「「どとんっ」」
「お、光が見えてき……おわっ。みんな下がれっ」
目の前で天井の土が崩れ落ちた。
ここは地底湖の先にあった通路。
アスの……お袋さんの亡骸のある横穴だ。
亡骸をそのままにしておくのもかわいそうな気がして、それでちゃんと埋葬することにした。
とはいえ、亡骸が大きすぎて穴から運び出すことが出来ない。
そしたらバフォおじさんが「手ぇかしてやってもいいぜ」と。
どうやら魔法で重量を軽くすることが出来るらしい。
それをみんなには内緒で、こそーっと使ってくれるそうだ。
「ふぅ。これで地上までの穴が開いたモグよ」
「あぁ、ありがとう。じゃ、次の作業は明日にしよう。みんなー、上で休んでくれぇ」
「「モグー」」
亡骸は一度、彼女自身が開けた穴から出す。
大きな布をアスが召喚した土の精霊に持たせておけば、亡骸の下にセットしてくれる。
それで包んで、あとはロープを使って吊り上げる方法だ。
土の精霊は力が強いってんで、アスに頑張ってもらうことになる。
もちろん、バフォおじさんが手を貸してくれるが。
「おかえりなさい、ユタカさん、みなさん」
「おかえり。ご飯で来てるわ。みんな食べて」
「やった。腹減ってたんだぁ」
『オ兄チャン、レタスレタスゥ』
「はいはい」
アス用にレタスを五つ成長させ、収穫する。
ルーシェが芯の部分をくり抜いてくれたら、レタスは花のように開いた。
こうすれば食べやすいんだってさ。
「ねぇ、どこに埋葬するか決めたの?」
「あぁ。アスがさ、桜の木の脇がいいって言うんだ」
『オ花キレイダカラ、オカアサンキットヨロコブノ』
「そうね。とてもいいと思います」
でも桜が咲くのは一年で一度だもんなぁ。俺が成長させれば年中咲かせられるけど。
そうすると木が直ぐに枯れることになるし、数日おきにここへ来なきゃいけなくなる。
それは無理だから、せめてここをいっぱいの花で埋め尽くしてやれればなぁ。
「んっ。このシチュー、美味いな」
「本当ですか!? ユタカさんが成長させてくださった調味料で、いろいろ試してみたんです」
「山羊のミルクも、最近は味が良くなってるはずだっておじさんが言ってたわ。安定して草が食べられるからって」
「お、サツマイモだ。へぇ、シチューにも合うんだなぁ」
「具だくさんで美味いモグ」
「モグモグ」
ドリュー族にも好評なようだ。
俺たちと一緒に共同生活をするようになってから、彼らの食生活も飛躍的に改善されたと言っていた。
毎日三食食べて、具だくさんのスープを食べられて、こんな幸せはないと。
最初こそ、三食こんなんでいつ食料がなくなるのかって心配をしていたけど、今では当たり前のように食べている。
だけどひもじい頃のことを忘れていない彼らは、具だくさんの食事を毎日喜んでいた。
俺がパンをシチューに浸して食べると、ドリュー族がすかさず真似をする。
「んまいモグ!」
「んほぉー。これはいいモグ。帰ったらさっそく子供たちにも教えるモグよ」
ここになぁ、チーズがあればさらに美味くなるだろうなぁ。
ピザトーストみたいになってさ。
『ボクモシチュー食ベタァイ』
「アスも? 食べられるか?」
『ワカンナイ』
そうかぁ、分かんないかぁ。
「食べさせてみます?」
「草食なら、お肉だけ除ければいいんじゃない?」
「そうだな。食べさせてみるか」
肉を取り除いて、アスにもシチューを出してみた。
アスの手は指がちゃんと五本あるから、物を掴むことは出来る。
さすがにスプーンみたいな細いものは無理だけども。
木の皿を両手で掴むと、アスはシチューを口の中に流し込んだ。
『ンク、ンク。ンン、美味シイ。スゴク美味シイヨ!』
「お、食べられるのか」
「でも念のため、様子を見た方がいいと思います」
「そうね。あとになってお腹が痛くなることだってあるもの」
「だな。今日はその一杯だけな」
『エェー。モット食ベタカッタナァ』
少し心配したものの、翌朝になってもアスの体調に変化はなかった。
そして朝になるとバフォおじさんもやって来たのでそのことを話してみると――
「別に火が通ってたって腹を下したりはしねぇよ。肉だってな、ぜってぇ食えねぇ訳じゃねえんだ。好まないってだけでな」
「そうだったのか」
「お前ぇらに人間が草を食っても美味いと思わねぇのと一緒だ。もちろん、肉食のドラゴンもいる。まぁ肉食の方が多いんだがな」
『ジャーボク、ミンナト同ジゴハンデモイイノ?』
「おう。まぁ肉は不味いだろうから、除けてもらえ」
『ウン!』
俺たちと同じご飯が食べられる。
それだけでアスは嬉しいようだ。
「じゃ、アスのために野菜料理をたくさん作らなきゃね」
「香辛料は少なめの方がいいと思います。アスはまだ子供だもの」
「あぁ、そうだな。あのハバネロは絶対ダメだ。あんな辛いもの食ったら、口から火ぃ噴く……そういえばアスって、ブレスとか吐けないのか?」
ドラゴンと言えばブレスだ。
アースドラゴンだと、火を吐くイメージはないけれど。
「そりゃ大きくなりゃ吐くだろう」
「アースドラゴンのブレスって、どんな?」
「あ? 火だろ。水竜と氷竜以外のドラゴンは、どの種でも火を吐くぜ」
「あぁ、そうだったんだ」
火かぁ。大型モンスターを丸焼きするのには便利そうだな。
火力調整出来れば、だけど。
「よし、そんじゃ今日の作業を開始しますか」
「「おー! モグ」」
「アス。精霊を召喚して、お袋さんに布を巻いてやってくれ」
『ウン』
アスが召喚した精霊が布を持って地面に潜る。
ずももっと出てきた時には、白い布はお袋さんの亡骸の下に敷かれていた。
なお、アスたちを襲ったモンスターの方は、昨日のうちに精霊と俺のコンビネーションで腐らせ、土に還してある。
真っ白な布が、お袋さんの亡骸を包んでいく。
すぐに染みが出来て、あっという間に土色になった。
包んだところでロープをかけ、第一段階のところまで引き上げる。
おじさん、頼むぜ。
目で合図すると、おじさんが白い歯を見せた。
お、おぉ。引き上げられるぞ!
『ノームガンバッテ』
『もっもっも』
精霊の頑張りで第一段階まで十分程度で亡骸を引き上げられた。
第二段階は地上だ。
ドリュー族が開けた穴から外に出す。
わっせわっせ、もっももっもと声を合わせて慎重に亡骸を外へと出す。
三十分ほどで外に出し終え、布を外して太陽に当ててやる。
アスに見せてもいいものか悩んだけど、本人が見るっていうから……。
亡骸の傍にたたずむアス。
「ユタカさん」
「ほら、今でしょ」
ルーシェとシェリルが桜の木を指さす。
そうだったな。
葉もすっかり散ってしまった桜に触れ、スキルを発動。
あっという間に薄桃色の花が咲く。
八部咲きで止めておいた。
『ミテオカアサン。綺麗ナオ花ダヨ』
風が吹くと、少しばかりの花びらが舞った。
「親子での花見は叶わないけれど、時々俺たちが一緒に来て、花見をしてやろうぜ」
「そうですね。きっとアスもお母様も喜びますよ」
「お弁当も作らなきゃね」
「お、いいねぇ」
お米があればなぁ。
花見の弁当っていったら、やっぱおにぎりが欲しかった。
にしても――
「なんか風が強いな」
「花びらが散ってしまいそうです」
「なんなのよ、この突風」
いきなり風が強くなって、桜の花びらがめちゃくちゃ飛んでいく。
春一番か?
いや、そもそも季節なんてあったっけ、ここ?
そして突然、辺りが暗くなる。
いや、影だ。
この辺一帯が日陰になったんだ。
おかしいな。さっきまで雲一つなかったのに。
見上げるとそこに。
『グオオオオオォォォォォォォォッ』
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ドラゴンがいた。
「お、光が見えてき……おわっ。みんな下がれっ」
目の前で天井の土が崩れ落ちた。
ここは地底湖の先にあった通路。
アスの……お袋さんの亡骸のある横穴だ。
亡骸をそのままにしておくのもかわいそうな気がして、それでちゃんと埋葬することにした。
とはいえ、亡骸が大きすぎて穴から運び出すことが出来ない。
そしたらバフォおじさんが「手ぇかしてやってもいいぜ」と。
どうやら魔法で重量を軽くすることが出来るらしい。
それをみんなには内緒で、こそーっと使ってくれるそうだ。
「ふぅ。これで地上までの穴が開いたモグよ」
「あぁ、ありがとう。じゃ、次の作業は明日にしよう。みんなー、上で休んでくれぇ」
「「モグー」」
亡骸は一度、彼女自身が開けた穴から出す。
大きな布をアスが召喚した土の精霊に持たせておけば、亡骸の下にセットしてくれる。
それで包んで、あとはロープを使って吊り上げる方法だ。
土の精霊は力が強いってんで、アスに頑張ってもらうことになる。
もちろん、バフォおじさんが手を貸してくれるが。
「おかえりなさい、ユタカさん、みなさん」
「おかえり。ご飯で来てるわ。みんな食べて」
「やった。腹減ってたんだぁ」
『オ兄チャン、レタスレタスゥ』
「はいはい」
アス用にレタスを五つ成長させ、収穫する。
ルーシェが芯の部分をくり抜いてくれたら、レタスは花のように開いた。
こうすれば食べやすいんだってさ。
「ねぇ、どこに埋葬するか決めたの?」
「あぁ。アスがさ、桜の木の脇がいいって言うんだ」
『オ花キレイダカラ、オカアサンキットヨロコブノ』
「そうね。とてもいいと思います」
でも桜が咲くのは一年で一度だもんなぁ。俺が成長させれば年中咲かせられるけど。
そうすると木が直ぐに枯れることになるし、数日おきにここへ来なきゃいけなくなる。
それは無理だから、せめてここをいっぱいの花で埋め尽くしてやれればなぁ。
「んっ。このシチュー、美味いな」
「本当ですか!? ユタカさんが成長させてくださった調味料で、いろいろ試してみたんです」
「山羊のミルクも、最近は味が良くなってるはずだっておじさんが言ってたわ。安定して草が食べられるからって」
「お、サツマイモだ。へぇ、シチューにも合うんだなぁ」
「具だくさんで美味いモグ」
「モグモグ」
ドリュー族にも好評なようだ。
俺たちと一緒に共同生活をするようになってから、彼らの食生活も飛躍的に改善されたと言っていた。
毎日三食食べて、具だくさんのスープを食べられて、こんな幸せはないと。
最初こそ、三食こんなんでいつ食料がなくなるのかって心配をしていたけど、今では当たり前のように食べている。
だけどひもじい頃のことを忘れていない彼らは、具だくさんの食事を毎日喜んでいた。
俺がパンをシチューに浸して食べると、ドリュー族がすかさず真似をする。
「んまいモグ!」
「んほぉー。これはいいモグ。帰ったらさっそく子供たちにも教えるモグよ」
ここになぁ、チーズがあればさらに美味くなるだろうなぁ。
ピザトーストみたいになってさ。
『ボクモシチュー食ベタァイ』
「アスも? 食べられるか?」
『ワカンナイ』
そうかぁ、分かんないかぁ。
「食べさせてみます?」
「草食なら、お肉だけ除ければいいんじゃない?」
「そうだな。食べさせてみるか」
肉を取り除いて、アスにもシチューを出してみた。
アスの手は指がちゃんと五本あるから、物を掴むことは出来る。
さすがにスプーンみたいな細いものは無理だけども。
木の皿を両手で掴むと、アスはシチューを口の中に流し込んだ。
『ンク、ンク。ンン、美味シイ。スゴク美味シイヨ!』
「お、食べられるのか」
「でも念のため、様子を見た方がいいと思います」
「そうね。あとになってお腹が痛くなることだってあるもの」
「だな。今日はその一杯だけな」
『エェー。モット食ベタカッタナァ』
少し心配したものの、翌朝になってもアスの体調に変化はなかった。
そして朝になるとバフォおじさんもやって来たのでそのことを話してみると――
「別に火が通ってたって腹を下したりはしねぇよ。肉だってな、ぜってぇ食えねぇ訳じゃねえんだ。好まないってだけでな」
「そうだったのか」
「お前ぇらに人間が草を食っても美味いと思わねぇのと一緒だ。もちろん、肉食のドラゴンもいる。まぁ肉食の方が多いんだがな」
『ジャーボク、ミンナト同ジゴハンデモイイノ?』
「おう。まぁ肉は不味いだろうから、除けてもらえ」
『ウン!』
俺たちと同じご飯が食べられる。
それだけでアスは嬉しいようだ。
「じゃ、アスのために野菜料理をたくさん作らなきゃね」
「香辛料は少なめの方がいいと思います。アスはまだ子供だもの」
「あぁ、そうだな。あのハバネロは絶対ダメだ。あんな辛いもの食ったら、口から火ぃ噴く……そういえばアスって、ブレスとか吐けないのか?」
ドラゴンと言えばブレスだ。
アースドラゴンだと、火を吐くイメージはないけれど。
「そりゃ大きくなりゃ吐くだろう」
「アースドラゴンのブレスって、どんな?」
「あ? 火だろ。水竜と氷竜以外のドラゴンは、どの種でも火を吐くぜ」
「あぁ、そうだったんだ」
火かぁ。大型モンスターを丸焼きするのには便利そうだな。
火力調整出来れば、だけど。
「よし、そんじゃ今日の作業を開始しますか」
「「おー! モグ」」
「アス。精霊を召喚して、お袋さんに布を巻いてやってくれ」
『ウン』
アスが召喚した精霊が布を持って地面に潜る。
ずももっと出てきた時には、白い布はお袋さんの亡骸の下に敷かれていた。
なお、アスたちを襲ったモンスターの方は、昨日のうちに精霊と俺のコンビネーションで腐らせ、土に還してある。
真っ白な布が、お袋さんの亡骸を包んでいく。
すぐに染みが出来て、あっという間に土色になった。
包んだところでロープをかけ、第一段階のところまで引き上げる。
おじさん、頼むぜ。
目で合図すると、おじさんが白い歯を見せた。
お、おぉ。引き上げられるぞ!
『ノームガンバッテ』
『もっもっも』
精霊の頑張りで第一段階まで十分程度で亡骸を引き上げられた。
第二段階は地上だ。
ドリュー族が開けた穴から外に出す。
わっせわっせ、もっももっもと声を合わせて慎重に亡骸を外へと出す。
三十分ほどで外に出し終え、布を外して太陽に当ててやる。
アスに見せてもいいものか悩んだけど、本人が見るっていうから……。
亡骸の傍にたたずむアス。
「ユタカさん」
「ほら、今でしょ」
ルーシェとシェリルが桜の木を指さす。
そうだったな。
葉もすっかり散ってしまった桜に触れ、スキルを発動。
あっという間に薄桃色の花が咲く。
八部咲きで止めておいた。
『ミテオカアサン。綺麗ナオ花ダヨ』
風が吹くと、少しばかりの花びらが舞った。
「親子での花見は叶わないけれど、時々俺たちが一緒に来て、花見をしてやろうぜ」
「そうですね。きっとアスもお母様も喜びますよ」
「お弁当も作らなきゃね」
「お、いいねぇ」
お米があればなぁ。
花見の弁当っていったら、やっぱおにぎりが欲しかった。
にしても――
「なんか風が強いな」
「花びらが散ってしまいそうです」
「なんなのよ、この突風」
いきなり風が強くなって、桜の花びらがめちゃくちゃ飛んでいく。
春一番か?
いや、そもそも季節なんてあったっけ、ここ?
そして突然、辺りが暗くなる。
いや、影だ。
この辺一帯が日陰になったんだ。
おかしいな。さっきまで雲一つなかったのに。
見上げるとそこに。
『グオオオオオォォォォォォォォッ』
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ドラゴンがいた。