「そっかぁ。トロンは大人料金だったかぁ」
「ごめん。子供料金だったら半額だったのに」

 マストの息子トロンは、大人料金の入町税をとられた。
 年齢確認なんてとくになく、どうも外見だけで判断しているようだった。
 トロンは結構身長もあって、それでだろう。
 面白いのは、トロンより年上のルーシェとシェリルが……。

「納得いかないわっ」
「そうですっ。どうして私たちが子供料金なんですか!」

 二人が子ども料金だったこと。

「なんで怒ってるんだよ。いいじゃないか、その分安くなったんだし」
「「私たちは大人なの」です」
「あ……はい。えっと、とりあえず買取屋を探そう」
「冒険者ギルドがあればいいのですが、探してみますか」

 冒険者ギルドなら、モンスター素材の買取もしてくれるそうだ。
 冒険者でない場合、手数料が少し高くなるようだけど。





「素材の売却ですか? えぇっと」

 冒険者ギルドを見つけ受付で素材の買取を依頼すると、首を傾げられた。
 あ、もしかして何も持っていないから怪しまれたのか。

「収納魔法に」
「あぁ、なるほど。多いですか?」
「まぁまぁ、かな?」

 多いの基準が分からないのでそう答えておく。
 そのまま建物裏の小屋に案内される。小さな倉庫みたいなところだな。

「こちらにお出しください。出来ましたら鑑定しやすいよう、種類ごとに見やすく並べていただけると助かります」
「分かりました。ってことは終わったら呼びに戻ればいいってことですよね?」
「はい。お手数をお掛けしますがよろしくお願いします」
「どうも、ありがとうございます」

 ってことでじゃんじゃん素材を出していって、子供たちにも手伝ってもらって並べていく。
 インベントリの中で最初から種類ぐとに仕分けされているから、並べること自体は難しくない。
 だが……。

「こんなに入ってたの?」
「狩りの旅にじゃんじゃん入れてたからさ。気づいたらこの量になってたんだな」
「もう置く場所がありません」
「ユタカ兄さん、さっきのお姉さん呼んでこようか?」
「頼むよトロン」

 毛皮なんかはいくつか自分たちで使いはしたけど、ほとんどはインベントリに入れっぱなしだ。
 出して保管しておく場所もなかったし、出すのも面倒くさいしでずっと、ずーっとインベントリにいれ続けていた。
 その結果が、車二台分ほどの倉庫に入りきれない量。

「インベントリの素材枠、半分もまだ出してないんだけど」
「ず、ずいぶん蓄えましたね」
「お前が来る前からあるしな。それにユユたちの食料のために結構狩りもしてたし」
「これは結構な金額になりそうですね」

 おぉ、それは楽しみだ。

 トロンが戻ってくると、一緒に来た職員は入ってくるなり固まってしまった。

「こ、こんなに……」
「いや、まだこれ、半分以下なんだ」
「えぇ!? ちょ、ちょっとお待ちくださいっ」

 で、しばらくしてもうひとり、厳ついおじさんを連れ職員が戻って来る。

「砂漠の町の冒険者ギルド支店ギルドマスターだ。ここにあるのは、まだ手持ちの半分以下だって?」
「あ、はい。収納内にはまだ入ってます。すみません、数か月分溜め込んじゃってて」
「いや、それは別にいいんだが……こんな量の素材を持ってんのは、行商の野郎ぐらいだったからな」

 行商……もしかしてあの商人?

「あの、その行商って、ここからずっと東の村で素材を買い取ってる?」
「あぁ、そうだ。最近は顔を見なくったが、噂では内陸の方で商売をしているようだとかなんとかな。デボラスって商人だ」

 ハクトの方を見ると、彼は頷いて「そいつだ」と。

「これまではその商人に素材を売って、こちらが必要な物と交換して貰っていたんだ。俺は奴と直接取引していた村のもんだ」
「そうか。ずいぶん買い叩かれていただろう。ギルドの方でも奴から素材を買い取ることがあったが、ずいぶん足元を見られていたからな」

 ハクトの話を聞いて、ギルドマスターが苦々しい顔で言う。
 冒険者が活動しているのは、較的西よりの地域らしい。
 この辺りや更に西には水場が点在する。水場がほとんどない東の砂漠では、歩くだけでも危険だからだ。
 だから砂地に生息するモンスターの素材は、ここでも滅多に手に入らないんだとか。

「冒険者の武具を作るのに素材が必要だからな。それにポーション類にも使うんだ」
「へぇ。じゃ、需要はあるって訳だ」
「あぁ。内陸の方じゃもっとだ。買い取った素材は内陸のギルドの流すことになるが、構わねえか?」
「もちろんです。ところで、冒険者の武具を作るのにって言ってたけど、ここでそういうのも作っているということ?」
「専属の職人がいるんでな。何か欲しいものはあるか? あるなら言ってくれ。この量だ。少しでも物々交換で済ませたい」

 こちらとしては日用品をあれこれ買いにも来てるんだし、まったく問題はない。
 調理器具一式を五十セット。鍬やスコップ等の農具。
 そして武器もいくつか。
 調理器具は各家庭に一つずつ。余ったものは別の集落に持って行ってやろうと思っている。
 もちろん足りないだろうが、何家族いるのか分からないし残りは次回だ。

「よし、分かった。しかしこの量だ。一日じゃ鑑定は終わらねぇ。悪いが明後日、また来てくれねぇか」

 ということで、ギルドが運営する宿に泊まることになった。
 宿泊料はマリウス曰く、比較的安いとのこと。その金は査定時に引かれる。
 
「他の人の家に泊まるなんて、初めてだわ」
「汚さないよう、気を付けなければいけませんね」

 宿を知らない集落の人にとっては、宿=他人の家という認識のようだ。

「え!? ご飯は作って貰えるの?」
「お風呂も沸かさなくていいんですか?」
「凄いよ兄ちゃん! ベッドじゃなくって布の上に寝るんだって!」
「それハンモックってやつな。そうか、ハンモックもいいな」

 暑さ対策として町の宿のほとんどはハンモックが使われているらしい。
 ハンモックの方が一部屋あたりに詰め込める人数も多いからだと。

 けどこれには子供たちが大喜びして、帰ったらさっそく作りたいと言っている。
 部屋には鏡もあって、これにはみんな大興奮していた。
 これも買って帰らなきゃな。

 それから……ハサミ!
 ちゃんと切れるハサミ!

 俺、帰ったら前髪切りなおして貰うんだ。