「父ちゃんたちだけずるーい」
「「ずるーい」」
ある日、ドリュー族のお子様方が頬を膨らませて抗議しに来た。
一番チビのリナ五歳の頭をなでてやると、えへぇっと笑顔になる。
「リナっ。今ボクたちはユタカ兄ちゃんに激オコなんだぞ」
「あっ。お兄ちゃま、なでなでしちゃメっ」
メって言われてもなぁ。
かわいいなぁ。
「あらあら、どうしましたか?」
「みんな集まっちゃって、どうしたのよ」
ルーシェたちもやって来て、ぷぅっと頬を膨らませている子供たちを撫でた。
小さな子は嬉しそうに顔が緩んで、それから慌ててキリっとする。
「ユタカ兄ちゃんが、父ちゃんたちだけ魔力の成長をさせてるんだ。ずるいよね!」
「え……ず、ずるい、ですか?」
「何言ってんの。あんたたちはまだ小さいんだから、今は魔力を成長させる必要ないの」
「なんでだよ!」
「オレたちだって、この集落を守る義務があるんだっ」
義務――とか難しい言葉を使っているのは、お子様軍団最年長の一三歳クリフだ。
やんちゃなトミーに比べて大人しい男の子だが、最年長だけあって他の子の面倒見がいい。
だから人一倍、自分がしっかりしなきゃって責任感はあるんだろうな。
まぁクリフが「他の子を守るために」っていうなら分かるんだけど、なんでリナみたいな小さな子まで……。
「ど・と・ん」
「ど・と・ん」
子供たちが合唱するように、どとんどとんと言い始めた。
はっはーん、こいつら……。
「まだどとんをちゃんと使えないんだろう?」
「「ぎくっ」」
「やっぱりな。それで魔力を成長させれば、使えるようになると思ってんだろう」
「「ぎぎくっ」」
トミーとクリフを見ると、こちらはそうでもないらしい。
「父ちゃんたちが悪い奴らと戦っている間、ボクらがチビたちを守らなきゃいけないんだっ」
「トミーの言う通りです! だからオレたちの魔力も、成長させてくださいっ」
「トミー、クリフ……」
「みんな立派です。家族や仲間を守りたいという気持ちが、ちゃんとあるのですから」
「そうね。砂漠の民は助け合っていかなきゃ生きていけない。この子たちは立派な子よ」
と、予想外にルーシェとシェリルが二人の味方をする。
更にここで――
『ジャー、ボクノ魔力モ成長サセテヨォ』
と、見た目は大きい癖に中身はお子様なアスまで出てきてしまった。
でもなアス。
たぶん今の状態でも、俺たちと比べたらすげー魔力量だと思うぞ。
「まぁいいじゃねーか」
「バフォおじさんまでっ」
子供と散歩中だったようで、バフォおじさんの周りには四匹の仔山羊がいた。
仔山羊かわいい。
近づいて来た一匹を撫でようと手を伸ばすと、バフォおじさんに唾を飛ばされた。
「娘に手ぇだすんじゃねーっ。嫁にゃやらめぇーぞ!」
「雄も雌も俺には区別つかねーよっ」
「なんだと! お、お前ぇ……雄も雌もどっちも行ける口だってぇのか!?」
「そうじゃなぁーい!」
俺とバフォおじさんのやりとりを、ルーシェたちは笑いを堪えて見ている。
不思議そうな顔をしているドリュー族の小さな子たちと、少し大きな子たちは俺から一歩離れた。
誤解してるじゃないか!?
「は、話を戻すっ。なんでバフォおじさんは、いいと思うんだ」
「あ? そりゃお前ぇ、小せぇうちから成長させたほうが、魔力が体に馴染みやすいからだ」
バフォおじさん曰く――
同じ魔法の才能を持った子がいたとして、五歳から修行した子と一五歳から修行した子では、それぞれが二十歳になった時にはずいぶん変わるという。
そう説明されると、納得しない訳にはいかない。
それに子供というのは自然に任せても成長するものだ。
それに引き換え、大人は肉体的な成長がほとんどない。
同じ条件で強引に魔力を成長させても、大人たちより子供たちの方が上手く馴染んで、予想外な成長も期待できるかも――と。
「魔力が増えりゃ、新しいスキルに目覚めるかもしれねぇだろ?」
「え? そうなのか!?」
「なんとなく言ってみただけだ。ベェーッヘッヘ」
殴りたい。
「ユタカさん。私たちからもお願いします」
「ルーシェ……」
「この子たちの気持ち、私たちには分かるのよ」
「シェリルまで」
「前に……中型のモンスターがここに入り込もうとしたことがありまして」
入れないと分かると、渓谷の入り口に陣取って人間が出てくるのを待っていたという。
しかも十数匹の群れで。
「獲物がいると分かると、モンスターはそこから動かなくなります。砂漠ではモンスターも獲物を探すのが大変ですから」
「だから倒すしかないの。それで……父さんが……」
「私たちはまだ未熟でした。だから一緒に連れて行ってもらえませんでした」
二人の父親、オーリのご両親、ダッツの兄、フィップの姉……五人が集落を守るためにモンスターと戦い、みんな命を落としてしまった――と。
「もう少し私たちに力があれば、一緒に戦えた」
「私たちがいたらみんなが生きていたのになんて言いません。でも……後悔しない日はないんです」
後悔……か。
両親は交通事故で亡くなった。
大雨が降っていて、傘を忘れた俺が迎えに来てくれって電話で頼んだんだ。
そのまま外で飯でも食おうって、母さんと一緒に親父が学校に向かっていた。
そして……事故った。
信号待ちをしているところに、雨のせいで信号が良く見えなかったという車が突っ込んで来て……。
俺が傘を持っていれば。
俺が迎えに来てくれと言わなければ。
雨の日にはいつも後悔していた。
この子たちも、自分たちが何もしないでもし大人たちが命を落とす――いや、怪我をしただけでも後悔するんだろうな。
「分かったよ」
そう伝えると、子供たちは嬉しそうに飛び跳ねた。
だがな。
「みんなを一度に成長させてたら、俺の魔力が底をつくだろ! 順番だからなっ」
「「はーい」」
『ハーイ』
まって、アスは待って。
ほんと、俺の魔力が干からびるからっ。
「「ずるーい」」
ある日、ドリュー族のお子様方が頬を膨らませて抗議しに来た。
一番チビのリナ五歳の頭をなでてやると、えへぇっと笑顔になる。
「リナっ。今ボクたちはユタカ兄ちゃんに激オコなんだぞ」
「あっ。お兄ちゃま、なでなでしちゃメっ」
メって言われてもなぁ。
かわいいなぁ。
「あらあら、どうしましたか?」
「みんな集まっちゃって、どうしたのよ」
ルーシェたちもやって来て、ぷぅっと頬を膨らませている子供たちを撫でた。
小さな子は嬉しそうに顔が緩んで、それから慌ててキリっとする。
「ユタカ兄ちゃんが、父ちゃんたちだけ魔力の成長をさせてるんだ。ずるいよね!」
「え……ず、ずるい、ですか?」
「何言ってんの。あんたたちはまだ小さいんだから、今は魔力を成長させる必要ないの」
「なんでだよ!」
「オレたちだって、この集落を守る義務があるんだっ」
義務――とか難しい言葉を使っているのは、お子様軍団最年長の一三歳クリフだ。
やんちゃなトミーに比べて大人しい男の子だが、最年長だけあって他の子の面倒見がいい。
だから人一倍、自分がしっかりしなきゃって責任感はあるんだろうな。
まぁクリフが「他の子を守るために」っていうなら分かるんだけど、なんでリナみたいな小さな子まで……。
「ど・と・ん」
「ど・と・ん」
子供たちが合唱するように、どとんどとんと言い始めた。
はっはーん、こいつら……。
「まだどとんをちゃんと使えないんだろう?」
「「ぎくっ」」
「やっぱりな。それで魔力を成長させれば、使えるようになると思ってんだろう」
「「ぎぎくっ」」
トミーとクリフを見ると、こちらはそうでもないらしい。
「父ちゃんたちが悪い奴らと戦っている間、ボクらがチビたちを守らなきゃいけないんだっ」
「トミーの言う通りです! だからオレたちの魔力も、成長させてくださいっ」
「トミー、クリフ……」
「みんな立派です。家族や仲間を守りたいという気持ちが、ちゃんとあるのですから」
「そうね。砂漠の民は助け合っていかなきゃ生きていけない。この子たちは立派な子よ」
と、予想外にルーシェとシェリルが二人の味方をする。
更にここで――
『ジャー、ボクノ魔力モ成長サセテヨォ』
と、見た目は大きい癖に中身はお子様なアスまで出てきてしまった。
でもなアス。
たぶん今の状態でも、俺たちと比べたらすげー魔力量だと思うぞ。
「まぁいいじゃねーか」
「バフォおじさんまでっ」
子供と散歩中だったようで、バフォおじさんの周りには四匹の仔山羊がいた。
仔山羊かわいい。
近づいて来た一匹を撫でようと手を伸ばすと、バフォおじさんに唾を飛ばされた。
「娘に手ぇだすんじゃねーっ。嫁にゃやらめぇーぞ!」
「雄も雌も俺には区別つかねーよっ」
「なんだと! お、お前ぇ……雄も雌もどっちも行ける口だってぇのか!?」
「そうじゃなぁーい!」
俺とバフォおじさんのやりとりを、ルーシェたちは笑いを堪えて見ている。
不思議そうな顔をしているドリュー族の小さな子たちと、少し大きな子たちは俺から一歩離れた。
誤解してるじゃないか!?
「は、話を戻すっ。なんでバフォおじさんは、いいと思うんだ」
「あ? そりゃお前ぇ、小せぇうちから成長させたほうが、魔力が体に馴染みやすいからだ」
バフォおじさん曰く――
同じ魔法の才能を持った子がいたとして、五歳から修行した子と一五歳から修行した子では、それぞれが二十歳になった時にはずいぶん変わるという。
そう説明されると、納得しない訳にはいかない。
それに子供というのは自然に任せても成長するものだ。
それに引き換え、大人は肉体的な成長がほとんどない。
同じ条件で強引に魔力を成長させても、大人たちより子供たちの方が上手く馴染んで、予想外な成長も期待できるかも――と。
「魔力が増えりゃ、新しいスキルに目覚めるかもしれねぇだろ?」
「え? そうなのか!?」
「なんとなく言ってみただけだ。ベェーッヘッヘ」
殴りたい。
「ユタカさん。私たちからもお願いします」
「ルーシェ……」
「この子たちの気持ち、私たちには分かるのよ」
「シェリルまで」
「前に……中型のモンスターがここに入り込もうとしたことがありまして」
入れないと分かると、渓谷の入り口に陣取って人間が出てくるのを待っていたという。
しかも十数匹の群れで。
「獲物がいると分かると、モンスターはそこから動かなくなります。砂漠ではモンスターも獲物を探すのが大変ですから」
「だから倒すしかないの。それで……父さんが……」
「私たちはまだ未熟でした。だから一緒に連れて行ってもらえませんでした」
二人の父親、オーリのご両親、ダッツの兄、フィップの姉……五人が集落を守るためにモンスターと戦い、みんな命を落としてしまった――と。
「もう少し私たちに力があれば、一緒に戦えた」
「私たちがいたらみんなが生きていたのになんて言いません。でも……後悔しない日はないんです」
後悔……か。
両親は交通事故で亡くなった。
大雨が降っていて、傘を忘れた俺が迎えに来てくれって電話で頼んだんだ。
そのまま外で飯でも食おうって、母さんと一緒に親父が学校に向かっていた。
そして……事故った。
信号待ちをしているところに、雨のせいで信号が良く見えなかったという車が突っ込んで来て……。
俺が傘を持っていれば。
俺が迎えに来てくれと言わなければ。
雨の日にはいつも後悔していた。
この子たちも、自分たちが何もしないでもし大人たちが命を落とす――いや、怪我をしただけでも後悔するんだろうな。
「分かったよ」
そう伝えると、子供たちは嬉しそうに飛び跳ねた。
だがな。
「みんなを一度に成長させてたら、俺の魔力が底をつくだろ! 順番だからなっ」
「「はーい」」
『ハーイ』
まって、アスは待って。
ほんと、俺の魔力が干からびるからっ。