頼もしい。
『ん? あれれ?』
ウリ坊がアスの傍にトテテっと歩いていくと、鼻ですんすんっとニオイを嗅いだ。
『君、彼女の子供?』
『エ? 誰ノコト?』
『そうだ。童《わっぱ》はアースの子だ』
『えー、それじゃあ――』
「あぁぁー、それで俺たち、大地の大精霊にお願いがあって来たんだっ」
アスのおふくろさん、大精霊と顔見知りだったのか。
あっぶねぇ。これはしっかり根回ししておかないとな。
『お願い?』
「そうっ。実はさ――」
砂漠を緑化させたいこと。
水の大精霊と風の大精霊の力を借りることになったことなどなど、ベヒモスくんに説明。
大地の大精霊の力があれば、土を早くに肥えさせることもできるかもしれない。
下位の土の精霊に力を借りただけでも、飛躍的に土はよくなったんだしな。
大精霊に力を借りられれば、砂漠の砂を土に変えることだって……。
『ふぅん、そっかぁ。ぼくとしては砂漠が緑の大地になるのは大歓迎だよ』
「じゃあ、協力してくれるのか!?」
『試練を乗り越えられたらね』
「分かった。どんな試練だ?」
風の大精霊は飛べと言ったが、大地の大精霊だと地中に潜れとか?
それならワームにとっては簡単なこと。
『んーっとねぇ。そこの火竜のせいで、この一帯が以前、焼け野原になっちゃったの。それを元通りにして欲しいんだぁ』
『なっ。そ、それは我の責任であって、その者たちは関係ないであろうっ』
『でも連れて来たの、火竜だし』
焼け野原ってあんた、何したんだよ。
『オジチャン……悪イコトシチャ、メッダヨ』
『ぐふっ……すまぬ……すまぬのぉ』
息子にメッされて、本気で落ち込む父親って……。
『焼け野原にされた範囲はこのぐらーい。分かりやすいように、緑の光で囲んであげたよ』
「ほぉ、どれど……」
おいおい、広すぎやしませんかね?
この高原、運動場何十個分になるんだよ。それ全部が指定範囲になっているぞ。
『じゃ、終わったらぼくをまた呼んでね。ま、できればの話だけどね』
「え、あ、おいっ。元に戻せって、その元がどんなもんか分からないんだけど!」
だが問答無用でウリ坊は土の中に溶け込んでしまった。
戻せと言われてもなぁ……。
元の風景を知っているのは――
全員が火竜を見上げる。
『……き、記憶を共有してやる。みな、目を閉じよ』
記憶の共有?
んー、まぁ言われた通り目を閉じると、何故か景色が見えた。
そこは一面の花畑だった。
ずーっと先まで、全てが花で覆われている。
同じ種類の花で固まっている所もあれば、いろんな色の花が混ざり合った所もあった。
その中心とでもいうのかな。
一本の巨木がそびえ立つその場所に……一頭のドラゴンが……。
『オ、オ母サン……』
そこにアスの姿は見えない。
これは火竜の記憶だから。
だけど傍にいて、アスの嬉しそうな、それでいて悲しそうな声が聞こえた。
そして、見ている景色がフェードアウトした。
「アス……」
『オジチャンッ。今ノオ母サンダヨネ?』
『……そうだ。お前の母は、あの景色が好きだった。だが我が……』
『オ母サンガ大好キナオ花畑! 今モ綺麗ダケド、前ハモット凄カッタンダネェ。ユタカオ兄チャン、元ニ戻セル?』
アスは母親のことを知れたことで、興奮して気づいていないようだ。
火竜が言いかけて口ごもったことを。
『ネッ。早クヤロウヨッ』
「そうだな。ベヒモスくんは、俺たちにはできないと思ってるようだけど」
「ユタカのスキルのこと、知らないものね」
「ふふ。今回の試練も、無事にクリアできますね」
そう。
俺の成長促進があれば、花畑のひとつやふたつ!!
訊ねたのはウリ坊にではなく、火竜にだ。
火竜はゆっくりと頷いた。
え、てっきち人型だと思ってた。
いや、そうじゃなくてもこんな小さいのは想像していなかったから、かなり驚いたな。
『ぼくが大地の大精霊ベヒモスくんだよ』
「あ、どうも……。人間の大地豊です」
『大地を豊か?』
「……人間のユタカです」
『そう。人間のユタカなんだね』
俺、この世界で名乗る時には、名前しか言わないようにしよう。
『それで――何か用か』
「え……ええぇぇー!?」
ベヒモスくんの体が突然膨れ上がり、一軒家並みの巨大モンスターに変貌した。
獅子のような狼のような、でも筋肉質で体もやや太め。
頭には角があるし、脚には鋭い爪があるし……ウリ坊要素はどこにいった!?
『驚いた?』
「え」
凶悪そうなモンスターが笑みを浮かべ『驚いたよね?』ともう一度聞く。
「……はい」
『よし』
何がよしなんだ!
それからベヒモスくんはしゅるしゅると縮んで元のウリ坊の姿に。
『じゃ、後ろのお姉ちゃんたちが怖いからこっちの姿でお話するね』
「後ろの――あ」
「えっと、あの……」
「お、思わずビックリして……」
ルーシェとシェリルが、各々武器を構えて立っていた。
そうだ。この二人は戦士だ。
咄嗟に身構えるのは癖というより、本能なんだろうな。
いやぁ、頼もしい。
『ん? あれれ?』
ウリ坊がアスの傍にトテテっと歩いていくと、鼻ですんすんっとニオイを嗅いだ。
『君、彼女の子供?』
『エ? 誰ノコト?』
『そうだ。童《わっぱ》はアースの子だ』
『えー、それじゃあ――』
「あぁぁー、それで俺たち、大地の大精霊にお願いがあって来たんだっ」
アスのおふくろさん、大精霊と顔見知りだったのか。
あっぶねぇ。これはしっかり根回ししておかないとな。
『お願い?』
「そうっ。実はさ――」
砂漠を緑化させたいこと。
水の大精霊と風の大精霊の力を借りることになったことなどなど、ベヒモスくんに説明。
大地の大精霊の力があれば、土を早くに肥えさせることもできるかもしれない。
下位の土の精霊に力を借りただけでも、飛躍的に土はよくなったんだしな。
大精霊に力を借りられれば、砂漠の砂を土に変えることだって……。
『ふぅん、そっかぁ。ぼくとしては砂漠が緑の大地になるのは大歓迎だよ』
「じゃあ、協力してくれるのか!?」
『試練を乗り越えられたらね』
「分かった。どんな試練だ?」
風の大精霊は飛べと言ったが、大地の大精霊だと地中に潜れとか?
それならワームにとっては簡単なこと。
『んーっとねぇ。そこの火竜のせいで、この一帯が以前、焼け野原になっちゃったの。それを元通りにして欲しいんだぁ』
『なっ。そ、それは我の責任であって、その者たちは関係ないであろうっ』
『でも連れて来たの、火竜だし』
焼け野原ってあんた、何したんだよ。
『オジチャン……悪イコトシチャ、メッダヨ』
『ぐふっ……すまぬ……すまぬのぉ』
息子にメッされて、本気で落ち込む父親って……。
『焼け野原にされた範囲はこのぐらーい。分かりやすいように、緑の光で囲んであげたよ』
「ほぉ、どれど……」
おいおい、広すぎやしませんかね?
この高原、運動場何十個分になるんだよ。それ全部が指定範囲になっているぞ。
『じゃ、終わったらぼくをまた呼んでね。ま、できればの話だけどね』
「え、あ、おいっ。元に戻せって、その元がどんなもんか分からないんだけど!」
だが問答無用でウリ坊は土の中に溶け込んでしまった。
戻せと言われてもなぁ……。
元の風景を知っているのは――
全員が火竜を見上げる。
『……き、記憶を共有してやる。みな、目を閉じよ』
記憶の共有?
んー、まぁ言われた通り目を閉じると、何故か景色が見えた。
そこは一面の花畑だった。
ずーっと先まで、全てが花で覆われている。
同じ種類の花で固まっている所もあれば、いろんな色の花が混ざり合った所もあった。
その中心とでもいうのかな。
一本の巨木がそびえ立つその場所に……一頭のドラゴンが……。
『オ、オ母サン……』
そこにアスの姿は見えない。
これは火竜の記憶だから。
だけど傍にいて、アスの嬉しそうな、それでいて悲しそうな声が聞こえた。
そして、見ている景色がフェードアウトした。
「アス……」
『オジチャンッ。今ノオ母サンダヨネ?』
『……そうだ。お前の母は、あの景色が好きだった。だが我が……』
『オ母サンガ大好キナオ花畑! 今モ綺麗ダケド、前ハモット凄カッタンダネェ。ユタカオ兄チャン、元ニ戻セル?』
アスは母親のことを知れたことで、興奮して気づいていないようだ。
火竜が言いかけて口ごもったことを。
『ネッ。早クヤロウヨッ』
「そうだな。ベヒモスくんは、俺たちにはできないと思ってるようだけど」
「ユタカのスキルのこと、知らないものね」
「ふふ。今回の試練も、無事にクリアできますね」
そう。
俺の成長促進があれば、花畑のひとつやふたつ!!