騎士団の襲撃に備えて、集落では準備を始めていた。
まぁ出来れば無駄な備えに終わって欲しいところだけど。
ワームをテイムして十日目。
食事の旅に五年ずつ成長させ、今じゃ四五歳前後だ。
ただ体だけ成長させてしまったせいで、中身は子供のまま。
体長は一五メートルを超えたが、このサイズで最大かもしれない。前々回の食事からサイズアップしてないしな。
だが――
『赤ちゃん、生まれたの』
「……えぇー」
ワーム……名前はユタカのユを取って『ユユ』が、チビワームを連れて砂から出てきた。
大きさはまだ一メートルにも満たないが。ミミズサイズじゃないのは確かだ。
「ママはどっちだ」
ルーシェんとこの『ルル』か、それともシェリルんところの『リリ』か。
あ、れ?
ルルとリリもチビワームを連れてる。
『ママ……。この人がママだよ。さぁママにご挨拶して』
「まてまてまてまてっ。俺はママじゃない! ママはあっちじゃないのかっ」
『ん?』
首傾げてんじゃないよ!
「ワームは雌雄同体だ。ミミズと違ってそいつらは、一匹でガキを作れんだよ」
「えぇー……」
「もちろん繁殖期になるためには、二匹以上のワームが必要だけどな」
なんだそりゃ……。
『ママ』
「だから待て! せめてパパにしてくれよっ」
『じゃーパパ。パパだよぉ』
あぁぁーっ!?
人間の子供だってまだなのに、まさかワームのパパになる日がくるなんて。
「凄い!」
「うわっ。マリウス?」
「見てくださいダイチ様。このワームの赤ん坊、額に薄っすらですが名前が浮かんでいますよ」
「え? でもテイミング魔法は使ってないぞ」
「はいっ。おそらく親から遺伝したのでしょう。ですが不完全ですので、完全なテイミングモンスターではありません。魔法で定着するべきでしょう。ルーシェさんとシェリルさんも」
「分かったわ」
「テイミングすればよろしいんですね」
呪文を唱えて触れると、額の名前がくっきり浮かび上がった。
そして――
『パパァ』
俺はパパになった……。
あっちの二人はどうなんだろう?
「ルーシェ、シェリル。赤ちゃんワームから、なんて呼ばれてるんだ?」
「え? 普通に名前だけど」
「ルーシェお姉さんって呼んでくれてますよ」
「え!? ちょ、俺なんてパパって呼ばれてんだけど!」
二人は顔を見合わせ、それから笑い出した。
「ワームにパパママの概念はないんだと思いますよ」
「それをあんたが、ママはどっちだとかせめてパパにとか言ったからじゃないの?」
俺が余計な事言ったからなのか……。
「ユユ、頼む。子供にはユタカ兄ちゃんって呼ぶように言ってくれよ」
『じゃあ、ユタカ兄ちゃん』
『ユタカ兄ちゃん、お腹空いた』
お腹かぁ。サンドワームの死骸はもうないんだよなぁ。
「お。おあつらえ向けのご飯が、向こうから来たようだぜ」
「ご飯が? あ」
西の方角から砂煙が近づいて来る。
その砂の上を飛び跳ねる何かの姿が見えた。
「さか、な? あれ、魚か?」
「サンドフィッシュね! 鱗は堅いけど、身は美味しいのよ」
「ルル。子供のご飯が来ます」
「リリも、たっくさん捕まえるのよ」
魚の大きさは一メートルほど。見た目はトビウオそのものだ。
「アス。捕まえやすいように、頼む」
『マカセテェ。ミンナニボクガゴ飯ツカマエテアゲルヨォ』
『アス先輩かっこいい!』
ユユ。先輩って言葉、どこで覚えた?
「ぼ、僕はどうしましょう?」
「アスの振動でサンドフィッシュが脳しんとうを起こすから、仕留めてくれ。魔法で出来るだろ?」
「わ、わかりました。焼かない方がいい、ですかね?」
焼いたものでも食べられるのかな?
『んまんま。こっちおいちぃ』
「焼いたサンドフィッシュの方が人気みたい」
「こちらの子たちもです。焼き魚は美味しいですものね」
マリウスが炎の魔法で仕留めたサンドフィッシュの方が美味いようだ。
正直、香ばしいニオイがたまらない。
仕留めた数は四〇匹を超える。
「なんだユユ。二匹でいいのか?」
『うん。体が大きくなったら、どうしてかあんまりお腹が減らなくなったの』
「え、大丈夫、なのか?」
まさか成長促進の弊害!?
「あー、食欲旺盛なのはガキの頃までだ。成長すりゃ、食う量は減るんだよ」
「そう、なのか。バフォおじさんが言うんなら、まぁ大丈夫か」
ただ心配はある。
これ以上ユユが子供を産んだら、さすがに食料が追い付かなくなるんじゃないかって。
新しく生まれた三匹の子供たちにも言える。
「ネズミ算式とまではいかないんだろうけど、どんどん増えていくとさすがにマズいな」
「そこは心配いらねぇ。十分な餌がねぇ状態だと、モンスターってのは繁殖しねぇんだよ。まぁ例外もいるけどな。頭の悪りぃゴブリンとかよ」
『いい土にしたくて、仲間いた方が早いかなって思ったの。でもたくさんいるとご飯食べられなくなるし。もう赤ちゃん産まないから安心して』
「そっか。ユユたちもちゃんと考えてくれてたんだな」
ワームって意外と賢いモンスターなのか。
知らなかった。
ワームの人口が単純に倍になったし、日陰用の木も増やしてやらなきゃな。
この十日の間に、土の状態は見違えるほどよくなった――と思う。
これまで俺が成長させた木以外、緑は皆無だった。
だけど――
「見てください! 葉っぱですっ。葉っぱが生えてますっ」
「これは……山羊邸の周辺に生えてるのと似てるな。種が風に乗って飛んできたのか」
「その種がここで芽吹いたのね。自然に生えて来たなんて、信じられないわ」
『葉ッパカワイイネェ』
『かわいい』
少しずつ。少しずつ、だけど着実に土壌改良は進んでいる。
まぁ出来れば無駄な備えに終わって欲しいところだけど。
ワームをテイムして十日目。
食事の旅に五年ずつ成長させ、今じゃ四五歳前後だ。
ただ体だけ成長させてしまったせいで、中身は子供のまま。
体長は一五メートルを超えたが、このサイズで最大かもしれない。前々回の食事からサイズアップしてないしな。
だが――
『赤ちゃん、生まれたの』
「……えぇー」
ワーム……名前はユタカのユを取って『ユユ』が、チビワームを連れて砂から出てきた。
大きさはまだ一メートルにも満たないが。ミミズサイズじゃないのは確かだ。
「ママはどっちだ」
ルーシェんとこの『ルル』か、それともシェリルんところの『リリ』か。
あ、れ?
ルルとリリもチビワームを連れてる。
『ママ……。この人がママだよ。さぁママにご挨拶して』
「まてまてまてまてっ。俺はママじゃない! ママはあっちじゃないのかっ」
『ん?』
首傾げてんじゃないよ!
「ワームは雌雄同体だ。ミミズと違ってそいつらは、一匹でガキを作れんだよ」
「えぇー……」
「もちろん繁殖期になるためには、二匹以上のワームが必要だけどな」
なんだそりゃ……。
『ママ』
「だから待て! せめてパパにしてくれよっ」
『じゃーパパ。パパだよぉ』
あぁぁーっ!?
人間の子供だってまだなのに、まさかワームのパパになる日がくるなんて。
「凄い!」
「うわっ。マリウス?」
「見てくださいダイチ様。このワームの赤ん坊、額に薄っすらですが名前が浮かんでいますよ」
「え? でもテイミング魔法は使ってないぞ」
「はいっ。おそらく親から遺伝したのでしょう。ですが不完全ですので、完全なテイミングモンスターではありません。魔法で定着するべきでしょう。ルーシェさんとシェリルさんも」
「分かったわ」
「テイミングすればよろしいんですね」
呪文を唱えて触れると、額の名前がくっきり浮かび上がった。
そして――
『パパァ』
俺はパパになった……。
あっちの二人はどうなんだろう?
「ルーシェ、シェリル。赤ちゃんワームから、なんて呼ばれてるんだ?」
「え? 普通に名前だけど」
「ルーシェお姉さんって呼んでくれてますよ」
「え!? ちょ、俺なんてパパって呼ばれてんだけど!」
二人は顔を見合わせ、それから笑い出した。
「ワームにパパママの概念はないんだと思いますよ」
「それをあんたが、ママはどっちだとかせめてパパにとか言ったからじゃないの?」
俺が余計な事言ったからなのか……。
「ユユ、頼む。子供にはユタカ兄ちゃんって呼ぶように言ってくれよ」
『じゃあ、ユタカ兄ちゃん』
『ユタカ兄ちゃん、お腹空いた』
お腹かぁ。サンドワームの死骸はもうないんだよなぁ。
「お。おあつらえ向けのご飯が、向こうから来たようだぜ」
「ご飯が? あ」
西の方角から砂煙が近づいて来る。
その砂の上を飛び跳ねる何かの姿が見えた。
「さか、な? あれ、魚か?」
「サンドフィッシュね! 鱗は堅いけど、身は美味しいのよ」
「ルル。子供のご飯が来ます」
「リリも、たっくさん捕まえるのよ」
魚の大きさは一メートルほど。見た目はトビウオそのものだ。
「アス。捕まえやすいように、頼む」
『マカセテェ。ミンナニボクガゴ飯ツカマエテアゲルヨォ』
『アス先輩かっこいい!』
ユユ。先輩って言葉、どこで覚えた?
「ぼ、僕はどうしましょう?」
「アスの振動でサンドフィッシュが脳しんとうを起こすから、仕留めてくれ。魔法で出来るだろ?」
「わ、わかりました。焼かない方がいい、ですかね?」
焼いたものでも食べられるのかな?
『んまんま。こっちおいちぃ』
「焼いたサンドフィッシュの方が人気みたい」
「こちらの子たちもです。焼き魚は美味しいですものね」
マリウスが炎の魔法で仕留めたサンドフィッシュの方が美味いようだ。
正直、香ばしいニオイがたまらない。
仕留めた数は四〇匹を超える。
「なんだユユ。二匹でいいのか?」
『うん。体が大きくなったら、どうしてかあんまりお腹が減らなくなったの』
「え、大丈夫、なのか?」
まさか成長促進の弊害!?
「あー、食欲旺盛なのはガキの頃までだ。成長すりゃ、食う量は減るんだよ」
「そう、なのか。バフォおじさんが言うんなら、まぁ大丈夫か」
ただ心配はある。
これ以上ユユが子供を産んだら、さすがに食料が追い付かなくなるんじゃないかって。
新しく生まれた三匹の子供たちにも言える。
「ネズミ算式とまではいかないんだろうけど、どんどん増えていくとさすがにマズいな」
「そこは心配いらねぇ。十分な餌がねぇ状態だと、モンスターってのは繁殖しねぇんだよ。まぁ例外もいるけどな。頭の悪りぃゴブリンとかよ」
『いい土にしたくて、仲間いた方が早いかなって思ったの。でもたくさんいるとご飯食べられなくなるし。もう赤ちゃん産まないから安心して』
「そっか。ユユたちもちゃんと考えてくれてたんだな」
ワームって意外と賢いモンスターなのか。
知らなかった。
ワームの人口が単純に倍になったし、日陰用の木も増やしてやらなきゃな。
この十日の間に、土の状態は見違えるほどよくなった――と思う。
これまで俺が成長させた木以外、緑は皆無だった。
だけど――
「見てください! 葉っぱですっ。葉っぱが生えてますっ」
「これは……山羊邸の周辺に生えてるのと似てるな。種が風に乗って飛んできたのか」
「その種がここで芽吹いたのね。自然に生えて来たなんて、信じられないわ」
『葉ッパカワイイネェ』
『かわいい』
少しずつ。少しずつ、だけど着実に土壌改良は進んでいる。