『結婚シタカラ赤チャン生マレルノ?』
「ぶふぉっ」

 ある日の朝、アスが突然こんなことを聞いてきた。

「ア、アス?」
『バフォオジチャンガ言ッテタ……。結婚シタラ赤チャン生マレルッテ』
「バフォオォォォォォッ」

 あんのクソエロオヤジ、なんてことをアスに吹き込むんだ。

「ア、アス、あのね、結婚したからって赤ちゃんがすぐにできるわけじゃないのよ」
『ソウナノ!?』
「そ、そうよアスちゃん。赤ちゃんが生まれるには、その……いろいろと準備が必要なんですよ」
『ジュンビ? ジュンビッテ何?』

 何?
 と言われて、俺たち三人は硬直した。
 アスになんて説明すりゃいいんだ……。
 あぁーっ。こういうのは親父がちゃんと教えてやれよ!

 まぁ……フレイも聞かれて答えられやしないだろうけど。
 自然に覚えたもんなぁ……エッチな本とか、エッチな本とか、本とか……。

「と、とにかくだアス。俺たちはまだ赤ちゃんを授かる予定はない。年もまだ若いし、まだまだ精力的にやらなきゃならないこともいっぱいあるからな」
『ジャア、赤チャンハ生マレナイ?」』
「生まれない」

 三人で話し合って決めたことだ。
 せめてルーシェとシェリルが二十歳を過ぎるまでは、妊娠しないように気を付けようって。
 この世界には産婦人科なんてない。若くして妊娠すると、母体の負担がかかりすぎて命の危険まである。
 その辺の話はオーリたちからも聞いている。

『エヘヘ。ア、ボク東ノ畑ニ行ッテクルネ。アースティンオジサンニ頼マレゴトシテタノ』
「お、おう。いってらっしゃい」

 ウキウキでツリーハウスを出ていくアスを見送る。

「なんだかアス、私たちに赤ちゃんができないことを喜んでるみたい?」
「そんな感じがしますね。どうしてでしょうか?」
「さぁ、なんでだろうな?」

 返答に困る質問をされて焦ったが、急にどうしたんだろうな?





『んーっとね、アスは不安なんだと思うの』
「不安?」

 ユユとチビユたちと渓谷の外で土壌改良作戦中。
 今朝のアスの話をすると、ユユがそう言った。

『僕たち最近ね、チビたちの教育をしているの』
「おぉ~」
『狩りの仕方とか、何をすると危ないのかとか教えてるの』

 へぇ。ずっと子供だと思ってたユユが、親っぽくなってるじゃないか。

『チビたちにいろいろ教えている時は、アスと遊べなくなるの。だからアス、寂しそうにしてて……』
『かじょく。にんげん、どりゅー、かじょくいっぱい』
「そうだな。家族ばっかりだな」

 最近、チビユが片言の言葉を話すようになった。
 おしゃべりができるようになってチビユは嬉しいのか、傍にいるときはずっと話かけてくる。

『あしゅ、かじょく、ないない』
「アスの家族は俺たちだぞ」
『ほんちょーかじょく、ないない』
『本当の家族じゃないからって言ってるの。ユタカ兄ちゃんたちに赤ちゃんできたら、自分より赤ちゃんを大事にするだろうから、それが不安なんだと思う』

 本当の家族じゃないから……。
 俺たちがアスを捨てることなんて絶対にない。
 でも、子供ができればそっちにかかりっきりになる可能性はある。

『本当の家族はいるのにね』
『にぇー』

 そうだ。本当の家族いるじゃねえか。
 フレイがさっさと、自分が父親だって名乗りでてくれればアスに寂しい思いをさせずに済むってのに。

「なんとかあの親子が、親子らしくさせられればいいんだけどなぁ」
『フレイ様、いっぱいいっぱい後悔してるもんねぇ』
『しちぇるぅ』

 アスの母親を死なせてしまったのは、自分のせいだって思ってるもんな。
 まぁ間接的にはそうなのかもしれない。
 妻の傍にいてやれれば、弱っているところをどこぞのモンスターに襲われずに済んだんだからな。

 けど、奥さんも奥さんだ。
 身籠ったのなら、なんでフレイの元に戻らなかったのか。
 喧嘩別れしたって、フレイはあんなに奥さんの事愛してたんだし、仲直りだってできただろう。
 お互い変なところで意地を張って、二度と会えなくなってしまったんだ。

 俺は……俺は絶対、ルーシェとシェリルと別れ離れになんてなりたくない。
 ずっと傍で二人を見守りたい。

 はぁ……。
 とにかく、あと三年。短くても三年だ。
 その間にアスとフレイの仲をなんとかしないと、おちおち子作りなんてできなさそうだぞ。