「おう、無事にドッペルの野郎をぶちのめしたようだな」
「いやぁ、それがさぁ」
村に戻ってくるとすぐにおじさんがやってきた。
心配してくれてたのかな?
そんな訳でいろいろ経緯を説明すると、ゲラゲラ笑われた。
「あんだけ準備していって、他人に獲物を取られちまったのかよ」
「別にいいんだよ、誰が倒そうと。いなくなればそれでいいんだし。んでさ、迷宮の扉はもう大丈夫なのか?」
「んあぁ、心配ねぇ。オレと、あとな、ダンナにも力を借りて魔界との扉が開かねぇよう結界を張っておいたからよ」
「へぇ、フレイも力を貸してくれたのか」
「そりゃお前ぇ、今のアス坊だと中位の悪魔にも勝てるかどうか怪しいからなぁ。ま、いつも傍にユユ坊たちがいるから大丈夫だろうがな」
へぇ……へぇ……あいつら、協力し合えば中位の悪魔にも勝てるんだ。
へ、へぇ……。
「ねぇねぇ、ユタカァ~」
おじさんと話してると、シェリルが手を振りながら駆けてきた。
何かあったか?
「どうした、シェリル」
「来てきてっ。牝牛が二頭、また妊娠したんだって」
「なんだって!」
「あぁ、そういやちょい前に、身籠ったのがいたなぁ」
「おじさん、知ってたんなら先に言ってくれよっ」
急いで牧場に行くと、見慣れない小屋が建っていた。
もしかして牛舎が増えた!? それに豚小屋もサイズアップしてるようだし。
「あぁ、ユタカくん。おかえり。待ってたよぉ、牝牛が身籠っててねぇ。あ、豚の方も一頭だけど、身籠ってるよ」
「うぉぉ、マジですか!」
一頭が妊娠したら、他の雌も妊娠しているかもしれない――と町の牧場経営者から教えて貰ったそうだ。
そうだといいなぁ。
さっそく妊娠している牛と豚を成長させる。
一気に成長させるのではなく、二ヶ月かけることにした。
牛の妊娠期間は九ヶ月ちょいらしいから、それでもかなり早く出産ってことになる。
数日で成長させきるのは、母牛の負担が大きいかもってことだから。
豚の方は牛の三分の一ほどの妊娠期間らしいので、こちらは半月で成長するように調整。
「順調だな」
「あぁ。また乳を搾れる牛が増える。ありがたいことだ」
嬉しそうに牛を見つめながら、牛の飼育を担当しているおじさんが笑う。
その顔には汗が光っていた。
うん、やっぱ暑いよなぁ。
雨が降るようにはなったけど、気温はそう変わらない。
もう少し気温が下がってくれれば、蒸発する水の量も減って土に雨水が染みわたるんだろうけど。
「あぁ、久しぶりの我が家だぁ」
「おかえりなさい、ユタカ様、ルーシェ様、シェリル様」
「ただいまです、マリウスさん。留守のお役目、ありがとうございます」
「いえいえ。それで、どうでした? ドッペルゲンガーの件は」
「あぁ、それがさー」
留守を守ってくれたマリウスに、ドッペルゲンガーと、それから荒木たちのことを話した。
マリウスの荒木たちのことは知っているし、さすがに驚いたようだ。
「ゲルドシュタル王国を追放されたのですか?」
「いや、なんかソードレイ王国の王子の調査だと、ゲルドシュタル王国にある迷宮でスタンピードが発生する原因をあいつらが作ったようでさ、冒険者ギルドから指名手配されてたんだってさ」
「ぶっ。い、いったい何がどうしてそんなことに……」
「さすがにそこまでは分からないらしい。んで、あちこち彷徨って、ソードレイの王都で無銭飲食して衛兵に捕まったそうだ」
自分たちは勇者だ異世界人だと叫ぶもんだから、衛兵も扱いに困って城に報告。
で、王子が実際に面談して、本物の異世界人だと判明。
仕方ないから保護することになった。
ま、今は罪人として縛られてるけど。
「他の方々はどうしていらっしゃるんでしょうねぇ」
「なぁ。ほんと、どうしてるんだか。レイナルド王子が調べてくれるって言ってるよ」
「あのお三方が特別アレな人格なだけで、他の方はまだまともでしたし。突然異世界に連れて来られて、自分たちもユタカ様のように追放されるんじゃないかって恐怖から従っていただけのように見えましたし」
ま、そうだろうな。
誰かがいじめられていても見て見ぬふりをするのは、自分たちがいじめられる側になりたくないから……ってタイプの連中だ。
見て見ぬふりだって悪いことだけど、責められはしない。
しかも右も左もわからない異世界に、ぽーんっとひとり放り出されると思っただけで死ぬんじゃないかって思うだろうし。
だからって仲良くする気がない。
ないけど、心配するのとそれはまた別の話だ。
あいつらがどうしているか、王子が本国に帰ったら調べてくれるって言うし、それを待つとしよう。
「明後日にはまた町に行くけど、マリウスも来るか?」
「えっと……いえ、留守番をさせていただきます」
「そう? いつも町に行きたがってたのに」
「そ、そうですかねぇ。あはは」
ん? なんだこの妙な雰囲気は。
するとシェリルが隣にやってきて、俺を肘で突いた。
反対側の隣にはルーシェもきて、咳ばらいをする。
ん?
「マリウス、夕飯はどうする?」
「他にご予定があるなら、遠慮せず行ってくださいね」
「そ、そうですか? えっと、夕飯はその……そ、外で食べて来ますねっ」
なぜかマリウスは顔を真っ赤にして出て行った。
え、どういうこと?
「にぶちんねぇ」
「ほーんと。ユタカさん、気づいていないんですか?」
「え、なにが?」
「もう、ターニャさんとの関係よぉ」
え……まさか!?
「ちょっといい雰囲気だってのは気づいてたけど、まさか交際してるとか!?」
「ピンポーン」
「うふふ。きっと私たちが留守にしている間、食事はターニャさんとハリュくんとの三人で召し上がっていたと思いますよ」
なるほどぉ。なるほどぉぉ。
そういうことかぁ。
マリウスにも春が来たんだなぁ。
「いやぁ、それがさぁ」
村に戻ってくるとすぐにおじさんがやってきた。
心配してくれてたのかな?
そんな訳でいろいろ経緯を説明すると、ゲラゲラ笑われた。
「あんだけ準備していって、他人に獲物を取られちまったのかよ」
「別にいいんだよ、誰が倒そうと。いなくなればそれでいいんだし。んでさ、迷宮の扉はもう大丈夫なのか?」
「んあぁ、心配ねぇ。オレと、あとな、ダンナにも力を借りて魔界との扉が開かねぇよう結界を張っておいたからよ」
「へぇ、フレイも力を貸してくれたのか」
「そりゃお前ぇ、今のアス坊だと中位の悪魔にも勝てるかどうか怪しいからなぁ。ま、いつも傍にユユ坊たちがいるから大丈夫だろうがな」
へぇ……へぇ……あいつら、協力し合えば中位の悪魔にも勝てるんだ。
へ、へぇ……。
「ねぇねぇ、ユタカァ~」
おじさんと話してると、シェリルが手を振りながら駆けてきた。
何かあったか?
「どうした、シェリル」
「来てきてっ。牝牛が二頭、また妊娠したんだって」
「なんだって!」
「あぁ、そういやちょい前に、身籠ったのがいたなぁ」
「おじさん、知ってたんなら先に言ってくれよっ」
急いで牧場に行くと、見慣れない小屋が建っていた。
もしかして牛舎が増えた!? それに豚小屋もサイズアップしてるようだし。
「あぁ、ユタカくん。おかえり。待ってたよぉ、牝牛が身籠っててねぇ。あ、豚の方も一頭だけど、身籠ってるよ」
「うぉぉ、マジですか!」
一頭が妊娠したら、他の雌も妊娠しているかもしれない――と町の牧場経営者から教えて貰ったそうだ。
そうだといいなぁ。
さっそく妊娠している牛と豚を成長させる。
一気に成長させるのではなく、二ヶ月かけることにした。
牛の妊娠期間は九ヶ月ちょいらしいから、それでもかなり早く出産ってことになる。
数日で成長させきるのは、母牛の負担が大きいかもってことだから。
豚の方は牛の三分の一ほどの妊娠期間らしいので、こちらは半月で成長するように調整。
「順調だな」
「あぁ。また乳を搾れる牛が増える。ありがたいことだ」
嬉しそうに牛を見つめながら、牛の飼育を担当しているおじさんが笑う。
その顔には汗が光っていた。
うん、やっぱ暑いよなぁ。
雨が降るようにはなったけど、気温はそう変わらない。
もう少し気温が下がってくれれば、蒸発する水の量も減って土に雨水が染みわたるんだろうけど。
「あぁ、久しぶりの我が家だぁ」
「おかえりなさい、ユタカ様、ルーシェ様、シェリル様」
「ただいまです、マリウスさん。留守のお役目、ありがとうございます」
「いえいえ。それで、どうでした? ドッペルゲンガーの件は」
「あぁ、それがさー」
留守を守ってくれたマリウスに、ドッペルゲンガーと、それから荒木たちのことを話した。
マリウスの荒木たちのことは知っているし、さすがに驚いたようだ。
「ゲルドシュタル王国を追放されたのですか?」
「いや、なんかソードレイ王国の王子の調査だと、ゲルドシュタル王国にある迷宮でスタンピードが発生する原因をあいつらが作ったようでさ、冒険者ギルドから指名手配されてたんだってさ」
「ぶっ。い、いったい何がどうしてそんなことに……」
「さすがにそこまでは分からないらしい。んで、あちこち彷徨って、ソードレイの王都で無銭飲食して衛兵に捕まったそうだ」
自分たちは勇者だ異世界人だと叫ぶもんだから、衛兵も扱いに困って城に報告。
で、王子が実際に面談して、本物の異世界人だと判明。
仕方ないから保護することになった。
ま、今は罪人として縛られてるけど。
「他の方々はどうしていらっしゃるんでしょうねぇ」
「なぁ。ほんと、どうしてるんだか。レイナルド王子が調べてくれるって言ってるよ」
「あのお三方が特別アレな人格なだけで、他の方はまだまともでしたし。突然異世界に連れて来られて、自分たちもユタカ様のように追放されるんじゃないかって恐怖から従っていただけのように見えましたし」
ま、そうだろうな。
誰かがいじめられていても見て見ぬふりをするのは、自分たちがいじめられる側になりたくないから……ってタイプの連中だ。
見て見ぬふりだって悪いことだけど、責められはしない。
しかも右も左もわからない異世界に、ぽーんっとひとり放り出されると思っただけで死ぬんじゃないかって思うだろうし。
だからって仲良くする気がない。
ないけど、心配するのとそれはまた別の話だ。
あいつらがどうしているか、王子が本国に帰ったら調べてくれるって言うし、それを待つとしよう。
「明後日にはまた町に行くけど、マリウスも来るか?」
「えっと……いえ、留守番をさせていただきます」
「そう? いつも町に行きたがってたのに」
「そ、そうですかねぇ。あはは」
ん? なんだこの妙な雰囲気は。
するとシェリルが隣にやってきて、俺を肘で突いた。
反対側の隣にはルーシェもきて、咳ばらいをする。
ん?
「マリウス、夕飯はどうする?」
「他にご予定があるなら、遠慮せず行ってくださいね」
「そ、そうですか? えっと、夕飯はその……そ、外で食べて来ますねっ」
なぜかマリウスは顔を真っ赤にして出て行った。
え、どういうこと?
「にぶちんねぇ」
「ほーんと。ユタカさん、気づいていないんですか?」
「え、なにが?」
「もう、ターニャさんとの関係よぉ」
え……まさか!?
「ちょっといい雰囲気だってのは気づいてたけど、まさか交際してるとか!?」
「ピンポーン」
「うふふ。きっと私たちが留守にしている間、食事はターニャさんとハリュくんとの三人で召し上がっていたと思いますよ」
なるほどぉ。なるほどぉぉ。
そういうことかぁ。
マリウスにも春が来たんだなぁ。



