「じゃあ、あんたらが各集落を回って素材を集め、町に売りに行ってくれるのか?」
「あぁ。そのつもりだ。出来れば集落からひとり付いて来てくれると、それぞれで必要なものをピンポイントで買えると思うんだ」
「そりゃそうだ」
「まぁ今回は単純に町を見に行きたいってのがあるから、他の集落にはまだ行ってないけどさ」
「町か。俺も行ったことがないんだ。羨ましいな」

 なら一緒に行くかと聞くと、ハクトははにかむような表情を浮かべて二つ返事をした。
 最初はちょっと不良っぽい印象だったけど、そんなことは全然なく。
 あのじーさんにしてこの孫は出来過ぎてるだろ。

 翌朝、さっそく町へ向けて出発。
 有難いことに村には地図があって、町の位置もしっかり記されてあった。

「ところでダイチ。あの二人とはどこまで行ったんだ?」
「え? あのふた……いっ」

 ハクトが見ていたのはルーシェとシェリルの二人。
 ど、どこまでって……。

 そういえば、もし俺が集落に来なければ、二人は他所の集落の男と結婚することになったかもしれなって話があったっけ。
 ハクトは少し年上なだけで、旦那候補としては悪くない。
 もしかして、もしかするのか?

「あー、悪い悪い。別に三人の邪魔をするつもりはないぜ。俺にも妻が三人いるからさ」
「……え。さ……え?」
「一緒に町に行きたいって言ってたんだが、ひとりがこれでさ」

 ハクトはそう言って「お腹ぽっこり」な動作をする。
 それってまさか――

「妊娠……か」
「あぁ。初めての子だ。さすがに遠出をさせられないだろ。だから他の二人にも残って、腹の大きな妻を助けてやってくれって頼んでおいたんだ」

 一夫多妻は養えるかどうかが重要だって聞いたけど……まさか妻が三人とは。
 
「二人してなんの話?」
「え、あ……ハクトの奥さんに子供が出来たんだってさっ」
「そうなの!?」
「まぁ、おめでとうございます」

 ルーシェとシェリルがハクトを祝う。
 ハクトは俺に「逃げたな」とぼそり。

 ははは。なんのことだろうな。

「実は町行きの同行を決めたのも、新しい家具が欲しくてなのさ。今うちにあるのは、ひいじーさんの代から使われた家具ばかりだ。子供にはさ、新しいものを与えてやりたいと思ってるんだ」
「俺が子供の立場なら、その父親の意見が大賛成だと思うよ」
「やっぱりそうだろう? だがあの野郎――あぁ、商人のことだがな、あいつにベッドを頼んだら、新しいものだとデザートラビットの毛皮一〇〇枚と交換とかぬかしやがるんだ」
「その商人のことだけど、太ったやつ? こう、いつも手をもみもみしてる」
「そうそう。そいつだ。良心的な商人ではないんだ。汚い仕事もやっていたはずだ。だがそんな野郎しか行商には来なかったし、仕方なかったんだよ」

 やっぱりあの野郎だったのか。
 この感じだと、モンスター素材もそうとう安く買い叩かれていたんだろうな。
 
 町で素材を買い取ってくれる店でもあればいいんだけどな。
 一応素材はインベントリの中に入れて来てある。
 あとは女性陣が加工してくれたニードルサボテンのエキスもある。

 今回、俺たちの目的は日用品と鶏だ。
 山羊のミルクもあるし、あと卵があれば完璧だろ?
 正直、肉は各種モンスターでどうにでもなる。
 卵を産んでくれる鶏が欲しいんだ。

「素材を適正価格で引き取ってくれるところが見つかれば、俺たち砂漠の民の暮らしも少しは良くなるだろうな」
「あぁ。砂船もあるし、これからは自分たちで町に出かけることも出来る。まぁさすがに日帰りは無理だけど」
「まぁそれは仕方ない。しかし砂船はいいな。早いからモンスターを無視して進める」

 そう。そこが一番いい所だろう。
 ただ、狩りをするためにモンスターを追うのには適していない。
 早すぎて追い越してしまうし、いざ止まりたくても急停止出来ない。
 けっこう砂の上をずさぁーって滑っていくんだよなぁ。

 こうして安全な航海は続く。

 その夜――

「マリウスー。交代するよ」
「ふあぁ。ありがとうございます、ダイチ様。速度は低速にしておりますので」
「あぁ、分かった。おやすみ」

 夜間はゆっくり進むよう、魔道具の設定をしてある。
 こっちでやるのは、舵を切ることだけ。
 これがなかなか……ただ真っすぐ前を見て舵を握っているだけだから暇で仕方がない。
 話し相手でもいればなぁ。

「ふぅ、寒いわね」
「お疲れ様です、ユタカさん。暖かいお茶、入れて来ました」
「シェリル、ルーシェ」
「毛布も持ってきてあげたわよ」
「ありがとう。二人だって寒いだろ。下で休んでなよ」

 と言ったものの、実は二人が来てくれて嬉しかったりもする。

「町……どんな所でしょうか。ユタカさんは町に行ったことがありますか? あ、もちろん砂漠の町ではなくて、他所の町です」
「何言ってんのよルーシェ。ユタカは別の世界から来てるのよ」
「あっ。そうでした。えへ」

 舌をペロっと出したりして、あーもう、かわいいなぁ。

「町に行ったことがあると言うより、町に住んでたよ。俺が生まれ育った国はさ、海に囲まれていてね。山も多くて、人が住める土地はわりと少ない方だったんだ。そこにすっごい人口が集中しててね」

 何十階もあるような建物があったり、お隣の家まで手を伸ばせば届く距離だったり。
 とにかく人、人、人。
 なのに他人には無関心。隣に住んでる人の名前も顔も知らないなんてことも、別に珍しくはない。
 とくに都会になればなるほど、その傾向は強いだろう。

「なんだか寂しいわね」
「ですが何百人もいたら、全員の顔と名前を覚えるのは難しいですね」

 何百人じゃ済まないけど、彼女らを混乱させるだけだろうし言わないでおこう。

「そうだ。ハクトさんの所も奥さんに、綺麗な布を織ってあげようってルーシェと話してたの」
「へぇ。お祝いに?」
「はい。それでその……染料が欲しいのですが」
「うん。いい色が見つかるといいな」
「「ありがとう」ございます」

 モンスター素材のほとんどは、二人で獲ったものだ。
 換金したお金は、二人が優先的に使えばいいと思っている。
 そうしたところで二人は、絶対に無駄使いはしない。
 集落のためにって、使うに決まっている。

「そういえば……なぁ、ここだと結婚の証みたいなのはないの? 俺の世界だとさ、決まった指に指輪をしたりするんだよ。ハクトはそんなのなかったし、それで既婚者だって気づかなかったんだ」
「ゆびわ?」

 もしかして指輪を知らないのか!?
 そう言えば誰も付けてないな。

 指にはめるアクセサリーだと説明すると、二人の感想は「なんだか邪魔になりそう」だった。
 まぁ確かに大剣だとか弓を使う時には邪魔かも?
 あと日中は指輪が熱を持って、火傷しそうだとも言っていた。

 な、なるほど……指輪はダメか。