「ミミズぅ」
「ありがとうトミー。にしても、ちっさいなぁ」
「土に栄養ないから、育たないモググ」
「そっか。じゃ――"成長促進"」
ドリュー族の一家が来て三日。
他のドリュー族は、まだ誰も来ない。
今日は朝からドリュー族の子供トミーに頼んで、ミミズを探して貰っている。
肥えた土ではミミズが良く育つ。
逆に良く育ったミミズがいれば、土が肥える――かなと思って。
「モググ!? 大きくなったモググっ」
「うわぁ……ねぇユタカ。それ、ワームに成長したりしないわよね?」
「え……ト、トミー。これ普通のミミズだよな?」
「モググ」
シェリルに言われてぎょっとしたけど、普通のミミズっぽい。
……と、とりあえず、小指ぐらいの太さまでって指定して成長させたからいいだろう。
「トミー。もう一匹見つけてくれないか?」
「いいよー」
トミーが向かったのは、水場の崖の傍。
元々あそこは零れた水のおかげで、土が湿っている。ミミズはそこから探してきたようだ。
「ね、ユタカ」
「ん? どうしたシェリル」
彼女は上を見て、少し不安そうにしている。
「水……減ってない?」
「減って?」
零れてくる水の量が……減ってる!?
壁からは蛇口を少し捻ったぐらいの水量が噴き出すように、絶え間なく流れ出ていた。
でも今は――
「ユタカ。桶の水があまり溜まって……水が……」
「オーリ。あぁ、見ての通りだ」
「水量が減っている……」
水は壁を伝い、辛うじて竹筒に流れ込んでいるような状態だ。
「地下水が枯れ始めたのか?」
「分からないが、ずっとこのままだと水が……君が植えてくれた瓢箪だけじゃ、ドリュー族が来た時に足りなくなるな」
集落の人たちだけなら、ギリギリなんとかなる。
けど、水の木だっていつか枯れてしまう可能性だってあるんだ。
瓢箪の中の水が、どこから来たものなのか考えれば分かること。
あの水は、地中の水分を根が吸い上げたものだろう。
実際、最初の頃より水が溜まる速度が遅くなってきているしな。
「おや、みなさんお揃いでどうしたモグです?」
「トレバーさん。いや、その……実は」
ドリューの親父さん、名前はトレバー。トミーの「ト」は親父さんから貰ったんだな。
「水の出が減ってるんだよ。俺が来た時はもう少し多かったんだけどさ」
「もっと言えば、十八年ぐらい前はもっと多かった。そのぐらい前の嵐の時に、水の出が急に減りはしたんだが」
「十八年ぐらい前……あぁ、確かに大きな嵐があったモグなぁ。そうだ、上から見下ろして気になっていたことがあるモグ」
「気になっていたこと?」
「モグ。ついて来るモグ。ささ」
トレバーがついて来いというので、俺とシェリル、それとオーリさんの三人で着いて行った。
向かったのは彼らの居住地となる高台。
「見るモグ」
「ん?」
「水が出ていた場所から、渓谷の出口に向かって筋が見えるモグ」
「筋……あ」
見える。
幅三、四メートルほどの筋が、渓谷の外に向かってずーっと伸びてるのが見える。
たぶん周りの土地より、ほんの少しだけ凹んでいるんだろう。それが筋のように見えるんだ。
「これってもしかして、川の跡とか?」
「かわ? かわって何よ」
「え?」
「なんだい、かわって」
「え?」
シェリルとオーリさんが、不思議そうに首を傾げる。
川を、知らない?
トレバーを見ると、こちらは「知ってるモグよ」と。
「わしらの村の近くに、小さい川があったモグ。だけど砂漠で暮らす人間は、知らなくても仕方ないモグよ」
「あぁ、そうか。えぇっと川って言うのは、水がたくさん流れている所のことを言うんだ」
「た、たくさん!?」
「もしかして、その川というのがここにあったってことかい?」
もしかしてもしかするのかも。
「どこかの地中で、地下水が塞き止められているかもしれないモグな」
「それがどこかが分かれば……」
すると、トレバーがぽんっと胸を叩いた。
「なら、わしが役立つかもしれないモグな」
「ふんふん。この辺りの土は、あまり水のニオイがしないモグな」
昼飯のあと、トリバーとトミー、それから俺と双子姉妹の五人で岩塩の採掘所がある高台へ上がった。
「ニオイ? 分かる?」
ルーシェとシェリルを見て言うが、二人は首を振る。
「モグッグ。わしらドリュー族にしか分からないモグよ。もう少し登ってみるモグか」
「あぁ、じゃあキノコ階段作るよ」
「あの辺りに登りたいモグ」
トリバーが爪で指したのは、比較的低い崖だ。
そこまで階段を作ると、人ひとりが通れるぐらいの細い道が奥へと続いていた。
トリバーは四つん這いになって、ニオイを嗅ぎながらその道を奥へと進んで行った。
時々トミーにも同じようにニオイを嗅がせてる。土を知るための勉強なんだとか。
この日は二時間ほど登ったり下ったりして奥へと進んだけれど、地下水が溜まっている場所は特定できず翌日に持ち越し。
朝から出発して昨日の時点までは普通に歩き、その先から捜索開始。
途中で昼飯を食べてから再出発してしばらくした頃――
「むむ。この下に空洞があるモグな」
「え? 本当か!?」
「トミー、よく聞くモグよ。ここの音と――こっちの音。分かるモグか?」
空洞がある、と言った場所でトリバーは足踏みをし、少し離れて同じように足踏みをする。
俺にはさっぱり音の違いが分からない。
そしてトミーは首を傾げて「なんとなく、モググ?」と。
なんとなくでも分かるのか!?
「しかし困ったモグね。真下に穴を掘れば、途中が空洞モグから落下して危険モグ」
「あぁ、そうか。じゃ別の場所から斜めに掘り進める?」
「それしかないモグが、わしとトミーの二人だけでは数日掛かるかもしれないモグよ」
ツリーハウスをここに植えれば泊まり込みも容易だ。
食べ物だって、とりあえず野菜や果物ならいくらでも成長させられるし。
俺たちはいいけど、集落にはお袋さんもいるしなぁ。
「こんな時、ドリュー族の仲間がいたらよかったモグが……」
「とりあえずさ、一度集落に戻って日を改めて来ないか? トミーはお袋さんと一緒の方がいいだろうし」
「モグ。明日また来るモグ。トミー、お前は留守番して、母さんの家掘りを手伝うモグ」
「うん、分かったモググ」
よし。それじゃあ目印も兼ねてツリーハウスを成長させておこう。
・
・
・
翌日、四人でツリーハウスを植えた場所まで戻ると、黒いのや茶色のもこもこした物体が転がっていた。
「オースティン!?」
「「え?」」
トリバーが駆け寄って、もこもこの名前を叫ぶ。
もしかしてドリュー族!?
「オースティン! それにクリントまで。どうしたモグか。しっかりするモグ!」
「ト、トリ、バー……無事、だったモグか」
「わしは無事モグ。それよりもあんたたちが――」
その時、誰かの腹の虫が盛大に鳴った。
「ありがとうトミー。にしても、ちっさいなぁ」
「土に栄養ないから、育たないモググ」
「そっか。じゃ――"成長促進"」
ドリュー族の一家が来て三日。
他のドリュー族は、まだ誰も来ない。
今日は朝からドリュー族の子供トミーに頼んで、ミミズを探して貰っている。
肥えた土ではミミズが良く育つ。
逆に良く育ったミミズがいれば、土が肥える――かなと思って。
「モググ!? 大きくなったモググっ」
「うわぁ……ねぇユタカ。それ、ワームに成長したりしないわよね?」
「え……ト、トミー。これ普通のミミズだよな?」
「モググ」
シェリルに言われてぎょっとしたけど、普通のミミズっぽい。
……と、とりあえず、小指ぐらいの太さまでって指定して成長させたからいいだろう。
「トミー。もう一匹見つけてくれないか?」
「いいよー」
トミーが向かったのは、水場の崖の傍。
元々あそこは零れた水のおかげで、土が湿っている。ミミズはそこから探してきたようだ。
「ね、ユタカ」
「ん? どうしたシェリル」
彼女は上を見て、少し不安そうにしている。
「水……減ってない?」
「減って?」
零れてくる水の量が……減ってる!?
壁からは蛇口を少し捻ったぐらいの水量が噴き出すように、絶え間なく流れ出ていた。
でも今は――
「ユタカ。桶の水があまり溜まって……水が……」
「オーリ。あぁ、見ての通りだ」
「水量が減っている……」
水は壁を伝い、辛うじて竹筒に流れ込んでいるような状態だ。
「地下水が枯れ始めたのか?」
「分からないが、ずっとこのままだと水が……君が植えてくれた瓢箪だけじゃ、ドリュー族が来た時に足りなくなるな」
集落の人たちだけなら、ギリギリなんとかなる。
けど、水の木だっていつか枯れてしまう可能性だってあるんだ。
瓢箪の中の水が、どこから来たものなのか考えれば分かること。
あの水は、地中の水分を根が吸い上げたものだろう。
実際、最初の頃より水が溜まる速度が遅くなってきているしな。
「おや、みなさんお揃いでどうしたモグです?」
「トレバーさん。いや、その……実は」
ドリューの親父さん、名前はトレバー。トミーの「ト」は親父さんから貰ったんだな。
「水の出が減ってるんだよ。俺が来た時はもう少し多かったんだけどさ」
「もっと言えば、十八年ぐらい前はもっと多かった。そのぐらい前の嵐の時に、水の出が急に減りはしたんだが」
「十八年ぐらい前……あぁ、確かに大きな嵐があったモグなぁ。そうだ、上から見下ろして気になっていたことがあるモグ」
「気になっていたこと?」
「モグ。ついて来るモグ。ささ」
トレバーがついて来いというので、俺とシェリル、それとオーリさんの三人で着いて行った。
向かったのは彼らの居住地となる高台。
「見るモグ」
「ん?」
「水が出ていた場所から、渓谷の出口に向かって筋が見えるモグ」
「筋……あ」
見える。
幅三、四メートルほどの筋が、渓谷の外に向かってずーっと伸びてるのが見える。
たぶん周りの土地より、ほんの少しだけ凹んでいるんだろう。それが筋のように見えるんだ。
「これってもしかして、川の跡とか?」
「かわ? かわって何よ」
「え?」
「なんだい、かわって」
「え?」
シェリルとオーリさんが、不思議そうに首を傾げる。
川を、知らない?
トレバーを見ると、こちらは「知ってるモグよ」と。
「わしらの村の近くに、小さい川があったモグ。だけど砂漠で暮らす人間は、知らなくても仕方ないモグよ」
「あぁ、そうか。えぇっと川って言うのは、水がたくさん流れている所のことを言うんだ」
「た、たくさん!?」
「もしかして、その川というのがここにあったってことかい?」
もしかしてもしかするのかも。
「どこかの地中で、地下水が塞き止められているかもしれないモグな」
「それがどこかが分かれば……」
すると、トレバーがぽんっと胸を叩いた。
「なら、わしが役立つかもしれないモグな」
「ふんふん。この辺りの土は、あまり水のニオイがしないモグな」
昼飯のあと、トリバーとトミー、それから俺と双子姉妹の五人で岩塩の採掘所がある高台へ上がった。
「ニオイ? 分かる?」
ルーシェとシェリルを見て言うが、二人は首を振る。
「モグッグ。わしらドリュー族にしか分からないモグよ。もう少し登ってみるモグか」
「あぁ、じゃあキノコ階段作るよ」
「あの辺りに登りたいモグ」
トリバーが爪で指したのは、比較的低い崖だ。
そこまで階段を作ると、人ひとりが通れるぐらいの細い道が奥へと続いていた。
トリバーは四つん這いになって、ニオイを嗅ぎながらその道を奥へと進んで行った。
時々トミーにも同じようにニオイを嗅がせてる。土を知るための勉強なんだとか。
この日は二時間ほど登ったり下ったりして奥へと進んだけれど、地下水が溜まっている場所は特定できず翌日に持ち越し。
朝から出発して昨日の時点までは普通に歩き、その先から捜索開始。
途中で昼飯を食べてから再出発してしばらくした頃――
「むむ。この下に空洞があるモグな」
「え? 本当か!?」
「トミー、よく聞くモグよ。ここの音と――こっちの音。分かるモグか?」
空洞がある、と言った場所でトリバーは足踏みをし、少し離れて同じように足踏みをする。
俺にはさっぱり音の違いが分からない。
そしてトミーは首を傾げて「なんとなく、モググ?」と。
なんとなくでも分かるのか!?
「しかし困ったモグね。真下に穴を掘れば、途中が空洞モグから落下して危険モグ」
「あぁ、そうか。じゃ別の場所から斜めに掘り進める?」
「それしかないモグが、わしとトミーの二人だけでは数日掛かるかもしれないモグよ」
ツリーハウスをここに植えれば泊まり込みも容易だ。
食べ物だって、とりあえず野菜や果物ならいくらでも成長させられるし。
俺たちはいいけど、集落にはお袋さんもいるしなぁ。
「こんな時、ドリュー族の仲間がいたらよかったモグが……」
「とりあえずさ、一度集落に戻って日を改めて来ないか? トミーはお袋さんと一緒の方がいいだろうし」
「モグ。明日また来るモグ。トミー、お前は留守番して、母さんの家掘りを手伝うモグ」
「うん、分かったモググ」
よし。それじゃあ目印も兼ねてツリーハウスを成長させておこう。
・
・
・
翌日、四人でツリーハウスを植えた場所まで戻ると、黒いのや茶色のもこもこした物体が転がっていた。
「オースティン!?」
「「え?」」
トリバーが駆け寄って、もこもこの名前を叫ぶ。
もしかしてドリュー族!?
「オースティン! それにクリントまで。どうしたモグか。しっかりするモグ!」
「ト、トリ、バー……無事、だったモグか」
「わしは無事モグ。それよりもあんたたちが――」
その時、誰かの腹の虫が盛大に鳴った。