「はぁ……終わった」
「やぁ、お疲れだったねユタカ」
「ほんと、疲れましたよ」

 年が明け、一の月の終わりに各国の代表団会議が行われた。
 場所は港町に決まったけれど、それには理由がある。

 大精霊とフレイも参加するため、町中だと狭いってのがある。
 それで建物じゃなく屋根付きのテラス席みたいなものを大急ぎで用意して貰った。
 忘れてはいけないのがクラーケンだ。港町ならクラーケンも直接姿を見せられるし、それもあって港町に決めた。
 クラーケンの存在のおかげで、会議は進んだろうなものだ。

「やっぱりゾフトス国王がごねましたね」
「あぁ。彼にとっては転移者問題より、砂漠の港の方が気に入らなかったのだろう。これまで砂漠と交易するためには、かの国を介さなければならなかったからね」

 入国税を高く設定して、それで小銭稼ぎをしていただろうからな。
 その小銭がゼロになるんだ、そりゃ気に入らないだろう。
 その場にゾフトスの港町ゾットスの領主も来ていて、こちらは国王以上に怒りモードになっていた。

 が、他の国の代表団は「砂漠に港ができることに、なんの問題もないでしょう」と。
 そりゃそうだ。他の国は直接砂漠と取引できるようになるんだし、無駄な入国税も払わなくて済む。
 困ることなんて何もない。むしろ喜ぶところだろう。
 なんせ町長が示した入国税が、めちゃくちゃ安いらしいから。

「あんな安くて、本当にいいんだろうかね?」
「いいんじゃないですか。町にしたって、これまでゾットス経由で品物を運んで来た商人から購入していたから、税金分を含んだ金額だったんですよ。その金額がほぼなくなる分、これまでの半額近くで買えるようになります。それだけで町の人たちの暮らしが楽になりますからね」
「確かに。そう聞くとこれまで、ゾットスがどれだけむしろ取っていたかよくわかるね」
「まぁゾットスの領主がゾフトス国王がムキになってたのは、税金問題以外にもありますけどね」
「はは。珊瑚か」

 そう。珊瑚だ。
 珊瑚があるのは、元々砂漠側の海だけで、ゾフトスの国土に面した海にはない。
 だが聞くところによると、ゾフトスは珊瑚の産地として他国に伝わっているようだ。
 なんせ外国に出回っている珊瑚は、全てゾフトス王国で管理販売されたものだから。

 ここでクラーケンの出番となって、ゾフトスに珊瑚はないと知らされると、各国代表団は驚き、ゾフトス国王と領主は青ざめた。
 最終的に、

『私の聖域を荒らした罪を認めないと言うのであれば、今後百年間、ゾフトス王国の船団は海に出られないと思う事ね』

 と、おばちゃん口調を封じたクラーケンの脅しによって、ゾフトス側は密猟を認めるしかなかった。
 そして砂漠の港に口出すこともできなくなって、途中からは大人しくなったってわけだ。

 ゾフトス国王から各国の王族に、珊瑚で作られたさまざまなものが贈られていたが、それに関してクラーケンは、

『一度取ってしまったものは元には戻らないわ。それならあなたたちが大事に、その美しさを愛でてあげて』

 という一言で、代表団たちは安堵した。

 港の件はそれで片付き、俺たち転移者についてもそこまで揉めはしなかった。
 水、風、大地、炎、海。
 それだけの大精霊が揃い、俺たちがどこかに戦争を仕掛けようとか、力を悪いことに使おうとしたら諫めるという約束をしたからだ。

『その時には、今度こそ、この砂漠が滅ぶことになるでしょう』

 アクアディーネの一言で、代表団は納得してくれた。
 そんな簡単でいいのかなって思ったけど、ある代表団が教えてくれた。

「大精霊はこの世界で、神にも匹敵する力を持つ存在として知られています。あ、ある程度教養のある者ならっていう意味ですが。つまり、大精霊様方の手にかかれば、転移者である君たちを亡き者にすることだって簡単だってことです」
「な、なるほど」
「大精霊様はあの場で我々と約束をしてくださいました。大精霊様が約束をたがえることは決してありませんから、我々は安心して信じることができるのです」

 大精霊は約束を破らない、か。
 それがこの世界の常識なんだろう。
 おかげで会議もすんなり進んだし、感謝しないとな。

 それから何日か代表団は砂漠の町で過ごし、そして自国へと帰って行った。
 もちろん、できたてほやほやの砂漠の港から出航して。

「それじゃ、僕もこれでお暇するよ」
「レイナルド王子、いろいろお世話になりました」
「はは、今生の別れのように言わないでくれ。たまに遊びに来るよ」
「次期国王になろうって人が、そんなにお城を抜け出していいんですか?」
「ずーっとあそこにいるとね、息が詰まるんだよ」

 苦笑いを浮かべて、王子は砂漠を発った。

 これで俺たち異世界人も、落ち着いて暮らせるようになるな。