『ボクモ行ク！　今度ハ行キタイノォォ』
「あぁ、いいぞ」
『エ、イイノ？　ヤッタァ』

　どうにも気になって仕方がないから、山の上にあるという湖まで行くことにした。
　アスが行きたいというので、今回はOKを出す。
　行くのは山の上だし、町じゃないから騒ぎになることもないし。
　まぁその町も、下地を作ったから行けるようにはなったんだけど。

『ジャアサ、優シイオジチャンニ乗セテ行イッテ貰オウヨ』
「火竜に？」
『ウン。ビューンダヨ。ビューン』
「ビューンか。そりゃいいな。アス、お前から頼んでみてくれないか？」
『イイヨォ』

　アスに頼まれたら喜んで引き受けてくれるだろう。

　そう、思っていたのだけれど。

『目的は水の大精霊であろう』
『ソウナノ？』
「あ、あぁ。でもなんで分かったんだ？」
『先日、水の大精霊の話を聞いてきたであろう。あの山の奥にわずかだが気配を感じる』
「やっぱりいるのか！？」

　火竜は頷き、そして

『ならば我が運ぶわけにはゆかぬ』
『エェー、ドウシテオジチャン』
『すまぬのぉ童よ。我は火竜、火属性の生き物だ。水の精霊とは相性が悪い。我《われ》が一緒だと知れば、水の精霊は決して出て来ぬだろう』
「あぁ、そういうことか……そうなるとやっぱり歩きだな。ありがとう、火竜。大精霊がいるなら、行く価値がある」
『そうか。だが気を付けよ。あれは何百年と人間どもに自由を奪われておったからな。あの魔術師は連れて行かぬ方がいい。精霊使いと思われれば、厄介なことになるからな』

　火竜の口ぶりからすると、精霊使いが大精霊を神殿に閉じ込めたんだろう。
　どのみちマリウスには留守を頼むつもりだったしな。

　集落を留守にする間の十分な野菜を成長させ、二日後、ユユたちと一緒に山へ出発した。





『あの丘を越えたら見えるよ』
「はぁ、やっとか」
「四日も掛かりましたね」

　集落を出発して六日目の昼過ぎ。
　案内をしてくれたユユが、ようやく目的地への到着を告げた。

　雨も降る標高なだけあって、気温も下よりだいぶん低い。
　といっても20℃ぐらいはありそうだ。
　だけど草木はやっぱり少ないな。
　
「みんなでここまで登ってこれればなぁ」
「確かにここなら涼しいし、土の状態もよさそうだけど」
「ですが他の集落との交流が難しくなってしまいます。せっかく砂船も手に入ったのですし」
「あぁ、そっか。砂船を使うために山を下りなきゃいけなくなるんだな」

　火竜に運んで貰う……っていうのは、大騒ぎになるから避けたい。
　それに火竜に頼ってばかりではダメだ。
　俺たちだけで暮らしていける環境を作らなきゃ。

　丘のてっぺんまで行くと、ユユが言う湖に到着。

「うわ、すご」
「アスちゃんがいた地底湖より、ずっと大きいんじゃないですか？」
『ウン。ズットオッキィ』
『落ちたら死んじゃうの。怖い』
「落ちなきゃいいんだよ、ユユ」

　ぷるぷる震えるユユを撫でてやり、湖の近くまでやってきた。
　到着したときには辺りが薄暗くなり始めていたので、ここでいったん野宿。

「アス。土の精霊以外の気配って分かるか？」
『ンー。少シダケ。アノオ水ノ中ニ、精霊サンイルノ分カルヨ。トッテモ元気ナイノ』

　閉じ込められてて弱っているんだろうな。
　なんとか話が出来ればいいんだが。

　でも俺、大精霊と話をしてどうするんだ？
　雨を降らせてくださいって、お願いすればそうしてくれるんだろうか。
　いや、雨を降らせるために自由を奪われていたんだ。
　聞いてくれるわけがない。
　
　だけど水の精霊の力を借りられれば、砂漠の緑化計画も現実味を帯びてくると思うんだよな。
　
「ツリーハウスを成長させておくよ。夜は冷えるしな」
『ボクタチモ入レル？』
「入れるようにするよ」

　成長したツリーハウスは観音開きの扉になっていた。
　このサイズならアスやユユたちも通れるな。
　一階にアスやワームたち、二階は俺たち三人が眠るためのスペースとして使う。

「よし。じゃ、飯の支度をするか。俺、水汲んでくるよ」

　鍋を片手に湖の水を汲みに行く。
　この湖のどこかに水の大精霊がいるのか。
　大精霊ってどんなだろう。土の精霊はだるまみたいな見た目だけど。

　なんて考えながら鍋で水をすくうと――

　湖に映る俺の姿が、女に変わっていて、腕を、伸ばして……

「うあああぁぁっ！？」

　あっという間に水の中に引きこまれた。