「"成長促進"」

 入り口は広めで扉は不要。そして一階建て。床は土がむき出しで。
 そう考えながらツリーハウスを成長させた。
 子ドラゴンの小屋にするためにだ。

「いいんじゃない?」
「ドラゴンちゃん、どうです?」

 成長したツリーハウスは、イメージ通りのものになった。
 入り口には扉がなく、縦横二メートルぐらいの穴がぽっかり空いた感じになっている。
 ロフト付きの俺たちのツリーハウスよりやや高さは低いが、一階建てなのでむしろ天井は高く感じた。

『イイニオイスル』
「木のニオイだ。床も木に出来るんだけどな」
『コノママガイイィ』

 アースドラゴン=地竜だ。土の上のほうが落ち着くらしい。

「ふふ。これでドラゴンちゃんのお家も出来ましたね」
『ウンッ。アリガトォ~』
「どういたしまして。にしても、ドラゴンちゃんってのも呼びにくいな」
「じゃ、名前つけてあげましょうよ」
「賛成です。どんな名前にしますか、ユタカさん?」

 ん?
 お、俺が考えるのか?

 名前……名前……太郎――治郎――小太郎――うぅん。
 アースドラゴン――アース――大地。
 俺の苗字と同じだな。
 でも「ダイチ」ってのは名前には向かないなぁ。
 だったらまだアースの方がしっくりくる。

「そうだな……アス、なんてどうだ?」
「アス……まさかアースを縮めただけなんじゃ」
「なぜ分かった!?」
「真面目に考えなさいよっ」
「いやいや、割とまじめだって。こいつはアースドラゴンだろ? アースって、大地って意味じゃないか。そして俺の苗字も大地だ」

 そこから先はまぁ、縮めただけなんだけどさ。

「ユタカさんと同じ名前……とてもいいと思います! ね、シェリルちゃん」
「ま……まぁ……そういう意味があるっていうなら、いい……と思う」
『オ兄チャントオナジ名前?』
「そ。俺の名前は大地豊っていうんだ」
『大地ヲユタカニスル人間?』

 やめろっ。そんな純粋な目で弄らないでくれっ。

「ど、どうだ? アスって呼んでもいいか?」
『イイヨ』

 あ、あっさりだな。
 でも他にいい名前なんて思いつかないし、受け入れてくれてよかった。

「アス、これからよろしくね」
「ここがあなたのお家ですよ」
『ウン。ボクノオイチ。木ノオウチ』

 アスはツリーハウスを気に入ってくれたようだ。

 帰宅したばかりで疲れてるのもあるし、今日はここまで――とはいかず、レタスを二〇玉成長させた。
 アスは一日三食ではなく一食。
 ただしその一食でレタル二〇玉だ。
 まぁ体の大きさで考えたら、二〇玉で済んでいるとも言えるか。

 けど、このまま二〇玉で済むのかなぁ。





「この辺りでいいかな」

 集落にアスが来てから十日ほどは、本当に忙しかった。
 崖から小さな滝のように流れる水を受け止めるための、大きな水桶を作ったり、ドリュー族側へ水を運ぶための竹水道管を作ったり――いろいろやってたらあっという間に十日が過ぎていた。
 
 再び山に入った俺とルーシェとシェリル、それからアスは、山羊を探した。
 ドリュー族曰く、どうしても会いたいときには山で呼べば来てくれる――こともあるらしい。
 どう呼ぶのか。

「おおぉぉぉぉーい、山羊さんやあぁぁーい!」
「山羊さぁ~ん」
「出て来てよぉ~」
『ヤァーギィー』

 いたってシンプルに大声で呼ぶ。

「美味しい人参があるぞぉぉぉぉぉ」
「キャベツもありますよぉ~」
「ハクサイもあるわよぉ~」
『レタルハアゲナイモン』
「いや、分けてやろうよ。な?」
『ヤッ』

 まぁ山羊がレタスを食べるのかは分からないが。

 一晩待って現れなければもう少し奥に進もうと思ったんだが――。

 種の心配もなくなったのもあって、ツリーハウスを成長させて中で休んでいた。
 すると夜中のこと。
 ツリーハウスの扉をノックする音で目が覚め、男の声が聞こえた。

「ニンジンをくれんのか?」

 ……え?

 再びノックする音が聞こえる。

「きゃべつとはなんだ?」

 ……え?
 どこのどなた?

「はくさい……うぅむ。寝てんのか」

 こんな夜中に、それにこんな山の中でいったい誰が。
 そぉっと扉に近づいて覗き窓から外を見てみる。
 ん?
 なんだろう。横に長い黒い線が見えたり、消えたりしているな。

 いや、待て……。
 線が遠ざかると、その正体が分かった。

「ヤギいぃぃぃぃっ」
「ンヴアアァァァッ」
「「ビックリした」」

 ――ん?
 今の声、まさか山羊!?
 いや、まさかな。きっと羊飼いならぬ、山羊飼いがどっかにいるんだ。

 そうに違いない。

 どこか不安を感じながらも、ゆっくり扉を開ける。
 山羊がいる。
 俺が知ってる山羊と同じだ。大きさもビックじゃなく、普通の山羊だ。
 なんか安心する。 

「おおぉっ、人間じゃねえかぁぁぁ!」
「山羊が喋ったあぁぁぁーっ!」
 
 俺の知っている山羊とちがぁーう!!