『だーれがマヌケよ!』
『人間にまんまと騙されたのは誰だ』
『ぐぬぬぬぬぅ』

 まさにその通り過ぎて反論できないんだな。

「風の大精霊っ。頼みがあって会いに来たんだっ」
『そしてお前はまた、人間に騙されようとしている』

 風の大精霊はそう言って俺の方を見た。

「いやいやいやいや。俺は騙してないからっ……と言っても信じて貰えないだろうけど」

 人を騙す奴が「自分は人を騙します」なんて言う訳ないしな。
 信じてもらうためには、まず話をするしかない。

「砂漠を緑の大地に変えたいんだ。力を貸して欲しい」
『いつぞやの人間と同じことを言う』
「アクアディーネを閉じ込めたっていう人間とか……。確かに同じ理由でアクアディーネに力を貸してもらうことになった。でも俺は五〇〇年前の連中とは違う。大精霊から力を借りるだけじゃない。俺自身も力を使う」
『力、だと?』

 インベントリから竹の種を取り出し、成長促進を使う。
 すぐに成長させるのではなく――

「この種を今から成長させる。これが俺の力だ」

 土に上で、全員で少し後ろに下がった。
 そのタイミングで種を植えた辺りから、たけのこが顔を出す。
 そして、にょき、にょきと次から次にたけのこがにょっきしだす。

 あぁ、たけのこ掘りてぇ。
 だけどここはぐっと我慢して。

「種さえあれば、一瞬で植物を成長させることができる。でも砂漠のままじゃ、そのあと枯れてしまうだけなんだ」

 たけのこは小さな竹林となり、それを風の大精霊が腕を組んで見下ろす。
 
『そうか、貴様。異世界人か』
「そ、そうだ。召喚された時に、このスキルを授かっている」
『異世界人が召喚されるのは、人間同士の戦のため。戦争の道具にするためだ』
「だけど俺は役立たずだと言われ、砂漠に捨てられた。せっかく貰ったスキルだ。役立てて、異世界での暮らしを快適にしたいって思うのは悪いことじゃないだろ?」
『元の世界に戻りたいを考えるのが、普通ではないのか?』
「それは……」

 帰りを待っていてくれる人がいれば、俺も地球に戻ることを願ったかもしれない。
 だけど家族はいない。
 財産分与で揉めた親戚ならいる。
 きっと今頃、俺がいなくなったことで残りの財産、全部手に入れようとしてまた親戚同士揉めてることだろう。
 そういや、俺って向こうではどういう扱いになってるのかな?

 行方不明?
 それともそんざいそのものが消えて、みんなの記憶からいなくなってるとか?
 それならそれでいいかな。

『どうした。何か申してみよ』
「帰っても家族はいない。だから帰らなくてもいいんだ。俺はこの世界で暮らすって、もう決めたから」
「ユタカさん」
「ユタカ……風の大精霊さま、お願いします。砂漠を緑溢れる大地にすることに、ご協力くださいっ」
『オ願イシマス』
『お願いぃ』
『お・ね・が・い』

 約一名、変なのが混ざっているが、みんなでお願いコールをすると大精霊がうぅむと唸る。
 よ、よし。もう一押しか。

 そこで、どう協力して欲しいのかも説明した。
 海水を蒸発させ、その水分でできた雲を砂漠に流してもらう。
 これだけだ。

「簡単だろ?」

 下から覗き込むように首を傾げ、お伺いを立ててみる。
 横ではアスとユユも同じように首を傾げていた。
 さぁ。かわいいは正義をとくと味わうがいい!

 あ、俺は別にしてね。

『なるほど、分かった』
「じゃあ!」
『だが貴様には精霊と契約する資格がないようだが?』

 ぅ。魔法を知らないのを見透かされているのか。
 だが大丈夫!

「それなら、ここにいるリリ――ワームが契約をする」
『♪♪』

 リリがもじもじと前に出る。

『ワーム……だと?』

 風の大精霊がアクアディーネを見た。

『そうよ。この中で契約できそうなのがワームしかいないのよ』
『お前……ワームと契約したのか?』
『そ、そうだけど。な、何か問題でも?』

 数秒後、風の大精霊が『ぶふっ』と鼻で笑った。

『い、今アタシのこと笑ったわね!』
『当たり前だ。古エルフや賢者と呼ばれるような人間と契約したのならまだしも、ワームだと? これを笑わずして、何に笑えと言うのだ』
『こ、このユユはね、アースワームでもなければアクアワームでもない、アースアクアワームに進化した、凄いワームなんだから!』
『アースアクア? なんだ、それは。そんな種のワームなど、存在せぬだろう』

 いやぁ、それが存在しちゃったんだなぁ。
 ここでアクアディーネが胸を張ってドヤ顔をキメる。

『ふっ。それが存在するのよね。あんたもよぉくユユを見てみなさいよ。鑑定できるでしょ』
『ふん。そんな挑発にわたしが……ん?』

 鑑定――そうか。そういうスキルもあるのか。
 まぁ俺の場合、インベントリに入るものなら簡易的な鑑定はできるけど。

 その鑑定でユユを見たのか、鼻で笑った時さえポーカーフェイスだった風の大精霊の表情が変わった。
 ユユをじーっと見つめ、見つめられているユユはからだをよじらせ恥ずかしがっている様子。

『確かに、妙な進化をしているようだ。だが、ワームはワームでしかない。大精霊ともあろう存在《もの》が、ワームごときと契約など片腹痛いわ』
『うっ……』

 ワーム……ごとき?

『わたしと契約を結びたいというなら、まずは大賢者を連れてくるがいい。試練はそれからだ』
「取り消せ」
『なに?』
「ユユのこと、ワームごときと言ったこと取り消せ! ユユは確かにモンスターだけど、優しくて賢い立派なワームなんだ! ごときなんて、ぜったい言わせない!」

 家族をバカにされて、黙っていられるか!

「ユユだけじゃない。ルルやリリだってそうだ。この子たちは俺たちの大事な家族だ。砂漠の緑化計画だって手伝ってくれている。あんたなんかより、よっぽど自然に貢献しているんだっ。バカになんかさせない!!」
『わ、わたしが役立たずだとでも言うのか!?』
「え? なんか役に立ってたっけ? ここで子分の精霊の歌を聞いてるだけだろ?」
『ぷぷ。その通りだわ。もっと言ってやんなさいよ』
「あんたがマヌケだと嘲笑った水の大精霊だって、砂漠の人のために地下水を地表近くまで吸い上げてくれてんだ。役に立ってるだけじゃなく、優しい大精霊じゃないか」
『え……それは、えっと……あ、崇めて貰うためよ。そ、そうよ。ふんっ』

 なんでツンデレになるんだよ。

「アクアディーネさまはお優しい方ですよ」
「気さくな感じも好印象だしね」
『あ、あんたたちまで……。や、やめてよね。恥ずかしいんだからっ』

 水色の体が、ほのかに桃色に染まっている気がする。

「つまり。風の大精霊、あんたはなんにも役に立っていない。人にとってもだが、砂漠にとってもだ!」
『い、言わせておけば……そこまで言うなら、貴様らに試練を与えてやろう。それを見事クリアできたのなら、協力してやろうではないか。この風の力で砂漠を緑化でもなんでもしてくれる!』

 よし、乗って来た。

『わたしからの試練は――風に相応しく、空を飛ぶことだ』

 ……え?