最初はビー玉サイズで丸めて、その辺に置いておく。
切り立った山を登り、登り、そして奥へ進んで下り……ここ自体はそう標高は高くない。
だから気温も高いし、ジリジリした太陽は照り付けている。
さすがに炎天下で泥団子作りなんてしてたら熱中症で倒れてしまうから、樫の木を一本植えて日陰を作った。
「捗るわね」
「そうですねぇ。いつもは泥をバケツに入れて、あちらの日陰まで移動してやってたんです」
「でもそれだと泥をまた取に戻らなきゃいけないから、それが手間だったのよ」
ルーシェがいう「あちら」とは、大きな岩が見えるところだ。
二〇〇メートルぐらい離れているのかな。
まぁ近いと言えば近いけど、泥を運ぶと考えるとちょっと遠くもあるな。
「この土、湿り気があるな」
「はい。この辺りの地下は水分を含んでいるかもしれないですね」
表面だけは乾いていたので、引っぺがして裏返しにして乾燥させる。
湿っていると火が点かないんだとか。
引っぺがした下は粘土のような肌触りで、水を含んでいるのが分かった。
この下に水が流れているんだろうか……。
いや、そうだとしても集落まで水を引くのは無理だな。距離がありすぎる。
「ここで五日間、ひたすら団子作りかぁ」
「つ、疲れたら、休んでてもいいわよ」
「そうですっ。ユタカさんは、石を収納魔法に入れてくれさえすればいいので」
「いやいや、団子作りぐらい手伝うよ。単調作業だから、ちょっと飽きてきたってだけだからさ。二人は飽きない?」
だってひたすら、手でくるくる丸めてるだけだもんなぁ。
疲れるって訳でもなく、ただただ飽きただけ。
「そうね、ずっと捏ねてるだけだもの、飽きるわよそりゃ」
「えぇ~、シェリルちゃんは飽きてたの? 私は全然平気。すっごく楽しいもの」
「「えぇ……」」
「な、なんですか二人して。そんな目で見ないでくださぁい」
そういえばルーシェの泥団子、めっちゃ綺麗な丸だよな。
それに比べて俺とシェリルの団子は、わりと適当。
こんなのが楽しいとはなぁ。
日が暮れる前にテントを張って、晩飯の準備をする。
燃える石は使わず、持ってきた薪で火を起こした。
「なぁ、乾燥を早めるなら、夜の間は焚き火の周りに団子を転がしておけばいいんじゃないか?」
「え、でも薪が足りなくならない?」
「大丈夫さ」
インベントリから種を取り出す。
樫の木は樹齢が長いから、薪として燃えやすくするため枯らすのに数百年分成長させなきゃならない。
それが無理なので、使うのは桜の木だ。
ただし、種じゃない。枝だ。
「桜は種じゃなく、枝を植えることで増やせるんだ」
と聞いた気がする。
まぁだからインベントリに枝が入っていたんだろうけど。
「枝で?」
「木の寿命は六、七十年ぐらい。まぁ一〇〇年以上生きるのもあるらしいけど」
さっそく成長させる。
ぐんぐん伸びて、何度か開花を繰り返してようやく満開になった。
「はぁ……すご、い」
「なんて綺麗なんでしょう」
「この辺りで枝を折っておこう」
ポキポキと枝を折る。
試しに地面に植えて、成長させてみた。
お、ちゃんと成長するじゃん。
魔力温存のために、こっちは放置。
最初のヤツだけ追加でスキルを使い、ミシミシっと幹に亀裂が入った所で成長は止まった。
「あぁ……」
「綺麗なお花が……」
な、なんでそんな悲しそうな顔するんだよ。薪が必要なんだから、いいじゃん。
……。
「あぁ、分かった分かった。集落に戻ったら、桜の木、植えてやるからっ」
「本当ですか!?」
「やったぁっ」
きゃっきゃとはしゃぐ二人。
花ぐらいで……そう思ったけれど、まぁ、いいかもな。
異世界で花見なんて、うん、いいかもしれない。
黒い泥団子をせっせと丸めて乾かし、泥を追加して丸めて乾かし。
ゴルフボールほどの大きさになったら完成だ。
泥を成長させられれば、簡単なのになぁ。
まぁ生きてないんだから仕方ない。
そうして五日目、今日で団子作りも終了だ。
インベントリの中には燃える石が、二五〇〇個とちょっと入っている。
一家で一日に六個から八個使うが、何度か繰り返し使える。
「これで三か月分ぐらいじゃない?」
「そうですね。たくさん作れました。これでしばらくお団子作り出来ませんね」
と、ルーシェはやや寂しそうだ。
そんなにか……そんなに楽しかったのか。
「ま、今日の分、頑張って丸めますかね」
「「はーい」」
明日にはここを出発するから、出来るだけ丸めておきたい。
乾いてない分は集落に戻ってから日向に置いておけばいいし。
ころころころころ。
ころころべちゃべちゃころころ。
昨日なんか夢の中でもころころしてたなぁ。
そんなことを考えていると、ゴロゴロと岩が転げ落ちてくるような音が聞こえた。
「落石?」
落ちて来た丸い岩はそのままごろごろ転がってこっちに向かって来る。
黒くて丸い岩……まさか、泥団子の逆襲!?
だが岩は十数メートル手前で、パタリと止まった。
よく見たら岩じゃない!
手足があって、鼻が長くて、こげ茶色……え、これモグラ?
いやでもデカい。
一メートル以上あるし、何より服を着ている。
デカいモグラ=モンスター!?
「ルーシェ、シェリル。これっていったい?」
「わ、分かんないわよっ。こんなの、見たことないもん」
「ってことはやっぱり、モンスターってことでいいんだよな」
右手を構える。
その時、モグラがピクリと動いた。
「――けて」
「うひぃっ。し、しし、喋った!?」
喋れるってことは、知能が高い証拠。
知能の高いモンスターなんて、厄介でしかない。
早めに殺っておこう。
「たす、けて……父ちゃん、母ちゃんを、たす、け……」
「え?」
「ユタカさん、待ってくださいっ。父に聞いたことがあります。この砂漠のどこかに、亜人種が住んでいるって」
「あ、亜人?」
「そ、そう言えばそんな話、聞いたことある、ような?」
モンスターじゃないのか。
「たすけ、て」
伸ばした手はモグラのそれにそっくり。
つぶらな瞳で、もこもことした体……ちょっと、かわいいかもしれない。
『キシェアアァァァッ』
「な、なんだ?」
モグラが転がり落ちて来た斜面の上からだ。
「とうちゃ……母ちゃん……」
上にこいつの両親がいるってことか?
あの声はその両親なのか、それとも……。
突然のことで動転しているけど、目に涙を浮かべて助けを求めるモグラを放ってはおいて……いいのか?
「あぁ、クソっ。二人はここにいてくれ」
「な、なに言ってんのよバカっ」
「そうです。戦闘でしたら私たちの方が慣れているんですよ」
ですよねー。
モグラを一匹にしておくわけにもいかないし、こいつを担いで斜面を登った。
切り立った山を登り、登り、そして奥へ進んで下り……ここ自体はそう標高は高くない。
だから気温も高いし、ジリジリした太陽は照り付けている。
さすがに炎天下で泥団子作りなんてしてたら熱中症で倒れてしまうから、樫の木を一本植えて日陰を作った。
「捗るわね」
「そうですねぇ。いつもは泥をバケツに入れて、あちらの日陰まで移動してやってたんです」
「でもそれだと泥をまた取に戻らなきゃいけないから、それが手間だったのよ」
ルーシェがいう「あちら」とは、大きな岩が見えるところだ。
二〇〇メートルぐらい離れているのかな。
まぁ近いと言えば近いけど、泥を運ぶと考えるとちょっと遠くもあるな。
「この土、湿り気があるな」
「はい。この辺りの地下は水分を含んでいるかもしれないですね」
表面だけは乾いていたので、引っぺがして裏返しにして乾燥させる。
湿っていると火が点かないんだとか。
引っぺがした下は粘土のような肌触りで、水を含んでいるのが分かった。
この下に水が流れているんだろうか……。
いや、そうだとしても集落まで水を引くのは無理だな。距離がありすぎる。
「ここで五日間、ひたすら団子作りかぁ」
「つ、疲れたら、休んでてもいいわよ」
「そうですっ。ユタカさんは、石を収納魔法に入れてくれさえすればいいので」
「いやいや、団子作りぐらい手伝うよ。単調作業だから、ちょっと飽きてきたってだけだからさ。二人は飽きない?」
だってひたすら、手でくるくる丸めてるだけだもんなぁ。
疲れるって訳でもなく、ただただ飽きただけ。
「そうね、ずっと捏ねてるだけだもの、飽きるわよそりゃ」
「えぇ~、シェリルちゃんは飽きてたの? 私は全然平気。すっごく楽しいもの」
「「えぇ……」」
「な、なんですか二人して。そんな目で見ないでくださぁい」
そういえばルーシェの泥団子、めっちゃ綺麗な丸だよな。
それに比べて俺とシェリルの団子は、わりと適当。
こんなのが楽しいとはなぁ。
日が暮れる前にテントを張って、晩飯の準備をする。
燃える石は使わず、持ってきた薪で火を起こした。
「なぁ、乾燥を早めるなら、夜の間は焚き火の周りに団子を転がしておけばいいんじゃないか?」
「え、でも薪が足りなくならない?」
「大丈夫さ」
インベントリから種を取り出す。
樫の木は樹齢が長いから、薪として燃えやすくするため枯らすのに数百年分成長させなきゃならない。
それが無理なので、使うのは桜の木だ。
ただし、種じゃない。枝だ。
「桜は種じゃなく、枝を植えることで増やせるんだ」
と聞いた気がする。
まぁだからインベントリに枝が入っていたんだろうけど。
「枝で?」
「木の寿命は六、七十年ぐらい。まぁ一〇〇年以上生きるのもあるらしいけど」
さっそく成長させる。
ぐんぐん伸びて、何度か開花を繰り返してようやく満開になった。
「はぁ……すご、い」
「なんて綺麗なんでしょう」
「この辺りで枝を折っておこう」
ポキポキと枝を折る。
試しに地面に植えて、成長させてみた。
お、ちゃんと成長するじゃん。
魔力温存のために、こっちは放置。
最初のヤツだけ追加でスキルを使い、ミシミシっと幹に亀裂が入った所で成長は止まった。
「あぁ……」
「綺麗なお花が……」
な、なんでそんな悲しそうな顔するんだよ。薪が必要なんだから、いいじゃん。
……。
「あぁ、分かった分かった。集落に戻ったら、桜の木、植えてやるからっ」
「本当ですか!?」
「やったぁっ」
きゃっきゃとはしゃぐ二人。
花ぐらいで……そう思ったけれど、まぁ、いいかもな。
異世界で花見なんて、うん、いいかもしれない。
黒い泥団子をせっせと丸めて乾かし、泥を追加して丸めて乾かし。
ゴルフボールほどの大きさになったら完成だ。
泥を成長させられれば、簡単なのになぁ。
まぁ生きてないんだから仕方ない。
そうして五日目、今日で団子作りも終了だ。
インベントリの中には燃える石が、二五〇〇個とちょっと入っている。
一家で一日に六個から八個使うが、何度か繰り返し使える。
「これで三か月分ぐらいじゃない?」
「そうですね。たくさん作れました。これでしばらくお団子作り出来ませんね」
と、ルーシェはやや寂しそうだ。
そんなにか……そんなに楽しかったのか。
「ま、今日の分、頑張って丸めますかね」
「「はーい」」
明日にはここを出発するから、出来るだけ丸めておきたい。
乾いてない分は集落に戻ってから日向に置いておけばいいし。
ころころころころ。
ころころべちゃべちゃころころ。
昨日なんか夢の中でもころころしてたなぁ。
そんなことを考えていると、ゴロゴロと岩が転げ落ちてくるような音が聞こえた。
「落石?」
落ちて来た丸い岩はそのままごろごろ転がってこっちに向かって来る。
黒くて丸い岩……まさか、泥団子の逆襲!?
だが岩は十数メートル手前で、パタリと止まった。
よく見たら岩じゃない!
手足があって、鼻が長くて、こげ茶色……え、これモグラ?
いやでもデカい。
一メートル以上あるし、何より服を着ている。
デカいモグラ=モンスター!?
「ルーシェ、シェリル。これっていったい?」
「わ、分かんないわよっ。こんなの、見たことないもん」
「ってことはやっぱり、モンスターってことでいいんだよな」
右手を構える。
その時、モグラがピクリと動いた。
「――けて」
「うひぃっ。し、しし、喋った!?」
喋れるってことは、知能が高い証拠。
知能の高いモンスターなんて、厄介でしかない。
早めに殺っておこう。
「たす、けて……父ちゃん、母ちゃんを、たす、け……」
「え?」
「ユタカさん、待ってくださいっ。父に聞いたことがあります。この砂漠のどこかに、亜人種が住んでいるって」
「あ、亜人?」
「そ、そう言えばそんな話、聞いたことある、ような?」
モンスターじゃないのか。
「たすけ、て」
伸ばした手はモグラのそれにそっくり。
つぶらな瞳で、もこもことした体……ちょっと、かわいいかもしれない。
『キシェアアァァァッ』
「な、なんだ?」
モグラが転がり落ちて来た斜面の上からだ。
「とうちゃ……母ちゃん……」
上にこいつの両親がいるってことか?
あの声はその両親なのか、それとも……。
突然のことで動転しているけど、目に涙を浮かべて助けを求めるモグラを放ってはおいて……いいのか?
「あぁ、クソっ。二人はここにいてくれ」
「な、なに言ってんのよバカっ」
「そうです。戦闘でしたら私たちの方が慣れているんですよ」
ですよねー。
モグラを一匹にしておくわけにもいかないし、こいつを担いで斜面を登った。