「その子がリリなのか? こりゃまたずいぶん様変わりしたもんだ」
風の大精霊との契約を終え、マストを迎えに村へと戻って来た。
さすがに姿形、色まで変わってしまったリリを見て、彼も驚いたようだ。
ユユもそうだったけど、リリも体長が縮んでいる。
十メートルはあった体は、今や三メートルほど。ユユも四メートルかそこいらだし、ルルと比べると二匹はかなり小さく見えるな。
「じゃ、ハクト。次に町へ行くときは、ついでに海にも行こうと思うんだ」
「海か、あぁいいぜ。俺も見てみたいし」
「じゃ、半月後に」
そう約束をして集落へと戻る。
寄り道をしなければ、集落から村までほんの数時間だ。
『♪♪』
「ユタカ。リリがね、魔道具がなくても、リリが風の力で船を動かせるようになったって言ってるわよ」
「おぉ。さっそく風の力が使えるようになったんだな」
『♪』
リリが嬉しそうに宙を舞う。
にしても、体のサイズのわりに翼は小さいようなんだけど、あんなので飛べるのか。
リリをじーっと見ていると、ユユが顔をにゅっと出してきた。
『リリばっかり見てる』
「あ、あぁ。翼は小さいのに、どうやって飛んでんのかなぁと思って」
『リリがかわいくて見てた訳じゃない?』
「なんだよそりゃ。はいはい、ユユもかわいいかわいい」
鼻先を撫でてやると、目を細めて気持ちよさそうにする。
『あのねぇ、リリは火竜さまみたいに翼を羽ばたかせて飛んでいるんじゃないんだよぉ』
「え、そうなのか? いやそうだよな。じゃ、どうやって飛んでいるんだ?」
「魔力で飛んでいるってリリが言ってたわ。私にはよく分からないけど」
「魔力……じゃ、ずっと飛んでたら疲れるんじゃ?」
俺たちの会話が聞こえたのか、リリが戻って来て何かを話す。
「そんなに魔力は使わないんですって」
『んーとね、人間が歩くのと同じだって。ずーっと歩き続けたら疲れるけど、疲れて倒れるまでいーっぱい歩けるでしょ?』
「なるほど。リリにとって飛ぶことは、俺たちにとってアルクノと同じぐらいにしか疲れないってことか」
『♪♪』
リリが再び空に舞う。
それを羨ましいのかどうなのか分からないけど、ルルがずーっと見上げていた。
『ルルガ大地ノ大精霊ト契約スルンデショ? ボクジャダメ?』
「アス、お前まで……」
『ダッテボク、アースドラゴンダシ……』
ユユとリリを羨ましく思っているのは、ルルだけじゃないようだ。
アスの話を聞いて、ビクっと体を震わせたルルは、だけど俯いて何も言わない。
引っ込み思案なところがあるみたいだな、ルルは。
「アス。大地の大精霊とはルルが契約するって決めてるんだ。だから――」
というと、アスもアスでしゅんっとして項垂れる。
はぁ……困ったなぁ。
『じゃ、その子にはイフリートと契約させなさいよ』
「イフ……火の大精霊か?」
『そうよ。よく知ってるじゃない、異世界人のくせに』
だって異世界ファンタジーは、漫画でも小説でもアニメでも、なんだったら実写でも溢れているからなぁ。
『ボクガ火ノ大精霊ト? デモボク、アースドラゴンダヨ?』
『何言ってんのよ。あんたの中には「あーっ。地属性って、火と相性はそう悪くないんじゃないか?」……あっ。そ、そうね。悪くはないわよ。うん』
『ソウナンダ!』
『それにあんた、ドラゴンだし。ワームよりは断然、相性がいいはずよ』
『ワームハ悪イノ?』
とアスがユユたちを見る。
ユユたちも慌てて頷いて話を合わせてくれた。
『ソッカァ。ジャ、ボクハ火ノ大精霊ト契約スルネ』
とご満悦なようだ。
しかしイフリートと契約する意味ってあるのかとアクアディーネに聞くと、
『あるわよ。アタシが嫌いな奴だけど、あいつがいたほうが海水を蒸発させることも、雲を生み出すのも早くなるし』
と。
なるほどね、そういうことなら確かに意味はあるか。
「ですが、火の大精霊さまがいらっしゃったら、砂漠の気温がもっと上がったりしないでしょうか?」
「確かに心配ね。砂漠に残ってる水まで蒸発しちゃったら、元も子もないだろうし」
『それなら大丈夫よ。火の精霊は、自分の体温調節も出来るから。まぁ10℃前後だけどね』
「10℃も下がるなら契約のし甲斐もあるじゃん! アス、イフリートのハートを鷲掴みするんだぞっ」
『ウン! トミータチニ、ボクカワイイヲ習ッテオクネ!』
うん……やっぱりドリュー族か……。
「大地の大精霊がどこにいるか……だよなぁ」
「村でも大地の精霊に関する話が聞けないか、年寄りにも尋ねてみたが収穫はゼロだった」
マストはただ留守番をしていただけじゃない。
集落には年寄りがいないが、その分、村にはいる。
若い者よりお年寄りの方がいろいろ知っているだろうと思って、情報を集めて貰ったんだが――収穫なしか。
まぁ大地の精霊ともなれば、緑豊かな場所にいそうだもんなぁ。
砂漠じゃ無理がある。
アクアディーネがいた山だって、緑は少なかったし。
ま、砂漠と水の大精霊だって不釣り合いではあるんだし、希望がない訳じゃない。
「そうだ。この砂漠で一番年喰ってそうなのがいたっけ」
「バフォおじさんのこと?」
「ヤギって人より長生きなのでしょうか?」
今でも二人はバフォおじさんを「ヤギ」と信じている。
ヤギを知らないからなぁ。
いや奥さんたちや仔ヤギたちは、普通のヤギなんだけどさぁ。
「いや、バフォおじさんじゃなくって、火竜の方さ。この砂漠を縄張りにしていたんだし、いろいろ知ってるはずだろ?」
「あ、そうでした。火竜様にお聞きすればよかったんですよね」
「私たちが生まれた時には、この砂漠に火竜さまはいなかったし、他所から来たドラゴンって印象だったものね」
「よし、アス。さっそくボクかわいいの出番だ」
『ウン! オジチャンニ大地ノ大精霊ノコト、聞ケバイインダネ」
分かっていらっしゃる。
風の大精霊との契約を終え、マストを迎えに村へと戻って来た。
さすがに姿形、色まで変わってしまったリリを見て、彼も驚いたようだ。
ユユもそうだったけど、リリも体長が縮んでいる。
十メートルはあった体は、今や三メートルほど。ユユも四メートルかそこいらだし、ルルと比べると二匹はかなり小さく見えるな。
「じゃ、ハクト。次に町へ行くときは、ついでに海にも行こうと思うんだ」
「海か、あぁいいぜ。俺も見てみたいし」
「じゃ、半月後に」
そう約束をして集落へと戻る。
寄り道をしなければ、集落から村までほんの数時間だ。
『♪♪』
「ユタカ。リリがね、魔道具がなくても、リリが風の力で船を動かせるようになったって言ってるわよ」
「おぉ。さっそく風の力が使えるようになったんだな」
『♪』
リリが嬉しそうに宙を舞う。
にしても、体のサイズのわりに翼は小さいようなんだけど、あんなので飛べるのか。
リリをじーっと見ていると、ユユが顔をにゅっと出してきた。
『リリばっかり見てる』
「あ、あぁ。翼は小さいのに、どうやって飛んでんのかなぁと思って」
『リリがかわいくて見てた訳じゃない?』
「なんだよそりゃ。はいはい、ユユもかわいいかわいい」
鼻先を撫でてやると、目を細めて気持ちよさそうにする。
『あのねぇ、リリは火竜さまみたいに翼を羽ばたかせて飛んでいるんじゃないんだよぉ』
「え、そうなのか? いやそうだよな。じゃ、どうやって飛んでいるんだ?」
「魔力で飛んでいるってリリが言ってたわ。私にはよく分からないけど」
「魔力……じゃ、ずっと飛んでたら疲れるんじゃ?」
俺たちの会話が聞こえたのか、リリが戻って来て何かを話す。
「そんなに魔力は使わないんですって」
『んーとね、人間が歩くのと同じだって。ずーっと歩き続けたら疲れるけど、疲れて倒れるまでいーっぱい歩けるでしょ?』
「なるほど。リリにとって飛ぶことは、俺たちにとってアルクノと同じぐらいにしか疲れないってことか」
『♪♪』
リリが再び空に舞う。
それを羨ましいのかどうなのか分からないけど、ルルがずーっと見上げていた。
『ルルガ大地ノ大精霊ト契約スルンデショ? ボクジャダメ?』
「アス、お前まで……」
『ダッテボク、アースドラゴンダシ……』
ユユとリリを羨ましく思っているのは、ルルだけじゃないようだ。
アスの話を聞いて、ビクっと体を震わせたルルは、だけど俯いて何も言わない。
引っ込み思案なところがあるみたいだな、ルルは。
「アス。大地の大精霊とはルルが契約するって決めてるんだ。だから――」
というと、アスもアスでしゅんっとして項垂れる。
はぁ……困ったなぁ。
『じゃ、その子にはイフリートと契約させなさいよ』
「イフ……火の大精霊か?」
『そうよ。よく知ってるじゃない、異世界人のくせに』
だって異世界ファンタジーは、漫画でも小説でもアニメでも、なんだったら実写でも溢れているからなぁ。
『ボクガ火ノ大精霊ト? デモボク、アースドラゴンダヨ?』
『何言ってんのよ。あんたの中には「あーっ。地属性って、火と相性はそう悪くないんじゃないか?」……あっ。そ、そうね。悪くはないわよ。うん』
『ソウナンダ!』
『それにあんた、ドラゴンだし。ワームよりは断然、相性がいいはずよ』
『ワームハ悪イノ?』
とアスがユユたちを見る。
ユユたちも慌てて頷いて話を合わせてくれた。
『ソッカァ。ジャ、ボクハ火ノ大精霊ト契約スルネ』
とご満悦なようだ。
しかしイフリートと契約する意味ってあるのかとアクアディーネに聞くと、
『あるわよ。アタシが嫌いな奴だけど、あいつがいたほうが海水を蒸発させることも、雲を生み出すのも早くなるし』
と。
なるほどね、そういうことなら確かに意味はあるか。
「ですが、火の大精霊さまがいらっしゃったら、砂漠の気温がもっと上がったりしないでしょうか?」
「確かに心配ね。砂漠に残ってる水まで蒸発しちゃったら、元も子もないだろうし」
『それなら大丈夫よ。火の精霊は、自分の体温調節も出来るから。まぁ10℃前後だけどね』
「10℃も下がるなら契約のし甲斐もあるじゃん! アス、イフリートのハートを鷲掴みするんだぞっ」
『ウン! トミータチニ、ボクカワイイヲ習ッテオクネ!』
うん……やっぱりドリュー族か……。
「大地の大精霊がどこにいるか……だよなぁ」
「村でも大地の精霊に関する話が聞けないか、年寄りにも尋ねてみたが収穫はゼロだった」
マストはただ留守番をしていただけじゃない。
集落には年寄りがいないが、その分、村にはいる。
若い者よりお年寄りの方がいろいろ知っているだろうと思って、情報を集めて貰ったんだが――収穫なしか。
まぁ大地の精霊ともなれば、緑豊かな場所にいそうだもんなぁ。
砂漠じゃ無理がある。
アクアディーネがいた山だって、緑は少なかったし。
ま、砂漠と水の大精霊だって不釣り合いではあるんだし、希望がない訳じゃない。
「そうだ。この砂漠で一番年喰ってそうなのがいたっけ」
「バフォおじさんのこと?」
「ヤギって人より長生きなのでしょうか?」
今でも二人はバフォおじさんを「ヤギ」と信じている。
ヤギを知らないからなぁ。
いや奥さんたちや仔ヤギたちは、普通のヤギなんだけどさぁ。
「いや、バフォおじさんじゃなくって、火竜の方さ。この砂漠を縄張りにしていたんだし、いろいろ知ってるはずだろ?」
「あ、そうでした。火竜様にお聞きすればよかったんですよね」
「私たちが生まれた時には、この砂漠に火竜さまはいなかったし、他所から来たドラゴンって印象だったものね」
「よし、アス。さっそくボクかわいいの出番だ」
『ウン! オジチャンニ大地ノ大精霊ノコト、聞ケバイインダネ」
分かっていらっしゃる。