「今日はこのベッドを使ってください。父が使っていたもので申し訳ないのですが……」
今夜は二人の家に泊めてもらうことになった。
四日間の疲れもあるし、ツリーハウスの成長にはだいぶMP《マジックポイント》を使いそうだからな。
けどルーシェのこの言い方。もしかして。
「うちも……親、いないのよ」
「母は私たちが幼い頃に病で亡くなって、父は一昨年、狩りの最中に……」
「そう、だったんだ……いいのかな、お父さんのベッド、使わせてもらって」
「はいっ。ぜひ使ってください」
「なんだったら、あの木の家が完成したら持って行ってもいいわよ。ね、ルーシェ」
「えぇ、それがいいです」
貰っちゃっていいのかな。
いやでも嬉しい。ツリーハウスの中は快適だけど、床は木だから寝るには硬い。硬すぎる。
まずは一休みして、昼から周辺を案内して貰った。
周りを断崖絶壁に囲まれた場所に、この集落はある。
家は遊牧民が使うような、丸いタイプのテントだ。
まぁ木がどこにも見当たらないし、木造住宅なんて無理だろう。
そのテントが六つ。
「四人家族が二軒、三人家族も二軒。それで二人家族も二軒です」
「えぇっと……一八人、か」
「あんたを入れて、十九人になったわね」
「あ……そう、か」
俺のこと、カウントしてくれてるんだ。
なんか嬉しいな。
「あそこが水場です。山の上の方では時々雨も降りますから、その雨水が流れてくるんですよ」
「量は少ないけどね。ま人も少ないからなんとかなってるわ」
「そっか。飲み水はなんとかなってるんだな。あとは……」
集落の傍に畑が見える。
家庭菜園レベルといってもいいほど小さな畑だ。
それに、畝にはあるのは数株のじゃがいも、人参、それに大豆しか見当たらない。
すっかすかな畝だ。
しかもどれも、今にも枯れそうなほど痩せている。
水不足……だろうな。
それに土そのものが痩せている。
この二つは、俺のスキルじゃ成長させられないもんなぁ。
けど。
「今日の晩飯はさ、俺がご馳走するよ。ここのみんなに」
「んん~、ピリ辛でおいひぃ~」
「人参いっぱい入ってるよママァ」
「これなぁに、なぁに?」
タマネギを知らない子に、切る前の奴を見せてやる。
大人たちもタマネギを知らない。
この砂漠ではどこにも栽培されていないんだな。
「ユタカさん。この料理はなんていうものなんですか?」
「あぁ、それはカレーラ……いや、カレーっていうんだ」
ライスはない。
代わりにナンっぽいものを焼いて、それを浸して食べる。
小麦の木の種からは、一粒ピンポン玉サイズの麦が実った。
中身は粉。
臼で挽く手間が省けてラッキーだ。
いやぁ、調味料の木からスパイスが採れてよかった。
おかげでこうしてカレーっぽいものも作れたし。
小麦粉もあるし、次は天ぷらもいいかもな。
あ、肉があるんだ。唐揚げもいけるかも……じゅるり。
「「ごちそうさまでしたぁ」」
「れしたぁ」
「どういたしまして。辛くなかったか?」
「ううん、へいきぃ」
子供には辛いかなと思ったけど、大丈夫だったようだ。
「もっと辛いものあるもん」
「え、もっと?」
「トマトっていうのと同じ赤色で、とっても辛いんですよ」
「見せてあげるぅー」
ルーシェの話を聞いて頭に浮かんだのは、ハバネロ……だ。
そして子供たちがテントまで走って取に行ったものは、案の定ハバネロだった。
こんなもん食ってたら、そりゃあスパイス抑えめにしたカレーなんて辛くもなんともないだろう。
その夜、久しぶりにベッドで寝た。
マットは薄いけど、砂の上よりはましだ。
それに、モンスターの襲撃に怯える必要もない。
いやぁ、ぐっすり眠れたよ。
なんせ両手に触れる柔肌もなかったし、ね。
そして翌朝――
「さぁて、がっつり育っていただきますか。"成長促進"」
ツリーハウスの種を、ルーシェとシェリルのテントの傍に植えて成長させた。
お、最初の奴より大きく育ってるじゃん。
背も結構高くなったなぁ。
中に入ってみると、なんと二階建てになっていた!
「すっげー。二階の床も出来てるのか」
一階部分も前回のより広くなっている。
階段部分は吹き抜けになっている分、二階の床面積は少し狭い。
が、ひとり暮らしにしては広い方だ。
「お、これ窓枠か。けどガラスがないんだよなぁ」
窓を嵌めてくれと言わんばかりの四角い隙間がある。
二階にもそれがあって、そこから差し込む日差しで中は明るい。
「出来たぁ?」
「わぁ、砂漠にあったお家より広いですねぇ」
一階からシェリルたちの声が聞こえた――と思ったら。
「うわぁぁーっ、すっげぇー」
「お野菜のおうちぃ」
「あ、こらっ」
「ダメです、砂だらけの靴で上がっちゃぁ!」
はしゃぐ子供たちの声と、二人の怒る声が聞こえた。
今夜は二人の家に泊めてもらうことになった。
四日間の疲れもあるし、ツリーハウスの成長にはだいぶMP《マジックポイント》を使いそうだからな。
けどルーシェのこの言い方。もしかして。
「うちも……親、いないのよ」
「母は私たちが幼い頃に病で亡くなって、父は一昨年、狩りの最中に……」
「そう、だったんだ……いいのかな、お父さんのベッド、使わせてもらって」
「はいっ。ぜひ使ってください」
「なんだったら、あの木の家が完成したら持って行ってもいいわよ。ね、ルーシェ」
「えぇ、それがいいです」
貰っちゃっていいのかな。
いやでも嬉しい。ツリーハウスの中は快適だけど、床は木だから寝るには硬い。硬すぎる。
まずは一休みして、昼から周辺を案内して貰った。
周りを断崖絶壁に囲まれた場所に、この集落はある。
家は遊牧民が使うような、丸いタイプのテントだ。
まぁ木がどこにも見当たらないし、木造住宅なんて無理だろう。
そのテントが六つ。
「四人家族が二軒、三人家族も二軒。それで二人家族も二軒です」
「えぇっと……一八人、か」
「あんたを入れて、十九人になったわね」
「あ……そう、か」
俺のこと、カウントしてくれてるんだ。
なんか嬉しいな。
「あそこが水場です。山の上の方では時々雨も降りますから、その雨水が流れてくるんですよ」
「量は少ないけどね。ま人も少ないからなんとかなってるわ」
「そっか。飲み水はなんとかなってるんだな。あとは……」
集落の傍に畑が見える。
家庭菜園レベルといってもいいほど小さな畑だ。
それに、畝にはあるのは数株のじゃがいも、人参、それに大豆しか見当たらない。
すっかすかな畝だ。
しかもどれも、今にも枯れそうなほど痩せている。
水不足……だろうな。
それに土そのものが痩せている。
この二つは、俺のスキルじゃ成長させられないもんなぁ。
けど。
「今日の晩飯はさ、俺がご馳走するよ。ここのみんなに」
「んん~、ピリ辛でおいひぃ~」
「人参いっぱい入ってるよママァ」
「これなぁに、なぁに?」
タマネギを知らない子に、切る前の奴を見せてやる。
大人たちもタマネギを知らない。
この砂漠ではどこにも栽培されていないんだな。
「ユタカさん。この料理はなんていうものなんですか?」
「あぁ、それはカレーラ……いや、カレーっていうんだ」
ライスはない。
代わりにナンっぽいものを焼いて、それを浸して食べる。
小麦の木の種からは、一粒ピンポン玉サイズの麦が実った。
中身は粉。
臼で挽く手間が省けてラッキーだ。
いやぁ、調味料の木からスパイスが採れてよかった。
おかげでこうしてカレーっぽいものも作れたし。
小麦粉もあるし、次は天ぷらもいいかもな。
あ、肉があるんだ。唐揚げもいけるかも……じゅるり。
「「ごちそうさまでしたぁ」」
「れしたぁ」
「どういたしまして。辛くなかったか?」
「ううん、へいきぃ」
子供には辛いかなと思ったけど、大丈夫だったようだ。
「もっと辛いものあるもん」
「え、もっと?」
「トマトっていうのと同じ赤色で、とっても辛いんですよ」
「見せてあげるぅー」
ルーシェの話を聞いて頭に浮かんだのは、ハバネロ……だ。
そして子供たちがテントまで走って取に行ったものは、案の定ハバネロだった。
こんなもん食ってたら、そりゃあスパイス抑えめにしたカレーなんて辛くもなんともないだろう。
その夜、久しぶりにベッドで寝た。
マットは薄いけど、砂の上よりはましだ。
それに、モンスターの襲撃に怯える必要もない。
いやぁ、ぐっすり眠れたよ。
なんせ両手に触れる柔肌もなかったし、ね。
そして翌朝――
「さぁて、がっつり育っていただきますか。"成長促進"」
ツリーハウスの種を、ルーシェとシェリルのテントの傍に植えて成長させた。
お、最初の奴より大きく育ってるじゃん。
背も結構高くなったなぁ。
中に入ってみると、なんと二階建てになっていた!
「すっげー。二階の床も出来てるのか」
一階部分も前回のより広くなっている。
階段部分は吹き抜けになっている分、二階の床面積は少し狭い。
が、ひとり暮らしにしては広い方だ。
「お、これ窓枠か。けどガラスがないんだよなぁ」
窓を嵌めてくれと言わんばかりの四角い隙間がある。
二階にもそれがあって、そこから差し込む日差しで中は明るい。
「出来たぁ?」
「わぁ、砂漠にあったお家より広いですねぇ」
一階からシェリルたちの声が聞こえた――と思ったら。
「うわぁぁーっ、すっげぇー」
「お野菜のおうちぃ」
「あ、こらっ」
「ダメです、砂だらけの靴で上がっちゃぁ!」
はしゃぐ子供たちの声と、二人の怒る声が聞こえた。