「じゃー年を取るという概念は、精霊にはないんだな」
『ないわ。そもそも年齢なんてものが、私たち精霊にはないんだもの』

 って言ってたのに。

『こ、これが成長促進スキル……失った精霊力が戻っています。まさしく二五〇年間眠ったあとのようですわ』

 スキルを使う前までは一六、七歳の軽いノリの女の子だったのに、今は二十代半ばの落ち着いた印象の女性になっていた。
 老けた……と言うほどじゃないけど、成長してんじゃん!
 いや成長させたんだけどもさ。

『あら、どうなさいましたか?』
「いや……さっきまでとのギャップが激しすぎて……」
『あ、申し訳ありません。精霊力の満ち具合で、その……人間でいいますところの精神年齢的なものが変ってしまいまして』

 精霊力が少なかったさっきまでがギャル調で、力が戻った今は淑女なのか。

『先ほどの方がお好みでしたら……戻ってあげるわよ』

 お姉さんが突然ギャルに戻った。
 なんでやねん。

「ユタカの好み……」
「ユタカさん。大精霊様のような方がお好みだったのですか?」
「いやいやいやいや、誤解だからっ」

 二人が不機嫌になったじゃないか!

『こっちが好みじゃなかったの? てっきりその子たちみたいなのが好みなんだと思ったんだけど』
「「私たち!?」」

 ……外見年齢で言えば確かに近いか。

「そ、そうだったのね。ふぅん」
「恥ずかしいです」

 よく分からないけど、とりあえず二人の機嫌はよくなったようだ。

『成長促進って、一瞬で時間を経過させるスキルなのね』
「間違っちゃいないけど、成長させると考えた方がいいかな。実際、身体能力とか魔力とか、時間とは関係ないだろう部分もスキルで成長させられるからさ」
『ふぅん、そうなの。生命の成長を助ける……ね。召喚主はさぞガッカリしたでしょう。最近じゃ、バカげた戦のために異世界人を召喚しているようだし』
「へぇ、そんなことまで知っているのか。お察しの通り、ガッカリしすぎて砂漠にぽい捨てされたのさ。転送魔法で」
『あらま、酷いものね』

 少し驚いた表情を浮かべる大精霊。
 体を動かすたびにちゃぷんっと水が揺れる。
 水そのもので体が作られているってのを覗けば、本当にその辺の女の子だ。

 大精霊の言葉に、ルーシェとシェリルがふんすと鼻を鳴らす。

「そうなんですっ。自分で召喚しておきながら、ユタカさんを捨てるだなんてあんまりです!」
「まぁそのおかげで、私たちはユタカと出会えたんだから感謝すべきなのかも?」
『あらぁ。そっちの二人は妙にこの男に入れ込むのねぇ。なにかあるの? ねぇ? ねぇってばぁ?』
「え、いや、あの……は、恥ずかしいです」
「べべ、別に何もない……くはないけど」
『真っ赤よ。真っ赤っか』

 二人をからかったあと、俺を見てにぃっと笑う。
 恋ばな好き女子高生かよ!

「そ、それで、俺に協力、してくれるんだよな?」
『あら、アタシはそんな約束してないわよ。あんたが勝手に精霊力を成長させたんでしょ』
「う……」

 そうだ。俺が一方的に頼んだだけで、口約束すらしていなかった。
 うあぁぁ、こんなことならちゃんと言質とっておくんだったぁ。

 がっくりと項垂れていると、くすくすと笑う声が聞こえた。
 顔を上げると、ギャル大精霊が笑っているのが見える。

『あははははは。冗談よ、冗談。でも約束はして貰うわよ。アタシを騙してどこかに閉じ込めたりしないって』
「もちろん! 約束を破った時には……うぅん、どうしようかな」
「それでしたら、ユタカさんが約束を破ったら、その時は砂漠中の水をなくしてしまうとかはどうですか?」
「ル、ルーシェ!? それはさすがにっ」
「ユタカが約束を破る訳ないもの。だから何の意味もなさない約束よ。いいじゃない」
『二人はあなたのこと、信用しているのね。ま、アタシはどっちでもいいの。あんたが約束を破ったら、その時はこの砂漠にある全ての水を引き上げて他所の土地へいくわ。それでいいわね?』

 砂漠中の水を……責任重大だが、シェリルの言う通り。
 約束を破らなければいいだけの話だ。

「それでいい。大精霊の協力を得られれば、この砂漠を緑の大地にすることだって夢じゃないだろうし」
『大地を豊かに、ね。ん?』
「ん?」

 大精霊が首を傾げて腕組みをする。
 そしてハっとしたかのように俺を見て、

『大地豊じゃない。きゃははは』

 と笑った。
 い、異世界の精霊めぇー。

『あはは。案外、偶然じゃないのかもねぇ』
「なにがだよ」
『ふふふぅ。さ、まずは精霊力のリハビリでもしようかしら』

 お祈りポーズをした大精霊が、ぷわぁっと光り出す。
 リハビリって、何をするんだ?
 そう思った瞬間――

 ぽつ、ぽつと水滴が落ちて来た。

「雨か」
「え? こ、これが雨ですか!?」
「本当に空から水が降って来てる!?」
「え、二人は雨を知らなかったのか?」

 ルーシェとシェリルは頷き、雨がどんなものかというのは大人たちから聞いたことがある程度だと話す。
 そうか。平地では本当にまったく雨が降ってなかったんだな。

『あら。じゃあもっと盛大に降らせてあげようかしら。えいっ』

 おぉ、サービスいいじゃん。
 ん?
 盛大に降らせるって……まさか!?

「凄いです! まるで滝のような雨です」
「あはは、まるでお風呂に入ってるみたいね」
「あああぁぁぁぁ、ゲリラ豪雨かよおぉぉ」
『ウワァーイ、雨ェェ』
『気持ちいぃ』

 俺以外喜んでるうぅぅ。
 いやもう、ズブ濡れとかうレベルじゃない。
 ほんと、服のまま風呂に入ってる気分だ。

 この量の雨が平地にも降れば……。

 いや、とりあえず。

「風邪ひくからツリーハウスの中に避難するぞ! っていうか雨もういいから!!」

 降らせすぎぃー!