『ぬわにぃ。ワシと契約したいだと?』

 カクカクシカジカで気温を下げて欲しくて、契約したい旨を伝えた。

『無理!』

 まぁそうくるよなぁ。

『ワシは既に契約しとる。故に他の奴との契約はできん』
「その契約相手って、生きてるのか?」
『……人間が五百年近く生きられるってんなら、まだ生きてるかもな』

 やっぱり死んでんじゃん。
 そんなに大事な相手との約束だったのか?
 相手が死んでも何百年と、その約束を守ってんだから……。

「そうとう大事な相手との約束だったんだな。けど――」
『大事? 大事だと?』

 ん、んん?
 イフリートの語気が荒くなってきた。心なしか、体の色も赤っぽくなっている。

『こっちはなぁ、好きで契約を守ってんじゃねえ! 契約で縛られてんだよ! 見ろ! ワシのこの姿を!!』
「いや、見てるけど……え、どういうこと?」
『常に精霊力を解放し続けろ。そんな命令を受けて、最初こそ張り切ったさ。だがな、張り切れば張り切るほど、生き物が次々に死んでいくんだよ。止めたくても、奴との契約で止めることもできねぇんだ!』
「自分の意思でどうにかならなかったのかよ」
『それができりゃあ苦労しねーんだよ!』

 精霊の契約って、意外と面倒なシステムなんだな。

「だったら! だったら俺たちと契約しなおせよ」
『ハッ。笑わせるな人間。てめぇは見たところ、そう大した魔力を持ってねぇ。奴との契約を反故させたきゃ、奴より強ぇ魔力の持ち主を連れてくるんだな。おっと、そこの火竜はダメだぜ。そいつはワシと契約そのものができねぇからな』

 契約を上書きするためには、やっぱイフリートと契約した精霊使いより強くないとダメなのか。
 さて、いけるかな?

「もちろん、フレイと契約してくれなんて言わないさ。契約できないことも事前に聞いてるしな」
『ふふん。じゃあどうすんだ? そっちの姉ちゃんたちもお前と似たようなもんだぜ。いや、むしろお前より魔力は少ないか』

 お! 魔力は俺の方が二人より高いのか。
 身体能力じゃどう頑張っても負けるし、勝てる部分があってよかった。

「うぉっほん。えー、イフリートと契約するのは、この方です!」

 と言って、アスを紹介する。

『フェ。ボ、ボク? エ?』
「魔力量はどうだ? 足りないか?」
『子竜、だと? う、うぅむ……』
「アス、ちょこっと魔力を成長させてみないか?」
『ボクノ? ウ、ウン、イイヨ』

 よし。じゃあ成長促進っと。

「どうだ!」
『ぬぉ!? な、なぜさっきより魔力がでかくなってんだ。おいベヒモス、てめぇ何かしやがっただろう。同じ地属性だからって、こっそりてめぇの魔力を流し込んでんじゃねえぞ』
『ボクは何もしてないよぉ~だ。あとボクのことはベヒモスくんって、何万回も言ってるよね』
『うるせぇ、毛玉』

 口が悪いっていうか、もう完全にヤンキー気質だな。
 けど、あの反応だと魔力のほうは合格していそうだ。

「アスなら合格なんだろ? だったら――」
『ダメだ。魔力うんぬんじゃねえ。そいつはアースドラゴンの子だろう。属性が違い過ぎる。地属性はな、水ほどじゃねえか相性が悪い。ワシと契約することで、そいつが死んでしまう可能性だってあるぞ』
「え!? そ、そうなのか?」

 ベヒモスを見たが、微妙な反応を示す。

『うぅん。えぇっと、んーっと……死にはしないよ。その子のもう一つの属性があるから、ね』
『だが本人がそれに気づいておらぬし、属性のコントロールができねば常に体調を悪くすることもあるだろう』

 知らなかった。属性の相性まで関係するなんて。
 でもアスには火属性もある。
 本人は純粋なアースドラゴンだと思っているけど、アスには火竜の――フレイの血も流れているからな。

 驚きはしたけど、こうなったらむしろ好都合かもしれない。

「ユタカ、もしかしてこれを狙ってたの?」
「ん、まぁ半分はね。属性うんぬんで体調を崩すってのはまったく考えてなかったよ」
「大丈夫、でしょうか?」

 ルーシェは心配そうに、アスとフレイを交互に見た。
 アスはなんのことだかわからず、首を傾げている。
 フレイは……何かを察したのだろう、かなり狼狽えているようだ。

「イフリート。属性なら心配ない」
『はぁ? おいおいお前、アースドラゴンに炎と契約しろとか、悪魔かよ』
「悪魔の知り合いはいるけど、たぶん同じことを言うぜ」
『あ、悪魔の知り合い!? は? え?』

 改めてアスを見る。
 大きな瞳をパチクリさせて、「何の話?」という顔をしていた。

「アスにはお前と契約できるだけの魔力があるんだろ? なら大丈夫だ。だってアスには――」
『ぬ、主よ』
「アスには火竜の血が流れている。だからアース・フレイ・ドラゴンだ」
『んな、なに!? 火竜の血が? ぬぬぬぅ……あ、本当だ。こいつ火竜の血が流れてやがる』
『エ? エ? ボ、ボク、エ?』

 アスは驚いた顔で、理解が追い付いていないようだ。

「フレイ。おぜん立てはしてやったんだ。あとはお前が勇気を出す番だぞ」
『ぐぬ……図ったな』
「あぁ図ったさ。もう後回しにするのはやめろ。何も知らないアスがかわいそうだと思わないのか」
『ボク……ボクガ知ラナイコトッテ、ナニ? オジチャン、ボクノ何ヲ知ッテルノ?』
『お、おーい。どういうこと? なぁ、どういうこと?』
『とりあえずイフリートくん、こっちにこようね』
『二人だけで話をさせてやろう』

 うんうん。俺たちは場所を移動しよう。

 場所を移動したあと、しばらくしてドゴーンっというすさまじい音がした。
 慌ててさっきの場所に戻ると、フレイが足首を抑えて蹲っていた。