「砂漠での護衛だって？」
二カ月ぶりに王都へと召還された皇帝たち異世界人は、突然砂漠に行けと命じられた。
ただ必要なのは三人だけ。
指名されたのは荒木皇帝、伊勢崎金剛、諸星輝星の三人。
「ぼ、僕らが砂漠に？ い、いったい何故だ」
「まさか俺たちを追放しようってんじゃ……」
「違いますわ。ある人物を探し出して欲しいのです」
「ある人物？ まさか……砂漠に捨てた大地のことか」
皇帝の言葉にアリアンヌ王女は頷いた。
「今更、何故ですか！？」
「り、隣国で日照りが続き、農作物の収穫量が半減しているの。だから彼を売って差し上げようと思ってね。だって我が国でもあの者は必要ないんですもの」
「大地を売る？ はは、まるで奴隷だな。彼に似つかわしい」
「そ、そうでしょう？ だから探してきてちょうだい」
うまく騙せた――と、アリアンヌが確証した。
彼ら三人は、他者を見下して優越感に浸るタイプだと把握している。
大地豊を「今必要な人材だから」とだけ話せば、確実に拒むだろう。
だから「うちでは必要ないから売り払う」と回りくどい言い方をした。
案の定、三人の機嫌はよくなった。
まぁ実際は、早急に自国で必要としているのだが。
これで奴も見つかるだろう。
アリアンヌはそう思った。
だが――
「お断りする」
「そうですか。行ってくれ――え？」
「お断りする。そう言いました」
「だよなぁ。なーんで俺らが砂漠に行かなきゃならねぇんだ」
「砂漠なんて行ってたら、僕らのイケメン肌が荒れて、女子どもが悲しむだろう」
皇帝がそう言って髪をかき上げると、謁見の間にいた若い令嬢や侍女らがほぉっとため息を吐く。
確かに荒木皇帝はイケメンの部類に入るが、それ以上に彼女らには「異世界から来た英雄」というフィルターが掛かっていた。
そのせいでイケメン度が一〇倍増しになっていたのだろう。
「ボクらには人並外れた力がある。だけど力があるからと言って、不死身じゃないんだ。砂漠になんて言ったら、熱中症や脱水症状で死ぬかもしれないだろ」
「それとも王女は、僕たちを大地のように……」
「ち、違いますわっ。断じてそんなことっ」
「だったら俺らじゃなくって、別の奴を行かせてくれよ」
「そ、そうですわね……では小林様と三田様に――」
うんうんと頷く金剛《キング》とは違い、皇帝《シーザー》は慌てた。
「だ、だめだ！ 二人も僕らと同じで、不死身ではないんだぞっ」
「え？ 別にいいじゃん、皇帝。あいつらなら死んだって――」
「おい、黙ってろ金剛。他のクラスメイトたちもそうだ。貴重な異世界人の戦力を、たかが大地ひとりのために無駄にする気かい、王女殿下」
「そ、それは……ではどうしろとっ。あの者の顔をはっきり覚えている家臣はいないのよっ」
「それに関しては心配には及ばない。似顔絵を渡そう」
皇帝はポケットに手を滑り込ませる。
そこには使い慣れたスマホがあった。
もちろんネットには繋がらない。
だがスマホ内にある画像を開くことは出来る。
ともに召喚されたクラスメイトのひとりが、モバイル用のソーラーバッテリーを持っていた。
そのおかげで充電だけは出来るのだ。
「山田に写真を見せて似顔絵を描かせる」
「あぁアイツ、絵は得意だったもんな」
という訳で、三人は非戦闘スキルを持つクラスメイトたちが働く工房へと向かった。
その途中で金剛が皇帝に尋ねる。
「なんで三田たちに行かせなかったんだ？」
「金剛、君は本当に何も考えていないんだね」
「なんだとぉ」
「考えてもみたまえ。僕らに訓練なんて必要はない。だけど世間体というものもあるから、やっているフリはしなきゃならないだろう。実際にやっている三田たちのおかげで、そのフリもしやすくなっているんだぞ」
「な、なるほど。あいつらのおかげで楽をしていても、この世界の連中にバレないってことか」
つまり三人は努力なんてものをしたくはない。
だが世間には努力しているように見られた。
そのために、他のクラスメイトに努力させているのだ。
そうすることで異世界人は、皇帝ら三人も努力しているように思っている――から。
実際にそうなのだから、異世界人チョロいと思っているだろう。
「それに、いざという時の肉壁は多い方がいいだろう？」
と、皇帝は悪い顔をして言う。
「あぁ、確かに」
「ボクらさえ死ななければ、勝利は確実だしね」
金剛と輝星も笑う。
所変わって、三田や小林らだが――
「王女が俺たちを砂漠に行かせようとしたらしい」
「聞いた。でも荒木くんたちが阻止してくれたんだろう？」
「荒木くん……いつも偉そうにしてて腹が立つこともあったけど、本当は……いい奴だったのかも」
「マジ感謝だよなぁ。大地には悪いけど、砂漠になんて放りだされたら生きていける自信ない」
「異世界だし、モンスターもいるだろうしなぁ」
「俺、鳥取砂丘なら平気だぜ」
「バーカ。俺だって平気さ」
「俺も俺も」
「「あはははははははは」」
いつか肉壁にされるとも知らず、彼らの頭の中はお花畑であった。
その二日後、王国所属の魔術師二名、同じく神官が二名、そして騎士が十名、魔法によって砂漠へと転移した。
「さて……この広い砂漠でどうやってこの者を探すのか」
小隊長である騎士がため息を吐く。
その手に握られた羊皮紙には、大地豊の似顔絵が描かれていた。
「にしても、だいぶん醜い少年だな」
「こんな少年、いましたっけ？」
召喚の儀式に立ち会った魔術師二人が、隊長騎士が握る似顔絵を見て首を傾げた。
皇帝たちが山田に描かせた似顔絵。
初稿ではかなり似ていた。
とりたててイケメンという訳でもない大地だが、中の上――と言った感じで、悪くもない。
人当たりもよく、なんだかんだと面倒見もいい。
それでも目立たないのは、このクラスに皇帝金剛輝星の三人がいるからだ。
この三人がいなければ、大地にトキメク女子もいただろう。
実際、バレンタインシーズンでは数個のチョコを貰っていたのだから。
しかし皇帝らはその数個も許せなかった。
その数個が貰える程度に整った顔立ちの大地が許せなかった。
だがら――
改変したのだ。
大地の似顔絵を。
そのせいで隊長が手にしている似顔絵は、ほぼ別人レベルにまでなっている。
「こんな砂しかない場所で……そもそも人を見つけるのだって困難だぞ」
「愚痴ったところで仕方がないだろう。見つけなければ帰れないんだぞっ」
「俺……結婚したばっかりなんだぜ」
「俺なんてもうすぐ子供が生まれるんだぞっ」
「うちは小さな子が二人……生きて帰りたいよ」
彼らはみな、家族がいた。
だから全員帰りたいと願っている。
王女はそういった者だけを選んで砂漠に行かせた。
でなければ任務を放棄をして、逃亡するかもしれないからだ。
逃亡も出来ない。
無事に王都へ戻るためには大地を見つけなければならない。
彼ら一四名は絶望の旅へと出た。
だが、その度は一瞬にして終わる。
「これはこれは、面白い一行ですなぁ。いったいどこの王国騎士どのかな？」
砂船に乗って現れたのは、脂ぎった顔に脂ののった体格の商人風の男だった。
二カ月ぶりに王都へと召還された皇帝たち異世界人は、突然砂漠に行けと命じられた。
ただ必要なのは三人だけ。
指名されたのは荒木皇帝、伊勢崎金剛、諸星輝星の三人。
「ぼ、僕らが砂漠に？ い、いったい何故だ」
「まさか俺たちを追放しようってんじゃ……」
「違いますわ。ある人物を探し出して欲しいのです」
「ある人物？ まさか……砂漠に捨てた大地のことか」
皇帝の言葉にアリアンヌ王女は頷いた。
「今更、何故ですか！？」
「り、隣国で日照りが続き、農作物の収穫量が半減しているの。だから彼を売って差し上げようと思ってね。だって我が国でもあの者は必要ないんですもの」
「大地を売る？ はは、まるで奴隷だな。彼に似つかわしい」
「そ、そうでしょう？ だから探してきてちょうだい」
うまく騙せた――と、アリアンヌが確証した。
彼ら三人は、他者を見下して優越感に浸るタイプだと把握している。
大地豊を「今必要な人材だから」とだけ話せば、確実に拒むだろう。
だから「うちでは必要ないから売り払う」と回りくどい言い方をした。
案の定、三人の機嫌はよくなった。
まぁ実際は、早急に自国で必要としているのだが。
これで奴も見つかるだろう。
アリアンヌはそう思った。
だが――
「お断りする」
「そうですか。行ってくれ――え？」
「お断りする。そう言いました」
「だよなぁ。なーんで俺らが砂漠に行かなきゃならねぇんだ」
「砂漠なんて行ってたら、僕らのイケメン肌が荒れて、女子どもが悲しむだろう」
皇帝がそう言って髪をかき上げると、謁見の間にいた若い令嬢や侍女らがほぉっとため息を吐く。
確かに荒木皇帝はイケメンの部類に入るが、それ以上に彼女らには「異世界から来た英雄」というフィルターが掛かっていた。
そのせいでイケメン度が一〇倍増しになっていたのだろう。
「ボクらには人並外れた力がある。だけど力があるからと言って、不死身じゃないんだ。砂漠になんて言ったら、熱中症や脱水症状で死ぬかもしれないだろ」
「それとも王女は、僕たちを大地のように……」
「ち、違いますわっ。断じてそんなことっ」
「だったら俺らじゃなくって、別の奴を行かせてくれよ」
「そ、そうですわね……では小林様と三田様に――」
うんうんと頷く金剛《キング》とは違い、皇帝《シーザー》は慌てた。
「だ、だめだ！ 二人も僕らと同じで、不死身ではないんだぞっ」
「え？ 別にいいじゃん、皇帝。あいつらなら死んだって――」
「おい、黙ってろ金剛。他のクラスメイトたちもそうだ。貴重な異世界人の戦力を、たかが大地ひとりのために無駄にする気かい、王女殿下」
「そ、それは……ではどうしろとっ。あの者の顔をはっきり覚えている家臣はいないのよっ」
「それに関しては心配には及ばない。似顔絵を渡そう」
皇帝はポケットに手を滑り込ませる。
そこには使い慣れたスマホがあった。
もちろんネットには繋がらない。
だがスマホ内にある画像を開くことは出来る。
ともに召喚されたクラスメイトのひとりが、モバイル用のソーラーバッテリーを持っていた。
そのおかげで充電だけは出来るのだ。
「山田に写真を見せて似顔絵を描かせる」
「あぁアイツ、絵は得意だったもんな」
という訳で、三人は非戦闘スキルを持つクラスメイトたちが働く工房へと向かった。
その途中で金剛が皇帝に尋ねる。
「なんで三田たちに行かせなかったんだ？」
「金剛、君は本当に何も考えていないんだね」
「なんだとぉ」
「考えてもみたまえ。僕らに訓練なんて必要はない。だけど世間体というものもあるから、やっているフリはしなきゃならないだろう。実際にやっている三田たちのおかげで、そのフリもしやすくなっているんだぞ」
「な、なるほど。あいつらのおかげで楽をしていても、この世界の連中にバレないってことか」
つまり三人は努力なんてものをしたくはない。
だが世間には努力しているように見られた。
そのために、他のクラスメイトに努力させているのだ。
そうすることで異世界人は、皇帝ら三人も努力しているように思っている――から。
実際にそうなのだから、異世界人チョロいと思っているだろう。
「それに、いざという時の肉壁は多い方がいいだろう？」
と、皇帝は悪い顔をして言う。
「あぁ、確かに」
「ボクらさえ死ななければ、勝利は確実だしね」
金剛と輝星も笑う。
所変わって、三田や小林らだが――
「王女が俺たちを砂漠に行かせようとしたらしい」
「聞いた。でも荒木くんたちが阻止してくれたんだろう？」
「荒木くん……いつも偉そうにしてて腹が立つこともあったけど、本当は……いい奴だったのかも」
「マジ感謝だよなぁ。大地には悪いけど、砂漠になんて放りだされたら生きていける自信ない」
「異世界だし、モンスターもいるだろうしなぁ」
「俺、鳥取砂丘なら平気だぜ」
「バーカ。俺だって平気さ」
「俺も俺も」
「「あはははははははは」」
いつか肉壁にされるとも知らず、彼らの頭の中はお花畑であった。
その二日後、王国所属の魔術師二名、同じく神官が二名、そして騎士が十名、魔法によって砂漠へと転移した。
「さて……この広い砂漠でどうやってこの者を探すのか」
小隊長である騎士がため息を吐く。
その手に握られた羊皮紙には、大地豊の似顔絵が描かれていた。
「にしても、だいぶん醜い少年だな」
「こんな少年、いましたっけ？」
召喚の儀式に立ち会った魔術師二人が、隊長騎士が握る似顔絵を見て首を傾げた。
皇帝たちが山田に描かせた似顔絵。
初稿ではかなり似ていた。
とりたててイケメンという訳でもない大地だが、中の上――と言った感じで、悪くもない。
人当たりもよく、なんだかんだと面倒見もいい。
それでも目立たないのは、このクラスに皇帝金剛輝星の三人がいるからだ。
この三人がいなければ、大地にトキメク女子もいただろう。
実際、バレンタインシーズンでは数個のチョコを貰っていたのだから。
しかし皇帝らはその数個も許せなかった。
その数個が貰える程度に整った顔立ちの大地が許せなかった。
だがら――
改変したのだ。
大地の似顔絵を。
そのせいで隊長が手にしている似顔絵は、ほぼ別人レベルにまでなっている。
「こんな砂しかない場所で……そもそも人を見つけるのだって困難だぞ」
「愚痴ったところで仕方がないだろう。見つけなければ帰れないんだぞっ」
「俺……結婚したばっかりなんだぜ」
「俺なんてもうすぐ子供が生まれるんだぞっ」
「うちは小さな子が二人……生きて帰りたいよ」
彼らはみな、家族がいた。
だから全員帰りたいと願っている。
王女はそういった者だけを選んで砂漠に行かせた。
でなければ任務を放棄をして、逃亡するかもしれないからだ。
逃亡も出来ない。
無事に王都へ戻るためには大地を見つけなければならない。
彼ら一四名は絶望の旅へと出た。
だが、その度は一瞬にして終わる。
「これはこれは、面白い一行ですなぁ。いったいどこの王国騎士どのかな？」
砂船に乗って現れたのは、脂ぎった顔に脂ののった体格の商人風の男だった。
