「うへぇ……この辺りは特に暑いなぁ」
『当然だろう。イフリートの聖域近くなのだから』
『アクアディーネちゃんの手助けは受けられないよ。ここにいたらアクアディーネちゃん、蒸発しちゃうから』

 と、ベヒモスが恐ろしいことをにこやかに話す。

 俺とルーシェ、シェリル、アス、ワームたちで砂漠の北側に飛んで来た。
 運んでくれたのはもちろんフレイだ。
 
『うぅん。暑いよぉ。暑いぃ』
「ユユ、大丈夫か?」
『ユユ、リリ、ルル、大丈夫ゥ?』
『うぅん……わかんない』


 わかんないかぁ。
 しかし俺は思い出した。
 まだ両親が健在で、なんだったら祖父も元気だった小学生のころだ。
 お盆はいつも親父の実家に里帰りしてそのまま二泊ぐらいしてたんだけど、朝になると必ず道路に干からびた細長いものがあった。
 じいちゃんが言うには、夜にミミズが土から出て来て道路を渡ろうとするんだとか。夜のうちに向こう側の土に到着できなかったミミズが、太陽光を浴びて干からびた姿がアレ。

 ……この暑さにやられてユユたちが干からびてしまう!?

「フ、フレイっ」
『あー、わかっておる。ワームどもは連れ帰ってやるわい』
「頼むぞ! ユユ、リリ、ルル。お前たちは村へ帰れ。干からびるから」
『えぇー、やだぁ』
「やだじゃない! お前たちの体は、この暑さには耐えられないはずだ。体の水分が蒸発して、大変なことになるから帰りなさい」
「そうよ、あんたたちのために言ってるの。私たちは大丈夫だから、村で待ってて。ね?」
「ほら、ルルの鱗もカラカラになってますよ。滝の傍でマイナスイオンを浴びてください」

 マイナスイオンってのは俺が前に言った言葉だ。
 滝の周りは霧吹きみたいに細かい水が飛んでいる。暑い日中でも滝の周りだけは涼しくて気持ちいい。
 それで「マイナスイオンパワーだな」って言ったんだけど、それ以来、村では滝に「マイナスイオンパワー」という、元気にするパワーがあると思われてしまっている。

 イフリートの聖域は砂漠の北側。元々暑い地域で、昔から荒野だった場所だ。
 まぁ今は完全に砂で覆われているけど。

 いったん俺たちはここで下り、フレイはワームたちを連れて村へ引き返した。
 イフリートを探して声を掛けてみるが無反応だ。
 しばらくするとアスを心配したフレイが戻って来た。相変わらず早いなぁ。

『反応なしか』
「ないなぁ」

 一軒家ほどの大きな岩が無数に点在するこの場所のどこかに、イフリートがいる。
 上空から探す方が楽なんだろうなぁって思ったら、そもそも姿を隠している可能性の方が高い……と。
 イフリート自ら姿を現すようにしないといけないらしい。

「作戦としては、一、何か楽しいことをやってイフリートの興味を引く」
「たとえばどんな?」
「うぅーん……お祭りとか」
「私たちだけでお祭り、ですか?」
「……えぇ、作戦その二。イフリートが喜びそうなことをやったり、褒めたりして機嫌をよくさせて出て来てもらう」
「イフリートの喜びそうなことって?」

 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 。

「わかんなぁい。作戦その三。怒らせる。怒ったらたぶん出てくるだろうし」
「どうやって怒らせるのでしょう?」
「そりゃあ……悪口……とか」
『それでいこぉ~』

 楽しそうだな、ベヒモス。ジンもにんまり笑って頷くんじゃないよ。





「暑苦しいオヤジ!」
「燃やすことしか能のないおじさん!」
「え、えっと……雨が降るんじゃないかって、ビビってますぅ~?」
『イフリートオジチャン、毛ェモジャモジャデボォボォ燃エテルゥ?』

 アスの言葉を聞いて俺は、なぜか胸毛が燃え盛るマッチョが頭に浮かんだ。
 ぷぷっ。

『燃えとらんわっ!!』
『あ、イフリートくんだぁ』
『沸点低すぎだろう』

 岩の上に、赤ともオレンジともとれる色の男が立っていた。
 頭は燃え盛る炎のような……

「なんでモヒカン?」

 いや、モヒカンじゃないのかもしれないけど、スキンヘッドスタイルで一列に火が並んでたらモヒカンに見えるだろ?
 体つきはやっぱりマッチョだ。
 けど、なんていうか……

「ちっさ」
『貴様ぁ、今なんて言いやがった!』
「ガラが悪いわね」
『こぉら、人間の小娘ぇ』
「器も小さそうです」
『傷ついた! 今ものっそ傷ついたぞ』

 なんでこの世界の大精霊って、異世界人の夢をぶち壊す残念なのばっかりなんだ?