俺がお世話になっている集落の他に、元々《・・》は四つの集落があった。
そのうちの一つ、マストたちが暮らしていた集落は、バジリスクに襲われて残骸が残っているだけ。
ってことで、回る集落は三つだけだ。
三つのうち一つは、山の北側にある。
残り二つは村の北西にある山の反対側だ。この二つが遠い。
と言っても、そこは砂船。
日が暮れる前にはもう一つの集落に到着し、食料をおろしてマストから説明をしてもらって、今夜は砂船で就寝。
翌朝は次の集落に行って同じことし、一時間ほど滞在したら村へ向かって少し引き返す。
「ハクト、久しぶり」
「ユタカ、元気だったか?」
ハクトと握手を交わし、お互いの近況を伝え合った。
水の大精霊の話をすると、ハクトは驚いた様子だった。
ま、驚かない方がおかしいよな。
「じゃあ、この砂漠にも雨を降らせられるのか?」
「降らせるには条件が必要だけどね。雨を降らせるのにも水は必要なんだ。水を蒸発させて、それが空を流れる雲になって、その雲が雨を降らせる」
「だったら砂漠に雨なんて無理な話なんじゃないのか?」
「なにも砂漠に残っているわずかな水を蒸発させようっていうんじゃないんだ。海の水でもいいんだよ」
「海……見たことはないが、物凄い量の水があるらしいな」
砂船が手に入った今、海を見に行くのも夢物語じゃない。
まぁ数日の旅になるけれど。
「他にもいろいろ準備が必要でさ。それで風の大渓谷に行かなきゃならないんだ」
「風の大渓谷か。それなら北西にある集落に行ったんだろう? そこから北の方に、大きな岩山が見えたはずだ。集落からだと渓谷が見えない角度だけどな」
そうだったのか。
確かに今朝立ち寄った集落から、エアーズロックのような岩山が見えていた。
渓谷のような切れ目は見えなかったけど、覚悟が違うのか。
一晩村に滞在し、風の大渓谷に向けて出発するのは翌朝からだ。
マストは村に残ってもらい、渓谷に向かうのは俺とルーシェ、シェリルになる。
船で留守番しているワームたちとアスももちろん一緒だ。
「じゃ、帰りに迎えに来るよ」
「あぁ。気を付けるんだぞ。朗報を待っている」
大渓谷の傍まで砂船で移動し、そこからは歩くことになる。
砂船は風に流されないよう、インベントリの中にしっかり入れた。
「あんな大きな船が入るなんて、ユタカのインベントリって凄く大きいのね」
「うぅん。大きいっていうのかなぁ」
『ちょっと人間。ユユの皮膚が乾き始めてるわよ。水出しなさい、水』
「え、あ、おぅ」
アクアディーネがユユの頭の上で跳ねた。今も手のひらサイズだ。
『ま、まだ大丈夫』
「心配するなユユ。水はたくさん持って来てるから」
インベントリから瓢箪を一つ取り出す。
中に入っている水はあとから入れた物で、どういう原理か分からないが圧縮された水、らしい。
アクアディーネが入れたもので、瓢箪の中に入る実際の量の十倍ほどだそうだ。
「じゃ、大精霊、頼むよ」
『朝飯前よ』
精霊ってご飯食べたっけ?
にゅるっぽんと瓢箪から出て来た水はそのまま霧状になって、ユユ、ルル、リリの体に降り注ぐ。
十倍の量だが、さすがに三匹の体が大きいので瓢箪内の水は空になった。
『よし、準備オッケーよ。風の大精霊はぁ……うん、いるようね』
「いるのか!」
よかった。それらしい所をしらみつぶしに探さなきゃならないかと思ったけど、一発目で正解だったようだ。
あとは上手く契約できればいいんだけど。
それにしても――
「凄い渓谷だな。俺たちの集落にある渓谷よりも、かなり大きい」
「そうですね。幅も広いですし、壁の模様も綺麗です」
渓谷の幅は五〇メートルぐらいあるんじゃないかな。
左右にそびえる岩壁はぐねぐねとうねり、先は見えない。
「この音……歌ってるみたい」
シェリルが言うように、渓谷を吹き抜ける音は一定のリズムを刻んでいる、ように聞こえる。
『歌ッテルヨ』
「アス、歌ってるって誰が?」
『精霊サン』
『風の精霊が歌ってるのよ。あの子たちはお喋りや歌が好きだから』
「大精霊じゃなく、下位の精霊か?」
『そう』
風が吹き抜ける音じゃなくって、精霊が歌っているのか。
姿が見えない俺には、歌っていると言われてもまったく実感がわかない。
だけどアスや、それにワームたちにはどううあら見えているらしい。
宙を見て頷いたり、体を揺らしてリズムに乗ろうとしている。
「見える?」
ルーシェとシェリルに尋ねると、二人は揃って首を振った。
なんだかちょっとホッとした。
『やほ~、久しぶりぃ。前に会ったのはいつだったかしら?』
「え?」
アクアディーネが宙を指さす。
その先に目を向けると、風が渦巻き始めているのが見えた。
「竜巻!?」
『違うわ。派手な登場が好きなのよ』
誰が!?
『人間に捕まったマヌケな大精霊ではないか。久しいな』
男の声がすると、渦巻いていた風が人の姿に変貌した。
白一色の体。
ムキっとした胸板。
ロン毛。
風の大精霊はマッチョなロン毛男かよ。
そのうちの一つ、マストたちが暮らしていた集落は、バジリスクに襲われて残骸が残っているだけ。
ってことで、回る集落は三つだけだ。
三つのうち一つは、山の北側にある。
残り二つは村の北西にある山の反対側だ。この二つが遠い。
と言っても、そこは砂船。
日が暮れる前にはもう一つの集落に到着し、食料をおろしてマストから説明をしてもらって、今夜は砂船で就寝。
翌朝は次の集落に行って同じことし、一時間ほど滞在したら村へ向かって少し引き返す。
「ハクト、久しぶり」
「ユタカ、元気だったか?」
ハクトと握手を交わし、お互いの近況を伝え合った。
水の大精霊の話をすると、ハクトは驚いた様子だった。
ま、驚かない方がおかしいよな。
「じゃあ、この砂漠にも雨を降らせられるのか?」
「降らせるには条件が必要だけどね。雨を降らせるのにも水は必要なんだ。水を蒸発させて、それが空を流れる雲になって、その雲が雨を降らせる」
「だったら砂漠に雨なんて無理な話なんじゃないのか?」
「なにも砂漠に残っているわずかな水を蒸発させようっていうんじゃないんだ。海の水でもいいんだよ」
「海……見たことはないが、物凄い量の水があるらしいな」
砂船が手に入った今、海を見に行くのも夢物語じゃない。
まぁ数日の旅になるけれど。
「他にもいろいろ準備が必要でさ。それで風の大渓谷に行かなきゃならないんだ」
「風の大渓谷か。それなら北西にある集落に行ったんだろう? そこから北の方に、大きな岩山が見えたはずだ。集落からだと渓谷が見えない角度だけどな」
そうだったのか。
確かに今朝立ち寄った集落から、エアーズロックのような岩山が見えていた。
渓谷のような切れ目は見えなかったけど、覚悟が違うのか。
一晩村に滞在し、風の大渓谷に向けて出発するのは翌朝からだ。
マストは村に残ってもらい、渓谷に向かうのは俺とルーシェ、シェリルになる。
船で留守番しているワームたちとアスももちろん一緒だ。
「じゃ、帰りに迎えに来るよ」
「あぁ。気を付けるんだぞ。朗報を待っている」
大渓谷の傍まで砂船で移動し、そこからは歩くことになる。
砂船は風に流されないよう、インベントリの中にしっかり入れた。
「あんな大きな船が入るなんて、ユタカのインベントリって凄く大きいのね」
「うぅん。大きいっていうのかなぁ」
『ちょっと人間。ユユの皮膚が乾き始めてるわよ。水出しなさい、水』
「え、あ、おぅ」
アクアディーネがユユの頭の上で跳ねた。今も手のひらサイズだ。
『ま、まだ大丈夫』
「心配するなユユ。水はたくさん持って来てるから」
インベントリから瓢箪を一つ取り出す。
中に入っている水はあとから入れた物で、どういう原理か分からないが圧縮された水、らしい。
アクアディーネが入れたもので、瓢箪の中に入る実際の量の十倍ほどだそうだ。
「じゃ、大精霊、頼むよ」
『朝飯前よ』
精霊ってご飯食べたっけ?
にゅるっぽんと瓢箪から出て来た水はそのまま霧状になって、ユユ、ルル、リリの体に降り注ぐ。
十倍の量だが、さすがに三匹の体が大きいので瓢箪内の水は空になった。
『よし、準備オッケーよ。風の大精霊はぁ……うん、いるようね』
「いるのか!」
よかった。それらしい所をしらみつぶしに探さなきゃならないかと思ったけど、一発目で正解だったようだ。
あとは上手く契約できればいいんだけど。
それにしても――
「凄い渓谷だな。俺たちの集落にある渓谷よりも、かなり大きい」
「そうですね。幅も広いですし、壁の模様も綺麗です」
渓谷の幅は五〇メートルぐらいあるんじゃないかな。
左右にそびえる岩壁はぐねぐねとうねり、先は見えない。
「この音……歌ってるみたい」
シェリルが言うように、渓谷を吹き抜ける音は一定のリズムを刻んでいる、ように聞こえる。
『歌ッテルヨ』
「アス、歌ってるって誰が?」
『精霊サン』
『風の精霊が歌ってるのよ。あの子たちはお喋りや歌が好きだから』
「大精霊じゃなく、下位の精霊か?」
『そう』
風が吹き抜ける音じゃなくって、精霊が歌っているのか。
姿が見えない俺には、歌っていると言われてもまったく実感がわかない。
だけどアスや、それにワームたちにはどううあら見えているらしい。
宙を見て頷いたり、体を揺らしてリズムに乗ろうとしている。
「見える?」
ルーシェとシェリルに尋ねると、二人は揃って首を振った。
なんだかちょっとホッとした。
『やほ~、久しぶりぃ。前に会ったのはいつだったかしら?』
「え?」
アクアディーネが宙を指さす。
その先に目を向けると、風が渦巻き始めているのが見えた。
「竜巻!?」
『違うわ。派手な登場が好きなのよ』
誰が!?
『人間に捕まったマヌケな大精霊ではないか。久しいな』
男の声がすると、渦巻いていた風が人の姿に変貌した。
白一色の体。
ムキっとした胸板。
ロン毛。
風の大精霊はマッチョなロン毛男かよ。