『イーチ、ニィー、サァーン……次ハァ?』
「よん」
『ヨーン』

 魔法を使わなくても普通に視力のいいアスに、砂船の数を数えて貰った。
 予想通り、王国騎士団は翌日の昼過ぎにやって来た。
 その数は――

『ジュウーヨーン。十四ダヨ』
「十五じゃなかったのか。いや、拿捕した砂船入れて十五だったのかな」

 もわぁっと陽炎が立ち上る中、十四隻の砂船がこちらに向かってやって来る。
 俺の目でもその数が分かる距離まで来ると、船は停止した。

 やや後方で止まった船がキラリと光る。
 すると、とんでもない物が宙に浮かぶ。

『聞こえるかしら、ダイチユタカ』

 この世界にはプロジェクターでもあるのかよ。
 まさかあの王女様が宙に映し出されるとは。
 
『大人しく投降なさい。そうすれば命までは取らないわ』

 何言ってんだろうな、あの王女様は。
 俺のスキルが必要だから連れ戻しに来たのに、その脅しの仕方は間違いじゃないのか?
 あ、横から別の奴が出てきた。
 なんかこそこそ話をしているみたいだ。

『おほんっ。ダイチユタカ。大人しく投降しなければ、そこにいる住民全員皆殺しにいたしますわよ』

 脅し方が間違っていると、アドバイスを貰ったのか。

「あれが都会の王女様モグか」
「悪者みたいモググ」
「人の上に立つ身分の方というのは、あぁいうものなのかいマリウスくん」
「えぇーっと……思ってはいても口に出して、それを実行しようとする人はそう多くはないと思います。あとトミーくんの感想が、的を得ていると思います」

 つまり悪者ってことだ。

「マリウス。砂船に大砲のようなものは?」
「見当たりません。重量的に無理があったのでしょう」

 砂船は風の力だけで砂の上を走らせる。
 あまり重たくするとその分、人を乗せられなくなるしな。
 
「ねぇ。あそこに浮かんでる王女様って、船にいるの?」
「はい。真ん中後方の船にいます。魔道具を使って姿を映しているのでしょう」
「魔道具っていろんなことが出来るのですねぇ」
「はいっ。まぁその代わり、必要な材料なんかが凄く貴重なので、一般には出回らないのですが」

 魔道具かぁ。
 砂船を動かすのにも魔道具が必要だし、それもマリウスが言うには消耗品らしいからなぁ。
 魔道具の技術も欲しいところだ。

 今はまぁ、目の前の案件を片付けよう。
 しかし本人がご登場とは、思ってもみなかった。

「マリウス。拡声魔法って使えるか?」
「はい。もちろんです」
「じゃあ、俺に使ってくれ」
「分かりました」

 砂漠が一望できる崖の上から、大きく息を吸って――

「投降も皆殺しも、お断りだぁーっ」

 っと叫んだ。

「だいたいなぁ、一国の王女が皆殺しなんて物騒な言葉使って、人を脅迫するとか、いいのかよぉーっ」

 ワンテンポ遅れて返事が返って来る。

『私に従わない者は、死んで当然ですわ』

 うわぁぁ……。あの国、大丈夫なのか?

「アリアンヌ王女には、腹違いの弟君がいらっしゃるのですが……去年、十歳を迎えたことで王太子となり、王位継承権一位になったんですよ」
「もしかして弟に王座を奪われるのが嫌で、必死になってるとか?」
「はい。召喚魔法を行ったのも、成功させれば多くの貴族や国民の支持を得られると考えたからなのです」

 なんて迷惑なお姫様だ。

「けど、おかげで俺はここに来ることが出来たし、それに関してだけは感謝しなくちゃな」
「あら。ここに来たことだけに感謝するの?」
「え?」
「私たちとの出会いには、感謝していらっしゃらないのですか?」
「いや、してる。してるよ……は、恥ずかしいから言わなかっただけだろ」

 というか、二人に出会えたことに一番感謝しているんだからさ。
 うあぁぁ、恥ずかしい。

『ちょっと、聞いているの?』
「あ、はい。で、俺の答えは変わらない。大人しく撤退してくれればいいけど、しないのならこっちも全力で抵抗する。出来れば死人は出したくないんだ。帰ってくれよ」
『ほほ。抵抗するですって? モンスターを従えているようですけど、その程度で我が騎士団が怯むとでも思っているの!?』

 ん? モンスターを従えている?
 マリウスを見る。
 あ、そっぽ向きやがった。
 こいつ、適当に嘘の報告してやがるな。

「もしかしてそのモンスターってのは、オレのことかぁ?」
「ひっ。いい、いえ、めめ、滅相もございませんっ」
「何言ってるのよバフォおじさん。おじさんはただの物知り山羊なんだから、モンスターな訳ないでしょ」
「だよなぁ~。ベヘヘェ」

 凄いよな……未だにバフォおじさんの正体がバレてないんだから。
 となるとだ。

『ボク?』
「そうですねぇ。アスちゃんはドラゴンですし。一緒にいるから、従えていると勘違いされたのかもしれませんねぇ」
『ユユタチモイルシネェ』

 最初に王国騎士がやって来た時には、ユユいなかったけどな。

『後悔するわよ。ダイチユタカ。私の忠実な騎士たち。若い人間の男は生かしておいて。他は皆殺しよ! 全軍突撃ぃーっ』
「こっちもやるぞ。燃えてる石、発射!」

 普段使っている燃える石を少し砕き、火を点けた状態で竹筒に入れて巨大パチンコで発射。
 何度も試行錯誤して、ある地点(・・・・)に落下するように調整した。
 そのある地点には、昨日、散々発射しまくったアレ入りの瓢箪が散らばった場所だ。

 常に炎天下の砂漠で、アレがいい具合に熱せられている。
 そこへ火が点いた石が着弾。

 ぼぉーっと炎が上がり、事前に投げていた薪にも着火。

「瓢箪に入れた油、いい具合に燃えてるなぁ」
「朝からずーっと、熱せられてましたからねぇ」
「ユタカ。こっちの準備も出来たわよ」
「分かった」

 小さな巾着を結わえた矢を番え、シェリルが構える。
 インベントリから取り出したニードルサボテンの種を飛び出し、成長促進を掛けてから巾着の中へと入れた。

「二〇秒」
「任せて」

 シェリルが放った矢は、炎の壁に躊躇して停止したままの砂船に向かって飛ぶ。

「マリウス!」
「はい。はい……甲板に落下……サボテン急成長! あぁ、アレは痛そうだ」
「よし。第二弾」
「準備オッケーよ」

 成長期間は五年ぐらいだろう。そう長くはない。
 種は十粒程度。まぁそれでもトータルで五十年だ。
 これで五隻ほど動かなくさせたら、引き返してくれないかと期待しているんだけども。

「ユタカさん。これも発射させますか?」
「ん? あぁ、そうだな。うん、発射させよう」
「はいっ。みなさん、行きますよ」

 ルーシェが言う「これ」は、竹やりだ。
 節を取って、先端には尖らせた木材を差し込んでいる。
 それを竹パチンコで発射して、船体にぶっ刺す!
 マストを破壊出来れば御の字だけど、さすがにパチンコの精度はそこまで叩くない。
 けどそこは数の暴力だ。

 いくつも用意してあるパチンコで、次々と竹やりが発射される。
 向こうは炎でまだ動けていない。
 今のうちダメージを与えられるだけ与えておこう。

「次!」
「待ってくださいっ」

 マリウスが叫ぶ。

「いけない……まさか砂漠に送られてきたなんて」
「なにがだっ」
「宮廷魔術師……賢者ローウッド様です!」

 マリウスがそう叫んだ瞬間、大きな火球が飛んできたあぁぁ!?

「みんな、逃げろっ」
「ンベェーッ」

 火球はこちらに届くことはなく、しゅぼっと消滅。

「バフォおじ――」
「マリウス、よくやったじゃねえか」
「へ? へ、あ、ああぁ、はいっ。防御魔法が間に合いましたっ」
「ベヘヘェ」

 あー、なるほどね。マリウスがやったってことにする訳ね。
 終わったらうまい草をたくさん成長させてやろう。

「あぁっ。火が消えるモグっ」
「え、もう!?」

 うあっ。魔法で消火してるじゃねえかっ。

「魔術師が他にもいるのかっ」
「賢者様がお越しなんですから、王国所属の平魔術師が来ない訳にもいかないでしょう。うあぁ、どうしましょうっ」
「どうって……」

 チラリとバフォおじさんを見る。
 昨日、バフォおじさんにあるお願いをしていた。
 
 おじさんは悪魔だ。大がつくほどの上位悪魔だ。
 悪魔なら契約が出来るはず。それを聞くと、出来る――という返事だった。
 悪魔との契約だ。とうぜん、代償が必要になる。

 魂だ。
 対価として貰うものがおじさんにとって些細なものだから、ほんの数か月分、寿命が縮むぐらいって話だけど。

 魂の対価として、おじさんの魔力を借りる。
 バフォおじさんにとって少しの魔力だが、俺の数倍だ。
 その魔力で大量の――
 
『ボクガ……バクガ追イ払ッテアゲル!』
「アス? お、おい、アス!」
「アス坊っ」

 アスが崖に向かって走り出す。
 お前……飛んだことないだろ!

 広げたことすらほとんどないのに、小さな翼をバサバサと羽ばたかせて――飛んだ。
 いや落ちた!?

「アスーッ!!」

 慌てて崖っぷちから下を覗くと、なんとかギリギリ滑空して地面に着地していた。
 けどそのまま船団に向かって走りだす。
 その後をユユたちも追いかけていく。

『お兄ちゃん、ボクたちが悪い人間、追い払うっ』
『追い払うー』
「待て、お前ら行くなっ」

 砂船から人が下りてくるのが見える。
 大きな火球が、アスに向かって飛んでいくのも見えた。

 ダメだ。
 そんなのダメだ!

「やっ。ユタカ!?」
「いやぁぁぁぁぁ」

 頭上でルーシェとシェリルの悲鳴が聞こえた。
 アスたちを追いかけるため崖を飛び降りる。

「強靭な肉体になるまで成長しろ! 成長そく――」

 体が……ふわりと浮く。
 同時に巨大な影が……舞い降りる。

 紅の、巨大な……ドラゴン。
 
『うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ』