ユタカたちがワームのテイムに成功した頃――
「商人が?」
アリアンヌの下に商人が謁見を申し出てきた。
その商人、転移魔法陣を使って砂漠から来たという。
「片側通行ではなかったのか?」
「商人が雇った魔術師が、こちらの魔法陣に手を加えて繋げたようです。ただ一回こっきりですが」
「ふぅん。なかなか優秀な魔術師がいるようね。その魔術師を雇いなさい」
「それで、商人の方はどういたしましょう? 何やら取引を持ち掛けているようですが」
商人との取引。
それだけであれば、アリアンヌには興味のないことだった。
だば砂漠から、しかもわざわざ魔術師を雇って魔法陣を繋げさせたのだから何かあるのだろう。
わずかに湧いた興味で、彼女は商人からの謁見を許すことにした。
現れたのは人の悪そうな笑みを浮かべ、手はごますりを欠かさない典型的な悪徳商人スタイルの男。
「アリアンヌ王女殿下にご挨拶申し上げます。わたくし、砂漠の商人デボラスと申します」
「遠回しな物言いは嫌いよ。さっさと内容をお話しなさい」
「承知いたしました。王女殿下はある男をお探しとのこと。しかしあの大人数を、しかも徒歩で砂漠を渡らせるなど自殺行為もいいとこ」
「回りくどい! 首を刎ねられたくなければ、さっさと本題に入りなさいっ」
アリアンヌが控えていた近衛騎士から剣を奪い、その剣先をデボラスへと向ける。
だがデボラスは笑みを絶やさず、ごますりを続けたままだ。
「では、取引内容をお話いたします。わたくしの方で、砂漠の移動手段をご提供いたしましょう」
「ラクダを数千頭用意するとでもいうのか」
「ラクダ? ぷくくく。そんなもの、使いませんですよ。今の時代、砂漠でも船が一番ですから」
「船……ですって」
船は水の上を進む乗り物。
そう認識しているアリアンヌにとって、商人の言葉はにわかに信じられなかった。
すぐに大臣を呼び「そんな船があるのか」と尋ねる。
呼び出された大臣は首を傾げたが、別の大臣が「ございます」と発言する。
「ここ十年ほどで使われるようになったものですが、魔道具が必要ですので使用するのは商人ぐらいでございまして」
「なるほど。それで、その船を貴様が用意するというのね。見返りは?」
「王女殿下がお探しの男が連れているペットにございます。珍しいものですので、是非とも手に入れたい。それと、ゲルドシュタル王国との商談をさせていただきたいのです」
デボラスは砂漠と、それに隣接する国々で商いを行っていた。
違法な人身売買からごく普通の取引までなんでもやる男だ。
特に砂漠で取れるモンスターの素材や、砂漠特有の植物などは、内陸の国々では重宝される。
逆に、今取引を行っている国々では他の商売敵もいるため、相場が安くなってしまうのだ。
ゲルドシュタル王国は砂漠から遠く離れており、砂漠産のものは高額取引されるだろう。
「それに、殿下の下には必要ではありませんか? 強靭な砂漠モンスターの素材が」
「……そうね。武具の素材としては、いいらしいわね」
「はい、その通りでございます。そのために、専用の転送魔法陣をちょうだいしたく」
「ふん。移動の手間も省ければ、人件費も掛からなくて済むものね。もちろん、安くしてくれるのでしょう?」
「勉強させていただきます」
これまでは内陸で商いをする商人と取引をしていた。
十で売った物を、その商人が内陸で二〇で売る。
仲介料、運送費用、人件費。そう考えれば当たり前のことなのだが、デボラスには仲介商人が儲けているようで腹立たしかった。
直接、転移魔法でゲルドシュタル王国と取引出来るのであれば、一九で売ったとて儲けは九割増し。
などとデボラスは頭の中で計算する。
二割、三割増し程度に落とさないのは、強欲な証。
アリアンヌの方でも同じように、これまでの九割引きで取引を――などと考えているから、似た者同士だろう。
「それで、その船だけど。何隻用意出来るの? それと一隻あたり何名乗れるのかしら?」
「砂船は水上の船と違い、あまり大きいと動かせません。食料、水、武具の運搬も考えると、一隻につき三〇名ほどです。それを一〇隻、ご用意出来ます」
「少ないわね。荷物の運搬なら、収納魔法があるから必要ないわ。乗せるのは人だけよ」
「承知いたしました。では五〇名まででしたらなんとか」
「そ。あとは船の数だけど、二〇隻用意なさい」
「け、建造には半年必要です。知り合いの商人から借り受けても一五隻がせいぜいかと」
「あと半年も待っていられないし、仕方ないわね。もちろん、借りるという船の代金はお前もちよ」
「え……わ、分かりました」
デボラスは初めて、笑顔を崩した。
だがそれも一瞬。
(九割増し。九割増しだ)
と、今後の儲けのための必要経費だと思って諦めることにした。
実際、九割増しで商売が出来るのかどうかは、今は不明である。
「それでは、商談成立ということで」
「ふふ、よろしくてよ」
「ふふふふふふ(高く売りさばいてやる)」
「ふふふふふふ(安く買いたたいてやるわ)」
「「ふははははははははは」」
謁見の間に、王女とデボラスの笑い声が響く。
「大臣。宣戦布告をしてちょうだい。そうね、まずはセルシオンかしら。あのいけ好かない王太子が青ざめる顔を拝んでやりましょう」
「ア、アリアンヌ王女っ。そ、それは時期早々なのでは?」
「食料問題はもう片付いたも同然。兵糧なら地方領主からかき集めなさい。どうせ隠し持ってるはずよ」
「し、しかし」
「これは王命よ! 私に逆らえば、私が女王の座に着いた時どうなるか分かっているのでしょうね?」
そう言われては首を縦に振るしかない。
大臣が頭を抱えながら執務室へと向かい、隣国セルシオン宛てに宣戦布告の書状をしたためることになる。
ところ変わって、魔宮で魔晶石集めをしているはずの皇帝たちはというと――。
「魔晶石を銀貨一枚で売れだぁ? バカじゃねーのか。魔晶石ってのはその十倍の根でギルドが買い取ってんだぞ」
魔宮の入り口で魔晶石の買取を行っていた。
ここには町はなく、魔宮へと続く遺跡があるだけ。
ただし、冒険者相手にした屋台はいくつかあった。
魔宮から出てきた者、食事中の者と片っ端から声を掛けているが、誰一人売ってくれる者はいない。
当たり前だ。
相場の一割で買い取ろうとしているのだから。
「買い取り相場が金貨一枚なのに、銀貨一枚で売ってくれなんて頼んでも、誰も売ってくれないよ」
「皇帝くん。買取価格を上げないと無理です」
「だまれ上本! 君は予算ってものを知らないようだな」
手元にあるお金は、金貨二〇枚。これでは魔晶石が二〇個しか買えない。
千個と言ったのは成り行きだとしても、せめて一〇〇個以上は持ち帰らなければカッコがつかない。
「君たちは金を稼ぐため、魔宮に潜りたまえ。ついでに魔晶石も手に入れるんだ」
「皇帝くんたちは!?」
「僕たちはここで、粘り強く交渉を続ける」
「そ、そんな……」
また自分たちだけ安全な場所で……。
不満が募る中、諸星輝星《もろぼしダイヤ》がある提案をした。
「君たち。魔宮のモンスターを連れて地上に上がってきなよ。そうしたらボクのメテオで一掃してあげるからさ」
「モ、モンスターを?」
「そう。幸いここは町中でもないし、メテオを使っても迷惑掛からないだろう?」
いや周りの冒険者には迷惑になると思うけど――とは言わない。
自分たちも楽が出来るのなら、万々歳だ。
「分かった。やってみよう」
「そうだな。逃げて回るぐらいなら」
「手始めに近くのモンスター一匹連れてくるよ」
「あぁ。殲滅は任せろ」
小林、佐藤、三田、上本の四人は魔宮に降りて行き、さっそく見つけたミノタウロスに石をぶつけて気を引いた。
「来たぞ! 諸星くんに伝えろっ」
一番足の速い佐藤が、先に外へ出る。
「諸星くん!」
「ふっ。任せろ」
思ったより輝星は階段から離れた位置にいた。
佐藤は横に逃げ、他の三人が階段を駆け上って来た瞬間――
「"招来――メテオストライク"」
輝星の声が響いた。
『ブモオォォォォッ』
ミノタウロスが階段を上がって来る。
そして迷宮から出た時――
ゴォォォォォォォっという音と共に、空から火球が落ちて来た。
その火球がミノタウロスの右足に命中する。
『モッ、ブオオオォォッ』
かなり痛かったらしい。
激しく地団太を踏んだミノタウロスの右足から、ビー玉サイズの小石が転がり落ちた。
いや、これでも一応隕石だ。
誰もが絶句した。
隕石、ちっさ!
内心ではそう叫んでいる。
肝心のミノタウロスだが、右足首にビー玉サイズのくぼみを作っただけ。
致命傷には程遠い。
もしこれがスライムであったなら、確実に仕留められていただろう。
ゴブリンだったとしても、当たり所次第では一撃で倒せたかもしれない。
しかし相手は強靭な肉体をもつミノタウロスだ。
「痛い」のレベルでしかない。
慌てた小林たちが全力でスキル攻撃を行い、やっとの思いでミノタウロスを撃破。
すると駆け付けた冒険者らが青ざめた顔で彼らを非難した。
「なんてことしやがったんだ!」
「ダンジョンモンスターを地上に出して、しかも倒しやがっただと。このクソったれが!」
「全員備えろっ。すぐ町に行って応援も呼んでこいっ」
「転移魔法使えるわ。すぐ行ってくるっ」
なんだか慌ただしくなってきた。
いったいどういうことなのかと、小林たちは内心ビクビクしながら近くの冒険者に尋ねた。
「どうなっているかって? てめぇら、何も知らないでダンジョンに入ってたのか! あのなぁ、ダンジョンモンスターってのは自発的に外に出て来ねぇだろ。それを無理やり外に出して殺すと、スタンピードの引き金になるんだよ!」
「今頃下層からモンスターが上って来てるはずだ。やったのがミノタウロスだからな……キング・ミノタウロスを倒すまでスタンピードは収まらないぞ」
ダンジョンモンスターを外に連れ出して狩りをしないのには理由がある。
冒険者でもない小林たちには知る由もなく、教えてくれる者もいなかった。
だが知らなかったでは済まされない。
いつのまにか姿を消している輝星に変わって、小林たちが冒険者から殴り飛ばされることに。
その後発生したスタンピードは、熟練冒険者も多かったことでなんとか死者を出すことなく収束。
そして冒険者ギルドによって、七人全員、全ダンジョンへの出禁が決まった。
「商人が?」
アリアンヌの下に商人が謁見を申し出てきた。
その商人、転移魔法陣を使って砂漠から来たという。
「片側通行ではなかったのか?」
「商人が雇った魔術師が、こちらの魔法陣に手を加えて繋げたようです。ただ一回こっきりですが」
「ふぅん。なかなか優秀な魔術師がいるようね。その魔術師を雇いなさい」
「それで、商人の方はどういたしましょう? 何やら取引を持ち掛けているようですが」
商人との取引。
それだけであれば、アリアンヌには興味のないことだった。
だば砂漠から、しかもわざわざ魔術師を雇って魔法陣を繋げさせたのだから何かあるのだろう。
わずかに湧いた興味で、彼女は商人からの謁見を許すことにした。
現れたのは人の悪そうな笑みを浮かべ、手はごますりを欠かさない典型的な悪徳商人スタイルの男。
「アリアンヌ王女殿下にご挨拶申し上げます。わたくし、砂漠の商人デボラスと申します」
「遠回しな物言いは嫌いよ。さっさと内容をお話しなさい」
「承知いたしました。王女殿下はある男をお探しとのこと。しかしあの大人数を、しかも徒歩で砂漠を渡らせるなど自殺行為もいいとこ」
「回りくどい! 首を刎ねられたくなければ、さっさと本題に入りなさいっ」
アリアンヌが控えていた近衛騎士から剣を奪い、その剣先をデボラスへと向ける。
だがデボラスは笑みを絶やさず、ごますりを続けたままだ。
「では、取引内容をお話いたします。わたくしの方で、砂漠の移動手段をご提供いたしましょう」
「ラクダを数千頭用意するとでもいうのか」
「ラクダ? ぷくくく。そんなもの、使いませんですよ。今の時代、砂漠でも船が一番ですから」
「船……ですって」
船は水の上を進む乗り物。
そう認識しているアリアンヌにとって、商人の言葉はにわかに信じられなかった。
すぐに大臣を呼び「そんな船があるのか」と尋ねる。
呼び出された大臣は首を傾げたが、別の大臣が「ございます」と発言する。
「ここ十年ほどで使われるようになったものですが、魔道具が必要ですので使用するのは商人ぐらいでございまして」
「なるほど。それで、その船を貴様が用意するというのね。見返りは?」
「王女殿下がお探しの男が連れているペットにございます。珍しいものですので、是非とも手に入れたい。それと、ゲルドシュタル王国との商談をさせていただきたいのです」
デボラスは砂漠と、それに隣接する国々で商いを行っていた。
違法な人身売買からごく普通の取引までなんでもやる男だ。
特に砂漠で取れるモンスターの素材や、砂漠特有の植物などは、内陸の国々では重宝される。
逆に、今取引を行っている国々では他の商売敵もいるため、相場が安くなってしまうのだ。
ゲルドシュタル王国は砂漠から遠く離れており、砂漠産のものは高額取引されるだろう。
「それに、殿下の下には必要ではありませんか? 強靭な砂漠モンスターの素材が」
「……そうね。武具の素材としては、いいらしいわね」
「はい、その通りでございます。そのために、専用の転送魔法陣をちょうだいしたく」
「ふん。移動の手間も省ければ、人件費も掛からなくて済むものね。もちろん、安くしてくれるのでしょう?」
「勉強させていただきます」
これまでは内陸で商いをする商人と取引をしていた。
十で売った物を、その商人が内陸で二〇で売る。
仲介料、運送費用、人件費。そう考えれば当たり前のことなのだが、デボラスには仲介商人が儲けているようで腹立たしかった。
直接、転移魔法でゲルドシュタル王国と取引出来るのであれば、一九で売ったとて儲けは九割増し。
などとデボラスは頭の中で計算する。
二割、三割増し程度に落とさないのは、強欲な証。
アリアンヌの方でも同じように、これまでの九割引きで取引を――などと考えているから、似た者同士だろう。
「それで、その船だけど。何隻用意出来るの? それと一隻あたり何名乗れるのかしら?」
「砂船は水上の船と違い、あまり大きいと動かせません。食料、水、武具の運搬も考えると、一隻につき三〇名ほどです。それを一〇隻、ご用意出来ます」
「少ないわね。荷物の運搬なら、収納魔法があるから必要ないわ。乗せるのは人だけよ」
「承知いたしました。では五〇名まででしたらなんとか」
「そ。あとは船の数だけど、二〇隻用意なさい」
「け、建造には半年必要です。知り合いの商人から借り受けても一五隻がせいぜいかと」
「あと半年も待っていられないし、仕方ないわね。もちろん、借りるという船の代金はお前もちよ」
「え……わ、分かりました」
デボラスは初めて、笑顔を崩した。
だがそれも一瞬。
(九割増し。九割増しだ)
と、今後の儲けのための必要経費だと思って諦めることにした。
実際、九割増しで商売が出来るのかどうかは、今は不明である。
「それでは、商談成立ということで」
「ふふ、よろしくてよ」
「ふふふふふふ(高く売りさばいてやる)」
「ふふふふふふ(安く買いたたいてやるわ)」
「「ふははははははははは」」
謁見の間に、王女とデボラスの笑い声が響く。
「大臣。宣戦布告をしてちょうだい。そうね、まずはセルシオンかしら。あのいけ好かない王太子が青ざめる顔を拝んでやりましょう」
「ア、アリアンヌ王女っ。そ、それは時期早々なのでは?」
「食料問題はもう片付いたも同然。兵糧なら地方領主からかき集めなさい。どうせ隠し持ってるはずよ」
「し、しかし」
「これは王命よ! 私に逆らえば、私が女王の座に着いた時どうなるか分かっているのでしょうね?」
そう言われては首を縦に振るしかない。
大臣が頭を抱えながら執務室へと向かい、隣国セルシオン宛てに宣戦布告の書状をしたためることになる。
ところ変わって、魔宮で魔晶石集めをしているはずの皇帝たちはというと――。
「魔晶石を銀貨一枚で売れだぁ? バカじゃねーのか。魔晶石ってのはその十倍の根でギルドが買い取ってんだぞ」
魔宮の入り口で魔晶石の買取を行っていた。
ここには町はなく、魔宮へと続く遺跡があるだけ。
ただし、冒険者相手にした屋台はいくつかあった。
魔宮から出てきた者、食事中の者と片っ端から声を掛けているが、誰一人売ってくれる者はいない。
当たり前だ。
相場の一割で買い取ろうとしているのだから。
「買い取り相場が金貨一枚なのに、銀貨一枚で売ってくれなんて頼んでも、誰も売ってくれないよ」
「皇帝くん。買取価格を上げないと無理です」
「だまれ上本! 君は予算ってものを知らないようだな」
手元にあるお金は、金貨二〇枚。これでは魔晶石が二〇個しか買えない。
千個と言ったのは成り行きだとしても、せめて一〇〇個以上は持ち帰らなければカッコがつかない。
「君たちは金を稼ぐため、魔宮に潜りたまえ。ついでに魔晶石も手に入れるんだ」
「皇帝くんたちは!?」
「僕たちはここで、粘り強く交渉を続ける」
「そ、そんな……」
また自分たちだけ安全な場所で……。
不満が募る中、諸星輝星《もろぼしダイヤ》がある提案をした。
「君たち。魔宮のモンスターを連れて地上に上がってきなよ。そうしたらボクのメテオで一掃してあげるからさ」
「モ、モンスターを?」
「そう。幸いここは町中でもないし、メテオを使っても迷惑掛からないだろう?」
いや周りの冒険者には迷惑になると思うけど――とは言わない。
自分たちも楽が出来るのなら、万々歳だ。
「分かった。やってみよう」
「そうだな。逃げて回るぐらいなら」
「手始めに近くのモンスター一匹連れてくるよ」
「あぁ。殲滅は任せろ」
小林、佐藤、三田、上本の四人は魔宮に降りて行き、さっそく見つけたミノタウロスに石をぶつけて気を引いた。
「来たぞ! 諸星くんに伝えろっ」
一番足の速い佐藤が、先に外へ出る。
「諸星くん!」
「ふっ。任せろ」
思ったより輝星は階段から離れた位置にいた。
佐藤は横に逃げ、他の三人が階段を駆け上って来た瞬間――
「"招来――メテオストライク"」
輝星の声が響いた。
『ブモオォォォォッ』
ミノタウロスが階段を上がって来る。
そして迷宮から出た時――
ゴォォォォォォォっという音と共に、空から火球が落ちて来た。
その火球がミノタウロスの右足に命中する。
『モッ、ブオオオォォッ』
かなり痛かったらしい。
激しく地団太を踏んだミノタウロスの右足から、ビー玉サイズの小石が転がり落ちた。
いや、これでも一応隕石だ。
誰もが絶句した。
隕石、ちっさ!
内心ではそう叫んでいる。
肝心のミノタウロスだが、右足首にビー玉サイズのくぼみを作っただけ。
致命傷には程遠い。
もしこれがスライムであったなら、確実に仕留められていただろう。
ゴブリンだったとしても、当たり所次第では一撃で倒せたかもしれない。
しかし相手は強靭な肉体をもつミノタウロスだ。
「痛い」のレベルでしかない。
慌てた小林たちが全力でスキル攻撃を行い、やっとの思いでミノタウロスを撃破。
すると駆け付けた冒険者らが青ざめた顔で彼らを非難した。
「なんてことしやがったんだ!」
「ダンジョンモンスターを地上に出して、しかも倒しやがっただと。このクソったれが!」
「全員備えろっ。すぐ町に行って応援も呼んでこいっ」
「転移魔法使えるわ。すぐ行ってくるっ」
なんだか慌ただしくなってきた。
いったいどういうことなのかと、小林たちは内心ビクビクしながら近くの冒険者に尋ねた。
「どうなっているかって? てめぇら、何も知らないでダンジョンに入ってたのか! あのなぁ、ダンジョンモンスターってのは自発的に外に出て来ねぇだろ。それを無理やり外に出して殺すと、スタンピードの引き金になるんだよ!」
「今頃下層からモンスターが上って来てるはずだ。やったのがミノタウロスだからな……キング・ミノタウロスを倒すまでスタンピードは収まらないぞ」
ダンジョンモンスターを外に連れ出して狩りをしないのには理由がある。
冒険者でもない小林たちには知る由もなく、教えてくれる者もいなかった。
だが知らなかったでは済まされない。
いつのまにか姿を消している輝星に変わって、小林たちが冒険者から殴り飛ばされることに。
その後発生したスタンピードは、熟練冒険者も多かったことでなんとか死者を出すことなく収束。
そして冒険者ギルドによって、七人全員、全ダンジョンへの出禁が決まった。