「五分後には来ると思う」
あちらさんは「十五分」と言ったが、それよりも早く突撃してくるだろう。
十五分といったから、それまで俺たちがバカ正直に「欲しいもの相談」をしている――と思っているだろうから。
待ってやるといって待たないのが王道。
そんな王道に付き合ってやる必要なんてない。
もちろん、あいつらが本当に待ってくれているかもしれないから、こっちから何かする気はない。
ただ、奴らは別だ。
バフォおじさんの奥さんが見つけた、見慣れない人間。
奴らは「この前来た悪い人間に似ている」とのことだ。
「盗賊のみなさんにはご退場願おう」
崖の上に向かって手を振る。
それに応えるのは大きな爪を持つドリュー族たちだ。
上の方から「どとん」という声が聞こえだすと、同時に悲鳴が木霊した。
崖を登って来る盗賊たちの頭上で、土が大量に降り注いだらどうなるだろうか。
聞こえてくる悲鳴が全てを物語っている。
反対側の崖からも、同じように悲鳴が聞こえてきた。
そっちには移住してきたお隣さんとアスがいる。
アスには土の精霊魔法があるし、盗賊どもを崖から落とすのも簡単だろうな。
「来ないわねぇ」
「まだ来ませんねぇ」
「まぁ竹って、意外と頑丈だからね」
俺たちはやってくるであろう騎士たちに備えている。
すぐに侵入出来ないよう、それと向こうの体力を削るために竹を用意した。
時間差で成長するようにしてあるから、今頃狭い谷底は竹林になってるだろうなぁ。
しばらくして、パカンパカンという音が響いて来た。
逆にその頃にはドリュー族から「盗賊は片付いたモグ」という報告も入っている。
「あー、そろそろかなぁ」
「やっとね」
「待ちくたびれてしまいますね」
「君ら、緊張感ないな……」
オーリが後ろで呆れていた。
やっと現れたご一行様は、疲れ切っていた。
竹林伐採、ご苦労様です。
「きさ……貴様らぁっ。ダ、ダイチ、ユタカを……今すぐだせ!!」
「めちゃくちゃ息切れしてきれられても、全然威圧感ないんだけど」
「だま、れぇ!」
「ちなみにお探しの人物は俺なんだけど?」
と自己紹介すると、先頭にいた隊長っぽい奴が首を傾げ、それから何やら紙を取り出して広げた。
「はっ。どこまで我らを、愚弄、するっ」
「ダイチユタカを出せっ」
「匿うというなら、痛い目に、あわ、せるぞっ」
「いやいや、本当に俺が大地豊なんだってば」
なんで信用しないんだ?
「お前ではないっ。こいつだ!」
騎士隊長がこちらに向けて広げた紙に、絵が描かれていた。
たらこ唇で、ものもらいしたように腫れた瞼。髪もぼーぼー。そばかすまであった。
「「誰?」」
ここにいる集落の人全員がつっこんだ。
「こいつがダイチユタカだ! 知らないとは言わせんぞっ」
「ダイチユタカは知っているが、そんな腫れた顔の男は知らん」
「っていうか、下手くそすぎないその絵?」
「ユタカさんはもっとステキなお顔立ちですっ」
あいつら、あの絵だけを頼りに俺を探していたのか?
いや、むしろあの絵で俺だと分かった盗賊たちはどうなっているんだ?
あんな顔だって思われてたってこと?
なんか凄いショックです。
ようやく理解したのか、騎士隊長が似顔絵と俺とを見比べて、指さした。
だから頷いて応える。
「お前がダイチユタカか!?」
「こ、こそこそと隠れやがって」
「うん、まぁさっきは嘘ついて悪かったよ。でも今は隠れてないから」
「だ、黙れっ。今すぐ我々と一緒に来いっ」
「だが断る」
「なんだと!?」
「俺をあっさりぽい捨てしたくせに、今更なんだっていうんだ」
「き、貴様には関係ない! 来ないというなら、力づくでも連れていく!」
隊長がそう言うと、騎士が全員剣を抜いた。
同時にこちらもみんな、武器を構える。
俺の武器は――
「"成長促進"!」
これだ!
投げたのはトマトの種。一気に成長するよう指定したから、地面に落ちた瞬間ににょきにょき伸び始めた。
伸びた蔓が騎士の足に絡みつく。
ひとつふたつなら別にどうってことはないだろう。
でも二十、三十の蔓が巻き付けば、さすがに邪魔だろう。
「な、なんだこれは!?」
「うえっ。気持ち悪ぃ」
「何しているんだっ。あいつを連れて帰らないと、王女に――くそ、焼き払ってやる!」
あ、おい。魔術師がトマト燃やそうとしているぞ!
「"ファイアー……"」
「ンメェー」
この声は……バフォおじさん……とこの仔山羊!?
崖から下りて来たのかっ。
「ひっ――"ボォール!"」
仔山羊程度にビビるなよぉ!
魔術師が放った火球が、仔山羊に向かって――
「「どとん」」
「どとん」「どとん」「どとん」
聞こえてきたどとんの声。
崖に立つ仔山羊の足元に、まるでサルノコシカケのように土がにょきっと生えた。
火球は土にぶつかって四散する。
「やった!」
「オレたちが仔山羊を守ったぞぉ」
「やったぁ」
「山羊ちゃん、早くにげるおぉ」
崖の上にいたのは、トミーやクリフ……ドリュー族の子供たちだ。
あいつら、岩塩洞窟に隠れていたはずじゃ。
けど。
「よくやったぞ!」
よう言って拳を突き上げると、子供たちも喜んで「「おー!」」と応えた。
「成長させてて、正解だったわね」
「子供たちも立派な戦士ですね」
「まったくだ」
ドリュー族の子供たちの傍には、人間族の子供たちもいる。
そして石を投げつけていた。
こちらも逞しいなぁ。
あと、子供たちの隣にアレがいた。
「みんな、すこーし下がろうぜ」
「え? どうしたの」
「何かあったのですか、ユタカさん」
「いや、これからあるんだよ。おーい、お前も下りて来てこっちこーい」
仔山羊を呼ぶと、メェーっとかわいい声で鳴きながらやって来た。
その直後だ。
「お前ぇら、オレ様のでぇじな倅に……なんてことしやがんだああぁぁぁぁぁっ」
地獄の門が、開いた。
と思う。
あちらさんは「十五分」と言ったが、それよりも早く突撃してくるだろう。
十五分といったから、それまで俺たちがバカ正直に「欲しいもの相談」をしている――と思っているだろうから。
待ってやるといって待たないのが王道。
そんな王道に付き合ってやる必要なんてない。
もちろん、あいつらが本当に待ってくれているかもしれないから、こっちから何かする気はない。
ただ、奴らは別だ。
バフォおじさんの奥さんが見つけた、見慣れない人間。
奴らは「この前来た悪い人間に似ている」とのことだ。
「盗賊のみなさんにはご退場願おう」
崖の上に向かって手を振る。
それに応えるのは大きな爪を持つドリュー族たちだ。
上の方から「どとん」という声が聞こえだすと、同時に悲鳴が木霊した。
崖を登って来る盗賊たちの頭上で、土が大量に降り注いだらどうなるだろうか。
聞こえてくる悲鳴が全てを物語っている。
反対側の崖からも、同じように悲鳴が聞こえてきた。
そっちには移住してきたお隣さんとアスがいる。
アスには土の精霊魔法があるし、盗賊どもを崖から落とすのも簡単だろうな。
「来ないわねぇ」
「まだ来ませんねぇ」
「まぁ竹って、意外と頑丈だからね」
俺たちはやってくるであろう騎士たちに備えている。
すぐに侵入出来ないよう、それと向こうの体力を削るために竹を用意した。
時間差で成長するようにしてあるから、今頃狭い谷底は竹林になってるだろうなぁ。
しばらくして、パカンパカンという音が響いて来た。
逆にその頃にはドリュー族から「盗賊は片付いたモグ」という報告も入っている。
「あー、そろそろかなぁ」
「やっとね」
「待ちくたびれてしまいますね」
「君ら、緊張感ないな……」
オーリが後ろで呆れていた。
やっと現れたご一行様は、疲れ切っていた。
竹林伐採、ご苦労様です。
「きさ……貴様らぁっ。ダ、ダイチ、ユタカを……今すぐだせ!!」
「めちゃくちゃ息切れしてきれられても、全然威圧感ないんだけど」
「だま、れぇ!」
「ちなみにお探しの人物は俺なんだけど?」
と自己紹介すると、先頭にいた隊長っぽい奴が首を傾げ、それから何やら紙を取り出して広げた。
「はっ。どこまで我らを、愚弄、するっ」
「ダイチユタカを出せっ」
「匿うというなら、痛い目に、あわ、せるぞっ」
「いやいや、本当に俺が大地豊なんだってば」
なんで信用しないんだ?
「お前ではないっ。こいつだ!」
騎士隊長がこちらに向けて広げた紙に、絵が描かれていた。
たらこ唇で、ものもらいしたように腫れた瞼。髪もぼーぼー。そばかすまであった。
「「誰?」」
ここにいる集落の人全員がつっこんだ。
「こいつがダイチユタカだ! 知らないとは言わせんぞっ」
「ダイチユタカは知っているが、そんな腫れた顔の男は知らん」
「っていうか、下手くそすぎないその絵?」
「ユタカさんはもっとステキなお顔立ちですっ」
あいつら、あの絵だけを頼りに俺を探していたのか?
いや、むしろあの絵で俺だと分かった盗賊たちはどうなっているんだ?
あんな顔だって思われてたってこと?
なんか凄いショックです。
ようやく理解したのか、騎士隊長が似顔絵と俺とを見比べて、指さした。
だから頷いて応える。
「お前がダイチユタカか!?」
「こ、こそこそと隠れやがって」
「うん、まぁさっきは嘘ついて悪かったよ。でも今は隠れてないから」
「だ、黙れっ。今すぐ我々と一緒に来いっ」
「だが断る」
「なんだと!?」
「俺をあっさりぽい捨てしたくせに、今更なんだっていうんだ」
「き、貴様には関係ない! 来ないというなら、力づくでも連れていく!」
隊長がそう言うと、騎士が全員剣を抜いた。
同時にこちらもみんな、武器を構える。
俺の武器は――
「"成長促進"!」
これだ!
投げたのはトマトの種。一気に成長するよう指定したから、地面に落ちた瞬間ににょきにょき伸び始めた。
伸びた蔓が騎士の足に絡みつく。
ひとつふたつなら別にどうってことはないだろう。
でも二十、三十の蔓が巻き付けば、さすがに邪魔だろう。
「な、なんだこれは!?」
「うえっ。気持ち悪ぃ」
「何しているんだっ。あいつを連れて帰らないと、王女に――くそ、焼き払ってやる!」
あ、おい。魔術師がトマト燃やそうとしているぞ!
「"ファイアー……"」
「ンメェー」
この声は……バフォおじさん……とこの仔山羊!?
崖から下りて来たのかっ。
「ひっ――"ボォール!"」
仔山羊程度にビビるなよぉ!
魔術師が放った火球が、仔山羊に向かって――
「「どとん」」
「どとん」「どとん」「どとん」
聞こえてきたどとんの声。
崖に立つ仔山羊の足元に、まるでサルノコシカケのように土がにょきっと生えた。
火球は土にぶつかって四散する。
「やった!」
「オレたちが仔山羊を守ったぞぉ」
「やったぁ」
「山羊ちゃん、早くにげるおぉ」
崖の上にいたのは、トミーやクリフ……ドリュー族の子供たちだ。
あいつら、岩塩洞窟に隠れていたはずじゃ。
けど。
「よくやったぞ!」
よう言って拳を突き上げると、子供たちも喜んで「「おー!」」と応えた。
「成長させてて、正解だったわね」
「子供たちも立派な戦士ですね」
「まったくだ」
ドリュー族の子供たちの傍には、人間族の子供たちもいる。
そして石を投げつけていた。
こちらも逞しいなぁ。
あと、子供たちの隣にアレがいた。
「みんな、すこーし下がろうぜ」
「え? どうしたの」
「何かあったのですか、ユタカさん」
「いや、これからあるんだよ。おーい、お前も下りて来てこっちこーい」
仔山羊を呼ぶと、メェーっとかわいい声で鳴きながらやって来た。
その直後だ。
「お前ぇら、オレ様のでぇじな倅に……なんてことしやがんだああぁぁぁぁぁっ」
地獄の門が、開いた。
と思う。