海水は海岸で蒸発させる――ってことにして、じゃ、出来上がった雲がどこに流れていくのか。
 そこが問題だよなぁ。
 こればっかりは自然任せだし、出来上がった雲が海の方とか、南の方に流れていったらまったく意味がない。

「バフォおじさん。雲が流れていく方角とか、知らないか?」
「ユタカよぉ、お前ぇ、空見たことあるか?」
「そりゃあるよ」
「ならよぉ、雲ぉ見たことあるか?」

 ・・・・・・あれ?
 そういえば、ここっていつでも晴天……。
 oh。

「まぁたまーに見かけるんだけどな、正直言うと、雲がどの方角から流れて来てんのか気にしたことがねぇ」
「ま、まぁそうか」
「はいっ」
「ん? ルーシェ、どうしたんだ」
「はい。南から北、もしくは北西に向かう雲なら見たことがありますが」

 西の海を起点にして考えたら、こっちとはまったく真逆の方角じゃないか。
 こりゃマズいな。

「やっぱり面倒でも往復で水を運ぶしかないのか」
「簡単にはいかないものね」
「そりゃ砂漠に雨を降らそうってぇんだ、簡単にはいかねえだろうよ」
「ですね。でもだからこそ、やり甲斐があると思います」

 俺としてはできるだけ簡単な方がいい。

『んー……それじゃあこういうのはどうかしら』
「「どういうの?」」

 大精霊がニィっと笑って、腰に手をあて立ち上がる。

『大精霊と契約するの!』

 何を言っているんだ、この大精霊《・・・》は。
 大精霊はあんただろうに。

『言っとくけど、アタシのことじゃないからね』
「え、じゃあ誰のことだ?」
『ふっふっふ。風の大精霊よ!』

 まるでグリコのようなぽーずで両手を広げた大精霊。
 どうしてこんなに残念なんだ。

「って、風の大精霊!?」
『そうよ。ついでだし、砂漠の緑化のために大地の大精霊とも契約しちゃいなさいよ。大人ワームはあと二匹いるでしょ』
「ルルとリリか」
「それいいわね。リリたちも進化したがってるし」
「はい。名案だと思います。さすが大精霊様ですね」
『ほほほ。もっと褒めなさい崇め奉りなさい』

 そんな理由で進化させていいのか。
 いや、そもそも進化って必ずしもできるものなのか?

「バフォおじさん」
「言いてぇことは分かる。モンスターの進化ってぇのはな、簡単にできるもんじゃねえ。上位種が少ねぇのは、そういうことだからな」
「だよなぁ」
「まぁお前ぇのスキルだと、もしかするとできるのかもしれねぇなぁ」

 俺のスキルが原因!?
 まぁこの前もそんなこと言ってたしなぁ。

 責任重大だな。

「で、風と大地の大精霊って、どこにいるんだ?」

 と水の大精霊に尋ねると、

『知らなーい』

 と明後日の方を見て答える。
 知らねぇーのかよ!





「風の大渓谷?」
「そうだ。故郷の村から北西にいくとな、そう呼ばれる大渓谷があるんだ」
「ここみたいな渓谷なんだけど、違う点は完全に山を二分しているってこと」

 昨日から集落の人たちにいろいろ話を聞いていたら、オーリ夫妻から有力な情報を聞けた。
 先日行った村の北西に、巨大な岩でできた山がある。
 山は一本の深い渓谷が伸び、巨岩を分断しているそうな。
 その渓谷では常に風が吹き、音を奏でているという。
 で、風の大渓谷と呼ばれているのだとか。

「風にまつわる話だと、それしか思い浮かばないな」
「むしろ砂漠に出れば、あちこち風が吹いているものねぇ」
「あはは、確かにそうだね。村の北西か……ボンズサボテンを持ってご近所巡りしたら寄ってみていいかな?」
「わかった。ならこれからサボテンを収穫して、明日の朝には出発をしよう」
「じゃ、こっちも準備をしておくよ」

 なんの準備かっていうと――

「ルルかリリ。どっちが風の大精霊と契約するか……だな」

 渓谷の外に出て、日陰で涼んでいるワームたちに会いにいった。
 最近は流れ出る小さな川のおかげで、この辺りは土が良くなっている――とユユたちは言っている。

「ルルがしたいと言っています」
「リリもよ」
「そうなるよなぁ」

 一応、大地の大精霊とも契約することになるから、片方だけ大精霊と契約できないなんてことにはならないから。
 と説明はしたけど、やっぱり我先にという気持ちがあるようだ。

『じゃあさ、じゃあ、ルルとリリで釣り対決っていうのはどう?』
「ユユ、なんだその釣り対決って」
『うん。どっちが早く獲物を釣れるかって勝負だよ』

 いや、そういう意味じゃなくって。

 ……釣り?

 釣り……。

『じゃー二人とも、位置についてぇ』

 ユユが審判となって合図を送ると、ルルとリリが慌てて川へ向かう。
 そして長い体を水で濡らすと身構えた。

『ドーン!』

 ユユの号令と同時に二匹が砂地帯へ走り出す。いや滑りだす? ん?
 とにかく砂の方へ向かうと、しばらく進んだところで体を横たえ、もぞもぞ動き出した。

「何をしているんだ?」
『釣りだよ』
「いや、釣りって……」

 釣り――ワーム――餌――。
 いやいやいや、さすがに違うだろ。

 そう思った時だ。
 地鳴りと共に向こうの方から砂煙が立ち上った。

『さぁ、どっちに喰いつくかな!?』
「まてまてまて。喰いつくって、どういう意味だよ!」

 砂の海から飛び出してきたのは、巨大な――鮫!?
 サンドシャークウウウゥゥゥゥゥ。

 あ、リリに向かって口を――リリィィィィ、逃げろおぉぉぉ!!

 だが、リリは体を丸めたあと、びょんっとバネのように弾んで、その長い体でサンドシャークを叩き落とした。
 さらに尻尾ビンタというか、とにかくビタビタビタビタと往復で何度も何度もしばきまくる。
 で、サンドシャークは動かなくなる……と。

『釣り勝負、リリの勝ちぃー!』

 ユユの勝利宣言に、リリは嬉しそうに跳ねた。

 俺が知ってる釣りとなんか違い。