空洞に向かって穴を掘り進める事三日目。
 ドリュー族が掘った穴が、ついに空洞と繋がった。

「もう少し大きく掘ればよかったモグな」
「申し訳ないモグ」
「いや……大丈夫」

 本当は腰が痛い。なんせドリュー族サイズの穴だ。俺たち人間だと四つん這いでギリギリ通れる大きさしかない。
 しかも途中で蛇行していて、這いにくいし思ったより距離が長くなっている。

 泥まみれになってようやく空洞へと到着。
 あー、うん。真っ暗だ。
 それになんか少し臭う。ガスじゃなければいいが。

「なんも見えん」

 壁に手を突こうとして、柔らかい物に触れた。
 逆に誰かから触れられた。
 慌てて手を引き、一歩下がる。

「キャッ。や、え? 誰か触った?」

 シェリルの声だ。
 ま、まさか今の、シェリルのお……。

「シェリルちゃん? 今のはシェリルちゃんですか?」
「ルーシェなの? なんだぁ」

 俺は理解した。
 たぶん、俺の手が触れたのはシェリルの……。
 そして俺の腕に触れたのがルーシェ。

 わざと触った訳じゃないけど、なんか後ろめたい。
 こ、ここは黙っておこう。

「役得、モグな」

 ぼそりと足元で声がした。
 見られてた!?
 い、いや、見えてた?

「こんな真っ暗なのに、見えるのか?」
「ドリュー族は穴の中で生活をする種族モグ。暗視能力は誰にでもあるモグよ」
「子供にもモグな」
「ふ、ふーん……い、今のは……」
「「内緒モグな」」

 分かっていただけて有難いよ。

 ランタンに明かりを灯して貰って、ようやく俺たちも辺りが見えるように。

「おぉ、広いな」
「凄いです。地下にこんな大きな空洞があるなんて」
「ね、ねぇ、見て……あ、あれってまさか」

 シェリルの震えるような声。
 彼女が指さしていたのは、明かりを反射する水面……み、水!?

「地下の湖モグなぁ」
「見るモグ。あそこに崩落した岩があるモグ。もしかするとあの位置に、地下水路があったのかもしれないモグよ」

 壁の一部が崩れ落ちたのか、いくつもの岩が積み重なったような場所がある。
 ドリュー族が調べた結果、やっぱりあの場所に小さな横穴があるようだとのこと。

「じゃああの岩を掘って貰えば、水が流れるのね」
「これだけあれば、もう水に困ることはなくなりますね」

 喜ぶ二人の声が地下空洞に木霊する。

「モグ? 何かいるモグよ」
「お、おい、怖いこと言うなよ」
「いい、いるモグ!? 水の中に何かいるモグウゥゥ」

 慌ててドリュー族が俺たちの後ろに隠れる。
 お、おい、水の中って……。
 ランタンの明かりはそんな遠くまで届かないぞ。せいぜい水面が反射するぐら――

『ヤメテ』
「なんか出たあぁぁぁ」
「きゃぁーっ」
「やぁーっ」
「「もぐうぅぅぅぅっ」」
『ワァァーッ』

 六人で抱き合って悲鳴を上げた。
 水の中で何かも叫んだ。

 叫んだ?
 さっき止めてって言ってたし、人なのか?

「だ、誰だ!?」
『ボクダヨ』

 僕ぼく詐欺か!

「ボクじゃ分かんないだろっ」
『ボクハボクダヨ』

 ぽちゃんと音がして、明かりの届く距離に何かが――
 オオサンショウウオ?
 いや、大きなウーパールーパーみたいな?
 そんなのが現れた。

「ど、どちらさまで?」
『ボクダヨ』

 こりゃ埒が明かないな。質問を変えよう。

「種族を教えてくれないか?」
『アースドラゴン』
「ほぉ、アースドラ……「「ドラゴン!?」」

 全員の声がハモって木霊する。
 驚いたのか、自称アースドラゴンは水の中にとぷんっと潜ってしまった。

「ご、ごめんごめん。みんな、声のトーンを落とそう。ここだと反響してうるさいから」
「そ、そうね」
「ごめんなさい」
「モグ」

 するとまたちゃぽんと音がして、さっきのが顔を出した。

「ア、アースドラゴン……って本当? ドラゴンってこう……巨大なイメージがあるんだけど」
『ボクコドモ』
「あぁ、なるほど」

 子供でももっと大きいイメージがあるんだけど、そうでもないのか。
 のそりのそりと出て来たウーパールーパーに似た、自称アースドラゴンの大きさは、鼻先から尻尾の先まで一五〇センチ弱か。
 まぁドリュー族よりは大きい。
 アースドラゴンという割に、皮膚に鱗はないしぬめっとした感じだ。

『水、ヌカナイデ』
「抜かないでって、まさか堰き止めてたのはお前か?」
『オカアサントボク』

 お母様がどこかにいる!?

『ボク、ウロコガハエルマデ、水ノナカニイナイト皮膚ガカワイテ死ンジャウノ』
「え、アースドラゴンなのに水の中じゃないとダメなのか?」

 自称くんが頷く。
 そうなのか? とルーシェたちを見るが、みんな首を傾げたり首を振って「分からない」と。

「ドラゴンの生態は謎モグ」
「知っている人の方がいないんじゃないかしら」

 ま、まぁ、個体数だってそう多くはないだろうしなぁ。

「うぅん。俺たちも水が必要だしなぁ。少し流すぐらいじゃダメなのか?」
『マエハアッチカラ水ガナガレテキテタノ』

 自称くんがあっちというのは対岸の方だ。真っ暗で見えないがドリュー族が「大きな穴があるモグ」と教えてくれた。

「アースドラゴンの母ちゃんが通って来た穴かもしれないモグな。それぐらい大きいモグ」
「お、お母さんはどこにいるんだい?」

 尋ねると、自称くんは悲しそうに俯いた。

『スコシマエニ、大キナオジサンガキタノ。オカアサン、オジサンヲオイハラウタメニアノ穴ノホウニ行ッテ……モドッテコナイ』
「おじさんって、アースドラゴンか?」

 違う、というように首を振る。
 別のモンスターか。

『ボク、アッチマデノセテアゲル。オカアサン、サガシテホシイノ。ボク水カラデラレナイカラ』

 向こう側に行って戻ってこない。
 それがいつのことなのか分からないけど、戻ってこないってことは――。

 アースドラゴンの子が、こちらをじっと見つめている。
 その目はどこか悲しそうにも見えた。

 たぶん、こいつも分かっているんだろうな。
 でも知りたいんだ、本当のことを。

「分かった。じゃ、連れて行ってくれ」
『ウン』 

 その返事は嬉しそうには聞こえない。
 俺ひとりを乗せて、アースドラゴンの子が地底湖を泳いで渡る。
 対岸まで来ると、確かに地下を流れる小さな川――の跡があった。
 
 振り返るとアースドラゴンの子が、不安そうにこちらをじーっと見ている。

「ふぅ。行くか」

 念のためにいつでもスキルを使えるよう、心の準備をしておく。
 だがその必要はなかった。

 奥に進むにつれ、鼻を突くような異臭が強くなる。
 二〇〇メートルぐらい進んだだろうか、行く手が落石で塞がっていた。
 その手前の壁に横穴がぽっかり口を開け、だがその先はなく、直下に深い穴が開いていた。

 インベントリから薪用の木材を取り出し、火を点けて落とす。
 穴の中には、折り重なるようにして二体の大きな遺体があった。