『ガオォォォーン』
「あああああぁぁぁぁぁぁっ」

 気絶したままの三バカを馬車に乗せ、アスに頑張ってもらった。
 落下しないようロープで固定してたけど、さすがにあいつらも途中で意識を戻したようだ。

 この三人は結局、ソードレイで法の裁きを受けることになった。
 なんたって王族に嘘をついたんだからな。
 騎士の人の話だと、幼稚な嘘だけどヘタすると砂漠の民との戦争に発展したかもしれない事案だから一生、刑務所暮らしだろうって。

 ま、その方が世の中にとってもいいだろう。
 寝るところも食事も補償されてるっていうし。

 で、俺たちは王子一行を連れて砂漠の町へと向かっていた。
 フレイが迎えに来てくれたが、アスがどうしても馬車を引きたいっていうから飛ばずに馬車で移動をしている。
 到着後、王子たちは町長を尋ね、交易に関する交渉を始めた。

 で、その交渉も無事終わり、港の建設にはソードレイ王国が援助してくれることになった。
 実は俺のスキルが使えない資材もあったから、凄く助かったぜ。
 あと造船技師もよこしてくれるって。

「それにしても、町長はめちゃくちゃ緊張してたなぁ」
「そうねぇ。ずっと立ったままだったし。お茶っぱも溢しちゃって、掃除が大変だったわ」
「仕方ないですよ。砂漠で暮らす私たちは、王子様という言葉の意味は知っていましたが、そもそも関わりのないことだと思っていましたし」

 まぁそういう意味では俺もそうなんだけど。
 国ではない砂漠には、王族も貴族も存在しない。
 存在しないものを気にかける必要もないってことだ。

「けど、ルーシェもシェリルも、あんまり驚いてなかっただろ?」
「そりゃー、ねぇ」
「ねぇ」

 ねぇって、なに?
 二人は俺の左右に移動して、それぞれ腕を絡めてきた。

「王子様より、異世界人の方が珍しいわよ」
「ですです」
「はは、なるほどね」
「それに――子竜や火竜がいたり、ワームと意思疎通できたり、大精霊様と友達になれたり、普通じゃあり得ない体験をたっくさんしていますから」
「そうそう」

 そりゃそうだ。
 そういう意味では二人は、この世界でめちゃくちゃ稀有な体験をしているんだよなぁ。
 今更王子様のひとりやふたり、凄くもないってね。

「あ、忘れてた。バフォおじさんもいたわね」
「あぁ、忘れてました。未だにおじさんがヤギじゃないなんて、信じられないのですが」
「いや、そこは信じてやってくれよ。ヤギは普通、人間の言葉なんて話さないから」

 おじさんのヤギ生も年期が入ってるからなぁ。
 フレイより圧倒的に長い時間生きてるのに、それでもおじさんはフレイに勝てる気がしないって言う。
 種族の差なんだろうけど、改めてドラゴンって半端ないんだなぁと。
 レイナルド王子が慎重な態度になるのも納得できる。

「さて、俺たちは村に帰るか」
「王子様はよろしいんですか?」
「結構長いこと村を留守にしたし、みんな心配してるだろうからさ」
「そうね。フレイ様にビューンって飛んで貰えば一瞬だし、一度村に戻って、また改めてくればいいんじゃないかしら」
「そういうことでしたら。ルルたちを呼んできます」

 アスとワームたちは町の噴水広場で遊んでいる。
 馬車を引いて土の上を結構走ったから、鱗の隙間に小石や砂が挟まって気持ち悪いって言ってたからな。

 噴水広場に行くと、アスたち以外にも人の子供、それからドリュー族の子供が集まって水遊びをしていた。
 半月以上町にいたから、その間にここの人たちもアスやワームたちに慣れたみたいだな。

「おーい。村に帰るぞぉ」
『帰ルノ! ハァーイ』
「えぇー、帰っちゃうのぉ。もっと遊ぼうよぉ」
「帰っちゃヤダァ」

 すっかり仲良くなってるな。
 こうなると村の子供たちは、逆に寂しがってるんだろうなぁ。
 子供たちの方へと行き、そのうちの一人の頭を撫でてやる。

「また来るよ。その時、アスたちと遊んでやってくれ。な?」
「ヤダァ」
「ふぅーん。じゃ、アスたちはもう連れてこないよ」
「ヤダヤダヤダ。絶対だよ、絶対来てね」
「あぁ。約束する。ゆびきりげんまんだ」

 と言ってたら、この世界の人がゆびきりげんまんなんて知らないことを思い出した。
 約束を守るためのおまじないだと教えて、歌を唄う。
 すると、子供たちの表情がみるみるうぎにこわばった。

「や、約束守らなくても、針を飲めなんて言わないからね」
「そんないじわる、ボクたち言わないよっ」
「命がけで約束守る必要ないんだからね、お兄ちゃん!」

 何か勘違いさせてしまった。