慌ただしい日が続いた。
この世界ではどんな風に結婚式をするのか。
それを二人に尋ねたら「けっこんしき?」「なにそれ?」と返ってきた。
砂漠では結婚式がないらしい。
夫婦になろう→はい→一緒に暮らす。
こういう流れらしい。
マリウスに聞くと、
「式? ありますよ。神殿で神の前で夫婦の誓いを行います。貴族ですと、その後で屋敷に大勢を招待して、華やかなパーティーを行います。一般国民でも富裕層はこれに似た感じですね」
まぁ予想できる範囲だな。
「庶民は夫婦の誓いのあとは特になにもしないようですが、自宅前で近隣の方に祝われるぐらいでしょうか」
金持ちかどうかで違いはあるようだ。
ただ神の前で誓うという点は同じらしい。
しかし、砂漠にはこの『誓う』すらない。
でもまぁ、そういう風習ならそれでもいいや――って思っていたんだけど、一度『結婚式』という言葉を聞いたもんだから「やりたい!」って言いだしちゃって。
俺だって具体的にどうするのかわからないよ。小学生の頃に親戚の結婚式に一度出席したぐらいだし。
とりあえずみんなの前で誓いの言葉を言って、あとは飲んで騒げばいいよね。
そしてまた俺は余計なことを言ってしまった。
「ウェディングドレスどうする?」
言ってからしまったと思ったね。
結婚式なんてやったことがなかったんだし、ドレスだって知らないはずだ。
「うぇでぃんぐどれす?」
「なにそれ。どういうの?」
「えっと……ま、真っ白な綺麗な服……だよ」
「結婚式で着るものなのですか?」
「うん、そう……」
すると二人は慌ててドレスの作成を始めた。
さすがに糸から作るには時間がかかるからって、真っ白な生地を町まで探しに行って、それで縫ったようだ。
そんな慌ただしい日々を送って、今日はとうとう大晦日。
日中はツリーハウスの掃除をして、夕方からご馳走作って、さっきまでみんなでわいわいやっていた。
日付が変わってまたお祝いして、それから集落を出てある場所へ。
せっかくだし、初日の出を見ようっていうと、これまた初日の出とは何ぞやって話になって。
まぁ新しい年を迎えた最初の日の出って教えるのは簡単だけど。
「うぅ、寒いな」
『ピトッテスル?』
「する」
「あ、私も」
「仲間に入れてください」
桜の木の下で、俺たち三人はアスにピッタリ寄り添う。
ここはアスのお袋さんが眠る丘。
日の出が良く見えるだろと思って、頑張って登って来た。
近くにはフレイもいる。
日の出までまだかなり時間があるし、少し仮眠。
・
・
・
『おい、そろそろだぞ』
「んぁ……フレイ……朝?」
『日の出を見るのだろう』
そうだっ。
「ルーシェ、シェリル。起きろ。アスは起きれるか?」
「ん、んー。ふわぁ、朝ぁ?」
「もうすぐ夜明けだ」
「ぁふぅ……日の出!」
ルーシェとシェリルがパっと目を覚ます。
俺たちが動いたからか、珍しくアスも目を覚ました。
『ムニュウ。ゴ飯?』
「ご飯はまだだけど、日の出の時間だぞ。見るか?」
『日ノ出ェ? ンン~……アッ、見ル!』
『我の頭に乗るといい。よく見渡せるだろう』
「フレイ、ありがとう」
フレイの手に乗って、頭の方まで運んでもらう。
俺たちが頭の上に乗ると、フレイはゆっくりと首を持ち上げた。
うぉ、おおぉぉ!
確かに遠くまで見渡せるな。
「東は――」
「あちらです。もう薄っすら明るくなってきてますね」
「こんな風に朝日を見るなんて初めて。渓谷だと朝日を見るのは、辺りがすっかり明るくなってからだし」
「右の左も、それに前後も、高い壁に囲まれてるしな」
今頃村の人も、東の高台側に登って日の出を待っている頃だろう。
でも以前まではその高台も岩塩を掘るときにしか登ることもなかったし、日の出を見る目的で登ったりはしていなかったんだろうな。
『ア、ミテミテ。ナンカオレンジ色ノ出テ来タヨ』
アスが興奮したように指さす。
オレンジ色の――それが太陽だ。
何もない――ずーっと先まで見渡す限りの砂漠に、今年最初の太陽が昇る。
来年はこの景色の中に、少しでも緑が混じっているだろうか。
いつか、見渡す限りの大草原に変わるだろうか。
「あったかい」
「ほんと。とても暖かい日差しです」
「あぁ、そうだな」
俺たちはしばらく、地平線から昇る太陽を見つめていた。
太陽が完全に顔を出すと、俺はぼそっと呟いた。
「これからも、よろしく」
――と。
「はい。こちらこそ」
「もちろんよ」
『ボクモ』
「あぁ。アスもよろしくな」
これまでと何も変わらない。
だけど気持ち的には、これまでとは違う。
俺は今日、ルーシェとシェリルの二人と結婚する。
これからは本当の意味での家族になるんだ。
親父、お袋。
俺、まだ十八の子供だけど、結婚するよ。
はは。まさか異世界で結婚するなんて、思ってもみなかった。
とにかくさ、心配しないでくれよ。
三人で頑張っていくからさ。
この世界ではどんな風に結婚式をするのか。
それを二人に尋ねたら「けっこんしき?」「なにそれ?」と返ってきた。
砂漠では結婚式がないらしい。
夫婦になろう→はい→一緒に暮らす。
こういう流れらしい。
マリウスに聞くと、
「式? ありますよ。神殿で神の前で夫婦の誓いを行います。貴族ですと、その後で屋敷に大勢を招待して、華やかなパーティーを行います。一般国民でも富裕層はこれに似た感じですね」
まぁ予想できる範囲だな。
「庶民は夫婦の誓いのあとは特になにもしないようですが、自宅前で近隣の方に祝われるぐらいでしょうか」
金持ちかどうかで違いはあるようだ。
ただ神の前で誓うという点は同じらしい。
しかし、砂漠にはこの『誓う』すらない。
でもまぁ、そういう風習ならそれでもいいや――って思っていたんだけど、一度『結婚式』という言葉を聞いたもんだから「やりたい!」って言いだしちゃって。
俺だって具体的にどうするのかわからないよ。小学生の頃に親戚の結婚式に一度出席したぐらいだし。
とりあえずみんなの前で誓いの言葉を言って、あとは飲んで騒げばいいよね。
そしてまた俺は余計なことを言ってしまった。
「ウェディングドレスどうする?」
言ってからしまったと思ったね。
結婚式なんてやったことがなかったんだし、ドレスだって知らないはずだ。
「うぇでぃんぐどれす?」
「なにそれ。どういうの?」
「えっと……ま、真っ白な綺麗な服……だよ」
「結婚式で着るものなのですか?」
「うん、そう……」
すると二人は慌ててドレスの作成を始めた。
さすがに糸から作るには時間がかかるからって、真っ白な生地を町まで探しに行って、それで縫ったようだ。
そんな慌ただしい日々を送って、今日はとうとう大晦日。
日中はツリーハウスの掃除をして、夕方からご馳走作って、さっきまでみんなでわいわいやっていた。
日付が変わってまたお祝いして、それから集落を出てある場所へ。
せっかくだし、初日の出を見ようっていうと、これまた初日の出とは何ぞやって話になって。
まぁ新しい年を迎えた最初の日の出って教えるのは簡単だけど。
「うぅ、寒いな」
『ピトッテスル?』
「する」
「あ、私も」
「仲間に入れてください」
桜の木の下で、俺たち三人はアスにピッタリ寄り添う。
ここはアスのお袋さんが眠る丘。
日の出が良く見えるだろと思って、頑張って登って来た。
近くにはフレイもいる。
日の出までまだかなり時間があるし、少し仮眠。
・
・
・
『おい、そろそろだぞ』
「んぁ……フレイ……朝?」
『日の出を見るのだろう』
そうだっ。
「ルーシェ、シェリル。起きろ。アスは起きれるか?」
「ん、んー。ふわぁ、朝ぁ?」
「もうすぐ夜明けだ」
「ぁふぅ……日の出!」
ルーシェとシェリルがパっと目を覚ます。
俺たちが動いたからか、珍しくアスも目を覚ました。
『ムニュウ。ゴ飯?』
「ご飯はまだだけど、日の出の時間だぞ。見るか?」
『日ノ出ェ? ンン~……アッ、見ル!』
『我の頭に乗るといい。よく見渡せるだろう』
「フレイ、ありがとう」
フレイの手に乗って、頭の方まで運んでもらう。
俺たちが頭の上に乗ると、フレイはゆっくりと首を持ち上げた。
うぉ、おおぉぉ!
確かに遠くまで見渡せるな。
「東は――」
「あちらです。もう薄っすら明るくなってきてますね」
「こんな風に朝日を見るなんて初めて。渓谷だと朝日を見るのは、辺りがすっかり明るくなってからだし」
「右の左も、それに前後も、高い壁に囲まれてるしな」
今頃村の人も、東の高台側に登って日の出を待っている頃だろう。
でも以前まではその高台も岩塩を掘るときにしか登ることもなかったし、日の出を見る目的で登ったりはしていなかったんだろうな。
『ア、ミテミテ。ナンカオレンジ色ノ出テ来タヨ』
アスが興奮したように指さす。
オレンジ色の――それが太陽だ。
何もない――ずーっと先まで見渡す限りの砂漠に、今年最初の太陽が昇る。
来年はこの景色の中に、少しでも緑が混じっているだろうか。
いつか、見渡す限りの大草原に変わるだろうか。
「あったかい」
「ほんと。とても暖かい日差しです」
「あぁ、そうだな」
俺たちはしばらく、地平線から昇る太陽を見つめていた。
太陽が完全に顔を出すと、俺はぼそっと呟いた。
「これからも、よろしく」
――と。
「はい。こちらこそ」
「もちろんよ」
『ボクモ』
「あぁ。アスもよろしくな」
これまでと何も変わらない。
だけど気持ち的には、これまでとは違う。
俺は今日、ルーシェとシェリルの二人と結婚する。
これからは本当の意味での家族になるんだ。
親父、お袋。
俺、まだ十八の子供だけど、結婚するよ。
はは。まさか異世界で結婚するなんて、思ってもみなかった。
とにかくさ、心配しないでくれよ。
三人で頑張っていくからさ。


