「なんでも話しますから、どうか触らないでくださいっ」

 腰を抜かして逃げられなかったのは四人。他は全員逃げた。
 こんなことだったら時間差で成長する巨豆の木を向こう側に植えておくんだったなぁ。
 あと……脅したとはいえ、触らないでくださいとか言われたらちょっと傷つく。

「じゃ、話して貰おうか」

 そう言って右手をわきわきして見せた。

「ひいいいぃぃぃぃぃ。なななな、なんでもお答えしますっ」

 傷つくなぁ。傷つく。もっとわきわきしてやろう。

 怯えて口が軽くなった奴らは全員、砂漠の盗賊団だという。
 
「砂船って、あの帆船か?」
「そ、そうですっ。ソリみたいになってやしてね、魔道具で動かすんっすよ。へへへ」

 その砂船に乗って西に二、三日のところに、この砂漠唯一の町があるらしい。
 盗賊たちは町の周辺で商団を襲ったりしているそうだ。

「そんなオレらに、取引を持ち掛けてきた商人がいましてね。へへ」
「そいつ、太ってたか?」
「へ? まぁ、そうっすね」

 あいつだな。

「目的はドラゴンの子供だろう?」
「えっと、それは……」
「ん?」

 わきわきしてみる。

「ひいぃぃ、そうですっ。三メートル弱の子供のドラゴンがいるはずだからそいつを捕まえて来いってっ。ついでにいい女もいるからって、へへ」

 男はルーシェとシェリルを見て、下品な笑みを浮かべる。

「私たちのことかしら?」
「お褒め頂き、ありがとうございます」

 ルーシェが大剣を担ぎ、シェリルが弓に矢を番える。

「ひいぃぃぃぃ、すすす、すみません許してください命だけはっ」
「ユタカくん。そいつらをどうするんだい?」
「んー、どうしましょうか……」

 法が存在する世界――いや、あるんだろうけど、この砂漠ではないよな。
 だからって感情に任せて処刑なんてのも嫌だ。
 温いことを言ってるのかもしれないけど、日本って国で生まれ育ってたらそう簡単に人を殺せる人間にはならないだろう。
 なりたくもない。

「こいつらの仲間はどこかにいるのかな?」
「崖の先端から見てたモグが、その砂船っていうのに乗って西に逃げて行ったモグよ」
「追跡してくれてて助かるよ、オースティン」
「いやいや。わしら、目がいいのと穴を掘ること以外で役に立てんモグから。あぁ、あとかわいいから癒しにはなるモグな」

 はいはい、モグかわいい。
 よく考えたら三〇代のおっさんなんだよな、オースティンとかトレバーって。
 おっさんが自分のことかわいいとか言ってるの、なんか怖いんだけど。

「ベヘヘェ。ベヘ、ベヘヘェ」
「あ? どうしたんだ、バフォおじさん」
「ベエェ」

 なんで山羊の鳴きまねなんがしているんだ。
 もしかして、こっちへ来いって言ってる?
 付いていくと、離れた所で立ち止まった。

「おい、やつらにバジリスクのことを聞いてみろ」
「バジリスク?」
「なんでやつらはここの場所を知った?」

 なんで……そうだ。なんで知ったんだ。
 まさか。

 すぐさま戻って怯える男たちに尋ねた。
 もちろん、わきわきしながら。

「お前らが集落にバジリスクを襲わせたのか?」
「はひっ。そ、そうです。バジリスクが嫌うサンド・シャークの糞と――」
「あぁ、クサイ話はいい」
「はひっ。と、とにかく南部のバジリスクを三体砂漠に向かわせて、あとは獲物をチラつかせて見つけた集落に誘導したんですっ」

 襲えば別の集落に避難するだろう。
 逃げた先の集落に俺たちがいればよし。いなければまたモンスターに襲わせて、別の集落へ向かわせる。
 そのために住民には生きていてもらわなければならないから、ただ集落の上を通過させるのに苦労した――と言っていた。
 そんな苦労しるか!

 けど変な話、一発目で当ててくれてよかったかもしれない。
 マストたちがここじゃなく、他の集落に逃げていたらそっちも襲われただろうからな。
 
 アスを奪い取るために、モンスターを使って集落を襲わせるなんて……。
 しかもこいつら、そのことに罪悪感も何も感じていない。

「決めた」
「なにを?」
「こいつらをどうするか」

 怯える盗賊たちに手をわきわきして見せて――

「や、やめてくれっ」
「お願いだっ。命だけはっ」





 命は奪わない。
 奪ったのは武器。その他の持ち物。
 まぁ真っ裸ってのはかわいそうだし、女性陣に見苦しい物を見せる訳にもいかないしな。

「あんなのでいいの?」
「運が良ければ仲間と合流しちゃいますよ?」

 真夜中の砂漠へと歩き出す盗賊たちを見送った。

「運があれば、な」
「また襲ってきたら?」
「その時は、また脅して撃退するさ」

 と言ったものの、こっちの手の内を半分ぐらいは知っただろうし、次は備えてくるだろうなぁ。
 ならこっちはさらに備えておかないと。

 まずは――

「なぁ、お腹……空かないか」
「そう……ね」
「で、ですがこんな時間に食べてしまっては、太ってしまいますっ」
「いやいや、ルーシェはそんなこと、気にしなくていいと思うぞ」

 むしろ今でも痩せすぎなほうだと思う。

「き、気にしますっ。私だって……私だって、綺麗に……見られたい、ですから」

 そう言って頬を染めるルーシェは、月明かりに照らされているのもあって綺麗……に見えた。

「い、いや、綺麗だって。十分綺麗だよ」
「そ、そんなことありませんっ」
「いや、本当だって。でもさ、俺はルーシェもシェリルも、もう少ししっかり食べて、健康的でいて欲しいなって思うんだ」
「健康的、ですか?」
「そ。そりゃさ、太り過ぎるのは良くないぜ。ほら、この前の悪徳商人みたいなさ。あれはダメだ。でもほどよく肉付きがいい方が、健康的に見えるしさ。だから――」

 ルーシェは俺の言葉にじっと耳を傾けている。
 その顔はどこか恍惚としているようにも見えた。
 その顔を見ていると、こっちまでドキドキしてきて……。

「なんかカッコつけた言い方してるけど、夜食が食べたいだけでしょ?」

 と隣でシェリルがツッコミを入れた時、俺の腹がぐぅーっと鳴った。