『じゃ、契約しましょうか』
「けいや、く?」

 大精霊がふんすと鼻を鳴らして、仁王立ちポーズをとる。
 もしかして精霊の力を借りるときって、魔法での契約が必要だとか……。
 アスを見て「契約ってなに?」と聞いてみると、アスは首を傾げて『ワカンナイ』と。

『上位種のドラゴンは、生まれながらに精霊と契約しているのよ。その子は……あんたたちと一緒にってことは、親はいないようね。知らなくても仕方ないわ』
「そ、そうなんだ」

 親はいるけど、自分が親だと名乗れないチキン火竜がいるとはアスの前では言えない。

『別に契約しなくてもいいんだけど、その時は自然の理に従って雨を降らせるだけ。でもそうなると、この一帯に等しく雨を降らせるのは難しいわね』
「む、難しいって?」
『砂漠化が進み過ぎて、雨が降る条件がなくなっているのよ。この山は別。元々ここはアタシの聖域だもの。でもそれ以外の土地に雨を降らせたいなら、召喚によってアタシを呼び出し、術者の意思で雨を望んで貰わなきゃ無理なの』

 面倒だろうけど、精霊とはそういう存在だから……と、彼女は少し寂しそうに言った。
 そういうことなら契約するしかないな。

「じゃ、契約するよ」
『そ。じゃあ……あ、先に言っておくけど、アタシを召喚するときはかなりの魔力を消費するわよ』
「え……どのくらい?」
『んー、そうねぇ……あ、今のあんたの魔力だと、枯渇して気絶するわね』

 召喚するだけでぶっ倒れるのか!?
 倒れるだけじゃない。
 魔力を枯渇して倒れた場合、一日二日はスキルが使えなくなる――らしい。
 まだ畑での自然栽培は難しいし、少なくとも三日に一度はまとめて野菜を成長させなきゃならない。
 気絶している暇なんて、どこにもないんだ。

『ジャーボクガ』
『嫌よ! あんたはダメ、絶対っ』
『ドウシテェ』
『どうしてってあんた、火ぞく――「あぁーっ」「わぁーっ」「しぃーっ」な、なによ?』

 俺、シェリル、ルーシェが慌てて大声を出して、大精霊の言葉を遮った。
 三人で湖の方に移動し、大精霊を手招きする。

「火属性とか火竜のことは内緒なんだ」
『は?』
「アスちゃんはお父様がいらっしゃることを知らないんです」
『お父様?』
「アスのお母さんはアースドラゴンで、お父さんはフレイムドラゴンなんだけど……」
「喧嘩が理由でアスの母親が出て行って、そのあと卵を産んだんだ。アスが孵化してしばらくして、母親はモンスターに襲われ亡くなってる。そういう経緯があるからアスは父親のことを知らないし、父親は名乗り出ることが出来ないんだよ。自分のせいでアースドラゴンを死なせたと思っているからさ」

 アスに聞かれないよう小声で話したけど、ユユたちがアスの気を引いてくれているのが見えた。
 話を聞いてきょとんとしていた大精霊だが、アスを見て突然、ぶわっと涙を流し出す。いや元々水で出来てる体だから、水を流してる?

『やだなにその複雑な家庭環境。なのにあんな健気に育って』

 昼ドラ見て涙する主婦かよ。
 なんか人間臭い精霊だなぁ。

「わ、私たちはどうでしょう?」
『その男と大差ないわ』
「や、やっぱりダメなのね……」
「二人とも、ありがとう。もう少し俺の魔力を成長させるよ」
「でもユタカは毎日スキルに魔力を使ってるから、精霊を召喚するまで手が回らないんじゃっ」
『大精霊よ、大精霊。そこ大事だから』

 うぅん、確かになぁ。
 ちょっと魔力を成長させたところで、枯渇が免れても大部分の魔力を消費することに変わりはない。
 アスたちの方へ戻りながら、三人でどうするか話をした。
 すると――

『あの、僕はどう? 僕も少し、魔法使えるよ』
「え、そうなのかユユ?」
『うん。でも使う機会ないから、使ってないだけ』

 聞けばワームも精霊魔法が使えるそうな。
 属性は土。アスと同じだ。
 でもワームは同時に、水との相性も悪くないと言う。

『サンドワームは土と火なんだよ。僕たちは土と水なんだ』
「へぇ。魔法ってどんなのが使えるんだ?」
『土で壁を作ったりねぇ、穴を掘るときに土を柔らかくしてもらったりねぇ、石をたっくさん投げて攻撃したりぃ』

 あー、うん。使う機会ないって理由が分かった気がする。
 ユユたちは渓谷の外側にいるから、砂ばかりで土が少ない。
 壁――外敵がいないから必要ない。
 穴を掘る――砂に穴を掘るのは無理。土の部分もあるが、現状では潜る必要がない。
 石礫――外敵がいないから以下略。
 魔法を生かせる環境じゃなくて、ほんとごめんな。

『ワーム……ふぅん、そうねぇ。でもやっぱり魔力が足りないわね』
『がーんっ』
『せめて一〇〇歳ぐらいになってないと。この子、三〇歳ぐらいじゃないの?』
「あー……確かそのぐらいか」

 ユユが少し年上だったけど、親世代のワームたちは一〇年ほど成長促進させている。
 テイミングしたときユユが二一歳だったし、今は三一歳ってとこだろう。

『あんたのスキルで成長させてみなさいよ』
「う、うぅん。でもなぁ、一〇〇歳っていったら、寿命の半分ぐらいになってしまうし」

 ユユの残り時間が短くなってしまう。
 それは避けたい。
 そんなことするぐらいなら、俺が魔力を成長させてからまた契約しにくればいいし。

『いいよ、ユタカ兄ちゃん。僕を一〇〇歳になるまで成長させて』
「な、なに言ってんだユユ! そんなことしたら、お前の寿命が――」
『僕、ワームだから二〇〇年は生きられるよ。残り一〇〇年もあるんだ。でも人間の兄ちゃんは一〇〇年生きられないでしょ? だったら僕の方がまだ長生きできるね』
「ユユ……お前……なんていい奴なんだ」

 ユユの体をぎゅっと抱きしめる。
 大きく育ったユユの胴は、両手を広げてももう手は届かない。
 
 一〇〇歳……どのくらい成長するんだろうか。
 最初に出会った頃の、まだ数メートルだった頃が懐かしく感じるなぁ。

『変な人間……その子はモンスターだっていうのに』
「ユユはモンスターだけど、でも家族だ!」
『……ふぅん。まぁいいわ。さっさと成長させなさいよ』
「……ユユ、本当にいいんだな?」
『うん!』

 ユユ、ありがとう。

「"成長促進"」

 ユユが一〇〇歳になるまで。
 優しくて賢くて立派なユユが、ユユのまま、さらに逞しく成長しますように。

 一瞬で成長させるのが惜しくて、少し時間をかけてスキルの効果が現れるようにした。
 七〇年分を五分ほどかけて。
 その間、ユユの体は光りっぱなしだ。

『ふんふん。いいわね。じゃ契約しましょうか』
『はーい』
「え、でもまだ成長途中」
『そうね。でも成長具合がいいみたいだから、契約可能よ。ワーム、大精霊アクアディーネと契約なさい』
『大精霊アクアディーネさんと召還契約しまーす』

 ユユの能天気な声が聞こえた。
 その途端、ユユの体から発せられる光が強くる。眩しくて目を開けていられない。

「凄い光」
「眩しいです」
『ワァー、ユユゥ』
「ユユ! ユユゥーッ!」

 どうなっているんだ?
 まさか成長促進の失敗なんてことが!?

『はーい』

 そんな間の抜けた声とともに光が収まり、そこにいたのは……。

「どちらさま?」
『がーん!』

 色も形もミミズそのものだったワームの姿はなく、背中側は青緑、腹側は肌色をした全長五メートルほどの細長い新種のワームがいた。