あれは水面に映った俺じゃなかった。
水が盛り上がって一気に引きずり込まれると、俺の手を掴んでいたのは半透明な女。
幽霊とかそんな感じじゃない。
まさか――
「がぼぼう……がぼぼぼぼぼ」
ち、窒息死するうぅぅーっ。
離せっ。このっ、このっ!
『連レテ行ッチャダメ!』
アス!?
声が聞こえた途端、女がビックリしたような表情を浮かべて手を離した。
慌てて浮上して岸に上がる。
「ユタカ!?」
「大丈夫ですかユタカさんっ」
「げほっ。あ、あぁ、大丈夫」
『お兄ちゃん、湖に近づいたら危ないんだよ』
普通は近づくぐらいじゃ危なくないんだけどな。
まさか精霊の方から水の中に引きずり込もうとするとは思いもしなかった。
「アス、ありがとうな」
『エヘヘ。アソコニイル精霊、悪イ精霊? ボクガメッスル?』
「いや。悪いかどうかはまだ分からないよ。人間が悪いことをして、あの精霊をずっと閉じ込めていたから怒っているんだ」
『デモソレ、ユタカオ兄チャンジャナイヨネ? チガウ人間ガヤッタコトナノニ、ユカタオ兄チャンヲ連レテ行コウトスルノ、ダメナコトダヨ』
「まぁそうなんだけど……話が出来るといいんだけどなぁ」
種族でひとくくりにせず、アスみたいに個々で判断して貰える相手ならいいんだけど。
『オ話スルノ? デキルヨ。精霊モオ話デキルモン』
「いや、それは精霊魔法が使えるアスだからだろ?」
『ユタカオ兄チャンモ、土ノ精霊トオ話シテルヨ』
「いや、土の精霊が何言ってるか、俺にはさっぱり分からないし」
こっちの言葉は理解しているようだけど、向こうの言葉は俺には理解できない。
アスが通訳してくれてるからコミュニケーションは取れてるが。
「もしかしてアスちゃんは、水の大精霊様の言葉も分かるのでしょうか?」
『ウン。アースドラゴンハ土ダケジャナク、水トノ相性モイインダヨ。デモ土ノ精霊ホド仲良クデキナサソウダケド。ドウシテカナァ」
それはアスの中に、火竜の血が混ざっているから――とは誰も言わない。
『ぷるぷる。もう暗くなるよ。濡れたままだと風邪引いちゃう』
「そうだなユユ。対話は明日に持ち越そう」
ツリーハウスのところまで戻って思い出した。
「水……」
水汲み容器に使っていた鍋はシェリルが回収してくれていた。
水は……入ってない。
「慌ててたから……こ、今度は私が汲んでくる」
「いや、止めておこう。シェリルが引きずり込まれたら大変だし」
「そうですよシェリルちゃん。今夜は水分たっぷりのお野菜で喉を潤せばいいですよ。一日ぐらい平気です。ユタカさんが来る前までは、一日コップ半分の水分でしのいでいたことだってしょっちゅうだったでしょ?」
「う、ん。そうね」
水分たっぷりの野菜といえば、トマトとキュウリだな。
水の木も成長させておこう。
「そういえば、砂漠にぽい捨てされた日も、水がなかったからトマトとキュウリで水分補給してたな」
「水の木があったんじゃないの?」
「いやあれさ、瓢箪の中に水が溜まるのに時間かかってたから」
「成長はすぐでも、お水が溜まるのに数時間かかってましたね」
「そうなんだ。地中の水を吸い上げる速度は、成長促進ではどうにもならないみたいだ」
今夜はルーシェが、トマトと野菜から出る水分でスープを作ってくれた。
濡れて冷えた体は、アスにくっついて温める。
ユユたちも寒いのは苦手で、アスにくっついていた。
「ユユ。渓谷の外でも、夜はやっぱり寒いのか?」
『んー、少し。みんなで固まって寝ると大丈夫だよ。でもこの木の中、暖かくていいなぁ』
「今までユユたちのツリーハウスを用意してなかったけど、帰ったら植えるか」
『いいの!?」
「あぁ。でも体が大きいし、二匹で一本ぐらいかなぁ」
今も一階部分はぎゅーぎゅーだ。
明日、もう一本成長させようかと思うぐらいに。
二階建てにして、階段ではなく坂道にすればユユたちの体でも、上の登れるだろう。
よし、そうしよう。
『わーい。楽しみだねぇ、チビユ』
『うん。お家嬉しいぃ』
親子二匹だけとはいえ、大きくしてやらなきゃなぁ。
なんせユユは十メートルもあるんだから……。
翌朝、緊張しながら湖のほとりへ。
ユユたちワームはこの湖を恐れる。全身が水に浸かってしまうと、窒息死するからだ。
まぁワームに限らず、生き物のほとんどはそうなんだけどさ。
それでも俺たちの傍にいて、何かあったら助けると鼻息?を荒くしていたりする。
「じゃあ、アス。通訳は頼んだぞ」
『ウン。任セテ』
深呼吸をして、それから――
「おーい、だいせ――」
『人間とは話をしたくない。でもお前はなぜ、古《イニシエ》の植物を育てられるの?』
っと、水で形どられた女の子が姿を現し……って、呼ぶ前からなんか出たあぁぁぁー!?
水が盛り上がって一気に引きずり込まれると、俺の手を掴んでいたのは半透明な女。
幽霊とかそんな感じじゃない。
まさか――
「がぼぼう……がぼぼぼぼぼ」
ち、窒息死するうぅぅーっ。
離せっ。このっ、このっ!
『連レテ行ッチャダメ!』
アス!?
声が聞こえた途端、女がビックリしたような表情を浮かべて手を離した。
慌てて浮上して岸に上がる。
「ユタカ!?」
「大丈夫ですかユタカさんっ」
「げほっ。あ、あぁ、大丈夫」
『お兄ちゃん、湖に近づいたら危ないんだよ』
普通は近づくぐらいじゃ危なくないんだけどな。
まさか精霊の方から水の中に引きずり込もうとするとは思いもしなかった。
「アス、ありがとうな」
『エヘヘ。アソコニイル精霊、悪イ精霊? ボクガメッスル?』
「いや。悪いかどうかはまだ分からないよ。人間が悪いことをして、あの精霊をずっと閉じ込めていたから怒っているんだ」
『デモソレ、ユタカオ兄チャンジャナイヨネ? チガウ人間ガヤッタコトナノニ、ユカタオ兄チャンヲ連レテ行コウトスルノ、ダメナコトダヨ』
「まぁそうなんだけど……話が出来るといいんだけどなぁ」
種族でひとくくりにせず、アスみたいに個々で判断して貰える相手ならいいんだけど。
『オ話スルノ? デキルヨ。精霊モオ話デキルモン』
「いや、それは精霊魔法が使えるアスだからだろ?」
『ユタカオ兄チャンモ、土ノ精霊トオ話シテルヨ』
「いや、土の精霊が何言ってるか、俺にはさっぱり分からないし」
こっちの言葉は理解しているようだけど、向こうの言葉は俺には理解できない。
アスが通訳してくれてるからコミュニケーションは取れてるが。
「もしかしてアスちゃんは、水の大精霊様の言葉も分かるのでしょうか?」
『ウン。アースドラゴンハ土ダケジャナク、水トノ相性モイインダヨ。デモ土ノ精霊ホド仲良クデキナサソウダケド。ドウシテカナァ」
それはアスの中に、火竜の血が混ざっているから――とは誰も言わない。
『ぷるぷる。もう暗くなるよ。濡れたままだと風邪引いちゃう』
「そうだなユユ。対話は明日に持ち越そう」
ツリーハウスのところまで戻って思い出した。
「水……」
水汲み容器に使っていた鍋はシェリルが回収してくれていた。
水は……入ってない。
「慌ててたから……こ、今度は私が汲んでくる」
「いや、止めておこう。シェリルが引きずり込まれたら大変だし」
「そうですよシェリルちゃん。今夜は水分たっぷりのお野菜で喉を潤せばいいですよ。一日ぐらい平気です。ユタカさんが来る前までは、一日コップ半分の水分でしのいでいたことだってしょっちゅうだったでしょ?」
「う、ん。そうね」
水分たっぷりの野菜といえば、トマトとキュウリだな。
水の木も成長させておこう。
「そういえば、砂漠にぽい捨てされた日も、水がなかったからトマトとキュウリで水分補給してたな」
「水の木があったんじゃないの?」
「いやあれさ、瓢箪の中に水が溜まるのに時間かかってたから」
「成長はすぐでも、お水が溜まるのに数時間かかってましたね」
「そうなんだ。地中の水を吸い上げる速度は、成長促進ではどうにもならないみたいだ」
今夜はルーシェが、トマトと野菜から出る水分でスープを作ってくれた。
濡れて冷えた体は、アスにくっついて温める。
ユユたちも寒いのは苦手で、アスにくっついていた。
「ユユ。渓谷の外でも、夜はやっぱり寒いのか?」
『んー、少し。みんなで固まって寝ると大丈夫だよ。でもこの木の中、暖かくていいなぁ』
「今までユユたちのツリーハウスを用意してなかったけど、帰ったら植えるか」
『いいの!?」
「あぁ。でも体が大きいし、二匹で一本ぐらいかなぁ」
今も一階部分はぎゅーぎゅーだ。
明日、もう一本成長させようかと思うぐらいに。
二階建てにして、階段ではなく坂道にすればユユたちの体でも、上の登れるだろう。
よし、そうしよう。
『わーい。楽しみだねぇ、チビユ』
『うん。お家嬉しいぃ』
親子二匹だけとはいえ、大きくしてやらなきゃなぁ。
なんせユユは十メートルもあるんだから……。
翌朝、緊張しながら湖のほとりへ。
ユユたちワームはこの湖を恐れる。全身が水に浸かってしまうと、窒息死するからだ。
まぁワームに限らず、生き物のほとんどはそうなんだけどさ。
それでも俺たちの傍にいて、何かあったら助けると鼻息?を荒くしていたりする。
「じゃあ、アス。通訳は頼んだぞ」
『ウン。任セテ』
深呼吸をして、それから――
「おーい、だいせ――」
『人間とは話をしたくない。でもお前はなぜ、古《イニシエ》の植物を育てられるの?』
っと、水で形どられた女の子が姿を現し……って、呼ぶ前からなんか出たあぁぁぁー!?