「実は俺、異世界人なんだ。ずっと黙っててごめん」
「おまっ」
「ユ、ユタカさん!?」
「急にどうしたのよっ」
「へへ。まぁ、いい機会だからさ」

 こんな時でもないと言い出しにくい。
 今日言わなかったら、このままずるずる隠したまま生きて行く気がする。
 それが悪いわけじゃないと思うけど、なんかずっと肩に小さな荷物を載せたままな気がして嫌なんだ。
 ルーシェたちに俺が異世界人だと話した後、すごく身軽になった。
 隠す必要がないんだって、気持ちが軽くなったんだ。
 
 だから――

 本当は怖い。
 俺という存在を拒絶されるんじゃないかって思いもある。
 それならそれで、受け入れられるように努力すればいいんだ。

 みんなの反応は?

 ごくり。
 なんか静まり返ってるな。

 いや、なんか子供たちの目はキラキラしてる。
 まぁ子供はこんなもんだよな。
 異世界人すっげー。カッコいいー。
 たぶんこんなんだ。

「異世界人とかすっげー!」
「ユタカ兄ちゃん、カッコいい!!」

 ほらな。子供ってこんなもんだ。

「ユタカ君が、異世界から……」
「それってアレだろ? じいさんたちに聞かされたあの」
「それしかないだろ。我々が知る異世界人なんて、あの物語に出てくる――」
「そうだ。そうに違いない」
「ユタカ君のスキルはまさに――」

 物語?
 もしかして異世界人がなぜ召喚されるのか、みんなは知ってるってことか?
 じゃ、俺が戦争の道具として呼び出されたことも……。

 俺は……。

「ユタカ君は勇者だったのか!」

 ――え?

「いやぁ、もしかしてそうじゃないかって思ってたんだ」
「私もよ。だって彼はまさに私たち砂漠の民にとって、勇者だもの」
「あぁ。彼のおかげで子供たちの明るい笑顔が毎日見れるようになった」
「本当に希望そのものだったもの。勇者だと聞いて納得したわ」
「あ、あの、勇者って……」

 俺は勇者じゃなく、戦争の……。

「ンベエェ。忘れたのかユタカ。この世界で一番最初に召喚された異世界人ってのは、正真正銘、勇者だったんだよ」
「バフォおじさん」
「勇者の話はな、どの国のどの地域にも語り継がれてんだ。まぁいろいろと誇張も含まれてるけどな」

 そう、か。
 最初に召喚された人は、ちゃんとこの世界を守った立派な勇者だったんだ。
 親から子へ、その子からまた子へ……何百年と語り継がれて来たのは初代勇者の物語だけ。

「勇者様ってすっごいスキル持ってたっておじいちゃん言ってた!」
「ユタカお兄ちゃん、野菜をぶわーって大きくできるすっごいスキル持ってるもんね」
「うんうん。勇者モググ!」
「い、いや、俺は……ス、スキルはほら、たまたまだし。むしろなんで俺、成長促進だったんだろう?」

 勇者なら、もっとカッコいいっていうか、強いスキルだろう?
 
「召喚された時に与えられるスキルって、完全にランダムなんだろうか?」
「さぁなぁ……そればっかりはオレにもわかんねぇよ。ただな」

 ただ?

「お前のスキルは確かにここの連中を救ったんだ。いや、今も救い続けてる。世界を救おうが特定の奴らを救おうが、救ってることに違いがねぇ。お前ぇは立派な勇者だよ」
「おじさん……」

 悪魔に勇者認定される人間なんて、きっと俺ぐらいだろうな。

「ホープ村の勇者!」
「勇者ユタカ!」
「勇者様が住む村ぁ~」

 なんかすっげー盛り上がってるな。
 ま、みんなが笑顔ならそれでいいよな。





 日が暮れてもしばらくお祭りムードは続いた。
 子供たちがその辺で寝始めてしまって、それでようやくお開きに。

 後片付けをして、ようやくツリーハウスに戻って来た。

「はぁ、楽しかったぁ」
「記念日、いいですね」
「うんうん。またみんなでわいわいしたいわね」
「あぁ、じゃあさ、新年のお祝いもしたらいいんじゃないか?」
「「新年?」」
「そ。年が変わって最初の日に、新年おめでとうってお祝いするんだよ。新しい年になった記念日ってね」

 ご馳走食べて、お年玉もらって、子供の頃は正月が一番好きだったな。

「いいですね、新年のお祝い!」
「新年って、すぐじゃない。ね、明日狩りにいかない?」
「そうですね。またご馳走を作りましょう。楽しみです」

 狩りかぁ。シーサーペント、美味かったなぁ。
 あ、シャッコーマもいいな。アレ以来食べてないし。山にいたし、砂漠のモンスターと違って移動してないんじゃないかな。

 っと、食材《・・》のことより大事なことがあっただろ。

「あのさ、ルーシェ、シェリル」
「ん?」
「はい?」

 先日、フレイに頼んで海と町まで飛んでもらった。
 町の目の前まで飛んでもらったから、ちょっと悲鳴があがったりしたけど。
 その町で買って来たものはベッドに隠していた。それを持って二人の前に立つ。

「えっと……交際……て言ったって、それらしいことは何にもしてないし、ただ傍にいただけなんだけどもさ」
「ユ、ユタカさん?」
「どうしたのよ、改まって」

 買って来たもの――木製の小さなケースが二つ。
 蓋を開け、二人に見せた。

「指輪、ですか?」
「ど、どうしたのこれ」
「クラーケンに頼んで、青い珊瑚と桃色の珊瑚を貰って来たんだ。それを町で加工してもらって」

 指輪に宝石をくっつけると、狩りをするとき邪魔になる。
 なんてのを以前聞いた気がするけど、どうしても指輪がよかったんだ。
 だって。

「お、俺がいた世界だと、その……結婚したい相手に贈るんだっ」
「「え」」

 プロポーズをするなら、指輪は用意しなきゃだろ。

「ほんと、やりたいこといっぱいあって、二人にはいつも付き合わせてばっかりだったけど。それでも傍にいて欲しいから、これからも」
「ユ、ユタカぁ」
「私たちで、本当によろしいのですか?」
「二人じゃないと、ダメなんだ。ルーシェ、シェリル」

 指輪を取り出し、左右の手で一つずつ持つ。
 
「け……結婚してくださいっ」

 俺、頑張ったよな?