フレイに飛んでもらって村まで帰宅。
 少し仮眠してから、式の準備に取り掛かった。

 といっても、町で買った砂漠の民っぽい衣装に着替えるだけだ。
 ま、ルーシェとシェリルはおめかしするから時間はかかるが。
 それよか地味に隣でイチャつかれてて腹立たしい。

「これでいいかしら?」
「はい。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
「マリウスおじちゃん、カッコいい~」
「そ、そうですか?」

 ルーシェとシェリルが準備中だから、俺は追い出されている。
 でも外でぼぉっと待ってると暑さにやられるので、ターニャさんとこにお邪魔させられていた。
 こちらも新婚ほやほやの一家だ。見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい、イチャラヴしている。
 はぁ……。

「ユタカ兄ちゃん、準備できたモググよ」
「ユタカお兄ちゃんはできたモググか?」
「トミー、コニー。俺はこの通り、バッチリだ」

 伸びていた髪もターニャさんに整えてもらってさっぱりした。

「んー」
「んんー」
「な、なんだよ二人とも」
「「いつもと変わらいモググ」」

 くそっ。子供ってのはなんて残酷なんだ。

「い、いいんだよ。結婚式ってのは、女の子が主人公なんだからっ」
「ふーん」
「じゃあ大丈夫モググね」

 もう、ほんとね……俺のHPゲージがゴリゴリ削られてくよ。

 トミーとコニー。二人のドリュー族の子供たちに先導され、滝の方へと向かう。
 水しぶきが届かないギリギリの距離に、ダッツが急ごしらえしてくれた机っていうのかな? 神父が立つ、あれが置かれている。
 そこに立つのはマリウスだ。

「新婦の入場だぞー」

 っというオーリの声が聞こえた。

 ヤ、ヤベェ。なんか緊張してきた。
 誓いの言葉って、なんて答えるんだっけ?
 えっと、指輪は誓いの前? 後?

 うああぁぁぁ。

「ンベヘェ~」

 んぁ? バフォおじ……バフォおじさんがバージンロード歩いてやがる!?
 しかもめっちゃご満悦な顔じゃねえか。
 ちょ、ぶはっ、笑わせんな。

 弾むような足取りのバフォおじさんの後ろには、コニーの妹のマリル、オーリんところの娘さんオリエが花びらを撒きながらやってくる。
 その後ろからは――

 真っ白な……砂漠では見たことのない、真っ白なドレスを着たルーシェとシェリルがゆっくりと歩いて来る。
 
 ドレス、というよりはワンピースだ。
 けどやっぱりドレスだな。凄く綺麗な純白のドレスだ。
 ちゃんとブーケも被ってて、そのブーケの裾はルルとリリが咥えていた。で、ユユとアスはその後ろから付いて来ているようだ。
 大所帯じゃないか、まったく。

 二人が俺の左右に分かれて立つと、マリウスが咳ばらをして、それから深呼吸。
 俺の緊張はバフォおじさんを見て解れたが、マリウスは緊張しまくったままだな。
 あとで弄ってやろう。

「こ、これより、ダイチユタカとルーシェ、シェリルの結婚式を執り行います」
「がんばえぇー。マリウス兄ちゃん」

 ぷっ。応援されてるぞマリウス。

「ど、どうも。えぇー……ダイチユタカ。あなたは病めるときも健やかなる時も、夫として二人を愛することを誓いますか?」
「誓います」

 そうだ。誓いの言葉って「誓います」って言うだけでよかったんだ。
 こんな短い返事も、緊張して頭からすっぽり抜けてしまうなんて。

「ルーシェ、シェリル。二人は病めるときも健やかなる時も、妻としてダイチユタカを支え、愛することを誓いますか」
「はい。誓います」
「誓います」
「ここに三人の宣言がなされました。お聞きになられましたか?」

 ん?
 誰に言っているんだ?

『ふふ。三人の誓い、確かに聞きましたよ』
『うむ。偽りのない言葉であった』
『嘘ついたらハリセンボンだもんね』

 え? え?
 だ、大精霊たち!?
 しかもなんていうか……おめかし、しているような。

 アクアディーネは大人バージョンで、水の衣も普段よりずいぶんひらひらだ。
 上半身裸男のジンは、ギリシャ神話の神様みたいな布? 服? とにかく着てる。
 ベヒモスはウリ坊のままだけど、蝶ネクタイなんかつけてるぞ。

『クラちゃんにもこの光景は見せてあげているのよ。三人におめでとうと言って欲しいって』
「クラちゃんさまも祝ってくださっているのですか!?」
「大精霊様に祝ってもらえるなんて……ぅ」
「シェリルちゃん」

 あぁ、シェリルが今にも泣き出しそうだ。
 実はルーシェよりシェリルの方が涙もろいんだよなぁ。

「シェリル。これでも見て気持ちを落ち着かせるんだ」
『ちょっと、どうしてボクを抱え上げてるの?』
「ベヒモスくん!」
『はい!』

 ベヒモスはピっと、短い前脚を上げる。

「ぷっ。かわいい」
『当然だよね』

 当然かどうかは置いといて、とりあえず涙は引っ込んでくれたようだ。

「まったく。台本にない演出するなよなぁ」
「あはは。すみません。大精霊様たちがどうしてもと仰るので」
『光栄に思うがよい。わたしたちはこれまで、ただの一度も人間が夫婦になる儀式に参加したことなどないのだから』
『祝うなんてこともなかったですかれ』
「それは……光栄すぎるぐらいだな。ほんと、ありがとう」

 いかん。今度は俺がうるっとしてきた。

「ベヒモスくん」
『ぶー』
「へぶっ。なんでチョキパンチするんだよ」

 はいって前脚を上げてくれると思ったのに、鼻先を小突かれた。
 周りから笑いが起こる。

 ふぅ。どうにかうるうるが引いてくれたぞ。

「では、指輪の交換を行いましょう。アスくん、ユユくん」
『ハーイ』
『持ってきたよぉ』

 なるほど、アスとユユは指輪担当だったのか。
 アスが二人の分を、ユユが俺の分を持って来てくれた。俺の分は二つだ。二人に嵌める指輪だからな。
 まずは俺が二人の指に嵌め、それからルーシェ、シェリルの準で俺に指輪を嵌めてくれた。
 ん? なんか変わった形だな。
 後に嵌めたシェリルのリングは繋がってなくて、ルーシェが嵌めてくれたリングとクロスするように作られていた。

「おじさん、お願いね」
「おぅ、任せとけ。さぁユタカ、指出せや。ベヘヘヘヘェ」
「な、何をする気だ?」
「いいからいいから。ほらよ」

 おじさんが前脚を持ち上げ、俺の手に――いや、今嵌めて貰ったリングに触れる。
 一瞬だけ熱さを感じた。

「よし、これで繋がったぜ」
「え、繋がった?」

 みるとシェリルが嵌めてくれたリングの途切れた部分が、ルーシェのリングと繋がっていた。
 溶接みたいなことをしたのか。

「指輪を二つ嵌めると、ちょっと邪魔になるでしょ?」
「最初は細いリングを二つにしとうと思っていたのですが、動くと邪魔になるでしょうし」
「それでね、ほそーいリングを二つ、繋げることにしたの」
「へぇ、なるほどぉ。よく考えてあるなぁ」

 クロスしたデザインとか、それだけでちょっとカッコいい。
 それに、ルーシェとシェリルという、双子の姉妹をイメージするのにぴったりだ。

「それではー! 誓いの口づけをお願いしますっ」

 は!?
 キ、キス!?
 そうだ。結婚式といえば人前でのちゅーじゃないかっ。
 あ、ヤベ。また緊張してき――

 左右の頬に、柔らかい感触が。

「三人に祝福を~!!」
「「おめでとうっ」」
「べへぇ」

 ん……んんー。

 頬っぺたでもOKだったのか。
 緊張して損したあぁぁぁ。

 ま、いっか。

 それからはもう、飲んで食っての大騒ぎ。
 昨日は一年の最後記念といって騒ぎ、年が明ければ新年のお祝いだといって騒ぎ、今は俺たちの結婚式だからといって騒ぐ。
 ま、いいよな。おめでたいことだらけなんだし。

 明日からまた頑張って畑仕事だ。