「え? 魔力を成長させてほしいだって?」
「モグ」

 盗賊を撃退した翌日、昼過ぎに起きた俺の所へドリュー族がやって来た。

「わしらドリュー族には、種族スキルがあるモグ」
「種族スキル? そんなものがあるのか」
「モグ。人間にはそういうのがないと聞いたモグが、わしらドリュー族は誰でも使えるスキルがひとつあるモグ」

 実際にそのスキルを見せてやると言うのでついていく。
 向かったのは崖下。
 そこでトレバーが地面に両手をつき、

「どとんモグ!」

 ――と。

 え、ちょっと待って。
 ど、土遁?
 ドリュー族って、忍者ポジションだったのか!?

 ずずんっと振動があったかと思うと、トレバーの前にある崖に穴が開いた。
 それからトレバーが直ぐに横を向く。
 すると地面がもこっと盛り上がった。

 どういうこと?

「ふぅ。これが土とんモグ。わしからある程度の範囲にある土を、任意の場所に移すスキルモグ」
「土を……移動させる?」
「そうモグ。まぁ主に掘った土を外に出すのに使っているモグよ」

 思ってた土遁と違う……。

「わしらにとっては便利はスキルだが、なんせドリュー族は魔力が少ないモグ。二、三回使うと、疲れてしまうモグよ」
「そう、なんだ。魔力が増えれば、開けられる穴のサイズとかが増えるのかな」
「モグ。ちなみに穴は、こうして崖に開けることも出来るモグが、もちろん、地面にも開けられるモグよ」

 地面に――トレバーがにやりと笑う。
 もしかして盗賊対策に落とし穴を掘るってことか?

「これなら事前に穴を掘らなくても、悪い奴らを一瞬で落とせるモグ」
「あっ、そうか。スキルだし、時間を掛けずに落とし穴を作れるって訳だ」
「モグ。だが今のままだとあの通り、小さな穴しか掘れん。だから魔力を成長させて欲しいモグ」

 他にもトンネルを掘って、崖の移動も楽にしたいというのもあるらしい。
 あの燃える団子作りの場所へもトンネルを繋げれば、上り下りが減って移動も早くなるだろうって。
 確かにそれは助かるな。





「って訳で、ドリュー族の魔力を少しずつ成長させることにしたんだ」
「少しずつなの?」
「うん。まぁさ、どのくらいまで成長させてもいいのか分からないし」

 それに関しては俺も同じだ。
 よく魔法を使い過ぎて気絶するなんて設定の漫画や小説は見る。
 ならその逆は?
 突然膨大な魔力を手に入れたら、体は……精神は耐えられるんだろうか?

 そんなことを一瞬考えたもんだから、怖くなって一気に成長させられなくなった。
 ということもあって、手の空いた時に少しずつ成長させてみている。

「私たちも、魔力のことはよく分かりませんしねぇ」
「町に行けば魔術師がいるって、父さんが言ってたわ。そういう人なら詳しいんだろうけど」
「あぁ、西の町ってところか」
「はい。でも遠くて……歩くと一カ月ぐらい掛かるんです」

 砂漠を一カ月も移動するのは、確かに無謀だよな。
 けどあの盗賊たちは、砂船で二、三日って言ってたな。
 船なら日中も走らせるし、交代で操舵すれば二四時間動かせる。

 欲しいなぁ、砂船。

 でも今のはいいヒントになった。

 そうだよ。
 魔力のことは魔術師がよく知っている。
 魔術師じゃないが、魔法に詳しいおじさんがいるじゃないか。





「で、少しずつ成長させているんだ。でも一気に成長させても安全なら、一気に――」
「それはやめとけ。許容量を超える魔力を手に入れると、魔力が暴走してあぶねぇぞ」
「やっぱりかぁ」

 相談した相手はバフォおじさんだ。
 彼ならいろいろ知っているだろう。

「魔力をな、水に例えるとする。で、それを入れる器がある訳だ。突然、器に入りきらない量の水が現れたらどうなる?」
「まぁ、零れる?」
「そうだ。ダダ洩れだ。漏れるだけならいい。まぁ魔法が使えるやつがそうなると、さっき言ったみてぇに暴走してあぶねぇけどな」

 だけど器が貧弱で、一度に大量の水を注ぐと……

「器が壊れて、水を溜められなくなる。つまり魔力がなくなるってぇことだ」
「スキルが使えなくなるのか。それは困るな」
「使えなくなるだけじゃねえ。最悪の場合、死ぬかもしれねぇぞ」
「うえっ。マジか」
「お前ぇがちまちま成長させてたのは、正解だ。出来れば一度成長させたら、数日は置いた方がい。でだ、魔力を疲れるぐらい使うんだ。そうすりゃ、魔力を貯める器のサイズも大きくなりやすい」

 へぇ。器のほうも大きくなるのか。

「器も成長させたり……出来ないかな」
「例えただけで、目に見えてる器じゃねえぞ。まぁ出来る出来ないはオレぁ知らねぇが、どっちにしろ突然大魔力なんて手に入れたら、スキルを暴走しかねねぇ。少しずつ慣らしていけよ」
「分かった。そうするよ」
「しっかし、お前ぇのスキルは、なんでも成長させちまうんだなぁ」
「生きているものなら、ね」

 じゃ、ドリュー族に話しておくか。

 魔力の成長は三日に一度、少しずつ。
 成長した日は、疲れるまでスキルを使う事。
 そういう計画で進めることになった。

 帰宅してそのことをルーシェたちに話すと、

「私も成長させてくださいっ」

 とルーシェが身を乗り出す。
 せ、成長って……もしかして胸?
 いやいやいやいや。違う、断じてそうじゃない。

「私も。もっと強くなって、集落を守りたいもの」
「あ、魔力のことね」
「なんのことだと思ったのですか?」
「いやいや、なんでもないよ」

 口が裂けても言えない。

「魔力もだけど、ユタカみたいに身体能力も成長させて欲しいわね」
「あ、私もです。もっと俊敏に動けるようになったらって、いつも思っていました」

 いやいや。まだ強くなる気か。
 むしろ成長させてやっと追いつけそうなとこなのに。

「し、身体能力の方はその……お、俺も男だし……女の子を守ってあげたいじゃん」
「え? ユタカさんが、私たちを?」
「な、なに言ってんのよ。守られるほど、弱くないんだからっ」
「そうだけど。でもやっぱり守りたいんだ。二人には世話になってばかりだしさ」
「そんなこと……私たちの方こそ、ユタカさんには助けられています」

 そんなルーシェの言葉に、シェリルも頷く。

「ユタカさん。あなたが私たちを守りたいと思ってくださるように、私たちもユタカさんを守りたいんです」
「そうよ。どちらか片方だけ守られるなんて、不公平じゃない」
「だからこうしましょう。三人が同じような強さになるよう、成長させてください」
「二人も……俺を……」

 そうだ。二人は初めて出会った時もそうだったじゃないか。
 俺を守ろうとしてくれた。
 二人は戦士なんだ。
 か弱いヒロインじゃない。

 そうだ。三人で強くなればいい。
 そのためにも――

「じゃ……俺がもう少し成長しなきゃな」
「え?」
「だって俺の方が弱いじゃん。そもそも二人の身体能力って、ビックリするほど高いんだからな」
「そ、そうなの、ですか?」
「き、気にしたことなかったわ」

 そりゃそうだろう。自分たちのことなんだし。

「うぅ、もうしばらくお待ちください」
「わ、分かりました」
「む、無理しなくていいんだからね」
「いや。二人を守るためだから、頑張るよ」

 と拳を握りしめ言ったところで、盛大に腹が鳴った。
 やや間を空けて、二人が笑い出す。

「……ごめん。ほんっと空気の読めない胃袋でごめん」
「ふふ、ふふふ。いいんです」
「あはは。ご飯にしましょう」
「ですね」

 くそぉ、俺の胃袋めぇ。
 だがナイスだ。
 ちょっと恥ずかしいことを言ったから、話題を変えたかったんだ。

 あぁ。
 マジで俺、なんて恥ずかしいことを。
 あれじゃまるで、プロポーズの言葉みたいじゃねえか!

 ああぁぁ、なんでバフォおじさんのにやけ顔が浮かぶんだよ!!