「デ、デートしないか!?」
交際を始めたってのに、一度もらしいことをしてこなかった。
まぁ交際前からいつもそばにいたし、同じ家にも住んでいたから今更感もあるけど。
「た、たまにはさ、いいかなと思って」
デートの申し込みなんて、もちろん人生で初めてだ。
彼女が出来たのだって初めてだし。
二人は顔を見合わせてから、同時に俺を見て首を傾げた。
あ、れ?
「でーととは、なんでしょうか?」
「あ……そこからか。えっと、デートっていうのは……こ、恋人同士で出かける事、さ」
「お出かけ? でもお出かけならいつもしてるじゃない」
そうだけどさぁーっ。
はぁ。異世界じゃデートってものがないのかなぁ。
いや、ここだからないのかもしれない。
都会ならまだ、どこかに遊びにとかってのもありそうだし。
美味しいお店にいくとか、買い物するとかさ。
でも砂漠じゃそれが出来ないし。
「ただ出かけるんじゃなく、こう……綺麗な景色を眺めるとか、普段行かない所に行くとかさ」
「普段行かないところ、ねぇ」
「そうだっ。俺がまだ知らない所とか、どう?」
「ユタカさんが知らない……それでいて綺麗な所……あっ。シェリルちゃん。あそこなんてどうでしょう?」
「あそこ? あぁ、あそこね! そういえばユタカには見せてなかったわね、アレを」
アレ?
まぁなんにしろ、デートの場所は決まった。
それから三人で弁当を作り、デートへと出発。
『オッデカケ、オッデカケ』
「アス……あのな、これはデートなんだ」
『デートスルゥ』
「みんなで一緒に行きましょうか」
「そうね。アスにも見せてあげる」
『ワーイ』
わーい……もうただのピクニックだ。
はぁ……ま、仕方ないか。
ひとりで留守番するの、アスは嫌がるもんな。
ひとりが寂しいのは、俺もよく分かるし。
「この中?」
山羊が暮らす岩塩洞窟のある場所から、さらに少し北東に進んだ先。
アスがぎりぎり通れるほどの洞窟があった。
「ここでは岩塩が取れないのですが、奥にとっても綺麗な場所があるんですよ」
「へぇ。楽しみだ」
「少し冷えるから、避難場所としても使われているのよ」
「避難場所?」
「はい。数年に一度、強烈な熱波が発生するんです。他の集落では避難用に地下室を掘ったりしているんですよ」
熱波か。
次に来るのはいつになるんだろうか。
ドリュー族に山羊、それにワームたちもいる。お隣の集落とも合併したし、人口はかなり増えた。
全員が避難出来る広さがあるのだろうか。
あぁー、ダメだ。
今日はデートなんだから、集落のこととかはあとで考えよう。
中に入ってしばらく進むと、シェリルが言うように肌寒くなってきた。
インベントリに入れっぱなしのジャンパーを取り出し、それをルーシェに着せた。
シェリルにはマフラーと、それからブレザーのジャケットを。
「もう、私たちはいいのに」
「そうです。ちゃんとショールを持って来たんですから」
「あ、そう、だったんだ」
「じゃ、このショールはユタカさんとアスちゃんに巻いてあげましょうね」
『ワーイ。グールグル』
むしろアスは暖かいんだけどな。
「このあたりの岩は滑るから、気を付けてね」
「ユタカさん。お手をどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
って違ぁーう!
男がエスコートするのであって、エスコートされてどうするんだよ!
まぁ、でも。
「ふふ。デートって楽しいわね」
「そうですね。ここへ来るのは熱波の時でしたけど、避難のためじゃなくユタカさんとアスちゃんにアレを見せてあげるためだけと考えたら、わくわくしますね」
「どんな顔するかしら」
「そんなに凄い物があるのか?」
『ナニ? ナニガアルノ?』
「「まだ内緒」」
二人が楽しんでるなら、いくらでもエスコートされるさ。
……。
帰ったら身体能力を成長させよう。
「あ、見えて来たわ」
「お? お、おおぉぉ!?」
進む先に、ドーム状の開けた場所があった。
その壁が松明の明かりを反射して、キラキラと光って見える。
「ここに座ってください」
「松明消すから、一瞬だけ真っ暗になるわよ」
「お、おぅ。アス、じっとしてろよ」
『ウン』
明かりが消されると、完全な暗闇に……あ、れ?
上の方が薄っすら光りだした。
見上げると、まるで満天の星空のように小さな光が無数に広がっている。
「凄いでしょ」
「亡くなった父が言うには、壁の表面は透明な鉱石らしいんです。その奥に光りを出す別の鉱石があって」
「それで光るのよ。綺麗でしょ」
「あ、あぁ……凄く綺麗だ」
透明な鉱石って、クリスタルとかそんなのだろうか。
これは本当に綺麗だ。
「花見もいいけど、星見もいいな」
「でしょ?」
「喜んでくれました?」
「あぁ。凄く綺麗だ」
本当は、二人の方がもっと綺麗だとよか、歯の浮くセリフが言えればいいんだろうけど。
でも今は恥ずかしいから、そっと二人の肩を抱いて天井を見上げた。
い、いや。むしろこっちの方が恥ずかしいか!?
二人とも俺の肩に頭を預けてるから、今更恥ずかしいからって離せないし。
『寒イ? ボクアタタメル?』
背中にアスがぴったりくっついてきて、余計に離れられなくなってしまった。
「暖かいですね」
「そ、そうだな」
「ユタカさん」
「ん? どうした、ルー……」
唇に、柔らかい感触が伝わった。
「ル、ルーシェ」
「そ、そうだわ。そろそろお弁当にしませんか?」
「そ、そうだな。ご飯にしようっ」
と、隣のシェリルを見ると、不貞腐れたように頬を膨らませている。ように見える。
「姉さんだけ……るい」
「シェリル?」
「べ、別に私は……して欲しい、なんて、思ってないもん」
キス……して欲しいってことか?
仕方、ないなぁ。
「シェリル」
「ん?」
振り向いたところで、軽く唇にキスをする。
「ひゃっ」
「さ、さぁ、弁当にするぞ」
「う、うん」
うおぉぉ。俺、頑張った。
するとアスが頭突きをしてきて『ボクモ』とか言い出す。
「もう、甘えん坊ねアスは。ちゅ」
「仲間外れは嫌なんですよね。ちゅ」
『エヘェ』
なんだろう。相手は子供だし、ドラゴンなのに……何故か少し、嫉妬してしまう。
ん?
アスがこっち見てる。
まさか!?
「俺もやれってのか!?」
『チュッテシテェ』
「男が男にキスなんかしないんだぞっ」
『チュー』
まさかのキス魔か!?
「してあげたらいいのにぃ」
「そうですよ。子供なんですから」
「うぅぅ、くそぉう。一回だけだからな!」
オデコに軽くキスしてやると、そりゃもう大喜び。
それから四人で弁当を食べて、しばらく星見を満喫してから洞窟を出た。
「んあぁー。まっぶしぃなぁ……ん?」
地面に伸びた崖の影。
その先端に何か、いる。
このシルエットはもしかして――。
振り返って見上げると、何も……いない。
どうやらあの御仁は、近くでずっと見ているのかもしれないな。
交際を始めたってのに、一度もらしいことをしてこなかった。
まぁ交際前からいつもそばにいたし、同じ家にも住んでいたから今更感もあるけど。
「た、たまにはさ、いいかなと思って」
デートの申し込みなんて、もちろん人生で初めてだ。
彼女が出来たのだって初めてだし。
二人は顔を見合わせてから、同時に俺を見て首を傾げた。
あ、れ?
「でーととは、なんでしょうか?」
「あ……そこからか。えっと、デートっていうのは……こ、恋人同士で出かける事、さ」
「お出かけ? でもお出かけならいつもしてるじゃない」
そうだけどさぁーっ。
はぁ。異世界じゃデートってものがないのかなぁ。
いや、ここだからないのかもしれない。
都会ならまだ、どこかに遊びにとかってのもありそうだし。
美味しいお店にいくとか、買い物するとかさ。
でも砂漠じゃそれが出来ないし。
「ただ出かけるんじゃなく、こう……綺麗な景色を眺めるとか、普段行かない所に行くとかさ」
「普段行かないところ、ねぇ」
「そうだっ。俺がまだ知らない所とか、どう?」
「ユタカさんが知らない……それでいて綺麗な所……あっ。シェリルちゃん。あそこなんてどうでしょう?」
「あそこ? あぁ、あそこね! そういえばユタカには見せてなかったわね、アレを」
アレ?
まぁなんにしろ、デートの場所は決まった。
それから三人で弁当を作り、デートへと出発。
『オッデカケ、オッデカケ』
「アス……あのな、これはデートなんだ」
『デートスルゥ』
「みんなで一緒に行きましょうか」
「そうね。アスにも見せてあげる」
『ワーイ』
わーい……もうただのピクニックだ。
はぁ……ま、仕方ないか。
ひとりで留守番するの、アスは嫌がるもんな。
ひとりが寂しいのは、俺もよく分かるし。
「この中?」
山羊が暮らす岩塩洞窟のある場所から、さらに少し北東に進んだ先。
アスがぎりぎり通れるほどの洞窟があった。
「ここでは岩塩が取れないのですが、奥にとっても綺麗な場所があるんですよ」
「へぇ。楽しみだ」
「少し冷えるから、避難場所としても使われているのよ」
「避難場所?」
「はい。数年に一度、強烈な熱波が発生するんです。他の集落では避難用に地下室を掘ったりしているんですよ」
熱波か。
次に来るのはいつになるんだろうか。
ドリュー族に山羊、それにワームたちもいる。お隣の集落とも合併したし、人口はかなり増えた。
全員が避難出来る広さがあるのだろうか。
あぁー、ダメだ。
今日はデートなんだから、集落のこととかはあとで考えよう。
中に入ってしばらく進むと、シェリルが言うように肌寒くなってきた。
インベントリに入れっぱなしのジャンパーを取り出し、それをルーシェに着せた。
シェリルにはマフラーと、それからブレザーのジャケットを。
「もう、私たちはいいのに」
「そうです。ちゃんとショールを持って来たんですから」
「あ、そう、だったんだ」
「じゃ、このショールはユタカさんとアスちゃんに巻いてあげましょうね」
『ワーイ。グールグル』
むしろアスは暖かいんだけどな。
「このあたりの岩は滑るから、気を付けてね」
「ユタカさん。お手をどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
って違ぁーう!
男がエスコートするのであって、エスコートされてどうするんだよ!
まぁ、でも。
「ふふ。デートって楽しいわね」
「そうですね。ここへ来るのは熱波の時でしたけど、避難のためじゃなくユタカさんとアスちゃんにアレを見せてあげるためだけと考えたら、わくわくしますね」
「どんな顔するかしら」
「そんなに凄い物があるのか?」
『ナニ? ナニガアルノ?』
「「まだ内緒」」
二人が楽しんでるなら、いくらでもエスコートされるさ。
……。
帰ったら身体能力を成長させよう。
「あ、見えて来たわ」
「お? お、おおぉぉ!?」
進む先に、ドーム状の開けた場所があった。
その壁が松明の明かりを反射して、キラキラと光って見える。
「ここに座ってください」
「松明消すから、一瞬だけ真っ暗になるわよ」
「お、おぅ。アス、じっとしてろよ」
『ウン』
明かりが消されると、完全な暗闇に……あ、れ?
上の方が薄っすら光りだした。
見上げると、まるで満天の星空のように小さな光が無数に広がっている。
「凄いでしょ」
「亡くなった父が言うには、壁の表面は透明な鉱石らしいんです。その奥に光りを出す別の鉱石があって」
「それで光るのよ。綺麗でしょ」
「あ、あぁ……凄く綺麗だ」
透明な鉱石って、クリスタルとかそんなのだろうか。
これは本当に綺麗だ。
「花見もいいけど、星見もいいな」
「でしょ?」
「喜んでくれました?」
「あぁ。凄く綺麗だ」
本当は、二人の方がもっと綺麗だとよか、歯の浮くセリフが言えればいいんだろうけど。
でも今は恥ずかしいから、そっと二人の肩を抱いて天井を見上げた。
い、いや。むしろこっちの方が恥ずかしいか!?
二人とも俺の肩に頭を預けてるから、今更恥ずかしいからって離せないし。
『寒イ? ボクアタタメル?』
背中にアスがぴったりくっついてきて、余計に離れられなくなってしまった。
「暖かいですね」
「そ、そうだな」
「ユタカさん」
「ん? どうした、ルー……」
唇に、柔らかい感触が伝わった。
「ル、ルーシェ」
「そ、そうだわ。そろそろお弁当にしませんか?」
「そ、そうだな。ご飯にしようっ」
と、隣のシェリルを見ると、不貞腐れたように頬を膨らませている。ように見える。
「姉さんだけ……るい」
「シェリル?」
「べ、別に私は……して欲しい、なんて、思ってないもん」
キス……して欲しいってことか?
仕方、ないなぁ。
「シェリル」
「ん?」
振り向いたところで、軽く唇にキスをする。
「ひゃっ」
「さ、さぁ、弁当にするぞ」
「う、うん」
うおぉぉ。俺、頑張った。
するとアスが頭突きをしてきて『ボクモ』とか言い出す。
「もう、甘えん坊ねアスは。ちゅ」
「仲間外れは嫌なんですよね。ちゅ」
『エヘェ』
なんだろう。相手は子供だし、ドラゴンなのに……何故か少し、嫉妬してしまう。
ん?
アスがこっち見てる。
まさか!?
「俺もやれってのか!?」
『チュッテシテェ』
「男が男にキスなんかしないんだぞっ」
『チュー』
まさかのキス魔か!?
「してあげたらいいのにぃ」
「そうですよ。子供なんですから」
「うぅぅ、くそぉう。一回だけだからな!」
オデコに軽くキスしてやると、そりゃもう大喜び。
それから四人で弁当を食べて、しばらく星見を満喫してから洞窟を出た。
「んあぁー。まっぶしぃなぁ……ん?」
地面に伸びた崖の影。
その先端に何か、いる。
このシルエットはもしかして――。
振り返って見上げると、何も……いない。
どうやらあの御仁は、近くでずっと見ているのかもしれないな。