ついにこの日がやってきた!
ついに……ついに異世界で初風呂!!
の、はずだったんだが、集落に急な来客があった。
「ユタカくん、あの薬草を貰えないか?」
「分かりました。すぐ量産します」
怪我人だ。
ここから徒歩一日の距離にある、お隣の集落から二〇人ほどがやって来た。
集落が襲われ、逃げて来たという。
ドリュー族も手伝ってくれて、量産した薬草は直ぐに塗り薬に。
小さな子まで怪我をして……かわいそうに。
死者は出なかったということで、その点は幸いだ。
治療と同時に食事も用意された。
それを見てみんな驚いている。
「野菜が豊富だ。それに木……木が生えている。去年来た時にはなかったのに、いったいどうなっているんだオーリ」
「まぁ……話せば長くなる。今は食え」
前にオーリから相談されたことがあった。
自分たちだけが十分な食事が出来ていることに、罪悪感を持っている。
出来る事なら、他の集落にも作物を分けてやりたい――と。
ただ成長促進のスキルは、一日に使える回数、実際には年数か、それには限界がある。
そんな状態で近隣の集落に「作物がすぐに育つスキルがある」なんて話して、我も我もという状態になれば俺がぶっ倒れてしまう。
オーリもそのことは十分に理解している。
だからここで野菜を自然栽培出来るようになったら、他の集落に分けてやりたい。
そのために俺のスキルで支援してくれないか……と。
気を使ってくれることは嬉しいし、俺だって出来るならこのスキルでいろんな人の役に立ちたいと思っている。
出来る事ならなんだって手伝うと、オーリには伝えた。
それもあって他の集落には俺のことも、スキルのことも何も伝えていない。
それがこんな形で知られることになるとは。
けど仕方ない。モンスターに集落を襲われたんじゃ、逃げるしかないもんな。
一番近い隣の集落がここだったって訳だ。
怪我をした人も、暖かい物を食べると気持ちが落ち着いたようだ。
「とりあえず、みんな落ち着いたわね」
「オーリ。ツリーハウスいらないか?」
「いや。元々我々が使っていたテントがある。大丈夫だ」
ひとまず綺麗なシーツをかき集め、彼らに提供。
翌日には彼らから話を聞けることになった。
どんなモンスターが、どう襲って来たのか。
「バジリスク? おい、バジリスクなんてこの辺りにはいないはずじゃ? そうだろう、ルーシェ」
「はい。バジリスクはもっと南部の荒れ地に生息しているモンスターです。砂地である砂漠にいるなんて、おかしいですね」
そうなのか? とシェリルに尋ねると、彼女は頷いた。
バジリスクは砂の上を素早く動けないらしく、それで砂地であるこの辺りには生息していないらしい。
「バジリスクが砂漠に来る理由ってなんだろう」
「うぅん……バジリスクより強いモンスターに追われたりしたら……かなぁ」
「そんなモンスター、いる?」
そう聞くと、シェリルは一瞬アスを見た。
アスがって訳じゃないだろう。
ドラゴンがってことだろうな。
でもドラゴンなんて、その辺にうじゃうじゃしてる訳ないだろうし。
「まぁとにかく無事でよかった。落ち着くまでここにいればいい」
「助かるよ。けど……ここはいったいどうしたんだ。なんでこんな……緑がいっぱい」
そりゃ気になるよなぁ。
「あの。その件は俺から説明するよ」
「ユタカくん。いいのかい?」
オーリの気遣いに俺は頷く。
だけどいつかは説明しなきゃならないんだ。先延ばしにしても仕方がない。
で、口で説明するより見て貰ったほうが早い。
人参の種をインベントリから一つ取り出し、成長させて見せる。
「……え?」
「これが俺のスキルだ。まぁこのスキルのせいで、魔法で砂漠に強制転移させられたんだけどな」
「な、なんでまた!? こんな素晴らしいスキルなのにっ」
「ここではそうかもしれないけど、緑が溢れている土地では必要ないんだ」
一日にせいぜい数十人の食料を生産出来る程度のスキルだ。
雀の涙にもほどがある。
そう説明すると、彼も――隣の集落の最年長であるマストも納得した。
翌日、大人たちが話し合って小川の向こう側をマストたちに使って貰おうってことになった。
「でも向こう側の土地は、畑として使う予定だったんじゃ」
自然栽培が軌道に乗れば、他所の集落に配る野菜も作れる。
そのために少し広い畑が欲しかった。
川の傍ってのもあって、畑として使うにも都合が良かったんだけどな。
「だったら、わしらが貰った土地を使えばいいモグ」
「トレバー。でもそうしたらドリュー族はどうするんだよ。」
「モグゥ。わしらは穴を掘って暮らす種族モグよ。忘れたモグか?」
「"成長促進"」
種が実るまで。二階建て。子供も喜ぶ家に――そう指定しながらスキルを使用。
もさもさと葉が茂り、立派なツリーハウスが完成する。
「ユタカ兄ちゃん、あそこに種あるよ」
「お、トミー。見つけてくれてサンキューな」
トミーが見つけた種をシェリルがひょいひょいっと登って収穫。
それをまた成長させて、二軒目完成。さらにもう一軒。
魔力を成長させたおかげで、一日三軒まではいけるな。
「残りはまた明日で。悪いな、俺の魔力じゃこれが限界なんだ」
「そんな、謝らないでくれ。君のおかげで、こうして家を持つことが出来た。感謝しかないよ」
「子供たちも喜んでるわ。ありがとうございます」
ドリュー族が暮らす西側の崖の上に、避難してきた集落の人たち用の家を植えることになった。
ドリュー族の家もだいぶ完成に近づいてて、もう中で生活することも出来るらしい。
ってことで、彼らはこのままここで暮らすことになった。
人間族の人口が一気に倍になったなぁ。
ま、メリットもあるだろう。
人数が増えたことで、出来ることも増える。
主に周辺の開拓だけど。
ただ……。
『ユタカ兄チャン、ドウシタノ?』
「ん。いやな、なーんか気になるんだ」
『気ニナル?』
どうしてもバジリスクのことが気になって仕方がない。
なんでわざわざ北上してきたのか。
バジリスクを追いやるほどのモンスターが南部にいるのか。
とにかく今は、そのバジリスクがこっちに来ないことを祈ろう。
ついに……ついに異世界で初風呂!!
の、はずだったんだが、集落に急な来客があった。
「ユタカくん、あの薬草を貰えないか?」
「分かりました。すぐ量産します」
怪我人だ。
ここから徒歩一日の距離にある、お隣の集落から二〇人ほどがやって来た。
集落が襲われ、逃げて来たという。
ドリュー族も手伝ってくれて、量産した薬草は直ぐに塗り薬に。
小さな子まで怪我をして……かわいそうに。
死者は出なかったということで、その点は幸いだ。
治療と同時に食事も用意された。
それを見てみんな驚いている。
「野菜が豊富だ。それに木……木が生えている。去年来た時にはなかったのに、いったいどうなっているんだオーリ」
「まぁ……話せば長くなる。今は食え」
前にオーリから相談されたことがあった。
自分たちだけが十分な食事が出来ていることに、罪悪感を持っている。
出来る事なら、他の集落にも作物を分けてやりたい――と。
ただ成長促進のスキルは、一日に使える回数、実際には年数か、それには限界がある。
そんな状態で近隣の集落に「作物がすぐに育つスキルがある」なんて話して、我も我もという状態になれば俺がぶっ倒れてしまう。
オーリもそのことは十分に理解している。
だからここで野菜を自然栽培出来るようになったら、他の集落に分けてやりたい。
そのために俺のスキルで支援してくれないか……と。
気を使ってくれることは嬉しいし、俺だって出来るならこのスキルでいろんな人の役に立ちたいと思っている。
出来る事ならなんだって手伝うと、オーリには伝えた。
それもあって他の集落には俺のことも、スキルのことも何も伝えていない。
それがこんな形で知られることになるとは。
けど仕方ない。モンスターに集落を襲われたんじゃ、逃げるしかないもんな。
一番近い隣の集落がここだったって訳だ。
怪我をした人も、暖かい物を食べると気持ちが落ち着いたようだ。
「とりあえず、みんな落ち着いたわね」
「オーリ。ツリーハウスいらないか?」
「いや。元々我々が使っていたテントがある。大丈夫だ」
ひとまず綺麗なシーツをかき集め、彼らに提供。
翌日には彼らから話を聞けることになった。
どんなモンスターが、どう襲って来たのか。
「バジリスク? おい、バジリスクなんてこの辺りにはいないはずじゃ? そうだろう、ルーシェ」
「はい。バジリスクはもっと南部の荒れ地に生息しているモンスターです。砂地である砂漠にいるなんて、おかしいですね」
そうなのか? とシェリルに尋ねると、彼女は頷いた。
バジリスクは砂の上を素早く動けないらしく、それで砂地であるこの辺りには生息していないらしい。
「バジリスクが砂漠に来る理由ってなんだろう」
「うぅん……バジリスクより強いモンスターに追われたりしたら……かなぁ」
「そんなモンスター、いる?」
そう聞くと、シェリルは一瞬アスを見た。
アスがって訳じゃないだろう。
ドラゴンがってことだろうな。
でもドラゴンなんて、その辺にうじゃうじゃしてる訳ないだろうし。
「まぁとにかく無事でよかった。落ち着くまでここにいればいい」
「助かるよ。けど……ここはいったいどうしたんだ。なんでこんな……緑がいっぱい」
そりゃ気になるよなぁ。
「あの。その件は俺から説明するよ」
「ユタカくん。いいのかい?」
オーリの気遣いに俺は頷く。
だけどいつかは説明しなきゃならないんだ。先延ばしにしても仕方がない。
で、口で説明するより見て貰ったほうが早い。
人参の種をインベントリから一つ取り出し、成長させて見せる。
「……え?」
「これが俺のスキルだ。まぁこのスキルのせいで、魔法で砂漠に強制転移させられたんだけどな」
「な、なんでまた!? こんな素晴らしいスキルなのにっ」
「ここではそうかもしれないけど、緑が溢れている土地では必要ないんだ」
一日にせいぜい数十人の食料を生産出来る程度のスキルだ。
雀の涙にもほどがある。
そう説明すると、彼も――隣の集落の最年長であるマストも納得した。
翌日、大人たちが話し合って小川の向こう側をマストたちに使って貰おうってことになった。
「でも向こう側の土地は、畑として使う予定だったんじゃ」
自然栽培が軌道に乗れば、他所の集落に配る野菜も作れる。
そのために少し広い畑が欲しかった。
川の傍ってのもあって、畑として使うにも都合が良かったんだけどな。
「だったら、わしらが貰った土地を使えばいいモグ」
「トレバー。でもそうしたらドリュー族はどうするんだよ。」
「モグゥ。わしらは穴を掘って暮らす種族モグよ。忘れたモグか?」
「"成長促進"」
種が実るまで。二階建て。子供も喜ぶ家に――そう指定しながらスキルを使用。
もさもさと葉が茂り、立派なツリーハウスが完成する。
「ユタカ兄ちゃん、あそこに種あるよ」
「お、トミー。見つけてくれてサンキューな」
トミーが見つけた種をシェリルがひょいひょいっと登って収穫。
それをまた成長させて、二軒目完成。さらにもう一軒。
魔力を成長させたおかげで、一日三軒まではいけるな。
「残りはまた明日で。悪いな、俺の魔力じゃこれが限界なんだ」
「そんな、謝らないでくれ。君のおかげで、こうして家を持つことが出来た。感謝しかないよ」
「子供たちも喜んでるわ。ありがとうございます」
ドリュー族が暮らす西側の崖の上に、避難してきた集落の人たち用の家を植えることになった。
ドリュー族の家もだいぶ完成に近づいてて、もう中で生活することも出来るらしい。
ってことで、彼らはこのままここで暮らすことになった。
人間族の人口が一気に倍になったなぁ。
ま、メリットもあるだろう。
人数が増えたことで、出来ることも増える。
主に周辺の開拓だけど。
ただ……。
『ユタカ兄チャン、ドウシタノ?』
「ん。いやな、なーんか気になるんだ」
『気ニナル?』
どうしてもバジリスクのことが気になって仕方がない。
なんでわざわざ北上してきたのか。
バジリスクを追いやるほどのモンスターが南部にいるのか。
とにかく今は、そのバジリスクがこっちに来ないことを祈ろう。