結婚式から二日目。今日は一月三日だ。
正月三が日の最終日――と言っても、お祭りムードだったのは大晦日と元旦だけ。
昨日も今日も、普段の生活と同じだ。
ただ以前と違うこともある。
前は朝早くから畑仕事をして、陽が昇ってしばらくしたら終わり。
夕方、陽が暮れる前にまた畑に行って作業をする。
真っ暗になったらその日の作業は終了だ。
けど今は――
「昨日の夜、少し雨が降ったねぇ」
「あぁ。おかげで少し涼しいよ」
涼しい……きっと気のせいだ。
だって濡れた地面の水分が蒸発して、むわぁってしてるし。
そんな感じで、雨が降るようになってからは日中でも畑仕事をするようになった。
人が増えた分、食料の確保も必要になったからな。
ちゃーんとこまめな水分補給と休憩をとるよう言ってあるけど……
翌日、熱中症で倒れる子供が出た。
ドリュー族の子、コニーだ。
「コニー、大丈夫か?」
「ううん。だいじょーぶ」
大丈夫じゃないな。
ここには医者もいないし、どうすればいいんだろう。
そういや熱中症で倒れた人って、ここに来て一度も見てないな。
暑い時間には屋内で過ごしていたからだろう。
だけど雨が降って涼しくなったと思っているから、日中でも外に出るようになって……。
「ちゃんと水分補給してたか?」
「朝ご飯のとき、ちゃんと飲んだ、よ」
「いや、それだけじゃ足りないだろ。せめて一時間ごとにコップ一杯は飲んどかないと」
「そう、なの?」
そうなのって……あぁそうか。
元々ガブ飲みできるほどの水がなかったから、十分な水が確保できるようになった今でも、無意識のうちに水を節約してしまうんだろう。
しっかり水分補給をってのが、朝、ご飯のときにコップ一杯飲むことだと思っていたに違いない。
そういや、塩分も一緒に摂ると水の吸収がよくなるってなんかいってたな。
『体を冷やしてあげた方がいいわねぇ』
『冷やしてやろう』
「アクアディーネ、ジン。どうやって冷やすんだ?」
『あたしの水を霧状にしてぇ』
『わたしが風を吹かせれば、空気が冷える』
冷風機みたいなものか。
「頼むよ」
『大丈夫だよ。ゆっくり休ませればすぐ元気になるよ』
「そうなのか? ベヒモスくん」
『うん。生きてるものにはね、生命の精霊の力が働いているんだ。管轄が違うからボクらにはどうこうできないけど、それでも精霊の働きがどうかぐらいはわかるんだ。疲れてるけど、命の危険はない』
「そっか。よかった」
体を冷やしてやって、落ち着いたらしっかりご飯を食べさせよう。
他の人にも水分補給の頻度をちゃんと教えないと。
「ユタカ様、また倒れた方が――」
「え?」
マリウスがオースティン家にやって来てそう言った。
今度はダッツの奥さんだ。
「それと、倒れるほどじゃないですが、具合の悪い方が何人かいらっしゃいます。軽い熱中症だと思います」
「マズいな。いったん畑に出てる人全員、引き上げさせよう。ここの人たちは水を節約する習慣があるから、俺たちが思っていたより全然水を飲んでないみたいなんだ」
「でしょうね。ターニャさんやハリュには僕の方から水を勧めていますが、言わないと飲まないんですよ」
「やっぱりか。とりあえずみんなを休ませよう」
ツリーハウスを一軒新調して、簡易的な病室にした。
アクアディーネとジンにハウス内を涼しくしてもらって、あちこちから集めた布団を敷いただけの病室だ。
体調の悪い人にはここで休んでもらう。
ドリュー族でも体調を崩した人が出たようだが、彼らの居住スペースは比較的涼しい。
彼らの共同スペースで休んで貰って、冷たい水で体を拭いて体温を下げてもらおう。
「雨が降ったからって、そんないきなり気温が下がる訳でもないから、やっぱり日中の作業は止めた方がいいんんだろうな」
「でも実際、温度は下がってると思うんだけど」
「そうかなぁ」
以前はカラっとした暑さだったけど、今は日本の夏みたいにじめっとした暑さがあるように感じる。
湿度がある分、不快指数は高そうなんだよな。
『気温は下がってるよ。ほんの少しね』
「ほら、ベヒモスくんもこう言ってるじゃない」
『でも湿度が凄く上がったからね。湿度が高いと人は体温調節が難しくなるんだ。だから具合が悪くなりやすいんだよ。たぶんだけど』
「え、そうなんですか?」
「そういえば、最近は体が少しだるいと感じる日もありますね」
「ルーシェっ。そういうのはちゃんと言ってくれよ。いきなり倒れたりしたら、心配どころじゃないんだから」
「ご、ごめんなさい」
ここの人たちは、じめじめした暑さに慣れてないもんな。
しかしこれは対策を考えないとなぁ。
日本と違ってここはずーっと夏なんだし。いや、夜は秋の終わりって感じか。
一日の気温差が激しいのも問題なんだろうなぁ。
「なんとか日中の気温が下がってくれればいいんだけど」
『そうねぇ。この気温だとあたしがどんなに頑張って雨を降らせても、すーぐ蒸発しちゃうし』
頑張ってたのはクラーケンじゃなかったっけ?
まぁいいや。
『すこーしずつ砂も湿ってはきているけど、このスピードだと普通の土になるまで百年ぐらいかかりそうだねぇ』
「その頃には俺、もう死んでるよ」
『うん、そうだねぇ。できれば君が元気なうちにスキルで種をばぁ~ってして欲しいんだけど』
『この地域一帯の気温を下げたければ、奴に――『それは嫌! ぜーったい反対!!』……はぁ』
ん、なんだ?
『アクアちゃんとは相性が最悪だからねぇ』
「相性って、誰と?」
『イフリートくんだよ』
イフリート……炎の大精霊か!?
正月三が日の最終日――と言っても、お祭りムードだったのは大晦日と元旦だけ。
昨日も今日も、普段の生活と同じだ。
ただ以前と違うこともある。
前は朝早くから畑仕事をして、陽が昇ってしばらくしたら終わり。
夕方、陽が暮れる前にまた畑に行って作業をする。
真っ暗になったらその日の作業は終了だ。
けど今は――
「昨日の夜、少し雨が降ったねぇ」
「あぁ。おかげで少し涼しいよ」
涼しい……きっと気のせいだ。
だって濡れた地面の水分が蒸発して、むわぁってしてるし。
そんな感じで、雨が降るようになってからは日中でも畑仕事をするようになった。
人が増えた分、食料の確保も必要になったからな。
ちゃーんとこまめな水分補給と休憩をとるよう言ってあるけど……
翌日、熱中症で倒れる子供が出た。
ドリュー族の子、コニーだ。
「コニー、大丈夫か?」
「ううん。だいじょーぶ」
大丈夫じゃないな。
ここには医者もいないし、どうすればいいんだろう。
そういや熱中症で倒れた人って、ここに来て一度も見てないな。
暑い時間には屋内で過ごしていたからだろう。
だけど雨が降って涼しくなったと思っているから、日中でも外に出るようになって……。
「ちゃんと水分補給してたか?」
「朝ご飯のとき、ちゃんと飲んだ、よ」
「いや、それだけじゃ足りないだろ。せめて一時間ごとにコップ一杯は飲んどかないと」
「そう、なの?」
そうなのって……あぁそうか。
元々ガブ飲みできるほどの水がなかったから、十分な水が確保できるようになった今でも、無意識のうちに水を節約してしまうんだろう。
しっかり水分補給をってのが、朝、ご飯のときにコップ一杯飲むことだと思っていたに違いない。
そういや、塩分も一緒に摂ると水の吸収がよくなるってなんかいってたな。
『体を冷やしてあげた方がいいわねぇ』
『冷やしてやろう』
「アクアディーネ、ジン。どうやって冷やすんだ?」
『あたしの水を霧状にしてぇ』
『わたしが風を吹かせれば、空気が冷える』
冷風機みたいなものか。
「頼むよ」
『大丈夫だよ。ゆっくり休ませればすぐ元気になるよ』
「そうなのか? ベヒモスくん」
『うん。生きてるものにはね、生命の精霊の力が働いているんだ。管轄が違うからボクらにはどうこうできないけど、それでも精霊の働きがどうかぐらいはわかるんだ。疲れてるけど、命の危険はない』
「そっか。よかった」
体を冷やしてやって、落ち着いたらしっかりご飯を食べさせよう。
他の人にも水分補給の頻度をちゃんと教えないと。
「ユタカ様、また倒れた方が――」
「え?」
マリウスがオースティン家にやって来てそう言った。
今度はダッツの奥さんだ。
「それと、倒れるほどじゃないですが、具合の悪い方が何人かいらっしゃいます。軽い熱中症だと思います」
「マズいな。いったん畑に出てる人全員、引き上げさせよう。ここの人たちは水を節約する習慣があるから、俺たちが思っていたより全然水を飲んでないみたいなんだ」
「でしょうね。ターニャさんやハリュには僕の方から水を勧めていますが、言わないと飲まないんですよ」
「やっぱりか。とりあえずみんなを休ませよう」
ツリーハウスを一軒新調して、簡易的な病室にした。
アクアディーネとジンにハウス内を涼しくしてもらって、あちこちから集めた布団を敷いただけの病室だ。
体調の悪い人にはここで休んでもらう。
ドリュー族でも体調を崩した人が出たようだが、彼らの居住スペースは比較的涼しい。
彼らの共同スペースで休んで貰って、冷たい水で体を拭いて体温を下げてもらおう。
「雨が降ったからって、そんないきなり気温が下がる訳でもないから、やっぱり日中の作業は止めた方がいいんんだろうな」
「でも実際、温度は下がってると思うんだけど」
「そうかなぁ」
以前はカラっとした暑さだったけど、今は日本の夏みたいにじめっとした暑さがあるように感じる。
湿度がある分、不快指数は高そうなんだよな。
『気温は下がってるよ。ほんの少しね』
「ほら、ベヒモスくんもこう言ってるじゃない」
『でも湿度が凄く上がったからね。湿度が高いと人は体温調節が難しくなるんだ。だから具合が悪くなりやすいんだよ。たぶんだけど』
「え、そうなんですか?」
「そういえば、最近は体が少しだるいと感じる日もありますね」
「ルーシェっ。そういうのはちゃんと言ってくれよ。いきなり倒れたりしたら、心配どころじゃないんだから」
「ご、ごめんなさい」
ここの人たちは、じめじめした暑さに慣れてないもんな。
しかしこれは対策を考えないとなぁ。
日本と違ってここはずーっと夏なんだし。いや、夜は秋の終わりって感じか。
一日の気温差が激しいのも問題なんだろうなぁ。
「なんとか日中の気温が下がってくれればいいんだけど」
『そうねぇ。この気温だとあたしがどんなに頑張って雨を降らせても、すーぐ蒸発しちゃうし』
頑張ってたのはクラーケンじゃなかったっけ?
まぁいいや。
『すこーしずつ砂も湿ってはきているけど、このスピードだと普通の土になるまで百年ぐらいかかりそうだねぇ』
「その頃には俺、もう死んでるよ」
『うん、そうだねぇ。できれば君が元気なうちにスキルで種をばぁ~ってして欲しいんだけど』
『この地域一帯の気温を下げたければ、奴に――『それは嫌! ぜーったい反対!!』……はぁ』
ん、なんだ?
『アクアちゃんとは相性が最悪だからねぇ』
「相性って、誰と?」
『イフリートくんだよ』
イフリート……炎の大精霊か!?


