「キャベツでございます」
「おぉ! 見たこともねぇ葉っぱだ。では失礼して――」
なんで俺は山羊に接待をしているんだろう。
ツリーハウスの外には、一〇匹の山羊がいる。
四匹は仔山羊だ。
見た目もサイズも俺が知る山羊と同じだが、喋っている。
正確には、喋っているのはこの黒い雄の山羊だけ。
他の山羊は――眠そうにしている。仔山羊なんてもう寝てるし。
山羊って夜行性じゃなかったよな?
そんな中、月明かりの下でパリパリという音が響いた。
「んっ。これは美味い! シャキシャキとした噛み応え、ほんのりと甘みもあって、実にデリシャス」
キャベツの食レポ?
「はくさいは?」
「あ、はい。今用意します」
種を取り出して、さっそくスキルで成長させる。
「ん、んん? おめぇ、面白いスキルを持ってんな」
「あ、あぁ。成長促進といって、成長スピードを俺の意思でコントロール出来るスキルなんだ」
「ほぉ……ほぉ」
な、なんだ?
最初の「ほぉ」は感嘆するような発音だったが、二度目の「ほぉ」はなんか違う。
心なしか笑っているようにも見える。
「は、白菜です」
「うむ、実食――んむ、んむんむ。緑の部分は柔らけぇな。白い部分も先ほどのキャベツと比べると肉厚で、歯ごたえがあるものの弾力もある。不思議だ」
「鍋に入れて食べると美味いんですよ」
「鍋か。うむ。しかし山羊は生の方がいい」
「まぁ、そうですよね……」
山羊に鍋料理勧めたって食べる訳ないか。
「それで、オレ様になんの用だ?」
「え、あ……えっと」
「んん、どうしたのユタカ」
「おはようござ……え、なんですかその生き物!?」
「な、なに!?」
ルーシェとシェリルが起きて来て、山羊を見て驚く。
そうか、二人は見たことないのか。
「彼らは――」
山羊だと説明しようとする前に、その山羊がずいっと身を乗り出して、
「オレ様は山羊だ」
と自己紹介した。
「や、山羊? これが山羊なの?」
「あー、うん。ま、まぁ、俺が知ってる山羊と少し違うけど」
「では山羊ではないのですか?」
「いや、山羊……だと思う」
「どっちなのよ」
「ハッキリしてください」
そう言われても……喋る山羊なんて想定外なんだよ!
てっきりドリュー族が山羊語を理解しているのか、それか言葉は通じなくても意思疎通出来てるだけなのかと思ったんだ。
「ふっ。人の常識ってぇのは、時に役に立たねぇこともある」
「……山羊にそう言われてもな」
「まぁ細けぇことは気にするなってこった」
気にするよ。特にその口調もな。
なんで江戸っこ訛りなんだよ。
「なぁるほどねぇ。アースドラゴンか」
『ンン、ボクネムイィ』
「ごめんな、アス。もう寝ていいぞ」
眠っているアスを起こして、山羊に見て貰った。
ちなみに一緒に来ていたのは雌山羊五匹と仔山羊四匹で、ツリーハウスの前で寝ている。
「孵化して五年といったところだな。こっからずっと東の、砂漠の端にある山脈に雌のアースドラゴンがいたが……」
アスが眠ってしまったのを確認してから、山羊は会話を続けた。
「こいつが人間と一緒にいるってぇことは、母親は」
俺は首を左右に振って答えた。
「そうか。雌のドラゴンは卵を産んだ直後に、体力と魔力がごっそり削り取られるもんだ。それを狙って喰らおうって奴らは多い。卵にも栄養があるからな。そうか……あのお嬢さんが……」
言い終えると山羊は、小さく溜息を吐いて眠っているアスを見た。
口ぶりからすると、アスの母親のことを知っているようだな。
「かわいそうになぁ。ひとりぼっちになっちまったか」
「ひとりじゃありません、山羊さん。私たちがいますもの」
「お前さんがたが?」
「親を亡くしたばかりなのに、おていけないだろ?」
本人も置いていかれるのを不安がっていたし。
それを話すと、山羊は笑い出した。
が、眠っていた雌の山羊が目を覚まして一喝すると、彼はしゅんとなって静かになった。
尻に敷かれているんだな。
「おほん。それで、何が知りてぇんだ?」
「アスは――アースドラゴンは、何年ぐらいで体が大きくなるのか知りたいんだ。今俺たちが暮らしているのが――」
集落の大きさ、そこに出入りするための渓谷の幅などを伝え、何年ぐらいでアスが出入り出来なくなるのか知りたい。
そうなる前に他所へ移す必要があるから。
「渓谷が狭ぇな。それだと十年ぐらいで通れなくなるだろうよ」
十年……思ったより長いような気もする。
「けどな、十年程度じゃひとりで生きていけねぇぜ。ドラゴンってのは長寿な分、成長も遅い。自分で自分の身を守れるようになんのに、最低でも五〇年は必要だろう」
「五〇!?」
今の俺は十七歳で、五〇年後と言えば六〇代後半だ。
それまで世話してやれるかなぁ。
「それこそお前ぇのスキルで一気に成長させてやりゃいいだろう」
「それをしてしまうと、寿命も短くなってしまうんだ。それに――」
肉体を成長させても、精神年齢がそれに伴わなくなってしまう。
成長過程の記憶もない。だって一瞬だからな。
アスはもう、五年分の寿命を一瞬で失っている。
山羊が孵化五年ぐらいと言ったのも間違いで、実際は半年ほどだとアス自信が教えてくれた。
生かしてやりたいのに、これ以上寿命を奪いたくない。
そう話すと、山羊はまた笑った。
そして雌にまた怒られていた。
「おほん。まぁちゃんと考えてはいるようだな。ならデカくなる前に、安全且つ広い住処を探してやりゃあいい」
「安全な場所かぁ。こいつが空を飛べればいいんだけど」
「おいおい、アースドラゴンだぜ? 飛べるわきゃねえだろう。翼だってねぇんだからよ」
「いや、翼ならあったよ」
「あ?」
眠っているアスの翼を、そぉっと持ち上げて見せた。
「ンボァア!?」
驚いた山羊が大きな声を出す。
そして雌に怒られるまでワンセットだった。
「おぉ! 見たこともねぇ葉っぱだ。では失礼して――」
なんで俺は山羊に接待をしているんだろう。
ツリーハウスの外には、一〇匹の山羊がいる。
四匹は仔山羊だ。
見た目もサイズも俺が知る山羊と同じだが、喋っている。
正確には、喋っているのはこの黒い雄の山羊だけ。
他の山羊は――眠そうにしている。仔山羊なんてもう寝てるし。
山羊って夜行性じゃなかったよな?
そんな中、月明かりの下でパリパリという音が響いた。
「んっ。これは美味い! シャキシャキとした噛み応え、ほんのりと甘みもあって、実にデリシャス」
キャベツの食レポ?
「はくさいは?」
「あ、はい。今用意します」
種を取り出して、さっそくスキルで成長させる。
「ん、んん? おめぇ、面白いスキルを持ってんな」
「あ、あぁ。成長促進といって、成長スピードを俺の意思でコントロール出来るスキルなんだ」
「ほぉ……ほぉ」
な、なんだ?
最初の「ほぉ」は感嘆するような発音だったが、二度目の「ほぉ」はなんか違う。
心なしか笑っているようにも見える。
「は、白菜です」
「うむ、実食――んむ、んむんむ。緑の部分は柔らけぇな。白い部分も先ほどのキャベツと比べると肉厚で、歯ごたえがあるものの弾力もある。不思議だ」
「鍋に入れて食べると美味いんですよ」
「鍋か。うむ。しかし山羊は生の方がいい」
「まぁ、そうですよね……」
山羊に鍋料理勧めたって食べる訳ないか。
「それで、オレ様になんの用だ?」
「え、あ……えっと」
「んん、どうしたのユタカ」
「おはようござ……え、なんですかその生き物!?」
「な、なに!?」
ルーシェとシェリルが起きて来て、山羊を見て驚く。
そうか、二人は見たことないのか。
「彼らは――」
山羊だと説明しようとする前に、その山羊がずいっと身を乗り出して、
「オレ様は山羊だ」
と自己紹介した。
「や、山羊? これが山羊なの?」
「あー、うん。ま、まぁ、俺が知ってる山羊と少し違うけど」
「では山羊ではないのですか?」
「いや、山羊……だと思う」
「どっちなのよ」
「ハッキリしてください」
そう言われても……喋る山羊なんて想定外なんだよ!
てっきりドリュー族が山羊語を理解しているのか、それか言葉は通じなくても意思疎通出来てるだけなのかと思ったんだ。
「ふっ。人の常識ってぇのは、時に役に立たねぇこともある」
「……山羊にそう言われてもな」
「まぁ細けぇことは気にするなってこった」
気にするよ。特にその口調もな。
なんで江戸っこ訛りなんだよ。
「なぁるほどねぇ。アースドラゴンか」
『ンン、ボクネムイィ』
「ごめんな、アス。もう寝ていいぞ」
眠っているアスを起こして、山羊に見て貰った。
ちなみに一緒に来ていたのは雌山羊五匹と仔山羊四匹で、ツリーハウスの前で寝ている。
「孵化して五年といったところだな。こっからずっと東の、砂漠の端にある山脈に雌のアースドラゴンがいたが……」
アスが眠ってしまったのを確認してから、山羊は会話を続けた。
「こいつが人間と一緒にいるってぇことは、母親は」
俺は首を左右に振って答えた。
「そうか。雌のドラゴンは卵を産んだ直後に、体力と魔力がごっそり削り取られるもんだ。それを狙って喰らおうって奴らは多い。卵にも栄養があるからな。そうか……あのお嬢さんが……」
言い終えると山羊は、小さく溜息を吐いて眠っているアスを見た。
口ぶりからすると、アスの母親のことを知っているようだな。
「かわいそうになぁ。ひとりぼっちになっちまったか」
「ひとりじゃありません、山羊さん。私たちがいますもの」
「お前さんがたが?」
「親を亡くしたばかりなのに、おていけないだろ?」
本人も置いていかれるのを不安がっていたし。
それを話すと、山羊は笑い出した。
が、眠っていた雌の山羊が目を覚まして一喝すると、彼はしゅんとなって静かになった。
尻に敷かれているんだな。
「おほん。それで、何が知りてぇんだ?」
「アスは――アースドラゴンは、何年ぐらいで体が大きくなるのか知りたいんだ。今俺たちが暮らしているのが――」
集落の大きさ、そこに出入りするための渓谷の幅などを伝え、何年ぐらいでアスが出入り出来なくなるのか知りたい。
そうなる前に他所へ移す必要があるから。
「渓谷が狭ぇな。それだと十年ぐらいで通れなくなるだろうよ」
十年……思ったより長いような気もする。
「けどな、十年程度じゃひとりで生きていけねぇぜ。ドラゴンってのは長寿な分、成長も遅い。自分で自分の身を守れるようになんのに、最低でも五〇年は必要だろう」
「五〇!?」
今の俺は十七歳で、五〇年後と言えば六〇代後半だ。
それまで世話してやれるかなぁ。
「それこそお前ぇのスキルで一気に成長させてやりゃいいだろう」
「それをしてしまうと、寿命も短くなってしまうんだ。それに――」
肉体を成長させても、精神年齢がそれに伴わなくなってしまう。
成長過程の記憶もない。だって一瞬だからな。
アスはもう、五年分の寿命を一瞬で失っている。
山羊が孵化五年ぐらいと言ったのも間違いで、実際は半年ほどだとアス自信が教えてくれた。
生かしてやりたいのに、これ以上寿命を奪いたくない。
そう話すと、山羊はまた笑った。
そして雌にまた怒られていた。
「おほん。まぁちゃんと考えてはいるようだな。ならデカくなる前に、安全且つ広い住処を探してやりゃあいい」
「安全な場所かぁ。こいつが空を飛べればいいんだけど」
「おいおい、アースドラゴンだぜ? 飛べるわきゃねえだろう。翼だってねぇんだからよ」
「いや、翼ならあったよ」
「あ?」
眠っているアスの翼を、そぉっと持ち上げて見せた。
「ンボァア!?」
驚いた山羊が大きな声を出す。
そして雌に怒られるまでワンセットだった。