「なるほどねぇ。砂船を手に入れたのか。ありゃ魔道具を使ってるやつだから、かなり高額だぜ。よく手に入れられたな」
翌朝、宿の一階で食事をしているとギルドマスターがやって来た。
ギルドの直ぐ近くだというのもあって、食事はいつもここなんだと言う。
つまり独身ってことだな。それには触れないでおこう。
世間話程度の話をしていて、町までどうやって来たんだというから砂船の話をした。
「船は盗賊から奪ったものなんだ」
「奪った!? いったいどうやって」
「んー、攻めて来たから撃退しただけなんだけど。まぁアレだよ、地の利で勝利した的な」
あながち嘘ではないから、こんなもんでいいだろう。
まだ信じられない様子だったけど、すぐにギルドマスターは表情を変えて交渉してきた。
「砂船が手に入ったってんなら、東との直接取引も出来るって訳だよな。これまではデボラスみてぇな野郎が間に入っていたせいで、かなり高額で買わされていた。こっちにも予算ってのがあるからな、内陸に回すほど仕入れられなかったんだよ」
「買い取ってくれるのは有難いけど、買い叩かれるのは困る」
「もちろんだ。直接奴と取引していた村のもんいただろ。交換率を教えてくれ。そうすりゃ調整する。あと内陸でどのくらいで売買されてるのかも教えておくぜ」
「ならハクトに任せよう」
「いいのか?」
「あぁ。だってあの商人とどのくらいの比率で取引していたの知ってるのは、ハクトだけだしさ」
ってことで交渉はハクトに任せることに。
そのうち彼は村長になるだろう。だから交渉の場は彼に任せるべきなんだ。将来のためにも。
素材の他にニードルサボテンのエキスを買い取ってくれる店や、日用雑貨を安く、そしていいものを売っている店なんかを紹介して貰った。
問題は――
「全員で行動するには、人数が多いんだよな。でも買い物なんてみんなやったことがないだろうし、不安でもある」
「ダイチ様はどうです?」
「んー。こっちの世界の相場が分からないからなんとも。通貨の単位は把握出来た」
とマリウスに小声で話す。
「それなら大丈夫ですね。とはいえ、僕とダイチ様の二人しか買い物経験者がいないとなると……」
「二手に分けたって多いよなぁ」
スーパーならいざしらず、個人のこじんまりした店に十人近い人数で押し掛けるのは迷惑になりそうだ。
そんな話をしていると、
「だったらうちの職員を連れて行かねえか? もちろん一人につき査定額からすこーし引かせてもらうが」
「ギルドマスター……あんた商売人だねぇ」
「あの素材は喉から手が出るほど欲しいが、なんせ量が多い。さっきも言ったが、予算ってものがあるんだ。少しでも引けるところは引きたいんだよ」
本音をぶつけてくれるのは、逆に好感が持てる。
そこでひと家族につき、職員をひとりつけて貰った。
なんとドリュー族にはドリュー族のギルド職員がついてくれるらしい。
「ドリュー族も働いているモグか」
「あぁ。この町には一〇〇人ぐらいのドリュー族が暮らしているぜ」
「おぉ。西のドリュー族はどうしているのか、気になっていたモグ。同族に会えるとは嬉しいモグなぁ」
朝食を済ませたら、俺はルーシェとシェリルの三人で町を見て回ることにした。
「この生地もステキ」
「綺麗な色合いですねぇ。染料は何を使っているのでしょう?」
二人に服でもと思って洋服店に来てみたんだけど……女の子のショッピングは長いってネタ、本当だったんだな。
おかげでこっちの買い物は終わったけど。
二人はデザインよりも、生地の方に興味があるみたいだ。
まぁ今だと綿でしか生地を作れないもんな。
異世界だとポリエステルやナイロンなんかはないだろうから、天然繊維の麻とか絹かな。
麻は植物で絹は蚕だっけ?
どっちも手に入れられるならなんとかなるけど。
「ユタカさんはどんな色がいいと思いますか?」
「んー……せっかくなんだしさ、気に入ったものをいくつも買ったら?」
「い、一着じゃなくていいの?」
「で、でも……斬る物は自分たちで縫えますし」
「だからだよ。普段着ないデザインのものを買ってさ、作りを研究するのにも使えるじゃん。そしたら今回町に来てない人たちにも、都会の服を着せてやれるだろ」
そう言うと二人は、アっという顔をして直ぐに服選びに入った。
この店には生地も売っていたので、そっちも何種類か買っておく。
昼はまた宿に集まって食事。
冒険者御用達というのもあって、いろんな話が聞けた。
そこで気になったのは、水の大精霊についての話だ。
「最近、雨降らないよなぁ」
「やっぱりあの噂は本当だったんじゃないか? 水の神殿に大精霊を閉じ込めていたって言う」
「バーカ。だったらむしろ、雨がじゃんじゃん降ってるはずだろ」
「そうじゃなくって、過去系だ、過去系。今までこの辺りに雨が降ってたのが水の大精霊を閉じ込めていたからで、最近降らなくなったのは逃げたからだって噂なんだよ」
な、なんだってー!?
東側でまったく雨が降らないのは、その水の神殿ってところに閉じ込められていたから?
ルーシェたちに精霊の話を聞いてみたが、誰も知らないと言う。
ハクトやドリュー族もそうだ。
夕食の時にまたギルドマスターを見つけて聞いてみたが、彼が元々この土地で生まれ育った訳じゃなく知らないと言う。
「水の神殿なら、ここから少し北に行った所にある。関係者以外、立ち入り禁止だがな」
「関係者って?」
「神殿の奴らさ。神殿つってもな、祭ってるのは水の精霊だ。だから聖職者じゃねーんだよ。まぁ詳しいことはよく分からん」
水の精霊を祭った神殿……。砂漠とは一番縁がなさそうな精霊なのに。
昼間の冒険者の話が本当だとすると、大精霊は今どこに?
部屋に戻ってその話をすると、シェリルが知っていそうな人に心当たりがあると。
「あの火竜なら、もしかして知っているんじゃない? ほら、砂漠は自分の縄張りだって言ってなかった?」
「そういえば……そうか。火竜は何百年と生きているだろうし、知っている可能性もあるな。帰ったらさっそく聞いてみよう。
「それじゃあ、アスちゃんにお土産を買って帰ってあげましょう」
「ん? なんでアスなんだ?」
買って帰えるつもりではあるけど。
「ふふ。だって火竜様はアスちゃんが喜ぶ顔を見るのが好きですもの。だからアスちゃんを喜ばせると、火竜様もお喜びになるでしょう」
「なるほど! よし、じゃあ明日はアスのお土産探しをするか」
そう思っていたのだけれど――
翌日。
砂漠の町に巨大なドラゴンが現れることになる。
翌朝、宿の一階で食事をしているとギルドマスターがやって来た。
ギルドの直ぐ近くだというのもあって、食事はいつもここなんだと言う。
つまり独身ってことだな。それには触れないでおこう。
世間話程度の話をしていて、町までどうやって来たんだというから砂船の話をした。
「船は盗賊から奪ったものなんだ」
「奪った!? いったいどうやって」
「んー、攻めて来たから撃退しただけなんだけど。まぁアレだよ、地の利で勝利した的な」
あながち嘘ではないから、こんなもんでいいだろう。
まだ信じられない様子だったけど、すぐにギルドマスターは表情を変えて交渉してきた。
「砂船が手に入ったってんなら、東との直接取引も出来るって訳だよな。これまではデボラスみてぇな野郎が間に入っていたせいで、かなり高額で買わされていた。こっちにも予算ってのがあるからな、内陸に回すほど仕入れられなかったんだよ」
「買い取ってくれるのは有難いけど、買い叩かれるのは困る」
「もちろんだ。直接奴と取引していた村のもんいただろ。交換率を教えてくれ。そうすりゃ調整する。あと内陸でどのくらいで売買されてるのかも教えておくぜ」
「ならハクトに任せよう」
「いいのか?」
「あぁ。だってあの商人とどのくらいの比率で取引していたの知ってるのは、ハクトだけだしさ」
ってことで交渉はハクトに任せることに。
そのうち彼は村長になるだろう。だから交渉の場は彼に任せるべきなんだ。将来のためにも。
素材の他にニードルサボテンのエキスを買い取ってくれる店や、日用雑貨を安く、そしていいものを売っている店なんかを紹介して貰った。
問題は――
「全員で行動するには、人数が多いんだよな。でも買い物なんてみんなやったことがないだろうし、不安でもある」
「ダイチ様はどうです?」
「んー。こっちの世界の相場が分からないからなんとも。通貨の単位は把握出来た」
とマリウスに小声で話す。
「それなら大丈夫ですね。とはいえ、僕とダイチ様の二人しか買い物経験者がいないとなると……」
「二手に分けたって多いよなぁ」
スーパーならいざしらず、個人のこじんまりした店に十人近い人数で押し掛けるのは迷惑になりそうだ。
そんな話をしていると、
「だったらうちの職員を連れて行かねえか? もちろん一人につき査定額からすこーし引かせてもらうが」
「ギルドマスター……あんた商売人だねぇ」
「あの素材は喉から手が出るほど欲しいが、なんせ量が多い。さっきも言ったが、予算ってものがあるんだ。少しでも引けるところは引きたいんだよ」
本音をぶつけてくれるのは、逆に好感が持てる。
そこでひと家族につき、職員をひとりつけて貰った。
なんとドリュー族にはドリュー族のギルド職員がついてくれるらしい。
「ドリュー族も働いているモグか」
「あぁ。この町には一〇〇人ぐらいのドリュー族が暮らしているぜ」
「おぉ。西のドリュー族はどうしているのか、気になっていたモグ。同族に会えるとは嬉しいモグなぁ」
朝食を済ませたら、俺はルーシェとシェリルの三人で町を見て回ることにした。
「この生地もステキ」
「綺麗な色合いですねぇ。染料は何を使っているのでしょう?」
二人に服でもと思って洋服店に来てみたんだけど……女の子のショッピングは長いってネタ、本当だったんだな。
おかげでこっちの買い物は終わったけど。
二人はデザインよりも、生地の方に興味があるみたいだ。
まぁ今だと綿でしか生地を作れないもんな。
異世界だとポリエステルやナイロンなんかはないだろうから、天然繊維の麻とか絹かな。
麻は植物で絹は蚕だっけ?
どっちも手に入れられるならなんとかなるけど。
「ユタカさんはどんな色がいいと思いますか?」
「んー……せっかくなんだしさ、気に入ったものをいくつも買ったら?」
「い、一着じゃなくていいの?」
「で、でも……斬る物は自分たちで縫えますし」
「だからだよ。普段着ないデザインのものを買ってさ、作りを研究するのにも使えるじゃん。そしたら今回町に来てない人たちにも、都会の服を着せてやれるだろ」
そう言うと二人は、アっという顔をして直ぐに服選びに入った。
この店には生地も売っていたので、そっちも何種類か買っておく。
昼はまた宿に集まって食事。
冒険者御用達というのもあって、いろんな話が聞けた。
そこで気になったのは、水の大精霊についての話だ。
「最近、雨降らないよなぁ」
「やっぱりあの噂は本当だったんじゃないか? 水の神殿に大精霊を閉じ込めていたって言う」
「バーカ。だったらむしろ、雨がじゃんじゃん降ってるはずだろ」
「そうじゃなくって、過去系だ、過去系。今までこの辺りに雨が降ってたのが水の大精霊を閉じ込めていたからで、最近降らなくなったのは逃げたからだって噂なんだよ」
な、なんだってー!?
東側でまったく雨が降らないのは、その水の神殿ってところに閉じ込められていたから?
ルーシェたちに精霊の話を聞いてみたが、誰も知らないと言う。
ハクトやドリュー族もそうだ。
夕食の時にまたギルドマスターを見つけて聞いてみたが、彼が元々この土地で生まれ育った訳じゃなく知らないと言う。
「水の神殿なら、ここから少し北に行った所にある。関係者以外、立ち入り禁止だがな」
「関係者って?」
「神殿の奴らさ。神殿つってもな、祭ってるのは水の精霊だ。だから聖職者じゃねーんだよ。まぁ詳しいことはよく分からん」
水の精霊を祭った神殿……。砂漠とは一番縁がなさそうな精霊なのに。
昼間の冒険者の話が本当だとすると、大精霊は今どこに?
部屋に戻ってその話をすると、シェリルが知っていそうな人に心当たりがあると。
「あの火竜なら、もしかして知っているんじゃない? ほら、砂漠は自分の縄張りだって言ってなかった?」
「そういえば……そうか。火竜は何百年と生きているだろうし、知っている可能性もあるな。帰ったらさっそく聞いてみよう。
「それじゃあ、アスちゃんにお土産を買って帰ってあげましょう」
「ん? なんでアスなんだ?」
買って帰えるつもりではあるけど。
「ふふ。だって火竜様はアスちゃんが喜ぶ顔を見るのが好きですもの。だからアスちゃんを喜ばせると、火竜様もお喜びになるでしょう」
「なるほど! よし、じゃあ明日はアスのお土産探しをするか」
そう思っていたのだけれど――
翌日。
砂漠の町に巨大なドラゴンが現れることになる。