「なぁ、ちょっと聞いてみるんだけどさ。フレイってイフリートと契約ってできたりする?」

 ダメもとで聞いてみた。

『……無理だ』
「なに今の間」
『我は主と契約しておる。その我がイフリートと契約するということは、間接的に主とも契約するということになる』
「そ、そうなの?」
『そうなのだ。そして主がイフリートと契約する力が……足りぬ』

 俺のせいってことですかぁーっ。
 はぁ、やっぱりダメなのかぁ。
 ならもう一つの話題だ。

「フレイ。いい加減さ、アスに本当のこと話してやれよ。アスも家族を欲しがってるんだ。俺たちじゃ、本当の家族になれないんだからさ」
『……またその話か』
「まただよ。お前たちは何百年、いや何千年と生きるんだろう? 俺たち人間の一生なんて、お前たちにとってはあっという間に過ぎていく時間のはず。ずっと後回しにしていたら、俺たちが寿命で死んでしまう。そうなったらアスは独りぼっちになってしまうんだぜ」
『それまでには話す』
「それまでって――あっ、おい、飛んで逃げるな。おぉーい!」

 あぁあ、行っちゃったよ。
 それまでって、この先何十年も黙ったままでいるつもりかよ。
 なんとかしないとなぁ。





『ウントコショー』

 アスが掛け声とともに土魔法を使って、一瞬で畑からジャガイモを掘り起こした。
 掘り起こすっていうか、土が弾けてジャガイモが飛び出したっていうか、なんともよく分からない収穫方法だ。

「アス、その魔法なんて言うんだ?」
『エ? ……ナンテイウンダロウ?』

 わからないのかよ!?

『アスくんのオリジナルだよぉ』
「ベヒモス。オリジナルって、そんなことできるのか?」

 ベヒモスは答えない。
 はいはい、わかったよ。

「ベヒモスくん。魔法って自由に作れるものなのか?」
『マリウスくんが使う古代語魔法は法則とかいろいろあるから、気軽に新しい魔法を作るのは難しいね。でも精霊魔法なら、そう難しいことじゃないよ。精霊の力をどう使うのか、それに対して術者の魔力量とか技量が伴えばできちゃうから』
「へぇ~。アスはどんな風にその魔法を考え付いたんだ?」
『ンー、エットネェ、一個ズツ掘リ起コスノ大変ソウダッタカラ。イッペンニゼーンブデキレバナァッテオモッタノ』

 それで畑全部を一括で掘り起こせないかとやってmきたが、上手くいかなかったらしい。
 収穫する野菜が違うと、その方法も異なる。ここが上手くいかない原因だ。

『面白カッタノガネェ、ジャガイモノコト考エテヤッタラ、全部ノオ野菜ヲ土カラ引ッコ抜イチャッタノ。トマトモ根ッコカラゼーンブネ』
「そりゃ大変だ」
『ウン、大変ダッタヨ。抜イチャッタアトデ一個ズツ収穫シナキャイケナクナッチャッタシ』

 そういやしばらく前に、なんか畑が大変だったって聞いたな。
 もしかしてアスだったのか。

『デモサ、オ仕事ノ時間ヲ早ク終ワラセテアゲタカッタンダシ、マトメテ収穫デキルヨウニナラナキャ意味ナイノ』
「早く仕事が終われば、遊べると思ったんだろう?」
『エヘ、エヘヘ。ソレデネ、畑ヲ見テイタラ気ヅイタンダァ』
「ん?」
『畝ゴトニ栽培シテルオ野菜ガ同ジッテコトニ!』

 なるほど。確かに一本の畝には一種類の野菜を植えている。
 その方が収穫しやすいからだ。
 アスもそのことに気づいて、畝単位なら一括収穫できるんじゃないかと思ったそうだ。

 あとはどんなふうに収穫するのか考えて、それをノームと共有する。
 ノームからも意見を聞きながら、完成したのがさっきの魔法だ。
 
『デモコノ魔法ネ、ジャガイモトカニンジントカ、シュウカクスル部分ガ埋マッテル野菜ニシカ使エナイノ』
「あぁー……まぁそうなるか。でも作業時間が短くなって、みんなの負担も減るから助かるよ。ありがとうな、アス」
『エヘ』

 アスのおかげでみんなを休ませる時間もとれる。
 ほんと、アスは優しくて強くていい子……強い?

「なぁベヒモスくん」
『なぁに?』
「アスってさ、魔力高いの?」
『そりゃ高いよ。ドラゴンだし』
「ふぅーん。じゃあさ、大精霊の契約を上書きできるぐらい、高い?」

 ベヒモスはすぐには答えなかった。
 少し考えたあと、

『イフリート君と契約した人間と比べてどうかっていうのは分からないね。でもやってみる価値はあると思うよ』

 ――と。

 ふっ。これは決まりだな。