『童よ。残念ながらこの砂漠に、大地の大精霊はおらぬのだ』
『エェー!?』
えぇー!?
特にボクカワイイ攻撃をする必要もなく、火竜はアスの質問に即答した。
その結果がこれだ。
『昔はいた。だが水の大精霊の気配がなくなってから、ここは砂漠化が加速しはじめた。そのせいで大地の精霊力も弱まり、大精霊も存在できぬようになったのだ』
「存在できないようにって、まさか消えてしまったのか!?」
と俺が質問しても答えてくれない。
アス先生、お願いします――と目配せすると、アスは頷いて俺の質問を復唱した。
『消えてはおらぬぞ。聖域を移したのだ』
『聖域ッテナァニ?』
『大精霊の家とでも説明すれば分かりやすいか』
『大精霊様ニモオ家ガアルンダァ。今ハドコニイルノカ、オジチャンハ知ッテル?』
きらきらした瞳で火竜を見上げるアス。
火竜はすっくと姿勢を伸ばし、ふんすっと鼻を鳴らしてドヤった。
『もちろんだとも』
――と。
『今は我とアー……』
ん?
『オジチャン、ドウシタノ?』
『……今はここから東の山脈におる』
『ソウナンダ。教エテクレテアリガトウ、オジチャン』
東の山脈ってもしかして、火竜とアスのおふくろさんがいた山のことなんじゃ。
それで言葉を詰まらせたのか。
『そこは童の母……アースが愛した場所』
『ボクノ、オ母サンガ?』
『見てみたいか?』
『ウン! オ母サンガ好キダッタ場所、ボクモ見タイ』
『では連れて行ってやろう』
そう言うと火竜は手を差し出した。
「まま、待ってくれっ。まだ準備とか、なんにもできてないからっ」
『お前たちまで連れて行ってやると、誰がいった』
あ、こいつ!
こうなったら、行け、アス!
こくりと頷いたアスは、首を傾げてボクカワイイポーズを決めた。
『優シイオジチャン。ユタカオ兄チャンタチモ一緒ジャナキャ、ボク、ヤダナァ』
『分かった。童が望むならそうしてやろう』
いや、チョロすぎないか?
鼻の下伸ばしてデレデレじゃないか。
『で、準備とは?』
「あ、あぁ。風の大精霊のところに行くのにも数日留守にしているし、立て続けだと野菜の在庫が心もとないんだ。明日の昼過ぎまで待ってほしい」
『他人のための準備か。変わり者だな』
「そうかな。ここで暮らす人はたいてい、誰かのために何かをしていると思うけどな」
ふんっと鼻で笑った火竜は、いつものように桜の木の傍で体を丸めた。
よし。急いで集落に戻って準備をしよう。
「また留守番ですか……」
「じゃ、頼んだよマリウス」
畑の世話とかもあるし、あんまり人手をこっちに回したくないんだよな。
そもそもマリウスがいなくても問題ないわけだし。
ってことで、数日分の野菜を成長させ、さらに時差で成長する野菜の種も用意した。
十二時間後に成長するようにしたから、マリウスにはその種を直ぐに畝に植えて欲しい。
渓谷の外では火竜が律儀に待っていてくれた。
砂船をインベントから取り出して乗り込むと、火竜がそれを掴んで大空に舞い上がる。
『行くぞ』
一言だけそう言うと、ぶわぁっと風が吹いた。
いや、物凄い速さで飛んでいるんだ。
さすがにリリもこのスピードでは飛べないらしく、甲板の上にいる。
あっという間だった。
砂漠の町から戻って来た時とそう変わらない時間を飛んだってことは、砂船でも数日かかるだろうな。
徒歩だともっとかかる距離だ。
眼下には緑溢れる大地が広がっている。
それをルーシェとシェリルが、目を丸くして見下ろしていた。
「こんなに……こんなにたくさんの草木が存在するなんて」
「凄い……凄い……」
「目指すはこんな土地、だよな」
「砂漠がこんな風になるの!? 本当に、こんな風に……」
俺たちが生きている間に、ここまでは無理だろうけど。
それでも近づけよう。
未来の子供たちのために。
砂船は開けた場所で下ろされる。
地面が硬いので、着陸すると船が傾いてしまった。
船を下りると、しばらく全員が呆然と景色を見つめた。
ワームたちも、ここまでの緑は見たことがなくって感動しているようだ。
『ココガ、オ母サンガ大好キダッタ場所?』
『そうだ。以前は今よりももっと、美しい花々が咲き乱れていたのだが……』
『凄イネ! コンナニタクサンオ花見ルノ、ボク初メテ』
以前は――と言うことは、今は以前より少なくなっているんだろう。
だけど砂漠で生まれ育ったものから見れば、今のこの状況も凄い数の花に思えるだろう。
俺の目から見ても、かなり綺麗に咲いてるように感じるし。
『童よ、気に入ったか?』
『ウンッ。凄ク綺麗。コノオ花、オ母サンノオ墓ノ周リニモ咲カセタイナァ』
『いずれ咲くだろう。先日、我がこきおの土を運んで、桜の木の周りに撒いておいたから』
「え、言ってくれれば俺、スキルで花を咲かせたのに」
『……そうだな。お前がそう言うのなら、今度そうしてもらおう』
それぐらいお安い御用さ。
高台の花園か。桜の木も増やして、花見ができる場所にするのもいいな。
『さて、大地の大精霊だったな。おい、見ているのだろう。姿を現せ』
え、いるのか!?
どこ、どこに!?
辺りを見渡し、人影が現れるのを待つ。
水の大精霊は、体が水でできた女の子だった。
風の大精霊は、体が風でできた男だった。
大地の大精霊は……やっぱり土?
『ここにいるよ』
声がしたのは足元。
ん?
視線を下に向けると、そこにはウリ坊――イノシシの子供がいた。
『エェー!?』
えぇー!?
特にボクカワイイ攻撃をする必要もなく、火竜はアスの質問に即答した。
その結果がこれだ。
『昔はいた。だが水の大精霊の気配がなくなってから、ここは砂漠化が加速しはじめた。そのせいで大地の精霊力も弱まり、大精霊も存在できぬようになったのだ』
「存在できないようにって、まさか消えてしまったのか!?」
と俺が質問しても答えてくれない。
アス先生、お願いします――と目配せすると、アスは頷いて俺の質問を復唱した。
『消えてはおらぬぞ。聖域を移したのだ』
『聖域ッテナァニ?』
『大精霊の家とでも説明すれば分かりやすいか』
『大精霊様ニモオ家ガアルンダァ。今ハドコニイルノカ、オジチャンハ知ッテル?』
きらきらした瞳で火竜を見上げるアス。
火竜はすっくと姿勢を伸ばし、ふんすっと鼻を鳴らしてドヤった。
『もちろんだとも』
――と。
『今は我とアー……』
ん?
『オジチャン、ドウシタノ?』
『……今はここから東の山脈におる』
『ソウナンダ。教エテクレテアリガトウ、オジチャン』
東の山脈ってもしかして、火竜とアスのおふくろさんがいた山のことなんじゃ。
それで言葉を詰まらせたのか。
『そこは童の母……アースが愛した場所』
『ボクノ、オ母サンガ?』
『見てみたいか?』
『ウン! オ母サンガ好キダッタ場所、ボクモ見タイ』
『では連れて行ってやろう』
そう言うと火竜は手を差し出した。
「まま、待ってくれっ。まだ準備とか、なんにもできてないからっ」
『お前たちまで連れて行ってやると、誰がいった』
あ、こいつ!
こうなったら、行け、アス!
こくりと頷いたアスは、首を傾げてボクカワイイポーズを決めた。
『優シイオジチャン。ユタカオ兄チャンタチモ一緒ジャナキャ、ボク、ヤダナァ』
『分かった。童が望むならそうしてやろう』
いや、チョロすぎないか?
鼻の下伸ばしてデレデレじゃないか。
『で、準備とは?』
「あ、あぁ。風の大精霊のところに行くのにも数日留守にしているし、立て続けだと野菜の在庫が心もとないんだ。明日の昼過ぎまで待ってほしい」
『他人のための準備か。変わり者だな』
「そうかな。ここで暮らす人はたいてい、誰かのために何かをしていると思うけどな」
ふんっと鼻で笑った火竜は、いつものように桜の木の傍で体を丸めた。
よし。急いで集落に戻って準備をしよう。
「また留守番ですか……」
「じゃ、頼んだよマリウス」
畑の世話とかもあるし、あんまり人手をこっちに回したくないんだよな。
そもそもマリウスがいなくても問題ないわけだし。
ってことで、数日分の野菜を成長させ、さらに時差で成長する野菜の種も用意した。
十二時間後に成長するようにしたから、マリウスにはその種を直ぐに畝に植えて欲しい。
渓谷の外では火竜が律儀に待っていてくれた。
砂船をインベントから取り出して乗り込むと、火竜がそれを掴んで大空に舞い上がる。
『行くぞ』
一言だけそう言うと、ぶわぁっと風が吹いた。
いや、物凄い速さで飛んでいるんだ。
さすがにリリもこのスピードでは飛べないらしく、甲板の上にいる。
あっという間だった。
砂漠の町から戻って来た時とそう変わらない時間を飛んだってことは、砂船でも数日かかるだろうな。
徒歩だともっとかかる距離だ。
眼下には緑溢れる大地が広がっている。
それをルーシェとシェリルが、目を丸くして見下ろしていた。
「こんなに……こんなにたくさんの草木が存在するなんて」
「凄い……凄い……」
「目指すはこんな土地、だよな」
「砂漠がこんな風になるの!? 本当に、こんな風に……」
俺たちが生きている間に、ここまでは無理だろうけど。
それでも近づけよう。
未来の子供たちのために。
砂船は開けた場所で下ろされる。
地面が硬いので、着陸すると船が傾いてしまった。
船を下りると、しばらく全員が呆然と景色を見つめた。
ワームたちも、ここまでの緑は見たことがなくって感動しているようだ。
『ココガ、オ母サンガ大好キダッタ場所?』
『そうだ。以前は今よりももっと、美しい花々が咲き乱れていたのだが……』
『凄イネ! コンナニタクサンオ花見ルノ、ボク初メテ』
以前は――と言うことは、今は以前より少なくなっているんだろう。
だけど砂漠で生まれ育ったものから見れば、今のこの状況も凄い数の花に思えるだろう。
俺の目から見ても、かなり綺麗に咲いてるように感じるし。
『童よ、気に入ったか?』
『ウンッ。凄ク綺麗。コノオ花、オ母サンノオ墓ノ周リニモ咲カセタイナァ』
『いずれ咲くだろう。先日、我がこきおの土を運んで、桜の木の周りに撒いておいたから』
「え、言ってくれれば俺、スキルで花を咲かせたのに」
『……そうだな。お前がそう言うのなら、今度そうしてもらおう』
それぐらいお安い御用さ。
高台の花園か。桜の木も増やして、花見ができる場所にするのもいいな。
『さて、大地の大精霊だったな。おい、見ているのだろう。姿を現せ』
え、いるのか!?
どこ、どこに!?
辺りを見渡し、人影が現れるのを待つ。
水の大精霊は、体が水でできた女の子だった。
風の大精霊は、体が風でできた男だった。
大地の大精霊は……やっぱり土?
『ここにいるよ』
声がしたのは足元。
ん?
視線を下に向けると、そこにはウリ坊――イノシシの子供がいた。