「都会に馴染み過ぎて、帰りたくないなんて言わないでくれよトロン、カル」
「しっかり学んでくるんだぞ」
「寂しくなったらすぐに帰ってきてもいいんだからな」
「コニー、頑張るモグよ」

 ホープ村から医学を学ぶためにソードレイ王国へ行くことを決めたのは、ダッツ一家とマスト一家だ。
 ダッツには十二歳の息子カルと、六歳の娘ミルがいる。
 ダッツ自身は医者というより、都会で大工の技術を学びたいようだ。で、息子のカルがみんなのために医者になりたいと。
 
 しっかり者のトロンはマストの息子だ。今年で十七歳になるトロンなら、医学を学ぶのにちょうどいい年齢かもしれない。
 まぁその前に覚えることが山ほどあるだろうけど。

 そしてドリュー族からも、オースティン一家が行くことになった。
 基本的に人間とドリュー族の病気に違いはない。
 でもやっぱりその種族でそれぞれ医者がいたほうがいいだろうって。
 故郷の里のこともあるし、いつか向こうにも医者をおけるようにだってさ。

「じゃ、砂漠の村のほうにいくか」

 三家族と王子一行を砂船に乗せ、砂漠の村へ。
 こちらはなんと、三家族が医学を学ぶことにしたようだ。
 
「サトーが言うには、ないか、げかで学ぶことが違うから、それぞれ別の人物が学ぶ方がいいだろうと言ってね」
「内科と外科か。うわぁ、考えてなかったなぁそういうの」

 トロンとカルで、それぞれ内科と外科を担当すればいい感じかな。
 まぁその辺りは王国に行って、学んでいく過程で考えるだろう。

 今日はいつになく大所帯で砂船に乗り込む。

「フレイ、少し重いけど頼むよ」
『フン。この船十隻あっても余裕だぞ』
「おぉ、そりゃ頼もしいな」

 ふわりと空に舞って、あっという間に町へと到着。
 船は翌朝出航。

 砂漠から、少しだけ人が減った。

「寂しいわね」
「ですが数年後には、立派なお医者様になって戻ってきますよ」
「あぁ。トロンはしっかり者だ。勉強をさぼろうとするカルを窘めてもくれるだろう」
「ふふ。カルがしごかれる姿が目に浮かぶようだわ」

 出航する船を見送ると、そこへ冒険者ギルドのマスターがやって来た。

「おぉ、いたいた。実はな、頼みてぇことがあるんだ。俺からじゃなく、町長の方からなんだがよ」
「町長から?」

 町へ戻ってみると、町長から「アス様のお力をお借りしたいのです」と。
 アスは目を輝かせた。
 人に頼まれるのが、ほんと好きだよなぁ。





「町を拡張?」
「は、はい。港も完成して、異国から人が入ってくるようになったらどうなるか……というのを、他所の土地から来ている冒険者たちにもいろいろ聞いたのです」
「ふぅん。それで町を広げるってことに?」
「はい。実際、今回ソードレイ王国から船が入港しましたが、あちらの国の商人も乗船していたようで、結構な人数が町に足を運んでいらしたのです」

 へぇ、知らなかった。
 町には冒険者もそこそこいるから宿がある。
 けど多くはない。冒険者が寝泊まりするのに必要な軒数があるだけだから。
 そして実際に部屋数は足りなかったそうだ。
 商人はひとりで来たのではなく、従業員たちと来ている。
 宿に泊まれなかった商人一行は、町長の家だとか空き家だとかに分散して宿泊して貰ったらしい。

「うぅーん、確かに宿は必要だろうなぁ」
「そうなんですよ、はい。冒険者の方も、今後、砂漠へ来る冒険者が増えるだろうって。なんせこれまではゾフトスの港町から徒歩で砂漠入りしていた日数にちょっと足すだけで、ソードレイ王国の港町まで行けるのですからなぁ」
「しかも入港税は安いし、入出国税はソードレイを出入りするときにしか掛からないもんなぁ」

 こっちは国じゃないから、入港税しかとらない。町へ入るときに税はかかるけど、それはどこの国の町でもそうだという。
 ソードレイ側の税金も、ゾフトスと比べると六割程度だっていう。
 どんだけゾフトスはがめついんだ。

 でもこうなると気になるのが、儲けがなくなってゾフトスがキレないかってこと。
 今度の代表団会議ってのでなんか言われそうだなぁ。

「それでアスの力を借りたいってのは?」
「はい。大地の竜であられるアス様のお力で、その……石を切り出していただきたいのです。聞いた話ですと、砂漠の村の住居も、魔法を使って修繕したとか」
「あぁ~、ルルと一緒にやったな。あれ? でもその話ってどこから」

 知ってるのは村の住民だけだし、村の人が町に来ることはない。

「あはは。それアス本人が冒険者に話してたのよ」
「え、アスが?」

 アスを見ると、少し恥ずかしそうにそっぽを向いていた。
 なるほど。アスは冒険者と話をするのも好きだもんな。
 いろいろお喋りしたくて、自分から話したんだろう。

『ボ、ボクお手伝いするヨ』
「うぅん。まるはフレイに相談しような。砂漠の村と違って、こっちはフレイがいなきゃ本当に遠い場所なんだからさ」
『わかった。お父さんに相談すル』
「お、おとう、さん??」

 町長がなんのことだかわからない様子で首を傾げる。
 だから教えた。
 いや、アスが教えたくて仕方なかったんだろう。

『んっとネ。火竜のオジチャンは、ボクのお父さんなの!』

 その後、アスは前にもまして大事に扱われたのは言うまでもない。