砂漠が――というより南と隔てる山脈からこっち、さらに東の山脈からこっち、この一帯が高温なのは――
『偽神官どもがあたしを地下に幽閉するよりもずっと前に、人間の精霊使いとあの野郎が契約したの。それからよ。この一帯が高温になったのは』
アクアディーネが言う『あの野郎』がイフリートだ。
「なんで気温が上昇したんだろう? 契約すると、そういうオマケがつくのか?」
『そんなわけないでしょ』
『その精霊使いがイフリートに命じたのだ。力を解放しろ、と』
『大精霊が力を解放するってことは、災害が発生するってことなの。それがわかっているから、あたしたちは力を解放しないのよ』
「えっと、例えば?」
『あたしが力を解放すれば、雨が降り続けるわ。ジンだと嵐が起きるし、ベヒモスくんなら地震よ』
嵐と地震はノーサンキューだけど、雨なら別に――
『雨なら砂漠にとっては恵みになるなんて思ってるでしょ。あのね、降り続けるっていうのは物凄い豪雨がずーっと降り続けるってことよ。ここは水はけの悪い岩山でしょ。土もまだまだカチカチで、一気に大量の雨が降ったら地面に吸いきれずに洪水が起きるじゃない』
「あ……あぁ、そうか。何日も振り続けるのは困るな」
『何日じゃすまないわよ。解放している間、ずーっとそうなるの』
え……じゃあ、力を解放し続けろって命令されたら、その命令が取り消されるまで?
え……マジ?
三六五日ずっと豪雨。
三六五日ずっと嵐。
三六五日ずっと地震……。
なにその地獄。
『偽神官たちは許せないけど、あの町が生き残るのには水の大精霊の力は必要だったのよ。まったく、あたしを幽閉なんかするから、炎の力が強くなって余計に熱くなったじゃない』
『水、炎、風、大地。四大精霊の力のバランスが崩れちゃったから、今こんなことになってるんだよね』
「じゃあ、アクアディーネも復活したことだし、バランスは戻るのか?」
と尋ねると、三人とも首を左右に振る。
「大精霊様がいらっしゃるのに、戻らないのですか?」
『そうよルーシェちゃん。イフリート野郎は力を全開放しちゃってるけど、あたしたちは解放していないもの』
「力を解放できないの?」
『さっきも言ったように、我々が力を解放すれば災害が起きるのだ』
『長い時間をかければ今よりは少し気温が下がるけどね。アクアちゃんが戻って来たし。でも、季節がわかるほど気温を下げようと思ったら、イフリート君の力を弱めてもらうしかないんだ』
イフリートが他の大精霊と同じように、力を加減した状態にしてようやく、全精霊のバランスが取れるようになる。
そうなれば気温は下がって行って、やがてこの砂漠地帯でも春や秋といった涼しい季節がくるだろうって。
「冬は?」
『んー、ここの山頂付近にすこーし降るふらいなら』
『元々この地方は温かいところだからね。今の夜ぐらいの気温以下になる日は、あんまりないかもぉ』
「そうか。でも夜のあのひんやりした気温が日中も続く日がくるだけでお、全然違うよな」
そうなるといいな。
そうなって欲しい。
「なら、イフリートとも契約しないと」
「えぇ、そうね」
「昼間でも肌寒く感じる日がくるなんて、想像もできませんね」
涼しくなれば植物の成長もよくなるんじゃないかな。
今だと日陰に植えた草はよく育つけど、日向のはすぐに枯れてしまう。
枯れるまでに動物たちが食べてくれるから無駄にはなってないけど。
野菜にしたってそうだ。
俺のスキルで成長を早められるからいい。
だけど目標は完全自然栽培だ。
雨のおかげで成長率は良くなってるけど、日中のうち日陰になる時間が長い場所以外は枯れやすい。
やっぱ気温なんだよ。
雨を降らせるだけじゃダメなんだ。
だけど……。
『難しいわね』
『だねぇ』
「え、なんでだよ」
『イフリートは未だに契約状態にある』
「え、でもイフリートが契約したのって、アクアディーネが神殿に飛び込められる前の話だろ? その精霊使いはとっくに――」
『そ。とっくに死んじゃってるわ。でも契約は解除されてないのよ』
そんなことあり得るのか?
『我らとお前との契約は、お前が頼んだことで実ったものだ』
「あ、あぁ。俺が力を貸してくれって頼んだんだ」
『そう。でも精霊使いとの契約は少し違うのよ。強制力って言ってね、実力でねじ伏せる。そんな感じ』
『もちろん全員がそうじゃないよ。ユタカみたいに優しい心で契約を望む精霊使いもいる。でもね、イフリート君と契約した精霊使いは違うんだ』
力で従わせる。そういうタイプだったのか。
『精霊使いの強制力が強ければ、死後もその契約は続くこともある』
「じゃあ、イフリートと契約した精霊使いってのは、相当な実力者だったってことか」
『そういうこと。精霊誓いでもないあんたじゃ、イフリートの契約を上書きするのは難しいわよ』
『奴と契約した精霊使いより優れた存在でなければな』
う……それは……確かに難しそうだ。
俺の魔力は普通よりは高いらしい。普通よりは、だ。
以前は魔力をスキルで成長させたりしていたけど、フレイに魔力を借りるようになってからは一度もやっていない。
そもそも成長促進を使うのに必要な魔力があればいいと思っていたからな。
「俺じゃ、無理ってことだよな」
「マリウスはどう?」
「そうですね。彼は魔法使いさんですし」
『あの子の魔力は確かに低くはないけど、精霊使いとしての素質は低いわよ』
『魔法が使えるから精霊使いにもなれるとは限らぬ。精霊使いとしての素質だけでいえば、お主らのほうがマシだ』
魔力はあるけど精霊使いに向かないマリウスと、魔力はそんなに高くはないけど精霊使いにはなれそうな俺たち……。
とはいえ、強制力ってやつで大精霊を力づくで契約させられるほどではない。
はぁ……解決策が見つかったと思ったけど、ダメかぁ。
『偽神官どもがあたしを地下に幽閉するよりもずっと前に、人間の精霊使いとあの野郎が契約したの。それからよ。この一帯が高温になったのは』
アクアディーネが言う『あの野郎』がイフリートだ。
「なんで気温が上昇したんだろう? 契約すると、そういうオマケがつくのか?」
『そんなわけないでしょ』
『その精霊使いがイフリートに命じたのだ。力を解放しろ、と』
『大精霊が力を解放するってことは、災害が発生するってことなの。それがわかっているから、あたしたちは力を解放しないのよ』
「えっと、例えば?」
『あたしが力を解放すれば、雨が降り続けるわ。ジンだと嵐が起きるし、ベヒモスくんなら地震よ』
嵐と地震はノーサンキューだけど、雨なら別に――
『雨なら砂漠にとっては恵みになるなんて思ってるでしょ。あのね、降り続けるっていうのは物凄い豪雨がずーっと降り続けるってことよ。ここは水はけの悪い岩山でしょ。土もまだまだカチカチで、一気に大量の雨が降ったら地面に吸いきれずに洪水が起きるじゃない』
「あ……あぁ、そうか。何日も振り続けるのは困るな」
『何日じゃすまないわよ。解放している間、ずーっとそうなるの』
え……じゃあ、力を解放し続けろって命令されたら、その命令が取り消されるまで?
え……マジ?
三六五日ずっと豪雨。
三六五日ずっと嵐。
三六五日ずっと地震……。
なにその地獄。
『偽神官たちは許せないけど、あの町が生き残るのには水の大精霊の力は必要だったのよ。まったく、あたしを幽閉なんかするから、炎の力が強くなって余計に熱くなったじゃない』
『水、炎、風、大地。四大精霊の力のバランスが崩れちゃったから、今こんなことになってるんだよね』
「じゃあ、アクアディーネも復活したことだし、バランスは戻るのか?」
と尋ねると、三人とも首を左右に振る。
「大精霊様がいらっしゃるのに、戻らないのですか?」
『そうよルーシェちゃん。イフリート野郎は力を全開放しちゃってるけど、あたしたちは解放していないもの』
「力を解放できないの?」
『さっきも言ったように、我々が力を解放すれば災害が起きるのだ』
『長い時間をかければ今よりは少し気温が下がるけどね。アクアちゃんが戻って来たし。でも、季節がわかるほど気温を下げようと思ったら、イフリート君の力を弱めてもらうしかないんだ』
イフリートが他の大精霊と同じように、力を加減した状態にしてようやく、全精霊のバランスが取れるようになる。
そうなれば気温は下がって行って、やがてこの砂漠地帯でも春や秋といった涼しい季節がくるだろうって。
「冬は?」
『んー、ここの山頂付近にすこーし降るふらいなら』
『元々この地方は温かいところだからね。今の夜ぐらいの気温以下になる日は、あんまりないかもぉ』
「そうか。でも夜のあのひんやりした気温が日中も続く日がくるだけでお、全然違うよな」
そうなるといいな。
そうなって欲しい。
「なら、イフリートとも契約しないと」
「えぇ、そうね」
「昼間でも肌寒く感じる日がくるなんて、想像もできませんね」
涼しくなれば植物の成長もよくなるんじゃないかな。
今だと日陰に植えた草はよく育つけど、日向のはすぐに枯れてしまう。
枯れるまでに動物たちが食べてくれるから無駄にはなってないけど。
野菜にしたってそうだ。
俺のスキルで成長を早められるからいい。
だけど目標は完全自然栽培だ。
雨のおかげで成長率は良くなってるけど、日中のうち日陰になる時間が長い場所以外は枯れやすい。
やっぱ気温なんだよ。
雨を降らせるだけじゃダメなんだ。
だけど……。
『難しいわね』
『だねぇ』
「え、なんでだよ」
『イフリートは未だに契約状態にある』
「え、でもイフリートが契約したのって、アクアディーネが神殿に飛び込められる前の話だろ? その精霊使いはとっくに――」
『そ。とっくに死んじゃってるわ。でも契約は解除されてないのよ』
そんなことあり得るのか?
『我らとお前との契約は、お前が頼んだことで実ったものだ』
「あ、あぁ。俺が力を貸してくれって頼んだんだ」
『そう。でも精霊使いとの契約は少し違うのよ。強制力って言ってね、実力でねじ伏せる。そんな感じ』
『もちろん全員がそうじゃないよ。ユタカみたいに優しい心で契約を望む精霊使いもいる。でもね、イフリート君と契約した精霊使いは違うんだ』
力で従わせる。そういうタイプだったのか。
『精霊使いの強制力が強ければ、死後もその契約は続くこともある』
「じゃあ、イフリートと契約した精霊使いってのは、相当な実力者だったってことか」
『そういうこと。精霊誓いでもないあんたじゃ、イフリートの契約を上書きするのは難しいわよ』
『奴と契約した精霊使いより優れた存在でなければな』
う……それは……確かに難しそうだ。
俺の魔力は普通よりは高いらしい。普通よりは、だ。
以前は魔力をスキルで成長させたりしていたけど、フレイに魔力を借りるようになってからは一度もやっていない。
そもそも成長促進を使うのに必要な魔力があればいいと思っていたからな。
「俺じゃ、無理ってことだよな」
「マリウスはどう?」
「そうですね。彼は魔法使いさんですし」
『あの子の魔力は確かに低くはないけど、精霊使いとしての素質は低いわよ』
『魔法が使えるから精霊使いにもなれるとは限らぬ。精霊使いとしての素質だけでいえば、お主らのほうがマシだ』
魔力はあるけど精霊使いに向かないマリウスと、魔力はそんなに高くはないけど精霊使いにはなれそうな俺たち……。
とはいえ、強制力ってやつで大精霊を力づくで契約させられるほどではない。
はぁ……解決策が見つかったと思ったけど、ダメかぁ。



