八の月の初めに――

「どうでい、完成したぜ」
「ま、とりあえずは船二隻ほど停泊できる程度だけどな」
「下ろした荷を保管する倉庫と、宿が二軒、港で働く連中の住居。今はこんなもんだが、人が増えるようなら増築だ」
「港ができりゃ、自然と人は増えるだろうがな」

 と大工職人たちが口々にそう話す。

 完成したのは港だ。ちょっとした町……いやまだ町には遠いけど、でも何軒か建物もあってしっかりした造りだ。

「みんな、お疲れ様!」
「一年も経たずにこんな大きな建物を……凄いわね」
「ほんとに。これで他の地域から船が到着できるのですね」
「だな。さっそくレイナルド王子に、港が完成したって手紙を書かなきゃな」
「お、それならもう知らせは出てるはずだぜ。町長の奴がソードレイ王国宛てに手紙を出してるからな」
「届くのはまだ先だろうけど」

 そっか。
 あの人のことだ。たぶん手紙が届いたらすぐにでも船で来るんじゃないかな。
 そうなると、こちらがやるべきことは。

「ルーシェ、シェリル。ちょっと行きたいところがあるんだ」
「はいはい」
「ふふ。何をやろうとしているのか、だいたいわかりました」
「え、そ、そう?」
「わかるわよ。キョロキョロしてるんだから、そういうことでしょ」

 わかっちゃうのかぁ。

 翌日――

「ど、どうなってんだ!? なんでヤシがあんなに生えてんだよ」

 港に来た職人たちが驚いている。
 
「いやぁ、殺風景だからさぁ。フレイにヤシを引っこ抜いてもらって、ここに植えてもらったんだぁ」

 嘘です。昨日、オアシスに生えてるヤシからいくつか実を収穫して、夜のうちに成長させたやつなんだ。
 成長させたヤシが実を付けたらそれを収穫してまた成長させて……ルーシェたちの意見も聞きながらヤシを飾ってみた。
 夜通しの作業だったから眠い。
 ってことで寝ます。

 その翌日――

「また木が増えてんじゃねえか」
「あぁそれね。昨日さ、フレイが」

 フレイがソテツを植えてくれたと説明。もちろん嘘です。

 更に翌日――

「こんどはバナナかよ!」
「あー。フレイがさ、美味しいぞって」
「そりゃ美味いけどよ……」

 そして――

「こ、こいつはデーツじゃねえか。こんないっぱい、よく見つけて来たな」
「うん。フレイがね」
『……我にかかれば造作もないことだ』

 と、フレイが言う。棒読みで。
 デーツのことはアクアディーネに教えてもらったヤシ化の植物だ。
 最初に成長させていたのはココナッツヤシ。デーツって実がなるのはナツメヤシ。
 デーツってのは栄養価の高い、甘い実がなるらしい。
 町でも売られてるけど、数はそう多くはない。
 町から近いオアシスにあるナツメヤシだけだと、たいした量が取れないんだろうな。
 そこから数粒の種を頂いて、夜の間にじゃんじゃん成長させておいた。
 
「まったく……次は何を引っこ抜いてくる気だ?」
「次? うーん……何にしようかな」

 マンゴー、パイナップル、パパイア。その辺りの果物も成長させてみた。
 あと花が綺麗だっていうサボテンも。

 うん。南国のリゾート地って感じになったな。
 これで王子を迎える歓迎ムードも整った。
 さぁ、いつでも来てくれ!





「こ、小林……鈴木……」
「ひ、久しぶりだな、大地」

 一カ月後、ソードレイ王国から船が到着した。
 王子はもちろんだけど、まさか小林たちも乗っていたとは。

「やぁ、ユタカ。連れて来たよ」
「まさかこんなに早く連れてくるとは思ってもいませんでした」
「すまないね。一度手紙で伝えてからと思ったのだけど、そうすると何カ月も先になってしまうからね」

 そうするとその数カ月の間、ソードレイに俺以外の召喚者が勢ぞろいすることになる。
 それを快く思わない国もあるから、直ぐにでも連れてきたかったのだそうだ。
 外交って大変なんだなぁ。

「それとユタカ。君には大変申し訳ないと思うが、近々各国代表団との会合に出席して欲しいんだ。大精霊様と一緒にね」
「え……各国代表団って……」
「君が決して、召喚者の能力を使って戦争をしない――という約束、いや制約をしてもらうために。大精霊様には証人になってもらいたい」
「あぁ、そういうことですか。まぁいいですよ。でも――」

 大精霊たちはこの地方を離れられるんだろうか?
 聞いてみると、

『ダメよ』
『無理だな』
『そっちがこちらに来なよ』
『ワシはここからぜーったいに動かんぞ!』

 やっぱりな。大精霊は各地にいるって話はしていたし、それぞれ縄張りというか、管理している土地があるんだろう。そこからは離れない、というか離れられないんじゃないかな。

「そうだろうとは思っていたよ。もしろん、代表団には砂漠の方へ来てもらうことになる。日程の調整もあるし、近いうちとは言ったが今年中は無理だろう」
「じゃあこっちは、来年に向けて準備をしておきます。まぁ代表団って人たちの宿泊場所を建設する程度ですが」
「本当に申し訳ない。言葉だけでは信用できないとゴネる国もあってね」
「仕方ないですよ。今まで召喚された人たちは、みんな戦争の道具にされてきたんだし」

 身勝手な話だけどな。
 さて、小林たちだ。どうすっかなぁ。