それから二カ月が過ぎ、日本ならそろそろ梅雨になろうかっていう時期。
 町へ行くと、こちらでも「例年より今年は涼しくないか?」という話題で持ち切りだった。
 イフリートの件はホープ村と、それからハクトしか知らない。ハクトから砂漠の村の人に伝わっているかもしれないけど、別に隠すこともないから問題ない。
 そして町でわざわざ知らせる必要もないだろうと思って何も言ってないんだけど――
 そのせいか、逆に「何か起こるんじゃないか?」「大災害の前触れか?」なんて話も耳にした。

 まぁそれとなく伝えておくか。

「こんにちは~。ギルマス、何か届いてる?」
「よぉ、来たか。ソードレイ王国から親書が届いてるぜ」
「レイナルド王子から!?」

 受け取った手紙をその場で開封して中身を読む。

「おいおい。王族からの手紙を、そんなところで開封していいのかよ」
「え、マズかった?」
「内容次第だから、少しは人目ってもんを気にしやがれ。奥の部屋使っていいからよ」
「はは、わかったよ。ありがとう」

 場所を移動して手紙を改めて読む。

「なんて書いてあるの?」
「えぇっと……あぁ、三人組は無事にお仕事に就いたようだ」
「お仕事、ですか?」
「そ。なんか罪人を働かせる地下の鉱山? 地下なのに山ってのも変だけど、とにかくそこで雑用として働いてもらってるんだってさ。罪人の世話役として」
「それ、強制労働っていうんじゃない?」

 その通りです。
 スキルを封じる魔導具を装着させてるから、ただの一般人並みの戦闘力しかない。
 そんな三人が放りこまれたのは、極悪人が収監された地下空洞の刑務所。
 手紙にはたまーにモンスターも出る――と書いてあった。

 頑張って生き延びて、ソードレイ王国に貢献してくれ。
 不思議とあいつらが死ぬなんて考えられない。きっと寿命を迎えるまで、図太く生きて行くだろう。
 で、こうも書かれていた。

 三人は終身刑になったよ――と。

 これでこの世界は安泰だ。

「日本人の評判を落とす連中がいなくなってよかったよ」
「死んでないんでしょ?」
「お仕事しているので、評判は上がるかもしれませんね」
「地下で働いてるし、極悪人の評判が世間にどれだけ影響するかだな。えっと、それから――お!」

 ゲルドシュタル王国に残っているクラスメイトの件が書かれていた。
 アリアンヌ王女がやらかした勇者召喚のことは公表され、クラスメイトの処遇について周辺諸国で話し合いが行われたそうだ。

「勇者召喚の魔法を使ったってことは、侵略戦争を始めるぞって意思表示なんだってさ」
「なんだか召喚された勇者様がおかわいそうですね」
「ルーシェ姉さん、それ目の前にいるユタカのことなんだけど」
「あっ。そうでした。ふふふ」

 まぁ、戦争の道具にされるために召喚されるなんて、迷惑以外のなにものでもない。
 俺みたいにさっさと捨てられて、こうして第二の人生を満喫できるならいいけど。
 そういえば処遇って、俺はどうなるんだ?

 手紙を読み進めていくと、小林たちを巡ってひと悶着あったと書かれていた。

 勇者を所有している国は、それだけで優位に立てる。
 だからゲルドシュタル王国にだけ勇者が揃っているということは、まだ戦争を起こす気があるのか――って、一部の国が声を荒げたらしい。
 その気がないなら勇者を引き渡せとも。
 ゲルドシュタル王国の王様は病を患っているし、娘の犯した罪を考えれば反論も出来ず、全員を手放すと宣言したそうな。

「他の召喚された方々だって物じゃありませんのに」
「うぅん。やっぱりちょっと気の毒ね」
「まだ続きがある。小林たち――あ、俺の同郷の奴らね、その小林たちを見た各国の王が――」

 戦闘スキルを持っている小林たちも、新米冒険者並みの実力しかなくて呆れてしまったそうだ。
 あいつらもスキルの練習をさぼってたのか。
 まぁいきなり異世界に来てモンスターと戦えってのも、無理な話だよな。

 俺は戦ったけどな!

 触るだけだし。

 けど生産系スキルの鈴木たちは、それなりに腕のいい職人並みにはなっていたそうだ。
 とはいえ、腕のいい職人は各国にもいる。

 つまり――

「いらない子……」
「必要とされないなんて、やっぱりかわいそうですね」
「ほんと……」
「それでだ――えぇっと……え、マジかよ」
「どうしたの?」

 王子の手紙にはこう書かれていた。

 ――砂漠で引き取ってもらえないだろうか。

 と。