リリ……それじゃあ「飛ぶ」じゃなくて、「跳ぶ」だぞ。
風の大精霊に飛んでみせろと言われてから、リリは先日の釣りバトルの時のように体を丸めて空高く跳ね上がった。
何度も、何度もだ。
だけどここは砂の上じゃない。硬い土の上だ。
高く跳べばその分、落下のダメージもある。
鱗に覆われているわけではないリリの体は、次第にあちこちから血が滲み始めた。
「リリッ、もう止めてっ」
「そうだリリ! このままじゃお前は傷つくだけだっ」
「リリちゃん、他の方法を考えましょうっ」
『リリィ、痛イノダメェ』
俺たちが止めようとしても、リリは止めようとしない。
それに、ユユとルルも見守っているだけだ。
ワームにはワームなりの意地でもあるんだろうか。
だけどこれ以上は、本当に危険だ。
『ふんっ。それでは飛ぶではなく、跳ねるではないか? しょせんはワームよ。それに、テイミングモンスターを御することもできぬとは、貴様らの関係もその程度のものか』
「なん、だと。御するだって?」
『従わぬのであれば、解放してしまえ。そうすればただのモンスターだ』
御する。従えさせる。
俺たちは、そんな関係じゃない!
「リリは自分の意思で、お前が出した試練をクリアしようとしているんだ! 命令されたからじゃない。リリの意思だ! そんなことも分からないのか、このポンコツロン毛マッチョが!」
『ポンコッ』
『ぷはっ。ロン毛マッチョですって。うん、その通りね』
『アクア!?』
『やーい、やーい。ポンコツロン毛マッチョ~』
大精霊同士の不毛な言い争いの間も、リリは必死に飛ぼうとしていた。
体のあちこちが裂け、血が辺りの地面や壁に飛び散る。
「もう止めて……お願い、リリ」
「リリッ。もういい。もういいんだ! こんなポンコツ精霊と契約なんてしなくていい! 砂船で海水を砂漠まで運べばいいんだ。もう自分を傷つけるなっ」
『■■■■』
「でもリリッ。成長したって飛べるようにならないわよっ」
成長?
「リリは成長させろって言ってるのか?」
「うん……」
『はっはっは。飛ぶ種のワームは存在せぬ。いくら進化しようともな』
くっ。それが分かっててあんな試練を出しやがったな。
『ボクガ飛ベレバヨカッタノニ。ソシタラリリヲ抱ッコシテ空ヲ飛ベタノニ』
「アス……」
今のアスのサイズじゃ、リリを抱っこするのも無理だぞ。
だからって火竜に頼んで飛ばしたとして、認めて貰えないだろう。
ワームの進化に飛べる種はいない。
だったら成長させても意味はないのかも。
『■■』
リリが何を言っているのか、たぶん分かっている。
スキルを使ってくれと頼んでいるのだろう。
でも進化しなかったら、寿命を短くするだけなんだぞ。
『■■■!』
「お、おい、リリ!」
リリがまた跳ね始める。
スキルを使って、進化できなかったら諦めてくれるのか?
芯かしたとしても、空を飛ぶ種にならなかったら――いや、飛べない種にしか進化しないけど、そうしたら諦めてくれるのか?
「リリ、分かった。成長促進をかけてやるから、こっちに置いて」
『■!』
痛む体を引きづるようにして、リリが傍へとやって来た。
「無茶しすぎるなよ。シェリルが泣いてるだろ」
「な、泣いてなんかいないわよっ」
「泣いてますよ、シェリルちゃん」
「ね、姉さんまでっ……だ、だって。だってリリが」
傷ついたリリの体を抱きしめながら、シェリルが声を殺して涙を流す。
こんなになるまで頑張って……でも飛べないって分かってるだろう?
だけど頑張ったんだ。
少しぐらい報われたいよな。
リリに翼があれば……風の方に軽い翼が……
「"成長促進"」
ユユの時みたいに、リリの体が光る。
これは……進化するのか?
普通に進化すればサンドワームだっけ? もしくは上位のアースワームか。
リリはどっちだろう。
光が収束すると、そこには――
『むっきゅ~ん♪』
「リリ!」
「はひ? つ、翼?」
頭の部分の下だから首?
そこから半透明な、デフォルメデザインの翼が生えたリリがいた。
『え? え? 何この子。見たことない種に進化してるじゃない!』
「大精霊でも見たことがないのか? リ、リリ、どうなったんだ。皮膚の色もすっかり変わってしまってるし」
お腹の部分はユユ動揺、元々のワーム色だ。人間の肌色の桃色感を増した色。
だけど背中の部分は薄水色になっている。
鱗はない。つるんとした質感は同じで、やっぱりリリにも瞳がハッキリクッキリ見えるようになっていた。
何より――
「浮いてる……」
「跳べるようになったのねリリ!」
「凄いです。リリの思いが通じたのですねっ」
『さぁさぁさぁ、どうよ風の。あんたが蔑んだワームが、飛んでるわよ』
『ぐぬ……ど、どういうことだ。こんな種、存在などしていないというのに』
存在しない?
違うな。
「風の大精霊。存在しているじゃないか、今、あんたの目の前に」
『♪♪』
リリもそうだと言わんばかりに、大精霊の目の前でホバリングしている。
「試練はクリアしたぞ。約束通り、契約してもらおうか? いや、大賢者じゃないと契約できないなんていうポンコツはいらないか。大賢者の力を借りなきゃ、精霊力もまともに出せないようだしな」
『な、なにっ』
『あらぁ、そういうことだったのぉ。大賢者連れてこいってのは、自分の精霊力をまもとにコントロールできないから、大賢者クラスの人間に手伝ってもらわなきゃいけなかったのねぇ。気づいてあげられなくてゴメーン』
『そ、そんなわけなかろう! 相手が誰であろうと、わたしの力はわたしの意思でコントロールできる!』
『ワーム相手にもぉ?』
『当然だ! 契約だっ。今すぐ契約しろっ。そうだな、さしずめスカイワーム、とでも呼ぶか』
この世界に新種のワームが誕生した瞬間だった。
風の大精霊に飛んでみせろと言われてから、リリは先日の釣りバトルの時のように体を丸めて空高く跳ね上がった。
何度も、何度もだ。
だけどここは砂の上じゃない。硬い土の上だ。
高く跳べばその分、落下のダメージもある。
鱗に覆われているわけではないリリの体は、次第にあちこちから血が滲み始めた。
「リリッ、もう止めてっ」
「そうだリリ! このままじゃお前は傷つくだけだっ」
「リリちゃん、他の方法を考えましょうっ」
『リリィ、痛イノダメェ』
俺たちが止めようとしても、リリは止めようとしない。
それに、ユユとルルも見守っているだけだ。
ワームにはワームなりの意地でもあるんだろうか。
だけどこれ以上は、本当に危険だ。
『ふんっ。それでは飛ぶではなく、跳ねるではないか? しょせんはワームよ。それに、テイミングモンスターを御することもできぬとは、貴様らの関係もその程度のものか』
「なん、だと。御するだって?」
『従わぬのであれば、解放してしまえ。そうすればただのモンスターだ』
御する。従えさせる。
俺たちは、そんな関係じゃない!
「リリは自分の意思で、お前が出した試練をクリアしようとしているんだ! 命令されたからじゃない。リリの意思だ! そんなことも分からないのか、このポンコツロン毛マッチョが!」
『ポンコッ』
『ぷはっ。ロン毛マッチョですって。うん、その通りね』
『アクア!?』
『やーい、やーい。ポンコツロン毛マッチョ~』
大精霊同士の不毛な言い争いの間も、リリは必死に飛ぼうとしていた。
体のあちこちが裂け、血が辺りの地面や壁に飛び散る。
「もう止めて……お願い、リリ」
「リリッ。もういい。もういいんだ! こんなポンコツ精霊と契約なんてしなくていい! 砂船で海水を砂漠まで運べばいいんだ。もう自分を傷つけるなっ」
『■■■■』
「でもリリッ。成長したって飛べるようにならないわよっ」
成長?
「リリは成長させろって言ってるのか?」
「うん……」
『はっはっは。飛ぶ種のワームは存在せぬ。いくら進化しようともな』
くっ。それが分かっててあんな試練を出しやがったな。
『ボクガ飛ベレバヨカッタノニ。ソシタラリリヲ抱ッコシテ空ヲ飛ベタノニ』
「アス……」
今のアスのサイズじゃ、リリを抱っこするのも無理だぞ。
だからって火竜に頼んで飛ばしたとして、認めて貰えないだろう。
ワームの進化に飛べる種はいない。
だったら成長させても意味はないのかも。
『■■』
リリが何を言っているのか、たぶん分かっている。
スキルを使ってくれと頼んでいるのだろう。
でも進化しなかったら、寿命を短くするだけなんだぞ。
『■■■!』
「お、おい、リリ!」
リリがまた跳ね始める。
スキルを使って、進化できなかったら諦めてくれるのか?
芯かしたとしても、空を飛ぶ種にならなかったら――いや、飛べない種にしか進化しないけど、そうしたら諦めてくれるのか?
「リリ、分かった。成長促進をかけてやるから、こっちに置いて」
『■!』
痛む体を引きづるようにして、リリが傍へとやって来た。
「無茶しすぎるなよ。シェリルが泣いてるだろ」
「な、泣いてなんかいないわよっ」
「泣いてますよ、シェリルちゃん」
「ね、姉さんまでっ……だ、だって。だってリリが」
傷ついたリリの体を抱きしめながら、シェリルが声を殺して涙を流す。
こんなになるまで頑張って……でも飛べないって分かってるだろう?
だけど頑張ったんだ。
少しぐらい報われたいよな。
リリに翼があれば……風の方に軽い翼が……
「"成長促進"」
ユユの時みたいに、リリの体が光る。
これは……進化するのか?
普通に進化すればサンドワームだっけ? もしくは上位のアースワームか。
リリはどっちだろう。
光が収束すると、そこには――
『むっきゅ~ん♪』
「リリ!」
「はひ? つ、翼?」
頭の部分の下だから首?
そこから半透明な、デフォルメデザインの翼が生えたリリがいた。
『え? え? 何この子。見たことない種に進化してるじゃない!』
「大精霊でも見たことがないのか? リ、リリ、どうなったんだ。皮膚の色もすっかり変わってしまってるし」
お腹の部分はユユ動揺、元々のワーム色だ。人間の肌色の桃色感を増した色。
だけど背中の部分は薄水色になっている。
鱗はない。つるんとした質感は同じで、やっぱりリリにも瞳がハッキリクッキリ見えるようになっていた。
何より――
「浮いてる……」
「跳べるようになったのねリリ!」
「凄いです。リリの思いが通じたのですねっ」
『さぁさぁさぁ、どうよ風の。あんたが蔑んだワームが、飛んでるわよ』
『ぐぬ……ど、どういうことだ。こんな種、存在などしていないというのに』
存在しない?
違うな。
「風の大精霊。存在しているじゃないか、今、あんたの目の前に」
『♪♪』
リリもそうだと言わんばかりに、大精霊の目の前でホバリングしている。
「試練はクリアしたぞ。約束通り、契約してもらおうか? いや、大賢者じゃないと契約できないなんていうポンコツはいらないか。大賢者の力を借りなきゃ、精霊力もまともに出せないようだしな」
『な、なにっ』
『あらぁ、そういうことだったのぉ。大賢者連れてこいってのは、自分の精霊力をまもとにコントロールできないから、大賢者クラスの人間に手伝ってもらわなきゃいけなかったのねぇ。気づいてあげられなくてゴメーン』
『そ、そんなわけなかろう! 相手が誰であろうと、わたしの力はわたしの意思でコントロールできる!』
『ワーム相手にもぉ?』
『当然だ! 契約だっ。今すぐ契約しろっ。そうだな、さしずめスカイワーム、とでも呼ぶか』
この世界に新種のワームが誕生した瞬間だった。